第38回ゼオライト研究発表会参加報告
関西大学大学院理工学研究科分離システム工学研究室
© 2023 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2023 Japan Zeolite Association
第38回ゼオライト研究発表会が令和4年12月1日(木)と12月2日(金)の2日間にわたり,徳島県徳島市あわぎんホールで開催されました。研究発表はA,B,Cの3つの会場にそれぞれ分かれて行われました。発表の内訳は,特別講演1件,依頼講演2件,特別企画4件,総合講演3件,一般講演73件の計83件でした。
第36回,37回はCOVID-19の影響でオンラインでの開催となりましたが,第38回では3年ぶりの現地開催となりました。私自身もD1ではありますが,ゼオライト研究発表会に初めてin-personで参加することができ,ゼオライト等の研究分野に携わる方々と直接交流することができたことを非常に嬉しく思います。それぞれの会場では様々な研究発表に対する意見や質問等が多く飛び交い,非常に熱い議論が展開されていました。参加者の研究に対する熱意やゼオライトを社会に広く展開していきたいという思いが強く伝わってきました。
1日目の午後には2つの依頼講演と1つの特別講演が行われました。1つ目の依頼講演は東工大のHermann Gies氏による「Structural disorder of zeolite frameworks: The analysis of the disorder, the formal description and worked examples」という題目でのご講演でした。Intergrowth構造のゼオライトや構造中に歪みを有するZSM-48などを例に挙げて,ゼオライトの構造歪みの度合いをPXRDパターンの変化から推測するという内容を中心にお話しいただきました。Intergrowth構造のゼオライトを研究で扱う私にとっても構造歪みの度合いを推し量る方法は非常に興味が沸く内容でした。また,英語での講演はまるでゼオライトの国際学会に参加しているかのような感じであり,日本にいながらも非常に貴重な体験となりました。
次の依頼講演では,ジョンソン・マッセイ・ジャパンの山田岳氏に「自動車排ガス規制の歴史と触媒技術」という題目でご講演いただきました。日本や欧米諸国の自動車排ガス規制に関する社会的背景,排ガス浄化装置の仕組みなどの説明を中心に,今後の自動車排ガス規制に対応した触媒技術に求められる要素などをお話しいただきました。普段,触媒を扱わない私にとっても触媒技術の歴史的背景を掴むことができる非常にわかりやすい説明であり,世界各国の規制に対応するための触媒開発の難しさや今後さらに規制が厳しくなると予想される現状に我々は触媒技術を用いてどのように対応していくべきか?と自分自身も考えさせられる機会となりました。
特別講演は,「よく定義された結晶性メタロシリケート合成と放射光計測による構造解明に向けて」という題目で東北大多元研の村松淳司氏によるご講演でした。メカノケミカル法を用いたゼオライト骨格内への金属種の導入を中心にお話しいただきました。「よく定義された」=「誰でも合成できる」というゼオライト分野における再現性という観点での非常に重要な内容に加えて,最後には東北大青葉山新キャンパス内に現在建設中の次世代放射光施設NanoTerasuの全貌に関しても動画を用いて説明いただきました。SPring-8をよく利用する私にとっても是非NanoTerasuを訪れてゼオライトの結晶構造解析を行いたいと思う紹介内容であり,NanoTerasuの完成と利用が待ち遠しくなりました。
2日目の午後には,カーボンニュートラル実現に向けたゼオライト等の多孔質材料の貢献と応用を主軸とした「エネルギー問題に挑むゼオライト・多孔体」というタイトルの特別企画で4件の講演が行われました。
