日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 38(4): 103-109 (2021)
doi:10.20731/zeoraito.38.4.103

解説解説

液相法によるハイシリカゼオライトの高耐久化Stabilization of High-silica Zeolites by a Liquid-mediated Method

1東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻Department of Chemical System Engineering, The University of Tokyo ◇ 〒113–8656 東京都文京区本郷7–3–1

2東京大学大学院工学系研究科総合研究機構Institute of Engineering Innovation, The University of Tokyo ◇ 〒113–8656 東京都文京区弥生2–11–16

受理日:2021年8月6日Accepted: August 6, 2021
発行日:2021年10月15日Published: October 15, 2021
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用途の拡大に伴い,ゼオライトには高い耐久性が求められている。ハイシリカゼオライトに対し,追加のシリル化剤等を使用せずに簡便な液相処理を施すことで,ゼオライト中のシラノール欠陥の数を大幅に減らし高耐久化することに成功した。高耐久化されたゼオライトはこれまでのシリケート系多孔質材料の常識を覆し,1150°Cという高温の水蒸気に曝されても,その結晶化度とミクロ孔容積を保持した。処理後のサンプルには特異的な内部空隙が存在し,シリケート種のマイグレーションによる欠陥修復メカニズムが考えられた。本手法は他の構造へも展開可能であり,種々のゼオライトの高耐久化手法として期待される。

High stability is required for zeolites due to their expanding applications. We have succeeded in reducing the number of silanol defects in high-silica zeolites by a simple liquid-mediated method without using additional silylating agents, thereby making the zeolites more stable. The stabilized zeolite retained its crystallinity and micropore volume even when exposed to steam at a high temperature of 1150°C. The treated samples have unique internal voids, which may be a defect repair mechanism due to the migration of silicate species. This method can be extended to other structures and is expected to be used for the stabilization of various zeolites.

キーワード:スチーム耐性;シラノール欠陥;後処理;ハイシリカゼオライト

Key words: steam resistance; silanol defects; post-synthetic treatment; high-silica zeolites

1. はじめに

ゼオライトは多孔質材料の中でも比較的安定性が高く,劣化しにくいと考えられており,多くの応用がなされている背景にはその耐久性が挙げられる。しかしながら,高温(800°C)のスチーム存在下では骨格のSi–O–Si結合が加水分解を受け,結晶構造の崩壊が起こりうる1)。高温のスチームが存在する事例として,触媒や吸着材としての使用時に加えて,再生時が挙げられる。例えば,FCC触媒は再生塔にて高温のスチームに曝され,経時劣化により年間40万トンの触媒が廃棄されている2)。近年利用が始まった自動車用排ガス触媒やハイドロカーボントラップ用途においても,高温のスチームに曝され続けることになる3,4)。さらに,自動車用途は固定層の非定常操作となり,工場でのプロセスと比較して触媒や吸着材を高頻度で交換することが難しい。このため,ゼオライトに対する耐久性の要求はその使用用途の広がりにつれて厳しくなってきているといえる。本稿においては,活性点脱離による失活などではなく,ゼオライト骨格そのものの安定性について議論し,最近我々が見出した後処理手法による高耐久化5)について紹介する。図1に示すように,既存ゼオライトに後処理として液相処理を行うことで,ゼオライト中に存在するシラノール欠陥を極限まで低減させる手法を開発した。その際に用いる高耐久化溶液においては,ゼオライト骨格の再構築を促すフッ化物アンモニウムと骨格を安定化させる役割を担うテトラエチルアンモニウムが協奏的に作用していると考えられた。

Zeolite 38(4): 103-109 (2021)

図1. ゼオライトの高耐久化の概要

2. スチームによるゼオライトの劣化

Y型ゼオライトの高温スチーム存在下における劣化挙動を観察した6)図2(a)に,結晶化度とミクロ孔容積の関係を示す。結晶化度80%程度まではミクロ孔容積は結晶化度に比例して減少している(図中では補助線を示してある)。しかしながら,80%よりも低い結晶化度ではミクロ孔容積の減少が大きく,直線から外れる結果となった。また,水蒸気なしと比較して,水蒸気ありの条件において直線からの外れがより顕著であることが明らかになった。上記の現象を説明するために非晶質化モデルを考案した。非晶質化は粒子の表面近傍から起こっていると考えられ,また,非晶質化した部分は,多孔質の結晶部分と比較してより緻密化していると考えられる。そのため,粒子内部に結晶質は残存しているが,緻密な非晶質により覆われているためにAr分子がアクセスできず,吸着されない領域が存在すると考えられる。この仮説を検証するため,非晶質化(780°Cにて5時間処理し,相対結晶化度58%)させた粒子をTEMにより観察したところ,図2(b)に示すように非晶質層に覆われた粒子が確認された。結晶に由来する格子縞が観察される内部に対して,表面近傍は緻密な非晶質層を形成していることが明らかになった。上記の結果により,高温スチームの存在によって,ゼオライトの劣化が促進され,よりスチームと接触する表面から劣化が起こる様子が観察されたといえる。

