日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 37(3): 80-89 (2020)
doi:10.20731/zeoraito.37.3.80

解説解説

中空シリカのナノ空間を利用した固体触媒の設計と応用Design of Heterogeneous Catalysts Using Nanospace of Hollow Silica and Their Catalytic Applications

1大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻Division of Materials and Manufacturing Science, Graduate School of Engineering, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘2–1

2京都大学触媒・電池元素戦略研究拠点(ESICB)Unit of Elements Strategy Initiative for Catalysts & Batteries (ESICB), Kyoto University ◇ 〒615–8510 京都府京都市西京区京都大学桂

受理日:2020年3月6日Accepted: March 6, 2020
発行日:2020年7月15日Published: July 15, 2020
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内部に直径数十nm~数百nmの空間を有する中空シリカは,中空空間への触媒活性種の内包,内包した触媒活性種の溶出や凝集の抑制,分子サイズ選択的な反応性の付与が可能であり,高度な触媒反応を実現するためのプラットフォーム材料としての利用が期待できる。金属酸化物や金属ナノ粒子等の触媒活性種を内包した中空シリカ構造体に関してこれまで数多くの合成法が考案されているが,その多くは多段階の複雑な合成プロセスが必要とされてきた。これに対し我々は,O/Wマイクロエマルジョンや窒素含有高分子を鋳型とする合成法により,様々な触媒活性種を内包した中空シリカ構造体を簡便に合成する手法を開発してきた。本稿では,TiO2粒子やPdナノ粒子を触媒活性種として内包した中空シリカ構造体の合成と,その触媒反応への応用ついて述べる。

Hollow silica spheres possessing void space from tens to hundreds of nanometers in size can be used as a platform material for the design of advanced heterogeneous catalysts, because the enclosed void space is expected to be useful for encapsulation and compartmentation of active catalytic components, and the outer silica shell acts as a physical barrier to protect them from leaching and aggregation or endow them with a molecular sieving property. Although a number of strategies have been developed for the synthesis of hollow silica structures encapsulating catalytic components such as metal oxides and metal nanoparticles in their internal void spaces (so-called “yolk–shell” structures), most of them requires complex multiple synthetic procedures. We have recently developed several methodologies for the synthesis of yolk–shell structured catalysts by using O/W microemulsions or aminopolymers as templates. In this review, the synthesis of hollow silica structures containing TiO2 particles or Pd nanoparticles as catalytically active species and their catalytic applications are described.

キーワード:中空シリカ;鋳型合成;固体触媒;金属ナノ粒子;アミノポリマー

Key words: hollow silica; template synthesis; heterogeneous catalyst; metal nanoparticles; aminopolymer

1. はじめに

内部に空間を持つ無機中空粒子は,低密度,高比表面積,低熱伝導率,低誘電率といった中実粒子と異なる物理化学的特性を有し,軽量材や断熱材,絶縁材等として電気・電子分野で利用されている。中でも中空シリカ粒子は他の無機中空粒子に比べて形状制御が容易であること,光透過性・生体適合性にも優れることから,光学材料やドラッグデリバリーを目的としたナノカプセルとしての応用が期待されている1,2)。近年では,中空シリカの触媒プラットフォーム材料としての利用が期待されている3–5)。中空シリカの中空空間(空間直径数十nm~数百nm)に種々の触媒活性種(金属酸化物や金属ナノ粒子等)を内包した構造体はヨーク–シェル(Yolk–shell)構造触媒とも呼ばれ,触媒として利用した際,以下の点が期待できる(Fig. 1)。i)従来のミクロ・メソ多孔体では内包できないような巨大なゲスト分子や触媒活性種(直径数nm~数十nm)を空間的に閉じ込めることができる。ii)触媒活性種であるコア物質とシリカシェルの間に空間が存在するため反応基質がアクセス可能であるだけでなく,“裸”の触媒活性種を内包することができる。iii)内包物質が移動できる空間が制限されるため,反応中の触媒活性種の溶出や活性種どうしの凝集を抑制し,触媒耐久性・再利用性を向上する効果が期待できる。iv)シリカシェルに形成される細孔サイズを制御することで分子サイズ選択的な反応性を付与することができる。v)シリカシェルに異種元素や細孔を導入することで更なる高機能化ができる。これらの特徴を利用すれば,従来のシリカ多孔体では実現できない高度な触媒反応場を構築できる可能性がある6–9)

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Fig. 1. 中空シリカの触媒プラットフォーム材料としての利点

