日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 40(3): 136-138 (2023)
doi:10.20731/zeoraito.40.3.136

レポートレポート

5th Euro Asia Zeolite Conference(5th EAZC)での活動報告書

東京工業大学物質理工学院応用化学系応用化学コース横井研究室博士後期課程1年

発行日:2023年7月15日Published: July 15, 2023
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韓国の釜山で開催された5th Euro Asia Zeolite Conference(5th EAZC)に参加し,ポスター発表を行いました。開催都市である釜山は,韓国の主要都市の中で最も日本の近くに位置しており,そのため日本との関係も密接です。実際,町並みはかなり日本と似通っており,見覚えのある料理や商品も少なくありませんでした。

Zeolite 40(3): 136-138 (2023)

図1. 釜山の街並み

今回の国際会議は発表会場が一つしかなく,同じ時間帯に複数の講演があるシステムではありませんでした。講演の総数は減ってしまう一方で,普段はあまり話を聞くことがない研究分野も漏れなく拝聴できるのは大きなメリットだと思いました。また,講演は内容ごとにある程度まとまっており,さらに始めにPlenary Lectureやkeynoteでその分野の研究の大枠をつかむことができるようになっていたため,非常に理解しやすいシステムとなっていました。

ゼオライトに関する様々な研究の講演を幅広く聞くことができた本国際会議ですが,強く印象に残るのはやはり自分の研究と近しいもの,つまりゼオライトを触媒として用いた反応に関するものです。中でもJerrik Mielby先生のGME型ゼオライトの合成に関する講演は非常に興味深いものでした。GME型はCHA型とよく似た構造を持っており,C1化学に用いる触媒としても注目されています。Jerrik Mielby先生はOSDAの有無や出発原料などを幅広く検討しており,合成条件を最適化していました。私はCHA型ゼオライトをよく触媒として用いているのですが,最近コーク堆積による失活に悩んでいます。GME型はCHA型よりも少し細孔が大きく,そのうえCHA型と同等の触媒活性が期待できるため,この講演や論文を参考に自分でも合成および反応検討を行いたいと考えています。

また,酒井先生の逆シフト反応に用いるZSM-5の話も参考になりました。CO2と水素からCOを作る逆シフト反応は水が生成されます。この水を反応系内から取り除くためにゼオライトの細孔を用いるといった研究内容です。ここで用いられているZSM-5, つまりMFI型の細孔の大きさはCO2よりも大きく,このままでは水だけを取り除くことができません。そこで酒井先生の研究では,ZSM-5にNaイオンを導入することで細孔の一部を物理的にふさぎ,H2Oしか通れなくすることでこの課題を解決していました。さらにこの反応システム(Membrane reactor)を用いることで,逆シフト反応における理論収率を超える反応結果となったことを報告していました。私もCO2とエタンを用いた反応を行う予定があるため,生成された水をどのように系内から排除するかは近い将来確実に訪れる課題です。反応システムが違うためそのままの応用はできませんが,今後も注視していきます。そのほかにもJiri Dedecek先生の講演ではFERやBetaに導入された二価の金属(Fe, Co, Mn, Ni)が二核種となって活性酸素を生成することを計算で示しており,さらにメタンの酸化(O2/CH4レドックスサイクル)を低温で行えることを報告しておりました。Mintova先生の講演ではゼオライト欠陥サイトの評価手法を学ぶことができました。Feイオン交換でも脱アルミによる欠陥サイトの発生が確認されているため,その評価方法および欠陥修復の検討は大変参考になりました。総じて,大変興味深い講演が多く,自身の研究をさらに発展させるために必要な知見を得ることができたため,非常に有意義な時間となりました。

初日のWelcome Receptionの後,ありがたいことに脇原先生主催の韓国人学生との交流会に参加させていただきました。他国の同世代と交流できる機会は意外となく,貴重な時間となりました。それぞれの研究の話から始まり,研究室での日常や日本と韓国の食や文化の話などで盛り上がりました。同席の二人は毎日日付が変わるまで研究室にいると話しており,刺激を受けました。知識も豊富でこちらに合わせた話を適宜振ってくださり,とても楽しい夕食会となりました。今後も国際学会で会うことになると思うので今から楽しみです。

