液晶分子の自己組織化を利用したソフトなジャイロイド構造膜の創成Design of Gyroid Nanostructured Soft Polymer Films Based on Self-organization of Liquid-crystalline Monomers
東京農工大学Tokyo University of Agriculture and Technology ◇ 〒184–8588 東京都小金井市中町2–24–16
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ある種の両親媒性分子は自己組織化し精緻なナノ構造を形成する。特に,溶媒または熱の存在下において安定な相として周期ナノ構造を形成するものは液晶として分類されている。液晶が形成するナノ構造は,動的であるため,多量の溶媒や過剰の熱の印加により崩れてしまう。これらの液晶が形成するナノ構造を固定化して利用する手法として,液晶分子に重合性官能基を導入し(=液晶性のモノマーを設計し),自己組織化した状態でin situ重合する手法が研究されてきた。本稿では,この手法をもととして我々が近年開発したソフトなジャイロイド構造膜の設計と機能について解説する。これまで我々は,双性イオン型(Zwitterion)骨格を有する液晶分子の設計について精力的に研究を進めてきた。この分子は,ある種の酸の存在下においてジャイロイド構造を形成する。この液晶性Zwitterionの分子設計に重合基を導入したものを開発することで,液晶が作るジャイロイド構造を高分子膜化することができた。得られるジャイロイド構造膜は含水状態において極めて高いイオン伝導度(9.9×10−2 S cm−1)を示した。この結果に関して,我々が解明してきた構造解析結果や機能評価についても概説する。
Liquid crystals are a class of self-organizing materials. They spontaneously form a variety of nanostructures depending on their molecular shape, interaction, and volume balance between their polar/non-polar moieties. There has been an increasing attention on the use of liquid crystals for creating well-nanostructured polymer films. In particular, the design of liquid-crystalline monomer, their self-organization, and subsequent in situ polymerization lead to the formation of self-standing soft polymer films preserving the liquid-crystalline nanostructures. To date, we have succeeded in developing gyroid nanostructured polymer films based on this strategy. Our molecular design is to use a zwitterion as a head group of amphiphiles. An advantage of our design is that the self-organization behavior of these amphiphilic zwitterions can be widely controlled by the addition of acids. Recently, we have designed a new amphiphilic zwitterion monomer by introducing two diene groups. Through in situ polymerization of the zwitterion monomer, a gyroid nanostructured polymer film has been successfully obtained. The polymer film shows quite high ionic conductivity of 9.9×10−2 S cm−1 under water uptake conditions. The detailed nanostructure in the film has been examined by synchrotron X-ray diffraction measurements. The structure-function relationships are discussed in this article.