一般的に,中空シリカは巨大な分子鋳型を用いたテンプレート合成法(ハードテンプレート合成法)により合成される。分子鋳型には,炭素やポリスチレン,レゾルシノール–ホルムアルデヒド(RF)樹脂等の球状高分子が利用される。鋳型の周りにシリカモノマー(シリカアルコキシド)を重合させてシリカ(SiO2)から成る殻を形成した後,鋳型を焼成等により除去すれば,鋳型の構造を転写した中空空間を持つシリカ構造体が合成できる。この鋳型の内部に予め金属ナノ粒子等を仕込んでおけば,触媒活性種を閉じ込めた中空シリカ構造体が合成できる。最近では,水中油滴(O/W)型エマルジョンやポリアクリル酸等の溶解性高分子を鋳型にしたソフトテンプレート合成法や10,11),シリカのエッチング・自己組織化12,13)を駆使した合成法により触媒活性種を内包した中空シリカ粒子を合成する手法も開発されている。本稿では,このような触媒活性種を内包した中空シリカ粒子の合成と触媒反応への応用に関する,筆者らの最近の研究成果について述べる。

2. 酸化チタン内包中空シリカ光触媒

酸化チタン(TiO2)は優れた光化学特性・化学的安定性から,環境浄化用光触媒や紫外線吸収材,建築用外装材等として広く利用されている。しかしながら,紫外光照射下で強い酸化作用を示すため,有機基材(繊維,樹脂等)と組み合わせて用いた場合,有機基材を劣化させてしまう恐れがある。このため,各用途に合わせTiO2表面を無機素材で被覆し,不活性化して用いられているが,表面を無機素材で被覆してしまうと光触媒としての有機物分解能は失われてしまうという矛盾をはらんでいる。TiO2を中空シリカに内包させた中空構造光触媒では,裸のTiO2とシリカシェルとの間に空間が存在するため,TiO2本来の光触媒性能を維持したまま有機基材の劣化を防止することができると考えられる。

TiO2を内包した中空シリカの合成には,これまで炭素や有機ポリマーを鋳型に用いた合成法が報告されているが,求める形態を実現するには多段階の煩雑な合成プロセスや合成条件の精密制御が必要とされていた。筆者らは,安価な脂肪酸を有機テンプレートに用いた簡便な合成法により,TiO2を中空シリカに内包した中空構造光触媒(TiO2@HSS)の合成を行った14,15)。オレイン酸を油相とする水中油滴(O/W)マイクロエマルジョンにシリカ源であるTetraethyl orthosilicate(TEOS)と3-aminopropyl triethoxysilane(APTES)を加えると,解離したカルボキシル基とプロトン化したアミノ基間の静電相互作用によって油滴周囲にシリカ層が形成され,その後,固体生成物を大気焼成し有機成分を除去することで中空シリカ構造体が合成できる16)。この際,市販のTiO2粉末(Evonik P25,一次粒子径21 nm)を予め油相中に分散させておくことで中空シリカに内包させた(Fig. 2)。得られた生成物は球状の中空シリカ粒子であり,その平均粒子径はおよそ180 nm,シリカシェル厚さは20 nm程度であった(Fig. 3(a)~(c))。TEM像から中空シリカ内部に複数のTiO2粒子が内包されている様子が観察された(Fig. 3(b))。中空シリカに内包する前後で,TiO2粒子の粒子径や結晶構造に変化はないことを確かめている。また,N2吸脱着等温線には中空構造に由来する特徴的なヒステリシスが確認され,BJH細孔分布プロットからシリカシェルには平均径2.0 nmのメソ孔が存在していることも確認された。

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Fig. 2. 水中油滴(O/W)マイクロエマルジョンを鋳型にしたTiO2内包中空シリカ(TiO2@HSS)の合成スキーム

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Fig. 3. TiO2内包中空シリカ光触媒(TiO2@HSS)の(a) FE-SEM像,(b) TEM像,(c)模式図,紫外光照射下における2-プロパノール酸化分解反応結果;(d) TiO2光触媒(P25),(e) TiO2内包中空シリカ光触媒(TiO2@HSS)

紫外光照射下における気相中の2-プロパノールの酸化分解反応により光触媒活性を評価したところ,中空構造光触媒では原料のTiO2光触媒に比べ中間生成物であるアセトンの生成が抑制されるとともに,CO2への完全酸化が促進された(Fig. 3(d), (e))。これは,中空シリカが気相中の有機物の吸着を促進し,中空空間内部のTiO2粒子近傍に濃縮する働きがあるためだと推察される。一方で,細孔径(約2.0 nm)と比べて大きな蛋白質(Conalbumin; 75 kDa, 5.0×5.6×9.5 nm3)に対しては光分解作用をほとんど示さなかった。これは,シリカシェルが保護壁として機能することで蛋白質のTiO2粒子へのアクセスが阻害されるためであり,多孔質シリカシェルの存在により分子サイズ選択性が付与されていることを示している。

