日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(4): 99-105 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.4.99

解説解説

超臨界乾燥とキトサンエアロゲルの開発Supercritical drying and development of chitosan aerogel

産業技術総合研究所化学プロセス研究部門National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Research Institute for Chemical Process Technology ◇ 〒305–8565 茨城県つくば市東1–1–1つくば中央第五事業所

受理日:2019年6月24日Accepted: June 24, 2019
発行日:2019年10月15日Published: October 15, 2019
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超臨界乾燥とは,液相とも気相とも界面をもたない超臨界相を経由して湿潤なゲルを乾燥させる方法であり,ゲル内部の骨格や微細構造に影響を与えることなく,溶媒だけ空気に置き換えた多孔体(エアロゲル)を得られる手法として知られている。シリカ,アルミナなどの無機酸化物エアロゲルが長らく研究の主流であったが,近年では,有機物・無機物問わず多様なエアロゲルが開発されている。本稿では,典型的な超臨界乾燥法を解説し,ポリマー系エアロゲルの一種であるキトサンエアロゲルについて最新の話題を紹介する。筆者らが開発したキトサンエアロゲルは,直径5~30 nmのキトサンナノファイバーによる三次元網目構造をもつ多孔体であり,透明性,機械的強靭さ,低熱伝導率を併せもつ材料として,高性能断熱材への応用が期待できる。また,小角X線散乱を用いた最近の検討から,従来のシリカエアロゲルと異なり,上記のナノ構造が超臨界乾燥中に形成されていることが示唆された。この結果は,超臨界乾燥が必ずしもゲルの微細構造に不干渉なプロセスではなく,積極的な構造形成ツールとして利用しうることを示している。

Supercritical drying is a method of drying a wet gel through a supercritical phase. As a supercritical phase has no clear interfaces with liquid or gaseous phases, the method can produce an aerogel by substituting solvent inside the gel with air without making any damages on the inner skeletal microstructure. Inorganic oxide aerogels, such as silica and alumina, had long been a major topic in this field, but recently aerogel ingredients have been diversified in various inorganic and organic materials. In this review, the author makes brief introductions of typical supercritical drying and recent topics on chitosan aerogel, one of the biopolymer aerogels invented by author’s group. The chitosan aerogel has a three-dimensional network structure consisting of chitosan nanofibers of 5–30 nm in diameter. This aerogel can be a good candidate for thermal superinsulation applications owing to its transparency, mechanical toughness, and ultralow thermal conductivity. According to recent investigation using small-angle X-ray scattering, unlike conventional silica aerogels, the nanofibrous structure of the chitosan aerogel is constructed during supercritical drying. This result indicates that supercritical drying is not always inactive to the microstructure, and it can be used as an active tool for microstructure fabrication.

キーワード:エアロゲル;超臨界乾燥;キトサン;小角X線散乱

Key words: aerogel; supercritical drying; chitosan; small angle X-ray scattering

1. はじめに

物質を臨界点以上の温度・圧力に置くと,液体とも気体とも明確な界面をもたない超臨界流体となる。超臨界流体を経由して湿潤な多孔体やゲルを乾燥させる方法を超臨界乾燥という。通常の常圧乾燥では,ゲル内部の溶媒が気体となって抜ける際,細孔内の気液界面に発生する応力によりゲルの収縮や構造破壊が避けられないが,超臨界乾燥では気液界面が存在せず,界面応力が発生しない。このため,乾燥に伴う構造破壊を引き起こすことなく,湿潤ゲルの微細構造をそのまま維持した乾燥体が得られる。超臨界乾燥によって得られた多孔体をエアロゲルといい,シリカを素材とするシリカエアロゲルがよく知られている。

エアロゲルの歴史は古く,1931年のKistlerの論文までさかのぼる1,2)。この論文では,「湿潤なゼリーを収縮させることなく中の液体を気体に置き換えられるか」という課題に答えるべく,シリカ,寒天,セルロースなどの数種の無機・有機ゲルの超臨界乾燥が報告された。初期の超臨界乾燥は単一組成の有機溶媒を臨界点以上にするため,高温プロセス(例えばエタノールの臨界温度241°C, 臨界圧力6.1 MPa)が必要であった。現在,主流となった方法では,超臨界CO2(臨界温度31°C, 臨界圧力7.4 MPa)を利用し,より低温なプロセスとして確立している3)。本稿では,シリカエアロゲルを例に超臨界乾燥の実際について概説したのち,筆者らが開発した有機ポリマー系エアロゲルについて紹介し,ポリマー系エアロゲルの微細構造と超臨界乾燥の関係について,最近明らかになった新たな知見について解説する。