キーワード:液晶;ジャイロイド;自己組織化;プロトン伝導
Key words: liquid crystal; gyroid; self-organization; proton conduction
© 2020 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2020 Japan Zeolite Association
両親媒性分子は水中において自己組織化し様々なナノ構造を形成する。このナノ構造を鋳型としてテトラエトキシシランのゾルゲル反応を進行させると,細孔径が制御されたメソポーラスシリカを得ることができる。このような分子鋳型法は1990年代より急激に発展し,多孔質物質研究における重要な研究潮流を築き,触媒・吸着剤など広い分野で研究されてきた1)。この水中における両親媒性分子の自己組織化に関しては,液晶研究の分野において『リオトロピック液晶』として深く研究が進められてきた。両親媒性分子の分子構造や濃度・温度などが自己組織化構造(ナノ構造)にどのように影響するのかなど基礎的な知見が積みあげられてきた。このようなリオトロピック液晶の研究の流れの中でも,『両親媒性分子が形成する液晶ナノ構造を固定化したい!』という考えが1990年代頃より活発になり,様々な重合性の両親媒性分子が設計されてきた2)。つまり,両親媒性分子自体を重合反応により連結し,液晶状態で形成された分子集合構造を保ったまま高分子化するアプローチである。熱的に液晶状態を示すサーモトロピック液晶系においてもこのアイディアは展開され,様々なサーモトロピック液晶性モノマーも開発されている。
東京大学の加藤隆史先生の研究室では,イオン性の骨格を有する液晶性モノマーの設計とそれらを用いたイオン伝導性ナノ構造膜の創成・機能評価について先駆け的な研究を展開し続けている。特に,分子構造を適切に設計することで一次元のカラムナー相・二次元のスメクチック相・三次元の双連続キュービック相を作り分けることで様々な次元性を持ったイオン伝導膜を生み出すことに成功してきた3)。筆者が学生時代に加藤研究室に所属していた時には,扇形の疎イオン性部を有するアンモニウム塩(図1a)が溶媒なしのバルクの状態で双連続キュービック液晶相を示すことを発見した4)。双連続キュービック液晶はジャイロイド構造を形成する液晶相である。この扇形アンモニウム塩のアルキル鎖の末端に重合基を導入した分子(図1b)を設計し,重合固定化することで,三次元イオン伝導膜を作ることにも成功した(図1c)5)。この高分子膜も本稿のタイトルに挙げたソフトなジャイロイド構造膜の1つであるが,この膜の詳細については原著論文を参照されたい5–7)。このように両親媒性分子が形成する自己組織化ナノ構造を固定化する方法として,両親媒性分子『自体(そのもの)』に重合性の官能基を導入し,分子集合状態(液晶状態)で重合するアプローチは,高分子膜の持つ『しなやかさ』と液晶性分子が作り出す『精緻なナノ構造』を併せ持つソフトナノマテリアルを生み出すことができる。
我々の研究グループでは,この重合性液晶を用いたソフトナノマテリアル設計の中でも,ジャイロイドナノ構造(図2)の形成を目指して様々な分子デザインを進め独自のナノ構造膜を開発してきた。本稿では,ジャイロイド構造膜について,『設計の観点』から解説する。また,得られたジャイロイド構造膜の機能についても紹介する。
双連続キュービック液晶は,自己組織的に格子長が約7~10 nmのジャイロイド構造(または他の対称性のキュービック構造)を形成する液晶相の一種である8,9)。1960年代に発見された液晶相であるが,他の液晶相と比較して珍しく,機能展開の例は限られていた。近年,この独特な三次元構造を機能(例えば,分離膜10)やイオン伝導体11))へと展開するアプローチが注目を集め始めている。
