気相ポスト処理によるZIF-8膜の透過選択性の調整ZIF-8 Membrane Permselectivity Modification by Vapor Postsynthetic Treatment
三菱ケミカル株式会社 福岡研究所Mitsubishi Chemical Corporation Fukuoka R&D Center ◇ 〒806–0004 福岡県北九州市八幡西区黒崎城石1–1
ZIF-8膜は分子サイズが近いプロピレン/プロパンのガス分離が可能な膜として注目されており,様々な製膜方法が開発されている。一方で,プロピレンよりも小さいサイズのガス種同士の分離に関しては,報告はされているものの,細孔径が適しておらず,透過選択性は限定的であった。本稿では気相ポスト処理によるZIF-8膜の透過選択性の調整について解説する。合成後のZIF-8膜に対して,気相リガンド処理,または気相金属アセチルアセトネート処理を行うことで,通常のZIF-8膜では十分に分離することができない水素/メタン分離のような小さいサイズのガス種に対する選択性が大幅に向上し,ZIF-8膜のガス分離の適用範囲を広げることに成功した。
ZIF-8 membrane has been attracted since it can separate propylene/propane, which are almost same molecular size, and a lot of its synthesis methods have been developed. However, although separations of smaller gases than propylene have been reported, its selectivity is limited because of its improper pore size. This paper describes post-synthetic vapor treatment for tuning the permselectivity. Post synthetic treatment with ligand or metal acetylacetonate in vapor phase allows tune the permselectivity and realize high selectivity for small gases like H2/CH4. These methods can widen object of gas separation of ZIF-8 membrane.
キーワード:ZIF-8膜;ガス分離;気相リガンド処理;気相金属アセチルアセトネート処理
Key words: ZIF-8 membrane; gas separation; vapor phase ligand treatment; vapor phase metal acetylacetonate treatment
© 2022 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2022 Japan Zeolite Association
Zeolitic imidazole frameworks(ZIFs)は2価の金属カチオンにイミダゾールリンカーが配位して成る多孔性の材料で,Metal-organic frameworksのサブファミリーである1)。ZIF-8はSOD型のトポロジーを有したZIFであり,ガス分離膜としては水素精製の可能性2)やプロピレン/プロパン分離3)ができることが報告されて以来,注目を集めている。ZIF膜の合成としては,溶液中で行うハイドロ/ソルボサーマル法がよく知られている4)。これらの方法では水やメタノールなどの溶媒中で多孔質の支持体上にZIF-8を成長させることで膜化することが一般的である。通常,あらかじめ金属源,イミダゾールを混合したものを原料溶液として用いるが3–5),チューブ状の支持体の内外にそれぞれ,金属源,イミダゾールを分けて仕込み,支持体内部で接触させるCounter diffusion法によっても製膜が可能である6,7)。これらの方法では多孔質支持体が十分に浸漬できる量の原料溶液を必要とするが,少ない原料溶液量でZIF-8膜を形成する方法も報告されている。