日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 41(2): 57-63 (2024)
doi:10.20731/zeoraito.41.2.57

解説解説

Znイオン交換MFI型ガロアルミノシケートゼオライトによるエタンの脱水素芳香族化Dehydroaromatization of Ethane over Zn Ion Exchanged MFI Type Galloaluminosilicate Zeolite

1名古屋工業大学生命・応用化学類Department of Life Science and Applied Chemistry, Nagoya Institute of Technology ◇ 〒466–8555 愛知県名古屋市昭和区御器所町

2大阪大学大学院基礎工学研究科化学工学領域Division of Chemical Engineering, Graduate School of Engineering Science, Osaka University ◇ 〒560–8531 大阪府豊中市待兼山町1–3

受理日:2024年1月25日Accepted: January 25, 2024
発行日:2024年4月15日Published: April 15, 2024
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エタン脱水素芳香族化反応による芳香族炭化水素は,今後の需要増を見据えた反応系の1つといえる。本反応系では,Znイオン交換MFI型アルミノシリケートゼオライト(Zn/[Al]-MFI)が,ZnイオンとAlサイト由来のブレンステッド酸点の協奏的な効果により優れた触媒活性を示す一方,その高いブレンステッド酸強度がコーク形成を促し,急速な触媒失活に繋がることが知られている。本研究では,Alサイト由来のブレンステッド酸点よりも弱い酸強度を示すGaに着目し,Alの一部をGaに置換,またZnイオン交換したZnイオン交換MFI型ガロアルミノシリケート(Zn/[Ga,Al]-MFI)の新規合成法を開発した。[Al]-MFIとMFI型ガロシリケート([Ga]-MFI)ではZnイオンへの交換挙動が異なり,[Al]-MFIではH+からZnイオンへの交換が進む一方,[Ga]-MFIでは進みづらいことを見出した。この差異を利用することで,[Ga,Al]-MFI内のAlサイトのH+を優先的にZnイオンへ交換することができた。このように開発したZn/[Ga,Al]-MFIは,エタン脱水素芳香族化反応において,高い触媒活性と安定性を兼ね備えた触媒であった。本研究結果は,軽質アルカンの有用化合物への転換の1つであるエタン脱水素芳香族化反応でのゼオライト触媒の新しい設計指針といえる。

Ethane dehydroaromatization (EDA) reaction is one of the promising processes to meet the growing demand of aromatics in the future. Zn ion exchanged MFI type aluminosilicate zeolite (Zn/[Al]-MFI) shows high activity on EDA reaction. Zn ion and Brønsted acid derived from Al sites contribute to the high activity on EDA reaction, but excess strong acid sites promote coke formation, leading to rapid deactivation. Herein, we have developed a new synthesis method for Zn ion exchanged MFI type galloaluminosilicate zeolite (Zn/[Ga,Al]-MFI). The coke formation was suppressed by partially substituting Al with Ga since acidity derived from Ga sites are weaker than that derived from Al sites. We found the different Zn ion exchange phenomena between [Al]-MFI and MFI type gallosilicate zeolite ([Ga]-MFI). Although Zn ion exchange successfully proceed over H+ containing [Al]-MFI, the ion exchange over H+ containing [Ga]-MFI was hardly occurred. This finding leaded to selective ion exchange from H+ to Zn2+ derived from Al site over H+ containing [Ga,Al]-MFI. Developed Zn/[Ga,Al]-MFI was the ideal catalyst to achieve both high catalytic activity and stability on EDA reaction. Our work provides a new design direction of zeolite catalysts on EDA reaction, which can contribute to the progress on the transformation of light alkanes to value-added chemicals.

キーワード:MFI型ゼオライト;ガロアルミノシケート;Znイオン交換;エタン脱水素芳香族化;BTX合成

Key words: MFI zeolite; galloaluminosilicate; Zn ion exchange; ethane dehyroaromatization; BTX synthesis

