日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 40(2): 63-71 (2023)
doi:10.20731/zeoraito.40.2.63

解説解説

固体電解質としてのゼオライトの電気的特性Electrical Properties of Zeolites as a Solid Electrolyte

1熊本大学大学院先端科学研究部物質材料生命工学部門Division of Materials Science and Chemistry, Faculty of Advanced Science and Technology, Kumamoto University ◇ 〒860–8555 熊本市中央区黒髪2丁目39–1

2熊本大学大学院先端科学研究部附属半導体研究教育センターForefront Research and Education Center for Semiconductors, Kumamoto University ◇ 〒860–8555 熊本市中央区黒髪2丁目39–1

3熊本大学産業ナノマテリアル研究所表面・粒界部門Division of Surface and Grain Boundary, Institute of Industrial Nanomaterials, Kumamoto University ◇ 〒860–8555 熊本市中央区黒髪2丁目39–1

受理日:2023年3月9日Accepted: March 9, 2023
発行日:2023年4月15日Published: April 15, 2023
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イオン交換,触媒,吸着などゼオライトが示す化学的特性はこれまでに多くの用途を生み出している。一方,物理的特性に対する関心は限られ,応用に向けた検討例は化学的特性に対する検討例に比べ少ない。たとえば,物理的特性の一つに電気的特性がある。アルミノシリケート骨格からなるゼオライトは電子絶縁体である。しかし,アルミノシリケート骨格内でのイオンの振る舞いに注目すると,ゼオライトはイオン伝導性を示す材料としての魅力を有する。最近我々の研究グループは,アナルサイムの単結晶を用いた検討から,アナルサイムが高いナトリウムイオン伝導性を示すことを見出し,CO2用ガスセンサの固体電解質として応用可能であることを明らかにした。ここでは,我々の検討結果を交えながら,アルミノシリケート骨格内でのイオンの動きに対する水分子の影響や結晶の方位がイオン伝導性に与える影響について触れてみたい。

The chemical properties of zeolites, such as ion exchange, catalysis, and adsorption, have been utilized in many applications. On the other hand, the physical properties of zeolites have received limited attention for practical uses compared to the chemical properties. Electrical property is one of the physical properties. Zeolites composed of aluminosilicate frameworks are electronic insulators. However, in considering the behavior of ion-exchangeable cations within cavities formed by the aluminosilicate frameworks, zeolites are potential as solid electrolytes with cation conductions. Our research group recently found out high Na+ ion conduction for analcime in investigations using single crystals, and reported to have the applicability as a solid electrolyte of gas sensor for CO2 sensing. In this paper, the influence of water molecules on the movement of cations within the cavities and the effect of crystal orientation on ionic conductivity are briefly discussed with our experimental results for analcime.

キーワード:アナルサイム;ナトリウムイオン伝導;固体電解質;ガスセンサ;二酸化炭素検知

Key words: analcime; sodium ion conduction; solid electrolyte; gas sensor; carbon dioxide detection

