日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 40(3): 139-142 (2023)
doi:10.20731/zeoraito.40.3.139

レポートレポート

5th Euro Asia Zeolite Conference(5th EAZC)参加報告

東京工業大学物質理工学院応用化学系応用化学コース横井研究室博士後期課程2年

発行日:2023年7月15日Published: July 15, 2023
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今回,韓国釜山で開催された5th Euro Asia Zeolite Conference(5th EAZC)に参加し,ポスター発表を行いました。これまでの国際学会はコロナ禍の影響のため,キャンセル,もしくはオンライン形式で開催される場合が多かったです。そのため,今回の5th EAZCは筆者にとっての初めての現地での海外発表であり,とても楽しみにしていました。

主催地である釜山はソウルに次ぐ韓国で2番目に大きい都市であり,観光業や海運業が盛んです。また大型のショッピングセンターや綺麗な風景がたくさんあります。韓国は筆者の出身国である中国と留学先である日本の間に位置しており,高層ビルが並んでいる街並みと見覚えのある商品に大変親しみを感じました。

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図1. 釜山海雲台(ヘウンデ)の海水浴場

今回の学会は海雲台に位置する海岸沿いの5つ星ホテルのホールに開催されました。参加人数は150名程度であるため,会議場は1つしかなく,いくつかの発表が同時並行するようなプログラムではありませんでした。一方で,興味のある講演が漏れなく拝聴できましたし,普段携わりの少ない分野の講演も積極的に拝聴できるというメリットがありました。そして,各講演が内容によってセクションごとにまとまっており,それぞれのセクションがPlenary LectureかKeynote Lectureからスタートしていました。従って,初めに各分野の研究概要が大まかに把握できて,非常に分かりやすいプログラムでした。

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図2. 会場のホテル

大会は初日午後のレジストレーションと大会組織委員会の挨拶のあとに,京都大学の北川先生のPlenary Lectureからスタートしました。北川先生はMOFを数十年間研究し続けた専門家で,ご講演ではMOFの進化の流れを紹介していただきました。それは競合品であるゼオライトにおいて,より大きな細孔径で,より良い水熱安定性を目指すという流れとよく似ていると感じました。また,講演では対象ガスの効率的な吸脱着を図るMOFの細孔設計についても言及されていました。その設計指針が新規のALPO型構造にも適用できるのではないかと考えています。最後に先生は,将来,導電性MOFと薄層MOFの設計にチャレンジしたいとおっしゃっていました。

ほかにも,産総研の上村研究員の後処理によるハイアラーキカルなFAU型ゼオライトのAlゾーニング現象の解明に関する講演は大変興味深いものでした。また,タイ国のVidyasirimedhi Institute of Science and Technology(VISTEC)のChularat Wattanakit先生はハイアラーキカルなMFI型ゼオライトのスケールアップを紹介してくれました。筆者も似たような方法で合成を試みた経験があるため,講演後Wattanakit先生と合成の詳細や活性点の精密制御に関して相談し,将来の共同研究についても検討していただきました。そして,インドネシア大学のYuni K. Krinandi先生とIdra Herlina先生(図3)のバイオマス転換の講演も聴講しました。この2人の女性研究者は当研究室のKarimさんの修士課程の指導教員であるため,スムーズに紹介してくれました。Yuni先生とHerlina先生と交流し,バイオマス転換における細孔設計および卑金属の選び方について,多くのアドバイスをいただきました。

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図3. Herlina先生(左1)とYuni先生(左3)との記念写真(筆者:左2)

そして,初日のWelcome Receptionでは,インドネシア大学のIrenaさん(図3右1), VISTECのKhaidowさん,ソウル国立大学のParkさんと親しくなり,研究内容や大学院での研究生活や将来の進路などに関して楽しく交流しました。

2日目はフランス国立科学研究センターのSvetlana Mintova先生のご講演から始まりました。Mintova先生はナノサイズのゼオライトのOSDA-freeの合成に関して紹介してくれました。また,そのうちのゼオライト内部の欠陥(シラノール)の評価手法は私が取り組んでいる研究テーマの1つに強く関連するため,大変興味深く聴講しました。従来,欠陥の分析には1H,29Si MAS NMRやFT-IR分析が主に利用されていますが,ブルガリアにあるソフィア大学のGeorgi N. Vayssilov先生と連携することで,DFT計算に加えました。そこで,シラノール基の帰属,酸の強さの判明ができました。また,1H MAS NMRの信号が低磁場側にシフトするに連れ,O-H基がFT-IRにおける伸縮周波数も減少するという関係が判明したことも報告していました。これにより,今後シラノール欠陥を活性点とする反応において,最適な欠陥量とその欠陥種(強度)について解明されるのではないかと考えています。講演後は,Mintova先生に同種類のシラノール基の位置(チャネル内かチャネル交差点か)の影響について質問し,有益な情報を得ました。また,スペインにあるITQのManuel Moliner先生とインドネシアにあるバンドン大学のRino R. Mukti先生のご講演から小細孔なゼオライトの合成に関する新しい知見を得られました。

