日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 40(1): 29-33 (2023)
doi:10.20731/zeoraito.40.1.29

レポートレポート

IZC2022参加報告書

東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻大久保・脇原・伊與木研究室

発行日:2023年1月31日Published: January 31, 2023
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学会参加日程

IZC2022には下記の日程で参加した。

  • 行き:7/1–7/2
  • 学会参加:7/3–7/8
  • 帰り:7/9–10(事前予定),実際には後述の理由により7/21–22

学会会場

IZC2022はスペイン南東部に位置するバレンシアのValencia Conference Centerで行われた(図1左)。学会会場の様子は図1右の通りである。

Zeolite 40(1): 29-33 (2023)

図1. 学会会場の位置及び様子

学会プログラム

学会は図2に示すような日程で行われ,Plenary lectureがRoom 1で朝一番および一部午後一番で,口頭発表はRoom 1–4で毎日主に午前中と午後の一部で,ポスター発表は7/4,5,7の3日間にわたってそれぞれ実施された。また,セッション間にはコーヒーブレイク等も設けられ,研究活動における情報交換を行う有意義な時間となった。さらに,期間中にはWelcome PartyやCity Tour,Informal Dinner,Conference Banquetも実施され,研究活動の情報交換以外にも他の学会参加者とコミュニケーションを取る機会が多くあった。

Zeolite 40(1): 29-33 (2023)

図2. IZC学会プログラム

報告者の学会期間中の活動

本学会において,私は7/4実施のポスターセッションにてP01.043.で発表を行った。ポスターセッションにおいては,非常にありがたいことに2時間のポスターセッションでほとんど途切れることなく多数の方に見聞きしていただけた(図3)。他大学の学生やPDの方だけでなく,企業からの参加者も多く聞きに来てくださり,そうした中で私の研究に対して今後の展望や産業応用を考えた上での企業側からの要望をディスカッションできたことは非常に有意義であった。具体的な議論の内容としては,今回の学会に“Fast Synthesis of High-silica FAU-type Zeolite Using a Simple Organic Cation by Seed-directed Approach”という題目でハイシリカなFAU型ゼオライトの高速合成(図4(a))およびその生成物の物性について発表したが,特に次の3点がディスカッションの話題として多く取り上げられた。

  • 発表で示したバッチ型反応器を用いた合成系に対する流通反応装置への応用可能性やそれに向けた課題
  • 合成に用いた有機構造規定剤(organic structure-directing agent, OSDA)や種結晶の必要性
  • 発表で示したハイシリカFAUのAl分布の特異性に対して,より応用の部分での市販FAUと差別化

特にOSDAや種結晶の必要性については,企業からの参加者から質問をいただくことが多く,本発表のハイシリカFAUの高速合成法1)が従来法と比較して簡便かつ短時間である点(図4(a))は高く評価された一方で,OSDAを用いずに同程度のFAU型ゼオライト合成法が確立できる取り組みを期待するといった意見をいただくことが多かった。対して比較的アカデミックに近い研究者からは,これまで議論されてこなかったハイシリカFAUのAl分布に着目した分析結果(図4(b))に興味を持っていただくことが多かった。中でも,OSDAフリーで合成したFAUのAl分布解析に取り組まれていたヒューストン大学のProf. Jeffrey D. RimerとのディスカッションではハイシリカFAUを高結晶で得ることが難しい点,それによってAl分布の議論をするための分析手法が限定的である点が話題となり,その課題を解決しうる高結晶のハイシリカFAUを合成したことそのものも評価していただけた。ただし,Al分布の特異性については複数の参加者から触媒活性試験や酸強度評価といった実験結果でポスト処理で調製される市販のFAUと差別化できるのかといった意見をいただくことが多かった。この点は今後の実験で研究をより深めていきたいと感じた。

Zeolite 40(1): 29-33 (2023)

図3. 学会期間中のポスター発表やコーヒーブレイクでのディスカッションの様子

Zeolite 40(1): 29-33 (2023)

図4. 本学会での発表内容概要

(a)ハイシリカなFAU型ゼオライトの高速合成コンセプト図,(b)既報FAUとのQ4(1Al)量の比較.