筆者らは,このようなシリカシェルの分子サイズ選択性を利用し,TiO2内包中空シリカ光触媒と紙とを複合化し,光触媒機能を付与した紙製品の開発を行った17)。TiO2内包中空シリカ粒子とセルロースファイバーを水溶液中で混合し,粘着剤としてカチオン性ポリマー(PDADMAC; Polydiallyldimethylammonium chloride)とアニオン性ポリマー(A-PAM; Anionic polyacrylamide)を加え,その後紙成型機を用いて成型することで光触媒複合化紙を作製した(Fig. 4(a))。FE-SEM像からセルロースファイバーの表面に中空シリカ粒子が分散して固定化されている様子が確認された(Fig. 4(b))。紫外光照射下における気相中での2-プロパノールの酸化分解反応により光触媒性能を評価したところ,紙に固定した後も同等の光触媒活性を有していることがわかった(Fig. 4(c))。固定化前後で紙の色合いや光沢,手触りに大きな違いはなかったことから,紙本来の材質を維持したまま光触媒機能を付与することができた。また,50時間の紫外光照射による紙の光劣化度合を評価したところ,裸のTiO2を直接固定化した紙では破断強度が大幅に低下したのに対し,TiO2内包中空シリカ粒子を固定化した紙では破断強度の低下が著しく抑えられた。すなわち,TiO2を中空シリカに内包することでTiO2と紙との接触による光劣化を防ぎ,高い光耐久性を有する光触媒複合化紙が作製できることが実証された。

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Fig. 4. (a)TiO2内包中空シリカ光触媒と複合化した紙の外観,(b)複合紙表面のFE-SEM像,(c)複合紙のナノ構造の模式図と光触媒作用

3. Pdナノ粒子内包中空シリカ触媒の合成とワンポット酸化反応への応用

中空シリカを用いた興味深い触媒反応への応用例として,複数の反応を同一の反応容器内で逐次的に進行させ目的生成物を得るワンポット合成反応が挙げられる。例えば,酸素と水素からの過酸化水素直接合成反応に活性を示すPdナノ粒子触媒をチタノシリケート触媒と組み合わせれば,Pdナノ粒子上で生成した過酸化水素を逐次的に酸化反応に利用できるため,効率的な酸化反応系を構築することが可能である。従来このワンポット反応には,チタノシリケート触媒にPdナノ粒子を担持した触媒(Pd/TS-1,Pd/Ti-MCM-41等)やCore-shell構造を有する類縁触媒が用いられていたが,系中で生成する過酸化水素の利用効率が低いことが課題であった18–20)。中空シリカの内部とシリカシェル部に異なる活性種を空間的に隔離して配置することができれば,反応基質の拡散を担保しつつ,互いの触媒反応を阻害することなく効率的に進行させることが可能になると考えられる21)

筆者らは,中空空間内部にPdAu合金ナノ粒子を内包させ,シリカシェル部に孤立Ti種を導入することで,過酸化水素の直接合成反応(H2+O2→H2O2)と過酸化水素を酸化剤としたスルフィドの酸化反応(R1–S–R2+H2O2→R1–S(=O)–R2+H2O)を効率的に進行させ,対応するスルホキシドを高収率で得られることを見出した22,23)。PdAuナノ粒子を内包した多孔質中空チタノシリケート触媒(PdAu@Ti-HMSS)は中実シリカ粒子を鋳型としたエッチング法により合成した。Stöber法により合成した球状シリカにPdAuナノ粒子を固定化後,有機シランカップリング剤(1,2-Bis (trimethoxysilyl) ethane (BTME))を加え,アンモニアを含む塩基性水溶液中で熟成し,シリカのエッチング・再析出を繰り返すことで中空構造を形成させた(Fig. 523)。この際,チタン源としてTitanium tetraisopropoxide(TTIP)をシランカップリング剤と同時に添加することでシリカ骨格内に孤立Ti種を,界面活性剤としてCetyltrimethylammonium bromide(C16TAB)を添加することでシリカシェルにメソ細孔を導入した。TEMおよび元素マッピング測定から,平均粒子径160 nmの球状中空シリカの内部には平均粒子径6.0 nmのPdAu合金ナノ粒子が存在し,シリカシェルマトリクス中には孤立Ti種が分散して存在することが確認された(Fig. 6(a), (b))。N2吸脱着測定から,シリカシェルには平均径2.0 nmのメソ細孔が存在することも確認された。