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図2. (a)Y型ゼオライトを劣化させた際のミクロ孔容積と結晶化度の相関,(b)劣化後サンプル(780°Cにて5時間処理し,相対結晶化度58%)のTEM像

3. 液相処理による欠陥の低減(ハイシリカZSM-5ゼオライト)

ハイシリカゼオライトにおいて,加水分解の起点となるのはシラノール欠陥であると考えられる。シラノール欠陥低減の方法としては,シリル化剤の添加や低温スチーミングといった手法がよく知られているが,細孔容積の低下や,欠陥の残存といった課題があった7,8)。本研究では,簡便な水溶液法により,ゼオライトの欠陥を低減させる手法を開発した。具体的には,市販されているZSM-5ゼオライト(東ソー,HSZ-890HOA,Si/Al=750)を処理溶液に加え,40–170°Cにて3–24時間水熱処理を行った。処理溶液組成はTEAOH : NH4F : H2O=0–1 : 0–1.14 : 15(標準条件:0.1 : 0.1 : 15)とした。ここでTEAOHは水酸化テトラエチルアンモニウムである。水熱処理を行ったサンプルは洗浄,乾燥し白色粉末を得た。スチーム耐久試験は,自作した試験装置を用いて行い,10 vol%水蒸気雰囲気下,3時間,900–1150°Cにて行った。結晶性とミクロ孔容積の変化を図3(a)に示す。処理前においては900°Cにおいて結晶性を大きく失い,非晶質化したのに対して,処理後のサンプルは1150°Cにおいても高い結晶性を保つことがわかった。同様の条件において,非晶質シリカはシンタリングにより表面積が大きく減少し,フッ化物添加により合成したシリカライト-1においても結晶化度が大きく低下した。また,同じZSM-5を500–700°Cの比較的低温でスチーミング処理をすることによっても耐久性の向上が見られたが,1050°Cの耐久試験においては結晶性を保つことができなかった。以上から,本手法により調製されたZSM-5は,シリカ系材料として特異的に高い耐久性を有する材料であるといえる。29Si MAS NMRスペクトル(図3(b))において,高耐久化したサンプルはCP(交差分極)法により測定した場合(図3(b)-iv)においても,処理前のサンプル(図3(b)-ii)においてはっきりと見られていたQ3シグナルが観測されず,欠陥が低減していることがわかった。DD(双極子デカップリング)法におけるQ4シグナルについても,高耐久化後のサンプル(図3(b)-iii)は処理前(図3(b)-i)と比較してシグナルがTサイトごとにはっきりと分離されていることがわかる。同様に,欠陥の低減の様子はFTIRスペクトルからも観測され,シラノール基が極端に減少している様子が観察された。以上から,本手法は,ゼオライト内のシラノール欠陥を減少させ,耐久性を大きく向上させることが可能であるといえる。また,シラノール欠陥の修復は,耐久性の向上のみならず,疎水性の向上にも効果的である。図4に処理前後のサンプルの水蒸気吸着等温線を示す。いずれのサンプルについても窒素吸着より求めたミクロ孔容積については変化していないことを確認している(処理前後ともに:0.14 cm3 g−1)。一方,水吸着については高耐久化処理したサンプルについて,吸着量が大きく低下し,本処理により極めて疎水性の高いサンプルが得られていることがわかる。

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図4. 処理前後における水蒸気吸着等温線の変化

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図3. (a)ハイシリカZSM-5における耐久試験による結晶化度と細孔容積の変化,(b)29Si MAS NMRスペクトルによる欠陥の評価

4. 特異的な粒子内空隙の形成と欠陥修復メカニズム

ハイシリカZSM-5の処理前後でのSEM像およびアルゴン吸脱着等温線を図5に示す。粒子径や結晶の表面状態には処理前後で変化が見られず,等温線からもオープンなマクロ孔やメソ孔は形成していないと考えられる。一方,粒子の断面像からは処理により粒子内部に空隙が形成されていることが確認された。この空隙の存在によって,処理後サンプルの等温線にヒステリシスが見られており,ヒステリシスループが閉じる圧力が吸着質により変化することからキャビテーション現象によることが確認された9,10)。したがって,観察された空隙はクローズド(出口が4 nm以下のミクロ孔のみ)であり,また本処理における固体収率が95%以上と高いことから,処理後サンプルにおける空隙の形成は通常のエッチングによるメソ孔などの形成とは異なった現象であると考えられる。