また,私の研究を発展させる上で理論計算を組み合わせられないかと以前から考えていたが,それに取り組むにあたっての苦悩している部分について理論計算を得意とするPDの方から意見をもらう機会を得られた。具体的なアプローチについては,今後の研究のために割愛させていただくが,有機物とゼオライト骨格構造の有機–無機複合体のような状態については,分子動力学計算やDFT計算等を用いて系のエネルギー最安定状態における有機物や骨格構造の状態を推算することは比較的容易に行える。一方で,私の研究のように骨格外カチオンに複数の有機,無機カチオンが共存するような系で同様の計算は計算コスト等の点で難しい。この辺りの課題に対してのアプローチを議論した。このディスカッションは,今後の共同研究を含めた研究活動の発展につながりうる有意義な議論であった。

特に興味深かった発表内容

特に興味深く印象に残った研究内容を2件紹介する。

  • エネルギー計算によるFイオンを考慮したOSDA合成におけるゼオライトの結晶相選択性の評価(S. León Rubio, G. Sastre Navarro)これまでも様々な原子を考慮したゼオライト結晶および骨格外カチオンの全エネルギー計算は聞いたことがあったが,Fイオンを考慮して実験結果と一致するレベルでの有意なエネルギー差が計算できる報告2)は初めて聞いた。さらに,この研究の興味深いことは彼らの論文でも言及されている2)が,計算に用いる力場のポテンシャルをcore-shellモデルではなく,Monte Carloシミュレーションで取り扱うために,簡易なcoreモデルに落ち仕込みかつ,にも関わらず合成実験結果を再現できる精度を担保させている点が特に興味深かった。
  • シミュレーション,ビッグデータ,機械学習を用いたゼオライト結晶構造の制御(D. Schwalbe-Koda, O. Santiago Reyes, S. Kwon, C. Paris, E. Bello-Jurado, Z. Jensen, E. Olivetti, A. Corma, T. Willhammar, Y. Roman-Leshkov, M. Moliner, R. Gomez-Bombarelli)私自身がゼオライト合成に対する機械学習アプローチを用いた研究を行ってきた経緯や,機械学習アプローチとハイスループット合成を組み合わせたゲルマノシリケート合成3)を先駆けとしてProf. M. Molinerを中心に計算機的アプローチによる新規ゼオライト合成を目指す研究が進んでいることを知っていたため,彼らの発表には注目していたが,発表を聞いて改めてアプローチの引き出しの多さ4,5)と,計算機支援を実験的にゼオライト合成のアウトプット6)に落とし込めている部分に凄さを感じた。この背景には,彼らの発表中でも設計的ゼオライト合成のサイクルとして示されていたが,目的の応用物性を設定し,適したゼオライトをいかに効率的に設計・選定し,実際に合成まで実現させるかという研究の全体像や意識が,実験的にゼオライト合成にアプローチする研究者だけでなく,計算機的アプローチを専門として関わる研究者にも共有されているからだと感じた。こういった意識の高さは私自身の研究への姿勢・意欲をより駆り立てる良い機会になった。

学会における感想

・学会全体の発表内容に関して

まず最も強く印象に残ったのは,私自身の関心が強いのもあるが,計算機科学が実験的アプローチを本当の意味でサポートできるようなレベルになってきている研究が増えてきたことである。3年前のIZCおよび昨年のFEZAにも参加し,近年の論文も追っていく中で理解してはいたが,オンサイトでディスカッションも交えながら研究を聞くことでその印象がより強く感じることができた。特に応用部分(触媒反応やイオン交換)へ用いられるポテンシャルの精度や考慮可能な元素の種類が拡張しているのはもちろん,合成に対しても全てが完全ではないが合成への適用を目指す研究が以前に比べて多くなっている印象を受けた。こうした流れを考えると,計算機科学と合成実験の研究者が共同的に研究を進めることは今後より加速していくと思う一方で,それぞれの立場の研究者がより相手の分野を理解することが求められる上に両方をつなげられる研究者の需要は高まるのではないかと感じた。