1. はじめに

組成や構造の違いにより200種以上の存在が報告されているゼオライトは,吸着剤1),触媒2),ガス分離材料3)など,化学的性質に着目した応用分野で広く活用されている。一方,それら化学的性質の応用例の広がりと比較すると,ゼオライトの物理的性質の応用はいまだ未踏に等しい状況ともいえる。物理的性質としては力学特性,熱特性,光学特性ならびに電気特性などがあるが,本稿の英語タイトル「Electrical Properties of Zeolites as a Solid Electrolyte」でCAS SciFindernを用いて検索すると,1934~2023年に英文学術論文誌に出版された件数は62,035であった(2023年2月4日現在)。コンセプトワード10種に加え,ゼオライト以外の材料を除外するためにframeworkで絞り込んで検索した結果(1,845件)を棒グラフとして図1に示す。ヒットしたワードが論文で使用されている頻度の高さを第3位まで降順で示すと,電気伝導,固体電解質,ゼオライトであった。これらのワードはゼオライトの電気的特性に関心が集まっていることを示している。最近,筆者らは,実用材料としてはあまり高い関心が持たれておらずゼオライト合成の中ではしばしば不要物として捉えられているアナルサイム(analcime: ANA)に注目し,その電気的特性を検討した結果,ANA巨大単結晶のナトリウムイオン伝導が水を含有するかどうかで変化すること,脱水ANAを基として作製されたセンサが二酸化炭素(CO2)に曝されることで起電力を示すことを見出している4)。前者の脱水ANAは450 Kを境に高温側でナトリウムイオン伝導が高い傾向を示していた。後者については,熱重量測定(Thermogravimetry; TG)の結果に基づくと脱水後のANAは吸湿性が低いため,脱水ANAが示す特性は大気中の水の影響を受け難いと考えることができる。固体電解質としての可能性を検討するため,炭酸塩層と脱水ANAの組合せで作製した電極によりCO2検知を行った。723,773,823 Kで生じた起電力はネルンスト式に従っていた。炭酸塩層はCO2の吸着材として作用し,反応電子数は2であった。このガス検知機構は三浦らによって報告されている炭酸塩層とナトリウムイオン超伝導体(NASICON)とを組み合わせた電極と類似である5)

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図1 検索条件による絞り込み結果(CAS SciFindern).

本稿では,ゼオライトの電気特性の内,ナトリウムイオン伝導への影響因子であるアルミノシリケート骨格や水との相互作用についての研究動向を概観しながら筆者らのアナルサイムのナトリウムイオン伝導について触れてみたい。

2. ゼオライトのイオン伝導

ナトリウムイオン伝導に関する報告として,1976年のGoodenoughらの「Fast Na+-Ion Transport in Skeleton Structures」は広く知られる6)。NASICON(Na3Zr2PSi2O12)が573 Kで導電率0.2 Ω−1 cm−1を示し,ナトリウムイオン伝導体が注目されるようになった。ゼオライトに関しては1992年にKelemenらが合成オフレタイト,カンクリナイト,ゼオライトAの粉末成形体に対してインピーダンス分光法によりイオン伝導度を測定し,A型ゼオライトが873 Kにおいて2.9×10−3 Ω−1 cm−1を示したと報じている7)。1999年にSchäfらは,323~383 Kの温度範囲でSTI型ゼオライト(3.61~155×10−8 Ω−1 cm−1)がANA(7.29~21.4×10−9 Ω−1 cm−1)やHEU(3.35~15.1×10−10 Ω−1 cm−1)よりも高いイオン伝導を有することを見出している8)。これはSTI[100](4418 Å3)がANA(2586 Å3)やHEU(2110 Å3)よりも比較的大きな格子体積を有することに起因するとされている。ゼオライトのイオン伝導はアルミノシリケート骨格が形成する空間をカチオンが移動するとの考えから,格子体積が大きければイオン伝導しやすいと考えられてきた。アルミノシリケート骨格が形成する空間はキャビティと呼ばれ,ゼオライトではキャビティ内のカチオン移動にアルミノシリケート骨格との静電的相互作用が影響を及ぼすことが議論されている(後述)。