例えばRapid thermal deposition(RTD)8)では多孔質支持体に原料溶液をしみ込ませてその後200°Cで15分加熱することでZIF-8膜を得ることができ,迅速な製膜が可能である。また近年では,溶媒を気相で供給する方法9),さらに溶媒を使用せずに気相のみで合成するligand induced permselectivation(LIPS)も報告されている10)。LIPS法では,γ-アルミナの細孔をAtomic layer deposition(ALD)にてZnOで埋めて,その後に2-メチルイミダゾールの気相処理によってZnOをZIF-8化して膜を得ており,100–200 nm程度の薄膜が得ることができる。
このようにZIF-8膜は様々な製膜方法が開発されてきている。多くの場合,得られたZIF-8膜の膜性能はプロピレン/プロパン分離を行ってその透過性,選択性が評価される。プロピレン/プロパンは分子サイズの差が非常に小さく,一般的には膜での分離は難しいがZIF-8膜は高い選択性でこれらを分けることができる。その一方でプロピレンよりも小さなガス種同士の分離に関しては,上述の通り,報告例はあるものの,選択性は十分には高くない2)。工業的に重要なガス分離としては,例えば,O2/N2やH2/CH4等の分離があるが11),このようなサイズの小さいガス種に対する選択性を向上させることができれば,ZIF-8膜の適用可能性の範囲をより多くの重要な分離に対して広げることができる。
筆者らは,合成後のZIF-8膜に対して,2つの方法でポスト処理を行って透過選択性の調整を行ったので本稿で概説する。ポスト処理としては,溶媒の廃棄が不要であり,必要な原料が少ない点で,環境面で有利な気相処理を実施した。ポスト処理の1つ目はリガンドを気相で供給するものであり,リガンドとしては2-アミノベンゾイミダゾールを使用した12)。2つ目の処理は金属アセチルアセトネートを気相で供給する方法であり,Mn(II)アセチルアセトネートを用いた13)。どちらの方法においても,H2/CH4のような小さなガス種同士の分離に対する選択性を大きく向上させることができ,ZIF-8膜の分離対象の範囲を広げることができる。
気相リガンド処理は上述したLIPS法10)にて直径2 cm程度のディスク状のアルミナ多孔質支持体上に製膜したZIF-8膜に対して実施した。処理に用いるリガンドしては,細孔を小さくする目的で,2-メチルイミダゾール(2mIm)よりもサイズが大きく,アミノ基を有することからCO2分離に対しても性能向上が期待される2-アミノベンゾイミダゾール(2abIm)を採用した。ZIF-8膜を,0.15 gの2abIm粉末を底面に仕込んだテフロン容器に2abIm粉末と接触しないように台座を使用して保持し,密閉後に180°Cで40分間加熱した(vapor phase ligand treatment; VPLT)。その後,物理吸着している2abImを除くため,減圧下でさらに180°Cの加熱を実施した。2abIm処理後のZIF-8膜(VPLT-ZIF-8膜)の色は白から黄土色に変化しており,2abImを共存させない加熱では色の変化はないことから,この色の変化は2abImによってZIF-8膜が処理されていることを示唆している(Fig. 1)。
VPLT-ZIF-8膜に2abImが存在しているかを確認するため取得した,気相2abIm前後のZIF-8膜と,2mIm粉末および2abIm粉末のATR-FTIRのスペクトルをFig. 2(A),(B)に示す。2abIm粉末では2mIm 粉末には見られない1280 cm−1付近の吸収が確認され,この吸収は文献によればC-N伸縮振動によるものである14)。一方,処理前後のZIF-8膜のスペクトルを確認すると,VPLT-ZIF-8膜において,処理前には見られない1273 cm−1付近の吸収が観察された。これは2abIm粉末では1280 cm−1付近に見られていた吸収が,2abImが脱プロトンしてZnと相互作用しシフトしたものと推定される15)。1H-NMRによって気相2abIm処理後の膜の2abImと2mImのモル比を確認すると2abIm : 2mIm=61 : 39であり,2mImの1.6倍の2abImが存在していることがわかった。XRDでは気相2abIm処理前後で大きな変化は確認されなかったことから(Fig. 2(C)),ZIF-8構造を保ちながら多くの2abImが取り込まれていると考えられる。