フッ化物イオンが存在する水熱処理条件下においては,ゼオライト骨格内のシロキサン結合は開裂と再結合を繰り返していると考えられる。その際に,構造を安定化させるフィラーとなるTEAOHの存在により,ゼオライト骨格は崩壊を免れている。実際に,TEAOHを用いずにNH4Fのみを用いて同条件にて処理した場合には結晶化度が大きく低下し,またNH4Fを用いずに同濃度のTEAOHのみを用いて処理した場合には溶解することを確認している。これらの結果から,2種類の添加物の協奏的な作用が重要であると考えられる。熱重量分析により求めた処理後の有機物含有量は2 wt%(MFI型ゼオライトユニットセルあたり1分子)程度であり,通常合成後に含まれている有機物量と比較して1/4程度であったことから,TEAOHの必要量は合成時と比較して少ないと考えられる。細孔がTEAOHで完全には満たされていないことから,この骨格の再構築過程においてシリケート種はゼオライト細孔内を拡散することができると考えられる。これにより,低温スチーミング条件において,報告がなされているシリケートマイグレーション11)と同様の現象が起こっていると考えられる。本条件においては,追加のシリル化剤は用いていないため,欠陥を埋めるのは,ゼオライト中においてマイグレートしてきたシリケート種である。つまり,移動するシリケート種とともに欠陥が生じ,欠陥は見かけ上移動していることになる。その際に,欠陥同士の衝突により大きな空隙が形成し,表面エネルギーの合計が低い方向に変化したものと考えられる。このような液相条件下におけるシリケート種の拡散により骨格が再構成するメカニズムについて「Self-defect healing」として提案した(図6)。

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図5. 処理前後における(a)SEM像および(b)Ar吸脱着等温線

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図6. 提案したSelf-defect healingによる欠陥修復メカニズム

5. 他のゼオライトおよび高耐久ゼオライトナノ粒子調製法への展開

ゼオライトベータ,モルデナイトといった他の骨格構造への展開,および処理ゼオライトの組成の影響(Si/Al比)を検討した。ハイシリカ組成(Si/Al>120)のものについては,他の骨格構造においても高耐久化することが確かめられた。上記標準条件にて処理した前後のベータおよびモルデナイトについて,29Si MAS NMRスペクトルを図7に示す。ZSM-5の場合と同様に,欠陥が修復され,Q3シグナルが減少している様子が観察された。モルデナイトに関しては,わずかにQ3シグナルの残存が見られ,耐久性もベータやZSM-5と比較すると完全ではない。これは,他の3次元細孔を有する構造と比較して1次元細孔であるために拡散が制限され,最適処理条件が異なっていると考えられる。また,Q4シグナルの分離向上はこれらのゼオライトでも見られている。粒子内空隙についてもZSM-5の場合と同様に形成している様子が見られ,同様のメカニズムにより欠陥が低減されており,骨格を問わず有効であると考えられる。一方,骨格にAlを多く含むゼオライトについては,骨格構造によらず本処理による耐久性の向上が見られなかった。Alが少ない場合の耐久性は主に骨格のシラノール欠陥により決まるのに対して,骨格中のAlが多くなると脱Alによる構造崩壊が支配的になるためであると考えている。現在,脱Alと組み合わせることによる様々なSi/Al比への展開を検討している。

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図7. (a)ゼオライトベータおよび(b)モルデナイトの高耐久化処理前後の29Si MAS NMRスペクトルの変化

さらに,ビーズミルによる粉砕により結晶化度が低下したゼオライトの再結晶化処理への適用を,フッ化物を用いて合成された純シリカ*BEA型ゼオライト12)を例として検討した(図8)。粉砕にはビーズミル(アシザワ・ファインテック,LABSTAR Mini LMZ015,300 µmジルコニアビーズ)を用い,平均粒子径70 nm程度まで微粒化した。微粒化により,結晶性が低下し,欠陥量も増加している。この粉砕化後サンプルを高耐久化と同様の条件にて処理することで結晶化度が回復し,欠陥が修復されることを見出した。粒子径はビーズミル後のサンプルと比較して大きく変化しておらず,処理前サンプルと比較して微粒子化に成功した。驚くべきことに,得られたゼオライトベータのナノ粒子は,フッ化物を使用して合成した欠陥が比較的少ないゼオライトよりも高い水熱耐久性を示している。以上の結果より,本手法はメカニカルに加えられた欠陥の修復,再結晶化にも有効であるといえる。

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図8. 純シリカ*BEA型ゼオライトの粉砕再結晶化による耐久性の変化

6. おわりに

ゼオライトの耐久性を飛躍的に向上させる処理方法を開発した。開発した手法は,簡便な液相法であり,骨格の安定化と再構築という2種類の役割を担う添加物の協奏的作用によるものと考えられる。通常は骨格構造が崩壊するような過酷な条件下においても,ポアフィラーとなる有機物により安定化が可能である。これに加え,特異な内部空隙の形成から,シリケート種の拡散による欠陥修復メカニズムを提案した。本手法の適用により既往のゼオライトを用いた触媒および吸着プロセスの改善だけでなく,より過酷な新しい用途への展開にもつながるものと期待している。

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