2.1 アルミノシリケート骨格内でのイオン伝導性

ゼオライトのイオン伝導性はアルミノシリケート骨格で形成されるキャビティ内で生じ,たとえばプロトン伝導ではキャビティ内の水分子間のプロトンホッピングが担うと提唱されている8)。一般にゼオライトは数電子ボルトの広いエネルギーギャップを示すため,Frankeら9)は,電子伝導を示さない代わりに,ポリアニオンホスト格子に静電的に結合している交換可能なカチオンが並進運動を実行できることに着眼した。彼らは,プロトンが電荷補償陽イオンであるH型ゼオライトを用い,SiO2/Al2O3比の異なる脱水ゼオライトH-ZSM5(30, 50, 80, 150, 280, 1000)の電気特性を複素インピーダンス分光法により検討した。H型ゼオライトでは,各Alサイトに架橋ヒドロキシル基が形成されるため,プロトンがアルミノシリケート骨格からの静電引力を克服し,隣接する空サイトに移動するエネルギーはアルミニウムサイトの空間距離に依存する。古典的なホッピング理論やDebye-Hückel理論を実験結果に適用し,1H-MAS-NMRや量子化学計算からの推測では,プロトン緩和はアルミニウムを取り囲む酸素サイト間の小さなプロトン移動による局所的な再配向運動ではなく,並進プロトンホッピングから生じることを示唆する結果が得られている。加えて,プロトン並進運動の活性化エネルギーとプロトンホッピングが生じる割合を量子力学–原子間ポテンシャル関数法(QM-Pot)を用いて算出した結果10),並進運動の初期段階(AlO4サイトを離れる段階)の活性化エネルギーは,Al-Al距離が14,8,6Åの場合,それぞれ127,119,83 kJ mol−1であった。このように,ブレンステッドサイトとなるヒドロキシル基の空間的な分離が小さくなると,両者のクーロンポテンシャルによる相互作用が大きくなり,プロトンジャンプのエネルギー障壁が低くなることが指摘されている。Jordanらはソーダライトとカンクリナイト中のナトリウムイオンの運動を力場計算,固体NMRおよびインピーダンス分光法により調べた11)。カチオンはアニオンと相互作用すると局所的な運動が促進される。しかし,局所移動度の高い系がすべて良好なイオン伝導性を示すわけではなく,移動の協同性も重要な要素である。ソーダライトでは,ハロゲンアニオン(Cl, Br, I)が存在すると,ナトリウムの局所運動と長距離輸送のエネルギー障壁が低くなることがわかった。エネルギー障壁は,アニオンのサイズが大きくなり,遷移状態での配位数が減少するにつれて増加する。23Na固体NMRによると,大きな細孔を持たないソーダライト構造中のすべてのナトリウムイオンは470 Kまでは可動性が低かった。クロム酸ソーダライト中のすべてのカチオンおよびアニオン相互作用を持たない小さなカンクリナイトε-ケージ中のナトリウムイオンは高温では局所運動が制限されていた。より開放的なカンクリナイトのチャネル系では,クロム酸アニオンの近傍でナトリウムイオンの選択的な高い局所運動が観測された。これらの結果は,開放系チャネルにおいて,アニオンとの相互作用により少なくとも局所的にナトリウムの移動が促進されることを示唆する。

2.2 イオン伝導性における水分子の影響

キャビティ内での水分子間のプロトンホッピングがプロトン伝導を担う8)という観点から,水分子がカチオン伝導の補助的な役割を担う可能性がある。筆者らのANA単結晶においてもイオン伝導性が見られた(図2)ことから,水分子の補助的役割を伴ったメカニズムで,含水ANAのアルミノケイ酸塩骨格内におけるナトリウムイオンの伝導が促進されると考えられる。具体的には,水分子がNa+に配位することで,アルミノケイ酸塩骨格との相互作用が弱まり11, 12),イオン伝導性が向上するという解釈である。ANAは組成Si/Al=2となるアルミノケイ酸塩骨格を持っており,TO4四面体の中心原子TがSi4+のときは中性である。しかし,TがAl3+の場合,四面体は負に帯電し, AlO4付近にNa+が配位することによって補われる。低温領域では,H2OがNa+に配位してAlO4とNa+の間の静電相互作用を弱め,ナトリウムイオン伝導が促進されたと考えられる。

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図2 アナルサイム(ANA)巨大結晶におけるナトリウムイオン伝導度.含水および脱水ANAの‹211›, ‹110›, ‹100›方向の伝導度を示すアレニウスプロットと結晶面に垂直な結晶表面の微小部XRDパターン.