2. 超臨界乾燥によるシリカエアロゲルの作製

CO2を用いた超臨界乾燥法にはいくつかのバリエーションがあり,ここではアルコール–CO2の2成分溶媒系を用いる手法をもとに4), シリカエアロゲルの作製手順を示す(図1)。この手法は,ある温度・圧力領域においてCO2とアルコールが全組成で均一相を形成することを利用している(図1b)。なお,2成分であるため,厳密にはこの均一相のことを超臨界流体とは呼ばない。

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図1. 典型的なシリカエアロゲルのアルコール–CO2系超臨界乾燥による作製法:a)作製スキーム,b)メタノール–CO2系組成–圧力図(353 K)と相図上の組成–圧力履歴の例(③のプロセスは昇温を伴うため,実際にはこの相図上では表現できない),c)アルコール–CO2系超臨界乾燥の模式図

①溶媒,シリカ原料,少量の触媒(アンモニア水など)を混合して熟成しゲル化させる。②アルコールにゲルを浸漬し,溶媒置換や溶存成分除去を行う。必要に応じて疎水化処理などの修飾を行ったのち,内部がアルコールに満たされたアルコゲルを得る。③アルコゲルを適量のアルコールとともに圧力容器に封入し,CO2を導入しつつ,アルコール–CO2が均一相を形成する温度・圧力域まで昇温・昇圧する。④上記の温度・圧力を維持しつつ,CO2を連続的に導入して容器内の流体を排出する。徐々にゲル内のアルコールがCO2に置き換わり,純粋な超臨界CO2に近くなる。⑤十分にアルコールが抽出されたらCO2導入を止め,容器内を減圧することで,CO2は気体となって抜け,乾燥したエアロゲルを得る。この間,気液界面は発生せず,ゲルの体積収縮はほぼ起こらない。ただし,操作条件は材料や容器体積等に応じて適切に設定する必要があり,例えば急減圧によってゲル内外の流体に密度差が発生し,部分的な収縮やひび割れを生じることがある5)

シリカエアロゲルの微細構造はゲル化条件によって異なるが,典型的なものでは,直径10~50 nmのシリカ微粒子が三次元網目状に連なった空隙率95%以上の超低密度多孔体である(図1a)。屈折率の不均一さのスケール(ここでは粒子・空隙サイズや構造のムラ)が可視光の波長よりも十分に小さく,光散乱が小さいため透明性を有する。また高空隙率に加え,メソポア内の気体の運動が制限されるため,非常に低い熱伝導率を示す。このような微細構造は基本的にゲル調製時に形成され,その後のプロセスでは大きく変化しない。例外的に,超臨界アルコールのみを用いた初期の超臨界乾燥法では,シリカ骨格の一部がアルコールに溶解してOstwald熟成が起こると報告されているが6,7),CO2を用いた場合は微細構造にほぼ影響を与えないとされている。一方,シリカ表面の化学構造は超臨界乾燥溶媒の影響を受け,CO2を用いた場合,Si–OH基を多く含む非常に親水的なエアロゲルが得られる。この場合,湿気に対する耐久性が極端に乏しいため,アルキルシリル化剤を用いた疎水化改質技術が開発されている8)

3. 多様なエアロゲル

Kistlerの最初の報告以後,エアロゲル研究の主流は長らくシリカやアルミナなどの無機酸化物であった。中でもシリカエアロゲルは非常によく研究されており,宇宙塵捕集9)やチェレンコフ光検出器10)などに実用化された。低熱伝導率を活かした断熱材としては,機械的強度の低さ(脆い,曲げられない)からエアロゲル単独のモノリス状部材として扱われることは少なく,不織布やセメントなどと複合化した高性能断熱材として商業化されている11,12)