一方で,やはり合成や分析の最前線にはまだまだその専門性を突き詰めた研究者が必要であるだろうということはヒューストン大学のProf. Jeffrey D. Rimerやストックホルム大学のProf. Xiadong ZouのPlenary lectureを拝聴する中で強く認識させられた。

・自らのポスター発表および学会期間中での活動に関して

国内外を含めてオンサイトでのポスター発表は3年ぶりであり,温度感やディスカッションの密度に懐かしさと新鮮さの両方を抱くと共に,特にポスター発表でのオンサイトの重要性を認識できる機会になった。それは聞きに来てくれる人数だけでなく,一人一人とディスカッションできる内容の幅や,時に複数人を交えることで起こる考え方や価値観の共有といったあらゆる面で感じさせられた。口頭発表に対して質問を行う機会も得られたが,そこでの質疑の双方向性についてもやはりオンサイトだからこそできる密度の濃さを感じた。

・その他の事象に関して

本学会では指導教員である大久保達也教授がPlenary lectureを行ったのを初め,学生も含め多くの日本人研究者が口頭発表に登壇されていた。私自身は,今回はポスター発表という形での参加になったが,特にRoom 1,2のような壇上に上がるような会場での発表は会場の雰囲気も含めて一味違ったものがあり,自らの研究を登壇して発表したいという感情が芽生えた。

また私事ではあるが,本学会参加期間中にCOVID-19に感染するという事象が発生した。これに伴い,一部の学会プログラムへの参加を見送ることになっただけでなく,7/8に予定していたITQの若手研究者との交流機会も見送ることになった。この点は助成をいただき,貴重な機会を得た身として非常に残念であった。こうした交流の機会については今後別の機会で改めて設けられたらと切に願う。

報告者の今後の研究活動に対する本学会参加の意義

まずは,本学会がゼオライト関係の学会としても3年ぶりのオンサイトでの国際学会ということでそこに参加して海外のゼオライト研究者と直接会ってディスカッションする機会を得られたことに何より大きな意義があったと感じる。本学会参加を通じて,私自身だけでなく,世界中の研究者が今回のようなオンサイトでの学会が行われることを心待ちにしていたことがわかったと共に,他の分野に比べて格段に人数の多い研究分野とは言えないのかもしないが,関わっている各研究者の熱量や能力の高さを改めて実感した。これは自分自身の研究へのモチベーションを高めるために非常に有意義なものとなった。また,現在博士3年である私にとって,修了後のキャリアや研究活動の幅を広げていくことも本学会参加の一つ大きな目的であり,そういった点でゼオライトをはじめ様々な無機材料の核生成について基礎的な研究を行っているヒューストン大学のProf. Jeffrey D. Rimerや,私も研究しているInterzeolite conversion法について近年特に盛んに取り組んでいるルーヴェン大学のProf. M. Dusselierとディスカッションの機会を得られたことは博士課程での自らの研究を将来より広げていくためのつながりを作るという点でも非常に有意義なものとなった。

謝辞Acknowledgments

まず,本学会参加において本助成金を出していただいたゼオライト学会(ZMPC2018組織委員会)の皆様にはこの場を借りて改めて感謝を申し上げます。

また,本助成には直接関係しないのですが,本学会参加中に私がCOVID-19に感染するという事象が発生し,バレンシアでの延長滞在を余儀なくされた際に多大なる支援をいただきましたITQのProf. Fernando Reyにこの場を借りて改めて感謝を申し上げます。

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