図2に示されるように,ナトリウムイオン伝導度は高温(領域A)と低温(領域B)に分ける境界温度である450 Kで反転している。文献11によると,ソーダライト構造中のすべてのナトリウムイオンは470 Kまでは可動性が低いと述べられている。ソーダライトとANAの主要な孔路の直径はそれぞれ2.2 Åと2.6 Åで,その大きさが同程度である13)ことから,図2のナトリウムイオン伝導においても,450 K以上の温度で水の影響を受け難くなると考えられる。

2.3 ナトリウムイオン伝導性の結晶方位依存性

イオンブロッキング電極を用いた直流法から,含水ANAの伝導度におけるイオン輸率は約95%と評価された。次の興味として,ANAのナトリウムイオン伝導に結晶方位依存性があるかどうかである。図2の右側には単結晶X線回折(XRD)パターンを示している。アルミノケイ酸塩骨格に配位するナトリウムイオンに対する水分子の影響は温度に依存し,含水ANAではナトリウムイオンに水分子が配位することで‹110›方向の伝導が促進されると考えられる。図2に示した3つの結晶方位(‹211›, ‹110›, ‹100›)のナトリウムイオン伝導度を比較すると,含水ANAではナトリウムイオン伝導度の差が小さいのに対し,脱水ANAでは‹211›と‹110›で同じ,‹100›で一桁低い伝導度になっている。図3に含水ANAと脱水ANAの3つの結晶方位(‹211›, ‹110›, ‹100›)におけるナトリウムイオンの伝導経路を示す。Anchellらは,3つの8員環が取り囲む6員環のキャビティを有するANAにおいてカチオン伝導におけるエネルギー障壁が低いことを報告している14)。これを考慮すると,‹210›に沿った伝導経路によるナトリウムイオンの移動距離は短いと思われる(図3(a))。表1に3つの結晶方位(‹211›, ‹110›, ‹100›)と‹210›および‹111›との角度差を示す。‹210›との角度差が小さい‹110›や‹211›はナトリウムイオン伝導が高く,‹210›との角度差が大きい‹100›はそれが低い。‹210›(図3(a))は6員環同士が近接し,4員環は伝導経路を邪魔しないが,‹110›(図3(b))は6員環と8員環が交互に存在し,8員環同士をナトリウムイオンが伝導すれば4員環は伝導経路の邪魔にならない。‹100›(図3(c))は6員環同士の距離が離れており,4員環が6員環の繋がりを一部分断している。ANAではNaサイトの占有率は0.6667で,1ユニットセルあたりのサイトの約3分の1が空席である。この空席を利用することでナトリウムイオン伝導が生じると考えるのが妥当である。含水ANAでは,水分子の存在のためナトリウムイオンが受けるアルミノシリケート骨格からの静電相互作用が弱くなり,ナトリウムイオン伝導が円滑になっていると考えられる。他方,脱水ANAのナトリウムイオン伝導については,完全に水が除去されてもナトリウムイオンの存在確率(Naの占有率)は含水時と変わらず,アルミノシリケート骨格との静電相互作用を克服すればナトリウムイオンが伝導するといえる。

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図3 含水ANAと脱水ANAの3つの結晶方位における構造モデル.矢印は印加電圧の方向.TO4はフレームワーク.ここで,TはAl3+またはSi4+が占める四面体の配位サイト.赤と青の球はそれぞれ水分子の酸素とナトリウムイオンに対応.緑枠:6員環の代表例,赤枠:8員環の代表例,結晶方位:(a)‹210›,(b)‹110›,(c)‹100›.