一般に,液晶が形成する分子集合構造を重合して固定化するためには,『目的の分子集合構造を形成する液晶性モノマーの設計』と『構造を保ったままin situ重合する手法・条件の探索』の2つが重要となる。液晶分子の分子構造と分子集合構造の相関関係はこれまで数多くの研究者によって調べられてきたが,我々が目的とする双連続キュービック液晶に関しては,分子例が乏しく,意図的に設計することは容易ではない。そこで,前段階として,双連続キュービック液晶を発現する分子の設計指針を確立し,得られた指針をもとに液晶性モノマーを設計することが重要と考えた。
ジャイロイド構造を設計する上で,構造中に含まれる三次元極小界面(ジャイロイド極小界面)に着目した。この極小界面は,鞍型の界面構造からなっている。一般に,鞍型構造は,平坦な板の上表面と下表面が直交した形で収縮することで得られる。ポテトチップスの形が鞍型構造になっているのも同じ理屈で説明できる。このような鞍型の分子集合構造を誘起することがジャイロイド構造の設計に重要と考えた。このような湾曲界面の誘起に向けて,どのような分子骨格が適しているか思案する中で,Zwitterion(双性イオン)にめぐり合った。Zwitterionとはカチオンとアニオンが共有結合で連結した有機塩である。着目した特性として,図3に示したようなイミダゾリウムカチオンとスルホネートアニオンからなるZwitterion自体は非常に融点の高い塩であるが,ある種の酸やリチウム塩(例えば,ビストリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム塩(LiTf2N))などを等モルで複合化すると,室温で液体状態を形成する(図3)12,13)。Zwitterionを平面上に並べ,上記の特性を利用して適度にZwitterion部分の分子実効体積を膨潤させることができれば,目的のジャイロイド極小界面が得られるのではないかと考えた。Zwitterionを頭部として有する両親媒性分子としてPyZI-nを設計し,数ステップの反応を経て合成した(図4)14)。ピリジニウム環は,合成のし易さなどの理由で選択したが,結果的にこのカチオンの選択は双連続キュービック液晶の設計に非常に適していることがわかりつつある15)。作製したPyZI-nの液晶性を偏光顕微鏡で観察したところ,単独ではレイヤー状のスメクチック相を形成することがわかった。また,この液晶状態のPyZI-nを高温まで昇温したところ,200°Cまで上げても等方相転移しないことから,Zwitterion部位間で強い分子間相互作用を形成していることが示唆される。メタノールを共溶媒として,PyZI-nとHTf2Nをモル比1 : 1で混合し,溶媒留去することでPyZI-n/HTf2N複合体を作製した。複合体は,アルキル鎖長にもよるが80~100°Cくらいの温度域で透明点を示した。PyZI-nとHTf2N間でイオン交換が起こり,Zwitterion部位間の分子間相互作用が弱まっていると考えられる。このイオン交換の進行は,ラマン分光測定やIR測定によっても確認することができた16,17)。
PyZI-12/HTf2Nの相挙動を偏光顕微鏡を用いて観察した。80°C付近でカラムナー相に特有のテクスチャを現し(図5a),更に冷却していくと,45°C付近において複屈折のない光学的に等方的なドメインが出現し(図5b,c),このドメインが成長することで,完全に暗視野になった(図5d)。これは光学的等方なキュービック相への転移を意味している。様々な温度においてX線回折測定を行ったところ,それぞれの液晶相は,シリンダー状のカラムナー(Col)相・双連続キュービック(Cubbi)相であると同定することができた。アルキル鎖長の異なる一連の化合物の相挙動を図6にまとめた。アルキル鎖の伸長に伴い,発現する液晶相がCubbi相からスメクチック(Sm)相へと変化していっていることから,得られたキュービック相は『順相のCubbi相(三次元チャンネルドメインをアルキル鎖が占有し,その周りのドメインをイオン性骨格が覆っている構造)』を形成していることがわかった。
双連続キュービック液晶の機能化に関する研究例のほとんどは図2の白色で示した三次元ナノチャンネルを機能場とした利用がほとんどであった。筆者が東京農工大学の大野弘幸/中村暢文研究室に助教として着任し,新たな研究を構想している際に,黒色で示した界面(ジャイロイド極小界面)も空間的に三次元に連続して広がっていることを考えると機能場として魅力的だと着想した。