1. はじめに

ベンゼン・トルエン・キシレン(BTX)は化学産業において重要な芳香族炭化水素であり,またトルエンは有機ハイドライドシステムでの水素貯蔵・輸送媒体としても挙げられており,今後もこれら芳香族炭化水素の需要は増加すると考えられる。これらの化合物は現在,ナフサから製造されているが,エタン・クラッキングによるエチレン製造比率の増加に伴うBTX製造量の低下や,カーボンニュートラル型社会の実現などを背景とし,将来のBTX製造ルートをどうするかは重要な課題と考える。2014年から2019年にかけて実施された国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)CREST研究課題名「超空間制御触媒による不活性低級アルカンの自在転換」では,反応性が低く化学的利用が難しいシェールガスや製鉄での副生ガスなどを原料に,高付加価値な化学品を直接作り出すことができる新規触媒プロセスの確立を目標とした研究開発が実施された。当該事業の中で,筆者らはエタン脱水素芳香族化(Ethane dehydroaromatization: EDA)反応によるBTX合成用途のゼオライト触媒の開発に取り組んだ。

MFI型ゼオライト,特にそのアルミノシリケート([Al]-MFI)はその細孔径より,BTX合成用途の触媒として幅広く研究されている。また,イオン交換法や担持法によるZnの導入により,BTX選択性が増加することも知られており,EDA反応においても高い活性を示すことが報告されている1,2)。EDA反応におけるBTX合成では,まずエタンの脱水素反応によりエチレンが生成する。続いて,エチレンの重合によりC4炭化水素が生成し,さらに重合・環化反応が進行することでBTXが得られる。導入されたZnはその脱水素能により,エタンからのエチレン生成,またBTX前駆体の不飽和炭化水素の生成に寄与する。他方,[Al]-MFI内のAlサイト由来のブレンステッド酸点は,エチレンなどの炭化水素の重合,また環化反応(BTX合成)に寄与する。反応性の低いエタンの転化率向上に向けては,エタンの脱水素反応によるエチレン生成が重要であり,Znの導入量を増やす必要がある。そのため,イオン交換サイトを多く含むSi/Alの小さい[Al]-MFIが適しているといえる。一方,MFI型ゼオライト内のAlサイト由来のブレンステッド酸点上でのコーク生成により,触媒活性が急速に失われる課題がある。先述のJST-CRESTプログラムにおいて,早稲田大学・関根,小河らと横浜国立大学・窪田,稲垣らの研究グループは,Znイオン交換MFI型アルミノシリケート(Zn/[Al]-MFI)を水蒸気処理することで,Znイオン未交換のAlサイト,つまりブレンステッド酸点として機能するAlサイトを優先的に脱Al処理できることを見出した2)。この水蒸気処理によりブレンステッド酸量を調整することで,触媒活性と触媒寿命の両立に成功した。

筆者らは上記とは異なるアプローチとして,Alの一部をGaに置き換えたMFI型ガロアルミノシリケート([Ga,Al]-MFI)をベースとしたZnイオン交換MFI型ゼオライトの合成に取り組んだ。ゼオライトのブレンステッド酸強度は骨格中の3価金属種に依存し,その強度はGa<Alの関係になることは広く知られている。筆者らは,[Al]-MFIとMFI型ガロシリケート([Ga]-MFI)ではZnイオンへの交換挙動が異なることを見出し,その差異を利用することで,ブレンステッド酸量と酸強度を高度に調整したZnイオン交換[Ga,Al]-MFI(Zn/[Ga,Al]-MFI)ゼオライトを合成し,EDA反応触媒として検討を行った3)。本稿では,Zn/[Ga,Al]-MFIの合成とその酸性質,またEDA反応での触媒活性・触媒寿命について紹介する。

2. Znイオン交換MFI型ゼオライト触媒の合成と基礎的評価

骨格中の3価金属としてGaのみをもつ[Ga]-MFI,AlとGaの両方をもつ[Ga,Al]-MFIの2種類のゼオライトを水熱合成法により合成した。Alのみをもつ[Al]-MFIは東ソー製のものを用いた。X線回折(XRD)測定より,合成した2種類のサンプルは,[Al]-MFI同様の回折パターンが得られ,MFI型ゼオライトの合成が確認できた(図1)。

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図1. MFI型ゼオライトサンプルのXRDパターン

また,27Alおよび71Ga MAS-NMRの測定結果を図2に示した。[Al]-MFI,[Ga,Al]-MFIともに27Al MAS-NMR測定において-55 ppmと0 ppm付近にピークが確認された(図2a)。前者はAl(OSi)4の四面体構造をとるAl,後者はAl(OSi)4(OH)2の六面体構造のAlである。これらの結果から,[Al]-MFIおよび[Ga,Al]-MFIのゼオライト骨格に欠陥が存在することが確認できた。一方,[Ga]-MFIおよび[Ga,Al]-MFIの71Ga MAS-NMR測定では,150 ppm付近のピークのみが観察された(図2b)。これは,Ga(OSi)4の四面体構造をとるGaを示しており,Gaについては全量,ゼオライト骨格へ導入できていることが確認できた。