表1. 結晶方位‹100›,110›,‹211›に対する各結晶方位の角度差.[I] ‹210›との角度差,[II] ‹111›との角度差.
[I]
結晶方位‹210›との角度差,θ / °
‹100›26.6
‹110›18.4
‹211›24.1
[II]
結晶方位‹111›との角度差,θ / °
‹100›54.7
‹110›35.3
‹211›19.5

アルミノシリケート骨格との静電的相互作用は,カチオンが6員環の中心に位置するほど強くなると言われている7, 14)。Na+は‹100›と‹210›配向の6員環の中心に位置しているが,後者では員環距離が短く,イオン伝導が促進される可能性があることが判明している。‹110›配向の場合,6員環内に2個または3個のNa+が観察された(図3(b))。このNa+はアルミノケイ酸塩骨格中のAlの負極性(Alδ−)に起因する静電引力によって捕捉され,さらに水分子がNa+に配位していると考えられる。Na+とAlの間の静電引力(Fstatic, Na+-Alδ−)とNa+とH2O(H2Oδ−)の間の静電引力(Fstatic, Na+-H2Oδ−)を比較すると,次のような関係があることがわかった。低温ではFstatic, Na+-H2Oδ−>Fstatic,Na+-Alδ−図2の領域B),高温ではFstatic,Na+-H2Oδ− < Fstatic,Na+-Alδ−図2の領域A)であった。

3. ゼオライトのガスセンサへの応用

ゼオライトをガスセンサに応用する研究は1995年のNaYが挙げられる。NaYによるガス検知はインピーダンス15)と静電容量16)の測定によって実施していた。前者は1000 ppmブタンに対するインピーダンス変化の周波数依存性が動作温度(523, 583, 623 K)で異なることを示した。後者は1000 ppmブタンに対する応答時間と回復時間が648 Kでそれぞれ200秒と150秒であることを示した。2002年にH-ZSM5厚膜センサが693 Kで100 ppm NH3に対してベース抵抗の約35%の抵抗減少を示すことが報告された17)。2007年に選択性を改善する試みとして,還元性ガスに高感度であるPd-SnO2にMFIもしくはLTAを被覆したセンサが開発された18)。この報告では,MFI被覆センサがH2やH2Oに,LTA被覆センサがC2H5OHやH2Oにそれぞれ選択性を示すことが報告された。2008年に673 Kで30~100 ppm H2Oに対して濃度依存性を示すH-ZSM-5湿度センサが報告されている19)。以降,エタノール選択性を有する3層LTA(1層約26 µmのLTAを3回スクリーン印刷)やトルエン選択性を有する3層MFI等のSnO2との複合体20),ウェアラブル用皮膚センサとしてアセトン濃度を高める新規FAU21)が開発されてきた。これら提案されたセンサはゼオライトをガス吸着材として用いることに主眼を置いていた。ゼオライト自体のイオン伝導を主体とするセンサ15–17)ではセンサ応答が低いため,酸化物半導体との組合せ18–21)でセンサ応答の向上とゼオライトによる分子選択性付与が試みられてきたことになる。

一方,排出されたCO2の濃度は,2015年から世界レベルで400 ppm/年に達した22)。Winklerらは,軽負荷車両は450 ppmでの大気CO2濃度の安定化と一致していると主張している23)。このような状況から,軽負荷車両を含む多くの車両から排出されるCO2濃度を監視するためには,実車に搭載可能なコンパクトなCO2センサが必要となる。CO2センサでは,排気ガスの温度が873 Kに達するため,873 K以上の耐熱性が求められる24)。この要求に応えるために,773〜923 Kの動作温度において,4 ppm〜40%のCO2濃度を検出するための固体電解質型センサが開発された5)。CO2センサの固体電解質としてANAを用いることができれば,固体電解質型CO2センサの製造における原料コストの低減が期待できる。