両親媒性Zwitterion(PyZI-n)とHTf2Nは,イオン交換を伴い,協調的に自己組織化していると考えられる。つまり,HTf2NのH+はSO3アニオンと優先的にイオンペア(もしくはSO3H基)を形成し,結果的にTf2NアニオンはPyZI-nのピリジニウムカチオンとイオンペアを形成することになる。それぞれのイオンペアについて考えると,SO3H基は親水的なイオンペアであるのに対して,ピリジニウムカチオンとTf2Nアニオンの組み合わせは疎水的なイオン液体を形成するイオンペアである。このような特徴をもとに,自己組織化により得られたジャイロイド構造の特徴を考えると,三次元ジャイロイド極小界面に沿って親水的なSO3H基が配列し,その上下を疎水的なイオン液体様の単層レイヤーがサンドイッチした構造になっていると考えらえる。もしこのような構造体に水を少量添加すれば,水はこの親水的な界面に沿ってのみ染み込み,水分子の三次元ナノシートを得られるのではないかと考えた。また,それに伴い,界面に沿った三次元高速プロトン伝導も実現できるのではと着想した。PyZI-14/HTf2Nの含水率を調整したところ,2.5 wt%から10 wt%まで含水率を調整することができた。10 wt%以上含水させるとCol相を発現した。これらの含水サンプルについてイオン伝導度を測定したところ,含水率の上昇に伴い伝導度が大幅に上昇する現象を確認できた。例えば,含水率9.4 wt%のサンプルは,3.1×10−2 S cm−1の伝導度を示した。一般に,含水物質中のプロトン伝導はビークルメカニズムとグロータスメカニズムの2つのメカニズムによって促される。グロータスメカニズム(バケツリレー型の伝導機構)のみに依存して長距離にプロトンを輸送可能な媒体を作ることができると,伝導度は10−1 S cm−1オーダーまで上げることができる。PyZI-14/HTf2Nの含水率は約10 wt%までしか上げることができなかったが,もし液晶が形成する分子集合構造を固定化し,含水率を更に高めてもジャイロイド構造を維持するような膜を作ることができれば,プロトン伝導度を極限まで高めることができるのではないかと考えた。
これまで我々が開発してきた両親媒性Zwitterion+ 酸の組み合わせからなる複合体は,添加する酸の割合や酸の種類など様々なパラメータによって複合体が発現する液晶相や相転移温度を大幅にコントロールすることができる14–21)。そのため,重合性基の導入やin situ重合などへの展開に適しているのではという勝算のもと,重合性基を有する分子の設計に挑戦した。様々な分子を設計・合成し,それらの物性や液晶性を調べる中で,図7に示したDiene-GZIが目的を達成する上で優れた分子であることを見いだした22)。この分子の特徴として,下記の①~④が挙げられる。①両親媒性分子のイオン性頭部としてZwitterion骨格を有している。②重合性官能基としてジエン基を有している。③このジエン基が両親媒性分子のイオン性頭部とアルキル鎖の間に導入されている(一般に,液晶性モノマーの設計においてはアルキル鎖の末端に導入する例が多い)。④両親媒性分子二対がリンカーにより連結された双子型の設計になっている(一般的にジェミニ型分子と呼ばれる。双子型分子設計を採用することで,一分子中に重合性官能基を2箇所導入することができる点が重要である)。このような分子をin situ重合すると,それぞれの分子が架橋点となりうるため,構造安定性の高い高分子膜が得られると考えた。実際に,Diene-GZIと種々の酸と水を適切な量で混合し複合体を作製すると,複合体は双連続キュービック相を発現し,自己組織的に格子長が約9 nmのジャイロイド構造を形成した。ジャイロイド構造状態(状態としては液晶)のサンプルに少量の光重合開始材を混ぜ込み,紫外光を照射すると分子間での重合反応が進行し,ジャイロイドナノ構造を維持したまま自立性の高分子膜(Film-G)へと形態変化した(図8)22)。得られた高分子膜は曲げることも可能である一方,様々な有機溶媒や水に不溶であり,溶媒に浸漬後も膜中のモルフォロジーやナノ構造は維持されていることもわかった。
Film-Gを湿度コントロール下において静置し,含水率の湿度依存性を評価したところ,膜中の含水率を約8~17 wt%まで制御できることがわかった。様々な含水率のFilm-Gについて,交流インピーダンス法によりイオン伝導度測定を行った。膜の含水率(□)とイオン伝導度(●)の湿度依存性を図9にプロットした。含水率が8.1 wt%と低い状態では伝導度は低い値(約10−5 S cm−1のオーダー)であったのに対して,含水率を15.6 wt%まで上昇させると10,000倍ほど伝導度が上昇した22)。含水率が低い時は,ジャイロイド極小界面上に集められた水分子は途切れ途切れの水素結合ネットワークしか作れずグロータス機構による伝導は短距離的にしか機能できないが,含水率が上昇し,十分な数の水分子がジャイロイド極小界面上に配置された状態では,水分子ネットワークの連続性が長距離的にも維持され,長距離のグロータス機構による伝導が可能となったためだと考えられる。