1990~2000年代付近を境に,エアロゲル素材のバリエーションは飛躍的に増大した。従来の酸化物・複合酸化物に加え,ポリマー複合シリカ13),レゾルシノール–ホルムアルデヒドなどの有機樹脂14),有機樹脂エアロゲルを熱分解して得られるカーボンエアロゲル15,16),シリコーン系の有機無機ハイブリッド17,18),グラフェン系19),金属20),半導体ナノ粒子集積体21),高温用途を目指した炭化ケイ素22)や窒化ホウ素23)など,報告された素材は多岐にわたる。また,シリカを含む一部の材料系では,溶媒の界面張力の調整やゲルの骨格強靭化などによって,高圧を用いずとも超臨界乾燥体と類似した多孔体が得られている17,18,24)。このため現在では,製造法を超臨界乾燥に限定せず,高空隙率かつopen-cell構造(空隙が空間的に連続している)のメソポーラス体のことを,広くエアロゲルと呼ぶようになりつつある。ただし分野によって用語の不統一があり,グラファイト様炭素の多孔体全般のことを漠然とグラフェンエアロゲルと呼ぶ論文などもあるため,実際の素性や構造に関しては注意を要する。

4. キトサンエアロゲルの開発

バイオマス由来のポリマーを素材とするエアロゲルへの関心も非常に高い25)。木質の構成成分であるセルロース26),昆虫・甲殻類の殻や菌類細胞壁の構成成分であるキチン・キトサンに加え27),でんぷん,アルギン酸,マンナン,ペクチンなどのエアロゲルは,環境調和性や生体親和性を活かした用途が提案されている28–32)。ほとんどのバイオポリマーエアロゲルはミクロンサイズ以上の微細構造をもつため不透明である。最近では,セルロースナノファイバーなどの天然のナノファイバーを酸化・解繊処理によって解きほぐし,これをビルディングブロックに三次元構造を構築した透明エアロゲルが作製され,注目を集めている33)

筆者らは天然に豊富なバイオポリマーであるキトサンに着目し,透明断熱材34)や機能性ナノ粒子担持体35)を目指した透明エアロゲルの開発に取り組んできた。キトサンはセルロースやキチンと異なり,薄い酢酸などの水系溶媒に溶かして扱うことができるため,解繊処理を経ずに三次元構造材料の素材に利用できる利点がある。図2に示すように,キトサンエアロゲルはキトサン–酢酸水溶液に架橋剤を加えてゲル化させ,メタノールに溶媒置換したのち,メタノール–CO2系で超臨界乾燥したものである。空隙率は高いもので約97%であり,直径5~30 nm程度のキトサンナノファイバーによる三次元網目構造からなり,一部にナノ粒子状構造も見られる。数10 nmスケールで均質な構造をもち,光散乱が小さいため,シリカエアロゲルと同様の透明性を示す一方,シリカエアロゲルにはない機械的強靭さを併せもつ。ごく最近,10 cm角程度の中型モノリスを用いて,信頼性の高い熱流量計による熱伝導率評価を行ったところ,シリカエアロゲル(0.012~0.02 W m−1K−1)に近い0.016~0.017 W m−1K−1の熱伝導率を示したことから36), 高性能断熱材としての応用が期待できる。

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図2. キトサンエアロゲルの製造法と典型的な電子顕微鏡写真(Adapted with permission from Ref. 34. Copyright (2015) American Chemical Society)

5. キトサンエアロゲルの疎水化と超臨界乾燥溶媒

開発したキトサンエアロゲルは,CO2超臨界乾燥したシリカエアロゲルと同様,非常に強い親水性を示し,湿気に対する耐久性に乏しい。そこで,表面親水基の疎水化改質に取り組んできた37,38)図3aに示すように,シリカの疎水化8)にも利用されるヘキサメチルジシラザンを用い,キトサンの水酸基にトリメチルシリル基を導入した。このトリメチルシリル化ゲルを従来のメタノール–CO2系で超臨界乾燥したところ,図3bのIRスペクトルに示すように,乾燥後,シリル基がほぼ消失した。このような現象は,同じくヘキサメチルジシラザンで疎水化したシリカエアロゲルには見られない。詳細な反応機構はわかっていないが,加圧下のアルコール–CO2系で生じる酸性雰囲気によって39),導入したトリメチルシリル基が脱離・除去されたと考えられる。そこで次に,ゲル内の溶媒を非プロトン性のアセトンに置換しておき,アセトン–CO2の2成分系で超臨界乾燥を行った。その結果,図3cのように,導入されたトリメチルシリル基には影響を与えず,水滴接触角120°程度の撥水性を示す疎水性エアロゲルを得た。得られたエアロゲルは,もとの親水性エアロゲルと同様のナノファイバー構造を有し,見た目の透明性もある程度保持していた。ただし,撥水性と透明性は部分的にトレードオフの関係にあり,水酸基の疎水化率を上げすぎると透明性は徐々に低下する。今後は,実用環境での長期耐湿性評価や,透明性と耐湿性の最適化などが課題となる。