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図4. Mintova先生との記念撮影(筆者:左)

2日目の午後に筆者は「Green synthesis of CHA zeolite from rice husk charcoal and its ion-exchange properties」というタイトルでポスター発表を行いました。当研究は廃棄物であるもみ殻に着目し,バイオマス発電の際に発生する焼き尽くされたもみ殻炭中のシリカ成分を用いたゼオライトの合成を目的としたものです。検討を重ねたところ,アルカリ溶液でシリカを抽出し,高価かつ環境にやさしくないOSDAを添加しない条件でCHA型ゼオライトの種結晶法を用いた合成に成功しました。また,合成されたCHA型ゼオライトは高結晶化度を示し,放射線カチオンに対しても優れた吸着能を示すことを報告しました。

ポスター発表にて,Yuni先生,大阪大の国領さん,POSTECHのShuさん,KU LeuvenのBaeさん等の方々と合成手法や,他種ゼオライトへの適用等について意見を交換しました。また,私があまり詳しくないイオン交換に関して,専門家の方々から,データの信頼区間やサンプルの再利用,投稿すべき雑誌等についてなどたくさんアドバイスをいただきました。非常に勉強になりました。

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図5. ポスター発表の様子(筆者:右)

また他の研究者のポスター発表も多数拝見しました。その中でも,POSTECHのZengさんと仁川国立大のBaeさんの研究に強く惹かれました。Suk Bong Hong先生の研究室に所属しているZengさんはSBSとSBT型構造のインターグロースである12員環細孔を有するPST-2の合成について研究しています。筆者はHong先生のTUN型ゼオライトの合成にも取り組んでいるため,Zengさんとカーボンチェインの長さの異なるOSDAの使用がゼオライトの合成と特性に与える影響について意見交換をしました。また,仁川国立大のBaeさん,Kweonさんはゼオライト転換法による金属の導入について研究しています。骨格に遷移金属の直接導入が難しいBea*型やMFI型,CHA型ゼオライトが遷移金属(Zr,Sn等)を含有するMWW型やFAU型を出発原料として容易に合成できると報告していました。帰国後,金属の導入を研究している同級生に情報共有し,新展開ができないかどうかについて検討します。

コロナ禍の影響で,今回の5th EAZCには残念ながら中国からの研究者が来ていませんでした。しかし幸いなことに,POSTECHのHong先生のところから,中国人留学生が4名いらしており,親交を深めました。主に中国の学術的研究,化学工業での応用,研究の進め方,就職活動と待遇等に関して情報交換を行いました。現在,中国の学術的研究は大きく進歩しており,昔ながらの工業建設が下火となっていることもあって新規の工場やプロセスを導入しやすくなっているという興味深い話をしてもらいました。一方で,研究者間の競争が厳しく,待遇も日本やヨーロッパのほうが比較にならないほど良いともおっしゃいました。今後,日中の連携強化にも努力していきたいと思います。

学会の昼食は韓国料理と洋食がバランスよく提供されました。キムチが美味しかったです。円卓の自由席のため,ほかの日本の大学から来た学生とも交流を深めました。4日目の午後はCruise Ship Marine Tourに参加しました。ヨットツアーを楽しんだ後,海東龍宮寺を散策しました。筆者は韓国KAISTのMinkee Choi先生やイタリアのカラブリア大学に所属するMassimo Migliori先生などと同じグループとなりました。この二人の先生のZTC(Zeolite Templated Carbon)に関する研究に興味があったので,これを機にZTC合成・応用について伺いました。また,将来の共同研究や交換留学の可能性についても打診し,連絡先をいただきました。このツアーでは韓国の景色や文化を楽しむことができ,素晴らしい5th EAZCの締めくくりとなりました。

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図6. 大会の美味しい昼食の写真

今回,5th EAZCに参加して,海外の優秀な研究者と交流を深める貴重な経験となりました。また,幅広い分野の研究に関する講演を聞くことで,多角的な視点と新たな発想を得ることもできました。今回の経験をこれからの研究に役を立てられるよう精一杯努力していきたいと思います。最後に,改めまして,このような素晴らしい国際会議を開催してくださった組織委員会に感謝します。

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図7. ヨットツアーでMassimo Migliori先生と記念撮影(筆者:左)

末筆となりますが,「若手研究者への5th EAZC渡航費用助成」によりご支援いただいたZMPC2018組織委員会並びに日本ゼオライト学会,そして関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。

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