シェールガス革命以後,天然ガスの供給は増加傾向にある。偏在する石油に比べ,天然ガスの供給は社会情勢に左右されにくい利点がある。しかしながら,安定性が非常に高いことから,天然ガスの主成分であるメタンは,ほぼ気体燃料としての利用が主であるのが現状である1)。
近年,メタンを有用化学原料へと転換することを志向した触媒反応プロセスが盛んに研究されている2–4)。代表的な例をいくつか挙げる。1つ目は,メタンを水蒸気改質によって合成ガスへと転換したのち5),メタノールを生成し,最後にメタノールtoオレフィン(MTO)やメタノールtoガソリン(MTG)を行うプロセスである6)。2つ目は,メタンを酸素によって直接部分酸化し,メタノールへと転換するプロセスである7,8)。そして3つ目は,メタンの脱水素芳香族化によって直接芳香族化合物を得るプロセスである9)。しかしながら,1つ目の水蒸気改質は大きな熱エネルギー損失,2つ目の直接部分酸化は低い選択性,3つ目の芳香族化は短い触媒寿命のような問題を持つ。
そこで,我々が提案しているのが,メタンの直接メチル化剤としての利用である。我々はトルエンの不均化により単環芳香族で最も価値の高いパラキシレンを選択的に製造する触媒を開発した10)。よって,メタンによるベンゼンのメチル化技術[式(1)]を開発できれば,メタンを原料の一部とするパラキシレンの製造が可能となる。
CH4+ C6H6→C6H5-CH3 + H2 (1)
メタンによるメチル化は,酸化11,12)or非酸化条件下13)の2種類に分けられる。前者の場合にはメタンの完全酸化によるCO2の生成の抑制が困難である。一方,後者の非酸化条件下では,高い選択率で反応を実現できる可能性がある。ただし,図1に示すように,(1)におけるメタン・ベンゼンの平衡転化率は低く,PCH4=98.6 kPa,PC6H6=2.7 kPa,773 Kの条件においてベンゼン基準で13%ほどである。酸化・非酸化どちらの条件においても,先行研究例は極めて限られていたが,ほとんどがMFI型ゼオライトに担持した金属触媒を触媒として用いていた11–13)。
以上の背景を踏まえ,我々は非酸化条件下でメタンによるベンゼンのメチル化反応を促進する触媒の探索に着手した。本稿では,触媒のスクリーニングによるCo/MFIの発見から,化学量論や活性種の決定,またその活性種の選択的な生成法について紹介する。なお,本稿の内容は主に原著論文2報14,15)を基にしたものであり,関心を寄せていただいた際には,そちらもぜひご一読いただきたい。
2. Metal/zeoliteの活性比較とCo/MFIの発見
表1に示すIMP-M-Xを触媒として全圧1 atm,773 Kの条件でメタンによるベンゼンのメチル化反応を行い,活性を比較した。図2に示す通り,Co/MFIが本反応に対して特異的に高い活性を示した。担体であるNH4-MFI(反応中はH型となっている)やCo以外の金属を担持したmetal/MFIは活性をほとんど示さなかった。また,MFI以外のゼオライトにCoを担持しても活性はほとんど発現しなかった。CoとMFIとの組み合わせ以外ではほとんど活性を示さないことに驚きつつ,Co/MFIを触媒とするメタンによるベンゼンのメチル化の検討を本格的に始めることとなった。
表1. スクリーニングとキャラクタリゼーションに用いた触媒触媒 | 前駆体 | 調製法 | 担体の構造 | [Al]/mol kg−1 | [Metal]/mol kg−1 | 担体のSiO2/Al2O3 | Metal/Alモル比 |
---|
H/MFI | — | — | MFI | 1.3 | 0 | 22 | 0 |
IMP-Co-x | Co (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 1.3 × x* | 22 | x* |
IE-Co-x | Co (NO3)2 | Ion exchange | MFI | 1.3 | 1.3 × x** | 22 | x** |
Co/MFI (24) | Co (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.78* | 24 | 0.60* |
Co/MFI (30) | Co (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.0 | 0.61* | 30 | 0.60* |
Co/MFI (48) | Co (NO3)2 | Impregnation | MFI | 0.7 | 0.39* | 48 | 0.60* |
Co/MFI (60) | Co (NO3)2 | Impregnation | MFI | 0.5 | 0.32* | 60 | 0.60* |