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Fig. 5. PdAu合金ナノ粒子内包中空チタノシリケート触媒(PdAu@Ti-HMSS)の合成スキーム

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Fig. 6. PdAu合金ナノ粒子内包中空チタノシリケート触媒(PdAu@Ti-HMSS)の(a)TEM像,(b)STEMおよびEDSマッピング像,(c)チオアニゾールのワンポット酸化反応における触媒活性比較;Reaction conditions: catalyst (50 mg, Pd ca. 3 µmol, Ti ca. 10 µmol), thioanisole (0.3 mmol), acetonitrile (10 mL), H2(20 mL/min), O2(20 mL/min), 30°C

H2とO2共流通下におけるチオアニゾールのワンポット酸化反応により触媒活性を評価したところ,Pdナノ粒子内包中空チタノシリケート触媒(Pd@Ti-HMSS)は従来の担持Pd触媒(Pd/Ti-MCM-41)や中空構造を持たないPd触媒(Pd/Ti-SiO2)に比べ高い触媒活性を示した(Fig. 6(c))。反応速度および過酸化水素生成速度の解析の結果,中空構造触媒は最も高い過酸化水素利用効率を示すことがわかった。これは,シリカシェルの厚さ(約30 nm)が薄いことによりメソ細孔チャネル長さが短くなり,Pdナノ粒子上で生成した過酸化水素や基質分子の拡散が促進され,Tiサイトへの供給が容易になったためであると推測された24)。Pdナノ粒子の代わりにPdAu合金ナノ粒子(Pd : Au atomic ratio=2)を内包させた場合(PdAu@Ti-HMSS),H2O2生成速度は最大で約4倍に向上し,それに伴ってワンポット酸化反応における反応速度も飛躍的に向上した(Fig. 6(c))。また,触媒はシリカシェルの保護効果により,活性低下や構造の変化なく繰り返し再利用可能であった。反応条件に応じた活性サイトの密度や細孔構造の精密制御等,活性・選択性の更なる向上に向けて改良すべき点もあるが,同様のアプローチに基づく固体触媒の設計は複数の触媒活性種を必要とする様々なワンポット合成反応に応用が可能である。

4. Pdナノ粒子とアミノポリマーを内包した中空シリカ触媒の合成とアルキン部分水素化反応への応用

アルキンの部分水素化反応によるアルケンの合成は有機合成化学において重要な反応である。生成するアルケンの過剰水素化や異性化反応を抑制する目的でPd触媒に鉛を添加したLindlar触媒が一般に用いられるが,鉛の環境負荷が高いという欠点を抱えている。近年では,環境に無害なポリエチレンイミン(PEI; Poly (ethyleneimine))高分子を触媒毒として利用したPd/PEI触媒が注目されているが,溶液中へのポリマーの溶出やPd粒子の凝集に伴う活性および選択性の低下が問題点として挙げられる25)。触媒回収性・再利用性の向上を目的として,ポリマーとPd粒子を化学的に安定なメソポーラスシリカに固定化した例も報告されているが,その耐久性・再利用性については十分に検討されていない26)。そこで筆者らはこの問題を解決するため,Pdナノ粒子とPEIを中空シリカに内包した中空構造触媒を合成し,アルキンの部分水素化反応に応用した27)。シリカシェルが保護壁の役割を果たすことで内包物の溶出・凝集を抑制し,触媒耐久性・再利用性の向上が期待できると考えたためである。

ここではPEI自身を有機テンプレートとすることで,Pdナノ粒子とPEIを内包する中空シリカ構造体を一段で合成した。所定量のPEI (Mw=1,800~2,500)を含むエタノール/アンモニア水溶液にPd前駆体(Sodium tetrachloropalladate (II))を加え,化学還元することでPdナノ粒子–PEI凝集体を形成させた。その後,シリカ源であるTEOSを加え,凝集体の周囲にシリカシェルを形成させることでPdナノ粒子とPEIが内包された中空構造触媒(Pd+PEI@HSS)を得た(Fig. 7)。TEMおよび元素マッピング測定の結果,平均粒子径約155 nmの中空シリカの空間内部にPdナノ粒子とPEIが内包されていることが確認された(Fig. 8)。PEIが内包されていることは熱分析測定における重量減少からも確かめられ,PEI含有量は約22~24 wt%と見積もられた。N2吸脱着測定から,シリカシェルには基質が拡散可能な約2.7 nmのメソ細孔を有することもわかった。