含水率15.6 wt%のFilm-Gに対し,温度可変条件におけるイオン伝導度を調べた。温度の上昇に伴い徐々にイオン伝導度が上昇し,約70°Cにおいて9.9×10−2 S cm−1という値を示した。この値は汎用のプロトン伝導性高分子膜(例えば,ナフィオン)に匹敵する値である。比較実験として,構成成分が全く同じだがアモルファス状態で重合した高分子サンプル(Film-A)を作製し,同様にイオン伝導度を測定した。得られた結果を比較すると,Film-AはFilm-Gと比較して200倍以上低いイオン伝導度を示すことがわかった。これらの結果は,高分子膜中にSO3H基を秩序だって並べることが高速プロトン伝導の発現に極めて重要であるかを顕著に表す結果である。
ジャイロイド構造膜内部のナノ構造をより詳細に調べるために,イギリスのSheffield大学のZeng博士と共同でシンクロトロン小角X線散乱測定を行った22)。測定によって得られたX線散乱ピークを適切に指数付けし,逆フーリエ変換することで,膜内部の電子密度分布を三次元に可視化することに成功した。高分子膜Film-Gの単位立方格子中の電子密度マップを図10aに示す。一辺が約9 nmの立方格子は,電子密度が低い三次元的分岐したチャンネル構造と電子密度が高いジャイロイド極小界面の2つの双連続ドメインによって形成されていることがわかる。電子密度が高いZwitterion部位がジャイロイド極小界面に沿って配列し,電子密度が低いアルキル鎖部位がチャンネル構造を充填するように分子が配列しているだろうという我々の予想を裏付ける結果を得ることができた。
含水に伴い膜中のナノ構造がどのように変化していくかを調べるために,シンクロトロン小角X線散乱測定・解析を含水率変化させたFilm-Gについても行った。湿度コントロールだけでなく真空引き・浸漬などの手順を踏むことで,より多彩な含水率のFilm-G(含水率1.2,9.3,17.0,34.5 wt%)を得ることができたので,それらについて測定を行った。含水率の上昇に伴って,膜中の立方格子長が約9.0 nmから約10.5 nmまで拡張するものの,立方周期性は維持されていることがわかった。電子密度の高いジャイロイド極小界面に着目してそれぞれの電子密度マップを比べてみると興味深い差異を見いだすことができた。低含水率のFilm-Gは,電子密度の最も濃い紫色の領域はジャイロイド極小界面にぴったり沿って形成されているが(図10b),含水率34.5 wt%のFilm-Gの電子密度マップにおいて,紫で示した最も電子密度の高いレイヤーが上下に分裂し,中間に電子密度がやや高い領域(青色)が出現している(図10c)。Film-G中に水分子が取り込まれていく際,水分子はZwitterion部位の強い水和力に引き付けられて配列し,次第にジャイロイド極小界面上の全面が水分子で覆われ始めていると考えられる。ジャイロイド極小界面上に密に取り込まれた水分子は互いに水素結合ネットワークを形成し,それを介したグロータス機構の発現が高速なプロトン伝導度の発現に寄与していると考えられる。このような極めて薄いにもかかわらず三次元に連続した水分子の水素結合ネットワークは『三次元アクアナノシート』と呼ぶに相応しいと考えている。
低分子の液晶性モノマーを設計し,自己組織化した状態で重合するアプローチは,柔らかさと精緻なナノ構造を併せ持つ高分子膜を作り出す方法として極めて重要である。本解説では我々が近年成功したZwitterionを用いた分子例について紹介した。特に,液晶が形成するナノ構造の中でも,三次元の立方周期性と連続性を兼ね備えたジャイロイド構造に焦点を当てた研究例について紹介した。本稿を通して,高分子膜中の『構成単位分子』を配列することが高機能の設計に如何に重要であるかを実感していただければ幸いである。このような『分子を並べるための液晶研究』は世界的にも多くの研究者が取り組んでいるので,是非それらの研究例についても拝見していただきたい。本稿で紹介したジャイロイド構造膜については,構造・物性値や機能などの面においてまだまだ未知数な点が多い。今後,様々な研究者と連携することで,このジャイロイド構造膜に関する謎と可能性を探求していきたい。
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