Co/BEA | Co (NO3)2 | Impregnation | BEA | 1.2 | 0.72* | 25 | 0.60* |
Co/MOR | Co (NO3)2 | Impregnation | MOR | 1.6 | 0.95* | 19 | 0.60* |
Co/FAU | Co (NO3)2 | Impregnation | FAU | 4.5 | 2.71* | 4.8 | 0.60* |
Co/SiO2 | Co (NO3)2 | Impregnation | Amorphous (silica gel) | 0 | 0.78* | ∞ | ∞ |
Fe-0.6 | Fe (NO3)3 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Ni-0.6 | Ni (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Cu-0.6 | Cu (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Zn-0.6 | Zn (NO3)2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Mo-1.2 | (NH4)6Mo7O24 | Impregnation | MFI | 1.3 | 1.62* | 22 | 1.20* |
Rh-0.6 | RhCl3 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Pd-0.6 | PdCl2 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
Ag-0.6 | AgNO3 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
In-0.4 | In (NO3)3 | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.54* | 22 | 0.40* |
Pt-0.6 | H2[PtCl6] | Impregnation | MFI | 1.3 | 0.81* | 22 | 0.60* |
*: 用いたゼオライトのAl濃度と溶液中のCo量から算出した。**: ICPの結果より算出した。 |
異なるAl濃度のMFIを用いて含浸法でCo/MFIを調製(Co/Al=0.6で固定)して773 Kでメチル化活性を調査したところ,図3に示す通り,概ねMFIゼオライト中のAl濃度([Al])に比例した。また,SiO2/Al2O3=22(市販されているものでは最高の[Al]:1.35 mol kg−1)のMFIを用いて,含浸法とイオン交換法によってCoの担持量を変化させてみたところ,図4に示す挙動をとった。担体であるNH4-MFIに活性は見られず,Coの担持によって活性が発現した。また,活性はCo/Al<0.3の範囲ではあまり上がらず,Co/Al=0.3–0.6で急激に増加した。Co/Al=0.6付近で最大の活性となり,それ以上担持した場合には活性は減少した。また,触媒成分の担持方法によって活性に違いが見られることはなかったが,イオン交換法で調製した場合,大過剰のCo溶液を用いてもCo/Al=0.5までしかイオン交換が進行しなかった。これはCoが2価でイオン交換されたことを示唆している。
ここで,検出されたトルエンが本当にメタン+ベンゼンで生成したかどうかを慎重に議論すべきである。メタンは脱水素によって炭素(黒鉛)と水素を生じる可能性があるので,トルエンがベンゼンの水素化分解16)で生じた可能性がある。この経路でトルエンが生じた場合には,メタンの炭素は有効利用されないばかりか,高価なベンゼンが軽質炭化水素として失われたことになる。
そこで,13Cリッチのメタンを通常のベンゼンと,最も活性の高かったIMP-Co-0.6を触媒として反応させ,生成物をガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)と13C核磁気共鳴(NMR)で分析した。
GC-MSの結果を図5に示す。13Cリッチなメタンと通常のベンゼンを反応させた場合,生成したトルエンの親ピークは93だったのに対し,通常のメタンを用いた場合には92だった。13Cリッチなメタンを使用することでトルエンの質量数が+1となったことが示された。