気相2abIm処理前後のZIF-8膜のガス透過,分離評価をtime-lag法6)(H2,CO2,O2,N2,CH4の単成分ガス透過)と Wicke-Kallenbach法3)(プロピレン/プロパン混合ガス分離)によって実施した結果をFig. 3(A),(B)に示す。処理前にはcut-offはプロピレンとプロパンの間に見られており,プロピレンのパーミアンスは5.5×10−8 mol/m2 s Pa,プロピレン/プロパンパーミアンス比は75であったが,気相2abIm処理によってプロピレンパーミアンスは4.0×10−9 mol/m2 s Paまで低下した。単ガス透過試験においてもそれぞれのガスのパーミアンスは低下する一方,O2/N2,CO2/CH4,CO2/N2,H2/CH4のパーミアンス比はそれぞれ,2.5,7,9,18倍に向上した。2abImを共存させずに同様の条件(180°C,40分)で加熱処理を行ってもcut-offが小さな分子側へとシフトする変化は見られず,この結果は,透過選択性の変化には2abImが関与していることを示している。CO2/CH4,CO2/N2に関してはアミノ基が存在することでCO2が吸着し選択性が上がっている可能性も考えられる16)。
VPLT-ZIF-8膜を,供給空気圧6 barG,透過側のSweepガスは無しの条件で25,80,120°Cにて空気分離(O2/N2=21/79の混合ガス分離)を行った結果をFig. 4(A)に示す。25°Cでの分離ではO2/N2パーミアンス比4.8,O2パーミアンスは4.0×10−8 mol/m2 s Paであった。他の種類の膜として,例えばポリイミド膜のO2/N2分離が報告17)されているが,O2/N2パーミアンス比が4.5–6.2,O2パーミアンスが0.76–1.0×10−8 mol/m2 s Pa程度であり,これらの値との比較においてVPLT-ZIF-8膜は選択性は同程度,透過性は高い性能となっている。温度を上げるとO2/N2パーミアンス比は低下するものの,O2パーミアンスは上昇し,120°CにおけるO2パーミアンスは1.0×10−7 mol/m2 s Paを超える値が得られた。
このようなリガンド処理に関し,リガンドの交換がリバーシブルで起こることが報告されており18,19),本処理においてもリバーシブルな変化が起きるかを確認するため,2abImで気相処理したVPLT-ZIF-8膜に対して,125°C,24hの気相2mIm処理(LIPS法でZIF-8膜を合成する際にZnOをZIF-8に転換する標準的な条件)10)を実施した。気相2mIm処理を行うと膜のプロピレン/プロパン分離性能が気相2abIm処理前のZIF-8膜と同程度となり,本気相処理においてもリバーシブルな処理が可能であることを確認した(Fig. 4(B))。
次に,本気相処理がLIPS法で得たZIF-8膜だけはなく,典型的な多結晶体のZIF-8膜に適用できるかを確認するため,直径約2 cmのディスク状のアルミナ多孔支持体にRTD法8)によって得たZIF-8膜に対して気相2abIm処理を180°Cで実施した。RTD法で得たZIF-8膜の膜厚は数µm程度あり,LIPS法で得たZIF-8膜よりも厚い。2mImに対する2abImの量が増加するために要する処理時間はLIPS-ZIF-8膜の場合よりも長く,1H-NMRの結果から1,6,12および24時間後の2abIm : 2mIm比はそれぞれ,0.1 : 99.9,3 : 97,5 : 95,26 : 74であった。LIPS-ZIF-8膜では40分の処理で2abIm : 2mIm=61 : 39であったのに対して,RTD-ZIF-8膜では24時間後でもこの値には達していなかった。キャラクタリゼーションの結果,LIPS-ZIF-8膜の場合と同様に,XRDでは気相2abIm処理による変化は見られないものの,FTIR-ATRにおいては1270 cm−1付近にピークが確認された。このFTIR-ATRで見られた1270 cm−1付近のピークは,上述したように2abIm粉末で見られた1280 cm−1付近の吸収がZnと相互作用したことによりシフトしたと推定しており,RTD-ZIF-8膜においても2abImが取り込まれていると考えている。単成分のガス透過評価を行うと気相2abIm処理時間が長くなるにつれて,H2,CO2,CH4の各ガスのパーミアンスは低下し,H2/CH4およびCO2/CH4パーミアンス比は向上した(Fig. 5(A), (B))。RTD-ZIF-8膜を24時間処理して得られる性能が,40分間処理したLIPS-ZIF-8膜の性能と同程度であり,RTD-ZIF-8膜では処理に時間はかかるものの,処理時間によって選択率の調整が可能であることを確認した。
