第28回ゼオライト夏の学校参加報告
大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻
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第28回ゼオライト夏の学校が2021年9月8日にZoomを用いたオンラインにて開催されました。6名の講師の先生方を含む70名以上の方々が参加し,多孔体の合成,構造解析などの基礎から最先端の研究事例や実証例まで幅広い内容の講演が行われました。
1時間目は東京大学の小倉賢先生より「ゼオライト触媒の科学と応用」という題目でご講演いただきました。ゼオライトの定義や代表的な名前と構造といった基礎から,ゼオライトの酸点形成のメカニズムやゼオライトの触媒としての応用例まで分かりやすくご説明いただきました。蛍光体原料のフルオレセインの合成実験とホワイトボードを使った講義形式でのご講演は,オンラインにも関わらず,実際に対面で聴講しているかのような感覚で学ぶことができました。
2時間目は東京農工大学の前田和之先生より「MOF・ゼオライト類縁物質の粉末X線結晶構造解析」についてご講演いただきました。X線回折のデータを扱う上での不適切な取り扱いや誤った解釈の具体例の紹介に始まり,X線回折の原理から解析手法まで非常に分かりやすくご説明いただきました。粉末と単結晶のX線構造解析の違いや解析で用いられる精密化手法に関する話など実践的なお話もしていただきました。特に,多孔体へのガス導入時の結晶構造変化を観察するためにin-situ PXRDを用いたご研究は,私にとって非常に興味深い内容でした。
3時間目は産業技術総合研究所の遠藤明先生より「ガス吸着を用いたナノ多孔体の細孔構造評価」というテーマでご講演いただきました。多孔質材料の特性評価で広く利用されている窒素や水蒸気などを用いたガス吸着等温線の測定の原理や解析手法まで幅広くご説明いただきました。前処理条件による等温線の違いなどの実例を踏まえながら,「吸着等温線をいかに低圧から正確に測定するか」ということの重要性を再認識させられました。測定時の注意だけでなく,t-plot法やNLDFT法など様々な解析手法の原理や注意点についてもご説明いただきました。ミクロ多孔体の際のBET理論の取り扱いなど,今後の自身の研究に活かすことのできる知見を多く学びました。
4時間目は,東ソー株式会社の吉田智先生より「ゼオライトの工業利用」についてご講演いただきました。東ソー製のゼオライトの特性評価に関するご研究だけではなく,ゼオライトの製造・用途,開発事例などのお話をしていただき,実際に工業的にはどのように製造されて利用されているのかを知ることができました。さらに,企業と大学での研究のスケールに対する考え方や,研究に対する取り組み方の違いに関してもお話ししていただき,産学で重視されている点の違いを学ぶことができました。
5時間目は関西大学の田中俊輔先生より「規則性ナノ多孔体の合成と構造・形態制御」というタイトルでご講演いただきました。多孔体の1つであるMetal-Organic Framework(MOF)の基本的な構造や特性,ゼオライトの相違点についてご説明いただきました。グリーンケミストリーを志向した常温常圧下での水溶液プロセスでの合成条件の開拓や,支持体への表面改質によるMOF多結晶膜の制御など様々なご研究をご紹介いただきました。私自身がMOFの研究に従事しており,MOF粒子の露出面による触媒活性の違いも報告されてきていることから,ZIF-8の形態を制御したご研究は非常に興味深いものでした。
6時間目は東京大学の脇原徹先生より「ゼオライト合成の基礎」に関してご講演いただきました。主なゼオライト構造の導入から,有機構造規定剤や種結晶の添加などによるゼオライト合成手法の基礎について分かりやすくご説明いただきました。合成条件のわずかな違いによって,構造や組成が変わることを知り,ゼオライト合成の奥深さを感じました。それだけでなく,3次元規則性配列多孔体(3DOM)構造のカーボンを鋳型とした3DOMゼオライトの合成など最新の研究についても多くご紹介いただき,今後のゼオライト研究の無限の可能性を感じました。
夏の学校の最後は,日本ゼオライト学会会長の横浜国立大学の窪田好浩先生よりご挨拶をいただきました。2020年より続くコロナ禍により,今回は2年ぶりのオンラインでの開催となりましたが,非常に興味深いご講演を多く拝聴することができ,多岐にわたる多孔質材料の基礎から応用展開を学ぶ,とても貴重な機会となりました。夏の学校で得られた多孔質材料の合成技術や評価手法を自分の研究へ活かして,MOFの材料研究を深めていきたいと思います。
最後となりましたが,ご講演いただいた講師の先生方,奥村先生を始めとする企画から運営に携わっていただいた先生方,日本ゼオライト学会の皆様にこの場を借りて,心より感謝申し上げます。
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