特別企画の1件目では,今年度から日本ゼオライト学会会長に着任された三菱ケミカルの武脇隆彦氏が「カーボンニュートラルに向けたゼオライトの貢献可能性」についてご講演されました。世界的な気候変動に対してCCUS技術が注目される中,我々はゼオライトを分離材や触媒として用いることにより,カーボンニュートラル実現にどのように貢献することができるのか?に関してお話しいただきました。現在私達が直面するエネルギー・環境問題に対して,ゼオライトを主軸に立ち向かうことが可能な分野を改めて再認識することができた内容でした。第38回ゼオライト研究発表会では,ゼオライトを用いた触媒反応や吸着・膜分離プロセスに関する多くの発表が行われました。地球温暖化という非常に大きな課題を前にして,ゼオライトを用いた研究のベクトルが明確に示される機会となりました。武脇会長のゼオライトに対する思いは,我々の社会問題解決への思いを改めて一つにさせたと思います。
次に,旭化成株式会社の西山ブディアント氏に「旭化成のカーボンリサイクルへの取り組みのご紹介」についてご講演いただきました。ポリカーボネートの原料となるジフェニルカーボネートの製造プラントやポリウレタンの原料であるイソシアネートの新規製造プロセスを中心に,ポリマー製造の中核を担う旭化成株式会社独自の製造プロセスをご紹介いただきました。カーボンリサイクルで重要となるCO2誘導体(尿素)を用いたヘキサメチレンジイソシアネート製造技術は,我々の興味を掻き立てる技術であり,CO2からOを切り離さずにカーボンサイクルを回すという,いわゆる「非還元型のプロセス」の重要性を理解することができました。
ENEOS株式会社の壱岐英氏には「エネルギー・液体燃料の低炭素化とその技術開発の取組み」という題目でご講演いただきました。我々の生活物品を輸送する際に必要となる航空機や船舶の燃料に焦点を当て,カーボンニュートラル実現に向けてどのような代替燃料に転換させる必要があるのかを中心にお話しいただきました。やはり注目されるのはカーボンフリーである水素や蓄電池などの次世代代替エネルギーではありますが,重量エネルギー密度ならびに体積エネルギー密度の両者が高いバイオジェット燃料への直接燃料代替は難しいと考えられます。現在用いている液体燃料を代えずに,どのようにしてカーボンニュートラルに貢献できるか?という難しい課題への挑戦をお聞きすることができた貴重な機会でした。航空機を利用する立場としても,燃料をカーボンニュートラル化し,どれだけ低コスト化することができるのかは非常に気になる内容であり,今後の技術開発の発展に注目したいと思いました。
最後は,成蹊大学の里川重夫氏に「カーボンニュートラルな燃料製造に必要なゼオライト触媒を考える」という題目でご講演いただきました。カーボンニュートラル技術としてCO2分離や水素製造,燃料合成,ケミカルリサイクル等の多角的な観点からお話しいただきました。ゼオライト研究発表会最後の講演でもあり,カーボンニュートラル実現に必要となるゼオライト触媒の今後の使い道をZSM-5等の具体的なゼオライトを例に挙げてお話しいただき,現状ゼオライトが直面する社会的課題を再認識することができました。武脇氏,西山氏,壱岐氏のご講演内容をまとめ上げたかのような,締め括りとしてふさわしい内容のお話を展開していただきました。
最後に,今年度もCOVID-19を考慮して懇親会は行われませんでしたが,現地でゼオライト研究発表会が開かれたことで,ようやく皆様方と対面で交流できたことが何よりの成果でした。これまで,オンラインでの学会参加を主に経験してきた私にとっても,会場での直接の発表および聴講は非常に刺激的でありました。第38回ゼオライト研究発表会実行委員会の方々も会場の準備から当日のコロナ対策をしながらの運営まで,オンラインの時とは異なる苦労が多数あったと思われます。この場をお借りして,第38回ゼオライト研究発表会を運営いただいた実行委員会の方々ならびに日本ゼオライト学会の皆様に深く御礼申し上げます。次回の第39回ゼオライト研究発表会は東京で開催される予定となっております。日本国内においてもCOVID-19による規制はわずかながら緩和してはいるものの,まだまだ油断できない日々が続くと思われます。第38回ゼオライト研究発表会に参加した皆様ならびに日本ゼオライト学会会員の皆様の日々のご健康を祈るとともに,次回のゼオライト研究発表会においても対面での研究発表と聴講ができることを心から願っております。
This page was created on 2023-04-06T13:51:30.929+09:00
This page was last modified on
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。