ZIFの金属アセチルアセトネートを用いた処理として,メタノール溶媒中でMn(II)アセチルアセトネート(Mn(acac)2)によって処理する方法が報告されている20)。この液相の処理を参考とし,有効細孔径を小さくすることを狙ってMn(acac)2を気相でZIF-8膜に供給する処理を実施した。処理に供するZIF-8膜はRTD法8)で得た(直径約2 cmのディスク状のアルミナ多孔支持体に製膜)。テフロン容器の底にMn(acac)2を0.05 gとEtOHを10 µL入れたものに,これらと直接接触しないようにZIF-8膜を台座に乗せた状態で入れて,蓋をした後で165または175°Cで30分間オーブンに入れて加熱した。処理後の膜は減圧下,150°Cで加熱して物理吸着しているMn(acac)2を除去した。
175°Cで処理したZIF-8膜(175-Mn-ZIF-8膜)は薄く茶色に着色していた一方,165°Cで処理した膜(165-Mn-ZIF-8膜)については色の変化は確認されなかった。SEMで確認した膜の表面には処理による有意な変化は見られなかった(Fig. 6(A)–(C))。また処理前後のXRDパターンにおいても,差異は見られなかった(Fig. 6(D))。次に,165,175°Cの気相Mn(acac)2処理前後のZIF-8膜および,Mn(acac)2粉末,2mIm粉末,およびアセチルアセトン溶液のATR-FTIRスペクトルを取得し,165-Mn-ZIF-8膜,175-Mn-ZIF-8膜にMn(acac)2やアセチルアセトン由来の吸収が見れられるか確認したものの,165°C処理,175°C処理のどちらにおいても,処理によるスペクトルの変化は確認できなかった(Fig. 6(E), (F))。
またSEM-EDXにおいてもMn(acac)2処理後のZIF-8膜にMnの存在が確認できなかった。しかしながら,次に示すようにXPS分析において,Mnが検出された。XPS分析実施にあたっては,チャージアップを避けるために,Siウェファー上に作成したZIF-8フィルムにMn(acac)2処理したサンプルを用いた。ZIF-8フィルムは,ALDにてSiウェファー上にZnO層を形成し,形成したZnO層を2mImの気相処理を行うことで得た21)。ALDで厚さ約15 nmのZnO層を析出させ22,23),その後,減圧化で120°C,2時間の2mIm処理を行うことで厚さ約100 nmのZIF-8フィルムを形成した。これに対して165または175°Cの気相Mn(acac)2処理を実施した。ZIF-8膜と同様にSiウェファー上のZIF-8フィルムにおいても処理後,SEM像での変化は確認できなかったが(Fig. 7(A)–(C)),目視ではわずかに色の変化が確認がされた。
これらのXPSを複数の領域(C1s, Zn2p, Mn2p)で取得24,25)した結果をFig. 7(D)に示す。Zn2pに関し,未処理のZIF-8フィルムにおいて,ZIF-8のZnで特徴的に見られる2つのピークが1022.3と1045.3 eVに確認された(それぞれZn2p3/2とZn2p1/2に帰属される)。これらのピーク強度は165°Cの気相Mn(acac)2処理によって低下し,175°Cの処理をしたものでは検出されなかった。C1sに関しても未処理のZIF-8フィルムにおいて2つのピークが確認され,285.0 eVのピークは2mImのC–C/C=C/C–H 結合に起因し,もう一方の286.3 eVのピークはC–N/C=N結合に帰属される。気相Mn(acac)2処理を行うと新たに288.7 eVにC=O結合に帰属されるピークが確認された。この新たなピークはアセチルアセトネートが膜表面に存在していることを示している。C–O結合に由来するピークも286.3 eV付近に現れるはずであるが,当該ピークの強度は変化していなかった。これは表面の堆積層によって,同じく286.3 eVに現れるC–N/C=N結合のピーク強度が低下し,この低下と相殺しているためと考えられる。288.7 eVのC=O結合に由来するピーク強度は気相Mn(acac)2処理温度を165°Cから175°Cへ高くすると上がっており,処理温度が高くなるとアセチルアセトネートがより堆積していると考えられる。Mn2pに関しては,気相Mn(acac)2処理したZIF-8フィルムにMn2+のMn2p3/2に由来するピークが641.8 eVと644.3 eVに確認された26)。