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図2. MFI型ゼオライトサンプルの(a) 27Alおよび(b) 71Ga MAS-NMRスペクトル

Znイオン交換は,対カチオンとしてH+をもつ各ゼオライトを硝酸亜鉛水溶液中で所定時間,70°C攪拌した後,洗浄・乾燥することで得た。この手順で得られたサンプルをZn/[X]-MFI(X=Al and/or Ga)と表記する。また,[Ga]-MFIについては,NH4+を対カチオンにもつ状態からのZnイオン交換も行った。硝酸亜鉛水溶液中で所定時間,70°Cにて攪拌した後,洗浄・乾燥した後,550°Cにて焼成を行うことで,H+とZn2+をもつZnイオン交換[Ga]-MFIを得た。この手順で得たサンプルをZn/[Ga]-MFI*として表記・区別する。Znイオン交換前後のXRF測定による元素分析結果を表1に比較した。まず,Znイオン交換前の3種類のMFI型ゼオライトのSi/(Al+Ga)(Si/3価金属比)値を比較すると,10.3から16.8の値であった。市販の[Al]-MFIと比較し,筆者らが合成した[Ga,Al]-MFIと[Ga]-MFIの3価金属含有量は僅かに少ないものの,先のMAS-NMRの測定も踏まえると,ゼオライト骨格中に3価金属を多く含むサンプルの合成に成功しており,触媒活性を比較するのに大きな問題はないと判断した。続いて,H+からZnイオンへの交換処理後のZn/[X]-MFI(X=Al and/or Ga)に着目すると,大きな違いが確認できた。Zn/[Al]-MFIおよびZn/[Al,Ga]-MFIのZn/(Al+Ga)の測定値より,これら2サンプルへのZn導入が確認できた。Zn/[Al]-MFIのZn/(Al+Ga)値が大きかったが,後述のアンモニア昇温脱離(NH3-TPD)測定の結果も考慮すると,Znイオンとは異なる状態で存在するZn種が存在したためと考えられる。一方,Zn/[Ga]-MFIのZn/(Al+Ga)値は,他の2サンプルと比較して著しく低く,Zn導入量が少ないことがわかった。[Ga]-MFIのZnイオン交換挙動を検討すべく,H+体ではなく,NH4+体からZnイオン交換処理を行ったZn/[Ga]-MFI*についてXRF測定を行ったところ,Zn/(Al+Ga)=0.21という値が得られ,Znイオン交換に成功した。以上の結果を纏めると,Gaを骨格にもつMFI型ゼオライトにおいて,Znイオン交換は可能であるが,H+からのZnイオンへの交換を進めるためには,ゼオライト骨格中にAlを含む必要があることがわかった。このイオン交換挙動の差異について,詳細なメカニズムは未だ不明なものの,筆者らはGaとAlのイオン半径の違いからくるSi-O-GaとSi-O-Al結合角の僅かな違いが影響しているのではないかと考えている。

表1. XRFによる各ゼオライト触媒の元素分析結果
CatalystsSi/Al [—]Si/Ga [—]Si/(Al+Ga) [—]Zn/(Al+Ga) [—]
[Al]-MFI10.26
[Ga]-MFI18.25
[Ga,Al]-MFI43.0524.9115.78
Zn/[Al]-MFI12.870.79
Zn/[Ga]-MFI16.890.04
Zn/[Ga]-MFI*18.100.21
Zn/[Ga,Al]-MFI45.7626.5416.800.37

今回確認できた[Al]-MFIと[Ga]-MFIのH+からのZnイオン交換挙動の差異は,Zn/[Al,Ga]-MFIにおいて,ZnイオンはAlサイトのH+と優先的に交換・導入され,GaサイトのH+の多くが未交換の状態にあることが予想された。そこで,Znイオン交換処理前後のサンプルのNH3-TPD測定を行い,図3に比較した。まず,Znイオン交換前の[X]-MFI(X=Al and/or Ga)を比較すると,ブレンステッド酸点を表す高温側のNH3脱離ピーク位置が,Ga導入量の増加に伴い低温側へのシフトが確認できた。これは骨格中のAlがGaに置換されたことで,ブレンステッド酸強度が弱酸化したことを意味しており,広く知られている内容と一致した。続いて,[Al,Ga]-MFIおよび[Ga]-MFIのZnイオン交換処理後のNH3-TPD曲線に着目すると,交換処理前と比較して高温側NH3脱離ピークが小さくなり,そのピーク面積の減少量は,XRFによるZn導入量と概ね一致した。一方,Zn/[Al]-MFIの高温側NH3脱離ピーク面積の減少量は,Zn導入量から予想されるものと一致せず,先述したとおり,Znイオンとは異なる状態のZn種が存在すると考えられる。