3.1 ANAの固体電解質としての可能性

これまでに筆者らが作製したANA型ゼオライトの単結晶はその大きさが1 mm以下と扱いにくいため,固体電解質としての応用は限られてくる。また,多結晶体や粉末成形体では結晶粒の形状や大きさ,さらには粒子間の接触が異なるため,導電性に違いが生じる場合が多い。図4は,ANAの単結晶,多結晶それに粉末を一軸加圧した粉末成形体のナトリウムイオン伝導度の温度依存性を示す。脱水前後のナトリウムイオン伝導度の傾向は図2に示したものと同様で,3つの試料で同様の傾きが得られたことから伝導機構に違いがないことがわかる。含水ANAでは,粉末成形体のナトリウムイオン伝導度(図4(c))は多結晶のそれ(図4(b))より約2桁低かったが,多結晶と単結晶のナトリウムイオン伝導度は同程度であった。これらの結果から,含水ANA型ゼオライトのナトリウムイオン伝導度は細孔の配向に大きく影響されないことが示唆された。また,粉末成形体の伝導度が低かったのは,測定試料の相対嵩密度が67%と低いため,粒子間の接触頻度が減少し,電荷移動種であるナトリウムイオンの円滑な移動が阻害された影響が大きいと考えられる。多結晶は単結晶と同程度のナトリウムイオン伝導性を示すことから,固体電解質としての応用が期待される。

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図4 異なる組織からなるANA型ゼオライト試料のナトリウムイオン伝導度.(a)単結晶ANA,(b)多結晶ANA,(c)粉末成形体ANA.

3.2 ANA緻密膜の低濃度CO2検知

Na+に対するH2Oの配位状態は,含水ANAではナトリウムイオン伝導性に影響を与えるが,脱水ANAではその影響を考える必要はない(第2.3項)。ANAのガス検知用固体電解質としての適用性を評価するため,H2Oがナトリウムイオン伝導に影響を与えない脱水ANAを用い,CO2検知を行った。具体的には,YSZ基板上にANA種結晶を育成し(図5-Ⅰ,Ⅱ),溶液処理により二次成長を誘起して厚さ~400 µmの多結晶ANA緻密膜を得た(図5-Ⅲ,Ⅳ)。このANA緻密膜をYSZ基板から剥離し,CO2検知に用いた。

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図5 イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板上に作製された種結晶層の水熱反応前後におけるX線回折パターン((a), (b))とSEM像((I)~(IV)).ICDDパターン(ANA:00-041-1478),▽:YSZ基板.

ANA緻密膜センサの300~2000 ppm CO2存在下での応答・回復の有無を確認した結果,すべての濃度において起電力(EMF)が観測された(図6)。CO2濃度が低いほど応答が短時間で飽和しやすい傾向にあり,300 ppmの場合は応答が10秒以内に飽和した。4 ppmのCO2に曝されたNASICONセンサの90%応答時間は8秒以下5)と報告されていることから,ANA緻密膜センサの性能はppmレベルのCO2検知に十分であると考えられる。2000 ppmのCO2存在下でNASICONベースのセンサが発生する起電力は,723 Kで50 mVと報告されており25),本研究で作製したANAベースの薄膜センサは同様の条件で~225 mVを示した。その観測された性能は,小畑らによって作製されたNASICONをベースとするセンサの性能と同程度である26)。もし,ANAのナトリウムイオン伝導性がCO2の吸着によって劣化していたならば,ANAベースのセンサでは起電力は観測されないはずである。したがって,CO2が10000 ppm以下の雰囲気では,ANA型ゼオライトは固体電解質として機能したと考えられる。

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図6 ANA緻密膜センサの723 Kにおける300~2000 ppm CO2に対する応答–回復曲線.