O1s,N1sに関してもスペクトルを取得しており,O1sピーク強度は気相Mn(acac)2処理によって上昇する一方,N1sについては処理によってピーク強度が減少した。O1sピークとして,532.0 eVにピークが観察されており,このピークはMn(acac)2のOに帰属することができる。165°C処理したZIF-8フィルムには530.1 eVにMnOに帰属されるピークが確認されており,多少の酸化が起きていることを示している26)。N1sのピーク関しては,気相Mn(acac)2処理したZIF-8フィルムにおいて399.6 eV と401.3 eVに観測され,前者のピークは2mImの中のピリジニックN,後者のピークはピロールN-Hまたは Mn-N種に帰属される27)。処理していない状態ではZIF-8に特徴的に見られる399.4 eVにだけピークが見られていた。なお,Zn2pは175°Cの気相Mn(acac)2処理でピークは検出されなくなったが,N1sは175°Cの処理後も強度低下はするもののピークは検出されていた。
Cに対するO,Zn,N,Mnの各ピークの面積比率をFig. 7(E)に示す。ZIF-8膜に起因するZnとNの面積比率は165°Cの気相Mn(acac)2処理で大きく低下し,Zn/Cに関しては175°Cの処理によって0となった。一方,Mn(acac)2に起因するMn とOの面積比率は処理温度が高い方が大きな値となった。これらのXPSの結果から,気相Mn(acac)2処理では,金属ドーピング27,28)や,金属交換20)ではなく,薄い表面層の形成が起こっている考えられる29)。175°Cで気相Mn(acac)2処理したZIF-8フィルムにおいてZnは検出されなかったが,Nは検出されており,表面層にはZIF-8は存在しないものの,ZIF-8由来の2mImが含まれていると考えられる。これらの2mImはMnと結合しているかまたは単純にMn(acac)2の層の中に存在していると思われる。
処理によって形成された表面層が均一であると前提をおくと,ZIF-8フィルムのZn2pのピークエリアから,式(1)を用いて表面層の厚みを算出することができる。以下の式においてλは電子のmean free path30),I0とIはそれぞれMn(acac)2処理前後のZn2pピークエリアを示す。この式から算出した165°C処理で形成される表面層は3.6±0.3 nmであった。175°Cの処理後はZnが検出されなかったことから,表面層は少なくとも6.7±0.5 nm以上あると算出される。
次に,ガス透過性を評価した結果をFig. 8(A)–(E)に示す(time-lag法 によるH2,CO2,O2,N2,CH4単成分ガス透過とWicke-Kallenbach 法によるプロピレン/プロパンの混合ガス分離)。Fig. 8(A)には単成分ガスのパーミアンスを示している。気相Mn(acac)2処理によって5つ全てのガス種においてパーミアンスが低下しているが,N2,CH4のパーミアンスの低下率が,これらよりサイズが小さいガスのパーミアンス低下率よりも大きく,特に175°C処理ではその傾向が顕著であった。各ガスのパーミアンス比H2/CH4,CO2/CH4,CO2/N2,O2/N2はFig. 8(B)に示すように175°CのMn(acac)2処理によってそれぞれ大きく向上しており,H2/CH4については242まで上昇した(この時のH2パーミアンスは1.2×10−7 mol/m2 s Pa)。これまでに報告されている高いH2/CH4を示すZIF-8膜として,360°Cのrapid heat treatmentを行ったものがあるが31),今回の175°Cの気相Mn(acac)2処理で得られた性能は,上記報告と比較してH2/CH4パーミアンス比は1.2倍,H2パーミアンスは0.52倍となっている。