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図3. MFI型ゼオライトサンプルのNH3-TPD測定結果

本研究において特に着目したいZn/[Al,Ga]-MFIの高温側NH3脱離ピークについて,AlおよびGaサイト由来のブレンステッド酸の2つへと分割を行った(図4)。Alサイト由来のブレンステッド酸量が特に減少し,Gaサイト由来のブレンステッド酸が残存していることが確認できた。NH3-TPDによる解析により,今回合成したZn/[Al,Ga]-MFIでは,ZnイオンはAlサイトのH+と優先的に交換・導入され,GaサイトのH+の多くが未交換の状態にあり,Znイオン,未交換の僅かに残存するAlサイト由来のブレンステッド酸点,その多くが未交換で残存するGaサイト由来のブレンステッド酸点の3つの活性点を有するゼオライト触媒といえる。

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図4. Zn/[Ga,Al]-MFIサンプルの高温側NH3脱離ピークの分割結果とAlおよびGaサイトの対カチオンのイメージ

3. Znイオン交換MFI型ゼオライト触媒のEDA反応活性

表2に反応開始5分後の各触媒の初期活性を比較した。まず,Znイオン交換前後のエタン転化率に着目すると,3種類のMFI型ゼオライト触媒すべてにおいて,Znイオン交換により転化率が向上した。続いて,骨格中の3価金属としてAlあるいはGaのみを含むZn/[Al]-MFIとZn/[Ga]-MFI*の違いに着目すると,AlからGaへの置換により,メタン収率の低下が確認できた。同時に,Zn/[Ga]-MFIのBTX収率はZn/[Al]-MFIよりも低く,エチレン収率が高いことも確認できた。一方,骨格にAlとGaの両方を含むZn/[Al,Ga]-MFIのBTX収率はZn/[Al]-MFIには及ばないものの,Zn/[Ga]-MFI*を上回る値が得られた。

表2. 反応開始5分後の各触媒の初期活性*
CatalystsConversion [%]BTX yield [Carbon-mol%]Methane yield [Carbon-mol%]Ethylene yield [Carbon-mol%]
[Al]-MFI5.660.040.200.79
[Ga]-MFI5.140.350.072.06
[Ga,Al]-MFI9.932.300.281.83
Zn/[Al]-MFI33.410.481.627.19
Zn/[Ga]-MFI8.670.310.065.00
Zn/[Ga]-MFI*25.74.890.5710.13
Zn/[Ga,Al]-MFI28.37.611.266.94
*反応条件:Wcat/Fethane=4.3 g h/mol, Reaction temperature=873 K, Total pressure=101 kPa, Partial ethane pressure=75.7 kPa

Znイオン交換後の各触媒のエタン転化率と,生成物収率の経時変化を図5に比較した。Zn/[Al]-MFIのエタン転化率とBTX収率は反応時間の経過とともに急速に低下し,エチレン収率が増加した。一方,Zn/[Ga]-MFIはエタン転化率の低下速度はZn/[Al,Ga]-MFIよりも緩やかであったが,BTX収率は高くなく,エチレン収率が高かった。AlとGaの両方を骨格に含むZn/[Al,Ga]-MFIのエタン転化率とBTX収率は,反応初期ではZn/[Al]-MFIに及ばなかったが,その低下速度は緩やかであり,反応開始120分以降は,Zn/[Al]-MFIを上回る値が得られた。以上の比較より,Zn/[Al,Ga]-MFIが本反応系において,最も安定的なBTX生成能を有することが確認できた。

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図5. EDA反応試験結果(a)Zn/[Al]-MFI,(b)Zn/[Ga,Al]-MFI,(c)Zn/[Ga]-MFI*(反応条件:Wcat/Fethane=4.3 g h/mol, Reaction temperature=873 K, Total pressure=101 kPa, Partial ethane pressure=75.7 kPa)