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Fig. 7. Pdナノ粒子およびポリエチレンイミン内包中空シリカ触媒(Pd + PEI@HSS)の合成スキーム

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Fig. 8. Pdナノ粒子およびポリエチレンイミン内包中空シリカ触媒(Pd + PEI@HSS)の(a)STEM像,(b)HAADF-STEM像,(c-f)EDSマッピング像および(g)線分析結果

合成した中空構造触媒をアルキンの部分水素化反応に適用したところ,内部アルキンであるジフェニルアセチレンの部分水素化反応においては,内包したPEIの構造(直鎖型or分岐型)によらず,95%以上の選択率でアルケンであるスチルベンを得ることができ(cis/trans=95 : 5),長時間反応後も高いアルケン選択性が維持された。空気中で焼成することによりPEIを完全に除去した触媒(Pd@HSS)を用いると,逐次的にアルカンであるビベンジルへの水素化が進行してしまったことから,内包されたPEIの被毒効果により高いアルケン選択性が発現したことがわかる。更に,末端アルキンであるフェニルアセチレンの部分水素化反応において触媒性能を評価したところ,直鎖型PEIを用いて合成した中空構造触媒(Pd+PEI (L)@HSS)ではエチルベンゼンへの過剰水素化が抑制され,スチレンを84%の選択率で得ることができた(Fig. 9(a))。これに対し,分岐型PEIを用いて合成した中空構造触媒(Pd+PEI (B)@HSS)では長時間反応するとエチルベンゼンへの過剰水素化が進行し,高いアルケン選択性は発現しなかった(Fig. 9(b))。これは,1~3級アミンを含む分岐型のPEIに比べ,N原子周りの立体障害の少ない2級アミンから成る直鎖型のPEIがPdナノ粒子に対しより高い被毒効果を有しているためであると考えられる。最適な条件で合成した触媒は高いアルケン選択性を維持したまま繰返し利用可能であり,反応後のPdやPEIの溶出も確認されなかった。このような優れた触媒の再利用性はシリカシェルの高い保護効果によってもたらされるものであり,中空シリカをプラットフォームとすることで複数の機能性分子をナノ空間に安定に閉じ込め,特異な反応性と高い再利用性とを兼ね備えた固体触媒が創製できることが示された。

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Fig. 9. フェニルアセチレンの部分水素化反応結果,(a)Pd + PEI (L)@HSS,(b)Pd + PEI (B)@HSS,(c)Pd@HSS; Reaction conditions: catalyst (Pd 0.5 mol%),phenylacetylene (1.0 mmol), MeOH/1,4-dioxane (10 mL), H2(1 atm), 30°C

5. おわりに

本稿では,これまでに筆者らが開発した触媒活性種を内包した中空シリカ構造体を合成する手法を紹介するとともに,合成した中空構造体の示す優れた触媒機能について解説した。これまでに,O/Wマイクロエマルジョンや高分子を鋳型とすることで様々な金属活性種を内包した中空シリカ構造体を一段階で合成できるようになっている。最近では,複数の触媒活性種を空間的位置を制御して導入した中空シリカ構造体を合成する手法も確立されつつあり,今後適用可能な触媒反応の幅も拡大していくことが予想される。また,従来の中空構造触媒では,内部空間は反応基質が拡散する空間としての役割のみ認識されていたが,上で例示したように,中空空間に機能性ポリマーを充填することで,特異な反応性と高い再利用性を兼ね備えた固体触媒を創製することも可能になっている28)。これらは,ミクロ~メソスケールの細孔・空隙空間のみを有するシリカ多孔体では構築することのできない触媒反応場である。ターゲットとする反応に応じて,中空シリカが提供する様々な機能性を利用し,触媒合成に落とし込んでいくことで,卓越した触媒機能を持つ“ナノリアクター”の開発が期待できる。

謝辞Acknowledgments

本稿に記した筆者らの研究成果は科学研究費補助金(15K18270, 18K14056, 26220911),大阪大学グローバル若手研究者フロンティア研究拠点,大阪大学フォトニクスセンター起業化プログラム,公益社団法人池谷科学技術振興財団平成28年度助成金の支援,および以下の共同研究者ら(当時,大阪大学大学院生)の努力の下なされたものであり,ここに記して感謝する。

共同研究者:安藤孝浩氏,住田裕樹氏,寒河裕人氏,古市尚之氏,藤江勇宜氏,松村遼氏,三保木隆志氏。

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