プロピレン/プロパン分離に対しては165°Cの気相Mn(acac)2処理をすることで選択性が向上した。処理前のパーミアンス比が31であったのに対して,165°Cの処理後は,プロピレンパーミアンスは約半分に低下するものの,パーミアンス比は210まで上昇した。一方,175°Cの気相Mn(acac)2処理ではプロピレンパーミアンスの低下率が大きく,処理前の6%程度まで低下した。プロピレンがほぼ透過しなくなることで,プロピレン/プロパンパーミアンス比は1.6となった(Fig. 8(C))。Fig. 8(D)には165-Mn-ZIF-8膜のプロピレン/プロパン分離における供給ガス圧力の影響(供給ガス圧力:0–3 barG,透過側:大気圧のAr Sweep)を示した。高いフラックスを得るため圧力を上げるとプロピレン/プロパンフラックス比は低下する傾向であるが3 barGにおいても165を保っており,加圧条件でも高い分離性能を示すことを確認した。
さらに,165°Cの気相Mn(acac)2処理で得られたZIF-8膜の中で,高い分離性能を示すサンプルで6時間連続してプロピレン/プロパン分離を行った結果をFig. 8(E)に示す。プロピレンパーミアンスは0.7×10−8 mol/m2 s Pa程度,プロピレン/プロパンパーミアンス比はやや変動があるものの250程度で推移した。この分離性能は既報のfast current-driven synthesis(FCDS)で得られているプロピレン/プロパンパーミアンス比30532)に迫る高い値である。同様に高い選択性を報告しているdip coating-thermal conversion(DCTC)で得られている性能に対しては(プロピレンパーミアンス:0.5×10−8 mol/m2 s Pa,プロピレン/プロパンパーミアンス比:190)33),やや高いパーミアンス比となっている。
上述した気相Mn(acac)2処理によるガス透過選択性の変化に関し,プロピレン/プロパン選択性の向上については,膜の粒子間欠陥が補修されたことも考えることができるが,175°C処理におけるサイズが小さいガス種の選択性の変化については,XPSで確認されたZIF-8膜上の表面層が寄与していると考えられる。表面層の各ガスのパーミアンス(PMn)をseries-resistance modelを前提とし式(2)から求めると(PZIF:処理前のZIF-8膜のパーミアンス,PZIF+Mn:処理後のパーミアンス),表面層のH2パーミアンスは1.3×10−7 mol/m2 s Pa,H2/CH4パーミアンス比は265となり,上記の前提では高い選択性を示す層であると算出された。
なお,Mn(acac)2を添加せずに,10 µLのEtOHにてZIF-8膜を175°Cで処理をしても性能の変化が見られておらず,透過選択性の調整にはMn(acac)2が必要であることを確認している。
ZIF-8膜に対する2つの気相ポスト処理による透過選択性の調整について解説した。気相リガンド処理では2-アミノベンゾイミダゾールを用いた処理を実施した。また気相の金属アセチルアセトネート処理ではMn(II)アセチルアセトネートを用いた処理を行った。前者ではATR-FTIR, 1H-NMRの結果からZIF-8膜中に2-アミノベンゾイミダゾールが取り込まれていると考えられる一方,後者はXPSの結果からMn(II)アセチルアセトネート由来の薄い層が表面に形成されていると考えている。いずれの方法においても,処理によってガス透過選択性が変化し,従来のZIF-8膜では十分な分離性能が得られなかったプロピレンより小さいサイズのガス同士の選択性が大幅に向上した。今回解説した2つの気相ポスト処理を行うことで,ZIF-8膜のガス分離の対象を広げることが可能となる。
本解説で記載した研究結果は多くの方々とともに研究を取り進めて得られたものです。Michael Tsapatsis教授,Kiwon Eum博士,Dennis T. Lee博士,Matheus Dorneles de Mello博士,Feng Xue博士,J. Anibal Boscoboinik博士,Hyuk Taek Kwon博士に感謝申し上げます。
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