続いて図6に13C NMRの結果を示す。13Cリッチなメタンと通常のベンゼンを反応させた場合,生成したトルエンがわずかであるので,未反応のベンゼンと溶媒であるヘキサンに含まれるnatural abundanceの13Cの炭素に由来するシグナルに囲まれてではあるが,21.4 ppmにトルエンのメチル基の共鳴が見られた。また,トルエンの芳香環を構成する炭素に帰属される125.3,128.3,129.1,137.8 ppmに共鳴が現れなかった(前述のように未反応のベンゼン中の13Cは観測された)。これらの結果から,メタンに含まれていた炭素がトルエンのメチル基に導入されたことが証明された。
反応式(1)に従うとトルエンと等量の水素(H2)が生成するはずである。これを確かめるため,反応系の出口に備えた質量分析計(MS)で水素の定量を行った。触媒床は常圧に保ち,出口–MS間に2つのニードルバルブを備えた差動排気系を用いた。さまざまな調製法・組成のCo/MFIを触媒として773 Kで本反応を行った際の結果を図7に示す。トルエン収率(トルエン生成速度)などは図4に示したGCによる解析結果とほぼ同じであった。トルエン生成速度の序列はIMP-Co-0.6 > IE-Co-0.39 > IMP-Co-1.8の順で,これも図4の結果と同じであった。水素生成速度の序列はIMP-Co-0.6 > IMP-Co-1.8 > IE-Co-0.39であった。図7(c)から,いずれの触媒を用いた場合でも水素/トルエン比 > 1であった。したがって,トルエンよりも過剰量の水素が生成していたことになり,反応(1)に加え,メタンの単純脱水素[式(2)]のような副反応も進行していることわかった。
CH4→C+2H2 (2)
水素/トルエン比の序列はIMP-Co-1.8 > IMP-Co-0.6 > IE-Co-0.39の順であった。イオン交換法で調製したIE-Co-0.39では主にイオン交換サイトにCo種が存在し,過剰にCoを担持したIMP-Co-1.8にはイオン交換サイトではない場所にCo種が多いと考えると,イオン交換サイト上のCo種は目的反応(1)を促進し,イオン交換サイトに保持されていないCo種が副反応(2)を促進していると推測される。また,副反応で生成すると推測される炭素種は触媒の活性点を被覆し,触媒を劣化させると考えられる。実際に,水素/トルエン比の高いIMP-Co-1.8とIMP-Co-0.6では流通時間の経過とともに徐々にトルエン生成速度が低下した[図7(a)]。
Co種の環境によって目的反応(1)や副反応(2)に対する触媒活性が異なることが明らかとなったので,活性なCo種の特徴を明らかにするため,Co/MFIのキャラクタリゼーションを行った。図4にアンモニアIRMS-TPD法で求めたCo/MFIのBrønsted (B)酸量とLewis (L)酸量を示す。Co/Al =1.0付近まで,Co/Alが増加するとともにB酸量が減少し,L酸量が増加した。これはCoがMFIのイオン交換サイトに担持されたこと,イオン交換サイト上のCo種はL酸性を持つことを示している。Co/Al > 1.0の範囲ではL酸量はほとんど変化しなかったことから,イオン交換サイトにないCoが一部凝集していることが示唆される。
図8にCo/MFIのTEM像を示す。担持量に関わらず数µmの粒子が観察された。この粒子はMFIゼオライトであると判断した。IMP-Co-0.6の拡大像からはCoの凝集体のようなものは観測されなかった[図8(b)]。しかし,同範囲のエネルギー分散X線(EDX)分析からは,SiとOの他にCoが検出された。これらの結果は,CoがTEMの検出限界(1 nmより小さいオーダー)より小さい状態でMFI上に担持されていることを示している。一方,Coを過剰に担持したIMP-Co-1.8のTEM像には,MFI粒子の他に針状の結晶が見られ,これは電子線回折からCoOと同定された。さらに拡大像からはMFI上にもCoOと思われる凝集体が観測された。
次にX線吸収分光(XAS)の結果を図9に示す。X線吸収端近傍構造(XANES)領域のスペクトルを比較すると,測定したCo/MFIでは全てX線吸収端の位置がCoOと同じであったことから,担持されているCo種の酸化状態が+IIであることが示された。広域X線吸収微細構造(EXAFS)領域の解析から得られた動径分布関数を比較すると,IE-Co-0.39とIMP-Co-0.6では0.15 nm付近に1つだけピークが見られた。このピークはCoOのCo-Oピークよりわずかに短く,ゼオライト骨格中の酸素に近接するCoに由来するC-Oであると考えられる。また,第2配位圏以上の範囲にピークが見られないことから,担持されているCoが単原子レベルで分散していることが示唆される。これに対してIMP-Co-1.8では,0.15 nmに加えて,CoOと同じ0.25 nmにもCo-O-Co由来のピークが観測されており,Coの一部がCoOとして凝集していることがわかった。これらの結果はTEM観察の結果を支持する。
