日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 40(1): 34-35 (2023)
doi:10.20731/zeoraito.40.1.34

レポートレポート

第29回ゼオライト夏の学校参加報告

東京大学大学院総合文化研究科国際環境学教育機構助教

発行日:2023年1月31日Published: January 31, 2023
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2022年9月6日〜7日の2日間にわたって,第29回ゼオライト夏の学校がオンラインで開催されました。6名の講師の先生方を含む計76名の方々が参加し,ゼオライトの構造や合成法などの基礎から最先端の研究紹介や実用例まで,幅広い内容の講演が行われました。

Zeolite 40(1): 34-35 (2023)

1時間目は,東京大学の脇原 徹先生に「ゼオライト合成の基礎」というテーマでご講演いただきました。ゼオライトの基礎知識や合成法,ならびにその応用についてわかりやすくご説明くださり,ゼオライトがいかに持続可能な社会の実現において,重要なキーマテリアルであるかを熱弁してくださいました。ご講演の中で,主要なゼオライトの一種として知られているB E A*ゼオライトの正式表記法がbetaに統一されたことについても周知くださいました。多岐にわたるゼオライトの合成法やゼオライトサイエンスのフロンティアについてもご紹介いただき,ゼオライトの基礎から応用分野に至るまでを楽しく学ぶことができました。

2時間目は,関西大学の田中俊輔先生に「金属有機構造体の合成と応用」というタイトルで,多孔質材料として近年注目を集めているMetal-Organic Framework (MOF)の構造やその応用についてお話いただきました。有機分子を金属へ配位させることで得られる構造の柔軟性や,ターゲット分子の取り込みと放出におけるメカニズムについても基礎からご説明くださいました。MOFの利点のみならず,合成におけるコストや調製溶媒に大きく依存する安定性などの改善点についても触れられ,最近の研究動向のご紹介もいただきました。有機分子と金属の組み合わせでその性質をチューニングできるMOFの特性と応用面での可能性を知ることができ,理解が深まりました。

3時間目は,東京農工大学の前田和之先生より「MOF・ゼオライト類縁物質の粉末X線結晶構造解析」についてご講演いただきました。X線回折が起きるメカニズムからはじまり,単結晶vs.粉末回折の理論やシンクロトロンを使用した際の分解能の高さといった実践についてのお話まで,わかりやすく解説していただきました。また,ミクロ多孔性試料への窒素ガス導入による相転移を,in-situ PXRDを用いて構造を解析された研究や,TEMによる電子線回折を利用したMOFの結晶構造解析の研究についてもご紹介いただきました。X線結晶構造解析法について,理論や基礎知識のみならず最先端の測定法まで網羅していただき,構造解析の奥深さに触れることができました。

4時間目は,産業技術総合研究所の遠藤 明先生に「ガス吸着を用いたナノ多孔体の細孔構造評価」という題目で,ゼオライトやメソポーラスシリカ,MOFなどの多孔質物質のガス吸着測定についてお話いただきました。1次データである吸着等温線から算出できる基礎的な情報から,吸着質の選択や種々の測定条件の設定における留意点と得られたデータの解析手法に至るまで,幅広くご紹介くださいました。測定法の原理についてもご解説いただき,原理を理解することの重要性を示してくださいました。普段,何気なく使用しているBET理論の取り扱い方や,メソ孔分布の計算手法として用いているBJH法などのベースとなっている毛管凝縮理論ついても,新たな知見を得ることができました。

5時間目は,東京大学の小倉 賢先生より「ゼオライト触媒の科学と応用」について,演習実験を交えた講義形式でご講演いただきました。フルオレセイン合成の演習実験の傍ら,Big 5と称されているゼオライトの紹介とそれぞれの基礎構造からはじまり,酸点の形成メカニズムやゼオライトを触媒として用いた応用例についてもわかりやすくご説明くださいました。ゼオライト触媒を含む種々の酸触媒のうち,どれがフルオレセイン合成に有効かを理論立てて予測し,得られた結果を考察する中で必要となる基礎知識についてもご解説いただきました。「よい触媒とは何か?なぜその触媒を使用するのか?」といった触媒を選ぶ上で考慮すべき観点についても触れられ,気づきの多いセッションとなりました。

6時間目は,ユニオン昭和株式会社の黒崎文雄先生から「ゼオライトの吸着用途分野への応用」に関するお話をいただきました。主なゼオライトのビジネス領域と,吸着やイオン交換性能を活かした製品開発についてもご紹介いただきました。また,ゼオライトの分子篩効果や,高温下における水の吸着能の高さ,ならびに圧力や温度,薬品における耐久性の高さなどについても,実験例とともにご説明くださいました。多様な製品にゼオライトが活用されていることを知ることができ,その汎用性に驚かされました。「納得のいかない研究結果でも,製品化の糸口になり得るかもしれない」と共同研究を呼びかけるメッセージまでくださり,ゼオライト産業の今後のさらなる発展にも期待が持てました。

講義の合間には,ポスターセッションも設けられました。計9件の講演が行われ,いずれも活発に議論がなされました。夏の学校終了後には,優秀ポスター賞として,早稲田大学の岡 大智さんと岐阜大学の稲垣恒希さんが高石哲男記念賞を受賞されました。岡さんと稲垣さん,おめでとうございました。

今回,初めて本学校へ参加し,ゼオライトをはじめとする多孔質物質について,多岐にわたる知見を基礎から学ぶことができ,貴重な機会をいただきました。複雑な理論なども含め,わかりやすくかつ丁寧にご講演くださった先生方,ならびに近江先生をはじめ本学校の企画・運営に携わってくださった皆さまに,この場をお借りして心より御礼申し上げます。

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