EDA反応の主な反応機構は図6のように報告されている4,5)。まず,エタンの脱水素反応によりエチレンが生成し(反応①),エチレン同士の反応によりC3やC4アルケンが生成する(反応②)。生成したC3やC4アルケンの重合反応,それに続く環化反応によりBTXを含む芳香族炭化水素が生成し(反応③),さらに反応が進行することで触媒活性低下の原因となるコークが形成する(反応④)。また,エタンや反応②で生成したC3やC4アルケンのクラッキング反応により,メタンも生成する(反応⑤と⑥)。表2図4で示した各触媒の反応活性から,最も安定なBTX生成能を示したZn/[Al,Ga]-MFIがもつ3つの活性点,Znイオン,未交換の僅かに残存するAlサイト由来のブレンステッド酸点,その多くが未交換で残存するGaサイト由来のブレンステッド酸点の役割を次のように考えることができる。

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図6. EDA反応機構とZn/[Ga,Al]-MFIの活性点の役割

  • Znイオン交換前後のエタン転化率の向上したことから,Znイオンはその脱水素能により,反応①のエチレン生成を加速させる。同時に,反応③での芳香族炭化水素の前駆体形成にも寄与していると考えられる。
  • Zn/[Al]-MFIとZn/[Ga]-MFIのエチレン収率の違いから,反応②のエチレン同士の反応はGaサイト由来のブレンステッド酸点上では進行しづらく,Alサイト由来の強いブレンステッド酸点が必要といえる。未交換の僅かに残存するAlサイト由来のブレンステッド酸点が,反応②のエチレン同士の反応に大きく寄与する。
  • Gaを含む2サンプルのエタン転化率低下速度の低さと,メタン収率の低さから,酸強度の弱いGaサイト由来のブレンステッド酸点では,反応④のコーク生成,反応⑤と⑥のクラッキング反応が抑制される。一方,BTXの合成に必要な程度の酸強度を有している。

以上のように,Zn/[Al,Ga]-MFI触媒では3つの異なる活性点が協奏的に機能していると考えられる。先行研究2)の水蒸気処理Zn/[Al]-MFI触媒では,Znイオン未交換のブレンステッド酸点として機能するAlサイトを優先的に脱Al処理することで,ブレンステッド酸「量」を調整し,BTX収率と触媒寿命の両立を図っていた。一方,本研究で開発したZn/[Al,Ga]-MFI触媒では,H+からZnイオンへの交換が酸強度の強いAlサイトで優先的に進行し,酸強度の弱いGaサイト由来のブレンステッド酸点が多く残すことができ,ブレンステッド酸「強度」を調整できたことで,BTX収率と触媒寿命の両立に繋がった。

4. まとめ

本稿では,[Al]-MFIではH+からZnイオンへの交換が進む一方,[Ga]-MFIでは進みづらいというイオン交換挙動が異なることを見出し,この現象を活用することで,ブレンステッド酸量と酸強度を高度に調整したZnイオン交換[Ga,Al]-MFI触媒の開発について紹介した。開発したZn/[Ga,Al]-MFI触媒では,ZnイオンはAlサイトのH+と優先的に交換・導入され,GaサイトのH+の多くが未交換の状態にあり,Znイオン,未交換の僅かに残存するAlサイト由来のブレンステッド酸点,その多くが未交換で残存するGaサイト由来のブレンステッド酸点の3つの活性点を有していた。導入されたZnイオンによるエタン脱水素によるエチレン生成,僅かに残存するAlサイト由来の強いブレンステッド酸点上でのエチレン同士の反応,多く存在するGaサイト由来の弱いブレンステッド酸点でのクラッキング反応とコーク生成の抑制という,3つの異なる活性点が協奏的に機能し,EDA反応での安定した触媒活性に繋がった。本稿で示したイオン交換挙動の差異を活用した,イオン交換ゼオライト内のブレンステッド酸強度の調整というゼオライト触媒開発アプローチは,MFI型ゼオライトだけでなく,他のゼオライトへも展開可能性を秘めていると考えられる。今後のゼオライト触媒のさらなる高機能化に繋がることを期待する。

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究はJST-CREST(超空間制御触媒による不活性低級アルカンの自在転換)の支援により実施しました。また,MAS NMR測定では岐阜大学の近江靖則准教授,宮本学准教授にご協力いただきました。関係各位へ謝意を表します。

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