以上から,イオン交換サイト上に原子状に分散した酸化状態+IIのCo種がメタンによるベンゼンのメチル化(1)に活性を持ち,凝集したCoO種は副反応(2)に活性と考えられる。
以上のようにCo/MFIにはメタンによるベンゼンのメチル化に他の物質よりは高い触媒活性が見られるが,工業生産のためには反応速度の向上が必要である。前述のようにCo/Al < 0.6ではCo種の凝集は見られないが,それでもIMP-Co-0.6を触媒として55 Kで本反応を行うと速い劣化が観測され,これも副反応(2)のためと考えられる。しかしCo/Al < 0.6の範囲での活性の変化を詳細に調べると,Co/Al < 0.3では活性があまり上がらず,Co/Al=0.3–0.6の範囲で活性が顕著に向上した。これは,単原子分散Co +II種の中でも本反応に対して不活性なCo種と活性なCo種が存在するためと考えられる。またCoが少ないときに先に不活性な種が生成したことも示唆される。その順序を変え,活性なCo種のみを選択的に生成することを意図して,Coに加えて第2元素を導入した。
表2に調製した触媒とその組成を示す。前述のように,Co以外の元素は単独では不活性であったことから,Coに加えて第2元素を導入した触媒の活性を比較することで,ゼオライト細孔内における活性なCoの分布の変化が推測できる。Coと第2元素を同時にイオン交換(2種類の金属塩の混合溶液にNH4-MFIを入れ,撹拌,濾過)した際のCo/Alモル比と活性の関係を図10に示す。第2元素の種類によってさまざまな変化が見られた。図中に黒塗りで示した典型元素の導入によって活性が向上し,遷移金属元素の導入によって低下するという傾向が見られた。
表2. イオン交換法で調製したMetal-XとCo-Metal触媒(XはCo/Alモル比)触媒 | Mの周期 | Mの価数 | 調製溶液中の金属量 | 固体上に残った金属量 |
---|
Co/Al | M/Al | [Al]/mol kg−1 | [Co]/mol kg−1 | [M]/mol kg−1 | Co/Al | M/Al | (Co+M)/Al |
---|
IE-Co-0.18 | | | 0.2 | | 1.5 | 0.26 | | 0.18 | | |
IE-Co-0.23 | | | 0.3 | | 1.3 | 0.29 | | 0.23 | | |
IE-Co-0.29 | | | 0.4 | | 1.4 | 0.41 | | 0.29 | | |
IE-Co-0.32 | | | 0.45 | | 1.4 | 0.46 | | 0.32 | | |
IE-Co-0.33 | | | 0.60 | | 1.5 | 0.49 | | 0.33 | | |
IE-Co-0.42 | | | 2.00 | | 1.4 | 0.60 | | 0.42 | | |
IE-Mg-0.43 | 3rd | +2 | | 2.00 | 1.1 | | 0.47 | | 0.43 | |
IE-Ni-0.15 | 4th | +2 | | 0.20 | 1.0 | | 0.16 | | 0.15 | |
IE-Zn-0.52 | 4th | +2 | | 2.00 | 1.1 | | 0.54 | | 0.52 | |
IE-Pb-0.48 | 6th | +2 | | 2.00 | 1.2 | | 0.56 | | 0.48 | |
Co+Mg | 3rd | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.2 | 0.29 | 0.27 | 0.24 | 0.22 | 0.46 |
Co+Ca | 4th | +2 | 2.00 | 2.00 | 0.9 | 0.15 | 0.35 | 0.17 | 0.38 | 0.55 |
Co+Sc | 4th | +3 | 2.00 | 2.00 | 0.8 | 0.42 | 0.05 | 0.53 | 0.07 | 0.60 |
Co+Fe | 4th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.1 | 0.33 | 1.43 | 0.29 | 1.26 | 1.55 |
Co+Ni | 4th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.2 | 0.36 | 0.16 | 0.30 | 0.13 | 0.43 |
Co+Cu | 4th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.3 | 0.36 | 0.18 | 0.28 | 0.14 | 0.42 |