CO2検知における反応(図7(a))は,炭酸塩層がCO2ガスを吸着し, ANAが反応に関わるナトリウムイオンの伝導を担うことで進行する。熱力学的平衡論を用いて計算した反応全体(Na2O+CO2⇌Na2CO3)のギブス自由エネルギーは,723,773,823 Kでそれぞれ-214.8,-208.3,-202.0 kJ/molであった。2電子反応の起電力は,ネルンストの式から求めることができる。

EE0RTnFlnC(CO2)

図7(b)は,723,773,823 Kにおける起電力のCO2濃度依存性を示す。723,773,823 Kにおける最小二乗による近似直線の傾きは,それぞれ62.8,74.8,76. 4 mV/decadeと算出された。これらの傾きの値をネルンストの式に適用すると,反応電子の数は723,773,823 Kでそれぞれ2.28,2.05,2.10となり,本センサの動作に寄与する反応電子の数は2であることがわかる。

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図7 ANA緻密膜センサのCO2検知.(a)Pt/炭酸塩層/ANA/PtにおけるCO2検知機構模式図と反応機構,(b)起電力のCO2濃度依存性.

3.3 ANA緻密膜センサへの期待

図7(b)のEMFのCO2濃度依存性を示す近似直線から検出下限を見積もった結果,723,773,823 Kでそれぞれ約0.80, 約16, 約51 ppmであった。一般に,CO2は化学的に安定であるため,選択検知が難しいとされるガスである。本研究のANA緻密膜センサは補助層に炭酸塩を用いているため,CO2に対する低濃度選択検知が期待できる。特に,固体電解質型CO2センサはLISICONやNASICONのようにアルカリイオン伝導体が多いため,補助層にアルカリの炭酸塩を用いることが多い27)。アルカリの炭酸塩は湿度の影響を受けやすく,使用中にドリフトの影響を受けやすいことが知られている。こうした欠点を克服するため,吸湿性の低いLi2CO3を用いることが有効とされているが,長期安定性に課題が残ると報告されている。本研究の脱水ANAを用いた緻密膜センサは脱水しても吸湿しない特性(図8)を持つ。Na2CO3-BaCO3を補助層として用いたCO2センサは200日以上にわたって良好な感度が維持され,Li2CO3-CaCO3よりも優れている28)ため,本研究の補助層にNa2CO3-BaCO3を採用している。また,揮発性有機化合物や硫化水素等の還元性ガスを大気中で測定する際の妨害ガスとしての大気中CO2濃度の確認に有効と考えられる。ANA緻密膜センサのCO2検知の温度範囲(723~823 K)は先述の還元性ガス検知の温度範囲と重複するため,先述の還元性ガスを半導体式や接触燃焼式の半導体ガスセンサで検知する際は,このセンサの後方にANA緻密膜センサを配置することで,分解副生物として生成するCO2濃度の検知を行えば,高価なガスクロマトグラフィー質量分析法(GS/MS)を使用することなく,ガス検知機構の特定への応用が期待できる。

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図8 熱重量測定(TG)および示差熱分析(DTA)曲線.

4. おわりに

温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の調べによると,2021年の世界の平均CO2濃度は前年比で2.5 ppm増の415.7 ppmであることが報告されている29)。工業化が進む1750年以前の平均的な値とされる278.3 ppmと比べて49%の増加である。人に有害となるCO2濃度(10000 ppm)に達するのはかなり先のことではあるが,一般的に人が集まる会議室等では1000 ppmを超えるため,バックグラウンドとしてのCO2濃度の上昇は避けた方がよいのが世界の共通認識になっている。この一環として,航空機による大気観測―CONTRAILプロジェクトがある。航空機を利用して,地上観測では捉えられないCO2をジェット機内でモニタリングできるようになっている30)。カーボンニュートラルの一環として国土交通省は最大離陸重量500トンあたり旧式機材では約3.5 kg/kmのCO2排出量を約2 kg/kmに減らすためにバイオジェット燃料を含む持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel: SAF)への切替えが検討されている31)。これらの取り組みからも,周囲の湿度環境の影響を受け難く,CO2を測定できるセンサが不可欠になってくる。本稿のアナルサイム多結晶緻密膜センサに用いたアナルサイムは脱水すると吸湿しない特異な性質を有することから,将来のCO2モニタリングに資する材料として有望と考えられる。

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