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図2. 交流会の様子(筆者:右から四人目)

私のポスター発表は三日目に行われました。「Effect of framework Al distribution in CHA-type zeolites on the ion-exchange and methane conversion properties」という題目で,Fe含有CHA触媒を用いたメタン転換について発表しました。私が行っている反応はメタンからメタノールを経由して低級炭化水素を生成するものであり,用いる触媒はMTM反応とMTO反応の活性種を併せ持つことが求められます。Al分布の異なるCHA型ゼオライトを合成し,Feイオン交換を行ったものを触媒として用いると,Al分布の違いによって収率に大きな差が確認されました。そこでFT-IRやUV-visスペクトルを用いてAl分布の違いがFeイオンや反応に与える影響を解明するという内容です。発表では,Feイオン交換によってCHAの脱アルミが起こっており,さらに一部のFeは欠陥サイトに導入される形で骨格内に取り込まれることでブレンステッド酸点として機能していると考察しています。さらにAl分布の違いによってFeイオンの骨格内への導入のされやすさが異なり,これがMTO反応活性の違いにつながっていると結論付けました。来訪者の多くがこの骨格内Fe種に関する質問をしてくださりました。今回ポイントとなるのが,この骨格内Fe種がAl由来のブレンステッド酸点と比べて優れていくわけではなく,あくまで代替しているに過ぎないという点です。発表ではこの点を丁寧に説明させていただきました。Feイオン交換は非常に繊細で再現性が低くなってしまう難しい実験なのですが,この難しさをわかってくださる方に来ていただきました(図3左側の男性)。この方とは,安定的にFeを導入するための工夫についてや,脱アルミが起こさないためにはどのような手法をとるべきかなどの議論が白熱しました。また,その後のバンケットで偶然同じ卓に座ることとなり,交流を深めた後に連絡先を交換できました。また,骨格内Fe種の作る酸点がAl由来のブレンステッド酸点よりも弱いことを指摘し,この強すぎない酸点が高い反応活性につながっているのではないかという意見もいただきました。これは骨格内Fe種があくまで代替に過ぎないという私の考えを一蹴するものであるため,今後検討していく必要があると感じました。

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図3. EAZCポスター発表の様子(筆者:右)

国際会議最終日の午後にはCruise Ship Marine Tourが行われました。それに伴う昼食では同じ卓の現地学生の方々と,日々の研究室生活の話を中心に歓談しました。また,隣の卓にはGarcía Martínez先生やMintova先生がいらっしゃり,私が残っていたお肉をいただいたことをきっかけに,日本や韓国の食文化の話などが弾みました。昼食後は,Manuel Moliner先生やRaquel Simancas先生,Abdulkarem Amhamed先生と交流を深めました。Manuel Moliner先生は前にスペインで行われたIZCに参加している最中にコロナにかかってしまった私に,延泊用のホテルの確保や食べ物などの多大な支援をしていただいたので,ここで改めて感謝を伝えました。その後のヨットツアーや海東龍宮寺の散策も存分に楽しめました。

今回,5th EAZCに参加して,現地の学生を含む多くの研究者と交流できたことはとても貴重な経験となりました。私はEAZCが二回目の現地参加する国際会議となったのですが,前回よりもスムーズなやり取りができた気がしており,自身の成長を感じました。また,幅広い分野の研究に関する講演を聞くことは,多角的な視点を得ることにもつながったと思います。今回の経験を生かして今後も世界中の研究者と円滑かつ深い議論ができるよう精進したいと思います。

末筆となりますが,「若手研究者への5th EAZC渡航費用助成」によりご支援いただいたZMPC2018組織委員会並びに日本ゼオライト学会,そして関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。

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