Co+Zn | 4th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.3 | 0.31 | 0.25 | 0.23 | 0.19 | 0.42 |
Co+Sr | 5th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.2 | 0.37 | 0.25 | 0.31 | 0.21 | 0.52 |
Co+Nb | 5th | +5 | 2.00 | 2.00 | 1.1 | 0.38 | | 0.36 | 2.08※ | 2.44※ |
Co+Ag | 5th | +1 | 2.00 | 2.00 | 1.2 | 0.47 | 0.13 | 0.38 | 0.11 | 0.49 |
Co+In | 5th | +3 | 2.00 | 2.00 | 1.4 | 0.50 | 0.48 | 0.37 | 0.36 | 0.73 |
Co+La | 6th | +3 | 2.00 | 2.00 | 1.0 | 0.45 | 0.02 | 0.47 | 0.02 | 0.49 |
Co+Ce | 6th | +3 | 2.00 | 2.00 | 1.1 | 0.50 | 0.02 | 0.45 | 0.02 | 0.47 |
Co+Pb | 6th | +2 | 2.00 | 2.00 | 1.3 | 0.20 | 0.36 | 0.15 | 0.28 | 0.43 |
※ Nbの量はEDSより求めた.それ以外の元素はICPによって求めた. | |
図11にCoのみ,第2元素のみ,Coと第2元素とを同時に担持したMFIの触媒活性を示す。Pb/MFI,Mg/MFI,Zn/MFIや,Co/Al < 0.3のCo/MFI自体にはそれほど活性が高くないにも関わらず,Pb,Mg,ZnとCo/MFIを共存させると活性が向上したことがわかる。Ni/MFIを触媒とした場合にもトルエンの生成が見られたが,これは既報16)の通り,ベンゼンの水素化分解で生成したトルエンと思われる。
図11より,MgとCoを同時にイオン交換すると最も活性が向上したことから,Mgの担持法について検討した。図12に,金属の導入手順を変えたCo+Mg/MFIのベンゼンのメチル化活性を示す。Co+Mgで同時にイオン交換した場合と,先にMgでイオン交換をして,後からCoでイオン交換をした触媒は,どちらもCoだけをイオン交換した触媒よりも高い活性を示した。一方で,先にCoでイオン交換をして後からMgでイオン交換をした触媒は,Coのみを担持したCo/MFIと同様の活性を示した。これらの結果から,MFIのイオン交換サイトには,低濃度のCo溶液でもイオン交換が進行するサイトと,ある程度高濃度にならないとイオン交換が進行しないサイトが存在しており,前者に担持されたCo2+種は本反応に対して不活性で,後者に担持されたCo2+種が活性ということが示唆される。CoとMgを同時にイオン交換した場合,Mgが前者の不活性Co種をもたらすサイトに優先的に導入されることで,Coが効率的に活性をもたらすサイトにイオン交換され,低濃度でも高い活性を示したと考えられる(図13)。今後は,分光学的な分析などを基に活性なCoのみを有するCo/MFIを設計することを目指す。
本稿では,数あるmetal/zeoliteの中でCo/MFIが773 Kでのメタンによるベンゼンのメチル化に対して特異的に活性を示すことや,活性種の解析,選択的生成について述べてきた。これらの結果は,ゼオライトと金属との組み合わせ次第では特異な化学的機能が発現すること,そのためにはイオン交換サイトの環境が重要となる可能性を示唆している。今後はCo種の環境を制御し,より高い活性を示す触媒を開発したい。本稿で示したメタンの非酸化条件下での直接メチル化剤としての利用はチャレンジングであるが,ゼオライトと金属の組み合わせによって金属種の新規な機能を引き出すことによって現実味を帯びてくる。そのためには単原子状に分散した金属種の分析,さらにはゼオライトのイオン交換サイトの構造・化学両面からの解析が必要である。我々の研究分野であるゼオライト科学の進歩によって,メタンの有効活用,ひいてはエネルギー問題の解決の一助となれば幸いである。
謝辞Acknowledgments
共同研究者の鳥取大学GSC研究センター松原仁志氏,菅沼学史講師に謝意を表する。本研究の一部はJST CREST(課題番号:JPMJCR17P1)とJSPS科研費(課題番号:JP19J15344)の補助を受けた。XAS測定には工学院大学先進工学部奥村和教授,TEM観察には大阪大学超高圧電子顕微鏡センター保田英洋教授,坂田孝夫特任研究員にご協力いただいた。
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