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図3. トリメチルシリル化キトサンエアロゲルの作製方法:a)作製スキーム,b)メタノール–CO2系,およびc)アセトン–CO2系を用いた超臨界乾燥前後のFT-IRスペクトル(Adapted from Ref. 38 with permission from The Royal Society of Chemistry)

上記の結果は,CO2を用いた超臨界乾燥が必ずしも化学的に不活性ではなく,溶媒とゲル素材との化学反応を考慮してプロセスを設計する必要があることを示す好例であるといえる。また,各種アルコールやアセトンなど,所定の温度・圧力域でCO2と均一相を形成できる溶媒ならば,溶媒の種類を問わず同様のCO2超臨界乾燥が原理的には可能であり,超臨界乾燥のプロセス設計の幅が広いことがわかる。

6. なぜナノファイバー状になるのか

前述のように,超臨界乾燥はもともとゲル内部の微細構造を崩さずに乾燥することを目指したものである。実際にシリカなど無機系エアロゲルの場合,微細構造は最初のゲル化過程でほぼ固定され,その後の溶媒置換や超臨界乾燥では変化しない。ポリマー系エアロゲルにおいても,セルロースナノファイバー,キチンナノファイバーなど,もともとのビルディングブロックが明確な形状をもつ場合は,シリカと同様,ゲル化の時点で微細構造の大部分が固定されると考えられる。

溶液から出発するポリマー系エアロゲルの場合,微細構造を決める要因はより複雑となる。一旦溶解させたセルロースを貧溶媒で再析出・ゲル化させたエアロゲルの場合,析出条件に依存して種々の構造(多くの場合,セルロースII結晶+一部非晶質のファイバー)が形成されることがよく調べられている40)。この場合,微細構造を決めるのは析出・ゲル化・溶媒置換であり,超臨界乾燥は微細構造に影響しない。筆者らが開発したキトサンエアロゲルも溶液から出発しており,結果だけ見れば,セルロースやキチンと類似したナノファイバー構造をとる。そこで,その形成機構を解明すべく,エアロゲル製造の各ステップにおける微細構造の変遷を,小角X線散乱(SAXS)を用いて探究した。

図4a,bにキトサン溶液,架橋後のハイドロゲル,溶媒(メタノール)置換後のアルコゲル,超臨界乾燥後のエアロゲルのSAXSプロファイルと,解析のため変形したKratkyプロットを示す。これらのプロットは各試料の電子密度の空間分布を反映しており,詳しい解析は原著論文41)を参照されたい。スケールを考慮して解釈すると,溶液中のキトサンは膨潤鎖(モノマー間の相互作用が無視できる理想鎖と比べ,良溶媒中で分子鎖が膨潤した状態)に,ハイドロゲル・アルコゲルではガウス鎖(分子鎖の両端間距離がガウス型分布をとる状態を指し,ここでは架橋高分子なので厳密には定義できないが,膨潤も凝集もしていない理想鎖に近い状態)に類似した散乱挙動を示すことがわかった。すなわち,ゲル化後および溶媒置換後の時点では,単なる化学架橋ポリマーのゲルであり,明確な固相(ナノファイバー)/溶媒相の境界をもつ内部構造は認められない。本来,メタノールはキトサンの貧溶媒であるため,溶媒置換中にキトサン鎖の凝集が生じてもおかしくないところであるが,実際は架橋ゲル化時の構造が維持されると示された。一方,超臨界乾燥後のエアロゲルは,直径5~30 nmのナノファイバー(単純計算でキトサン分子60~2000本相当の凝集体)と,それによって形作られたメソポーラス構造を反映したSAXSプロファイルを示した。すなわち,アルコゲルとエアロゲルの間の過程である超臨界乾燥中にナノファイバー構造が形成されたことになる(図4c)。

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図4. キトサンエアロゲル製造の各ステップにおけるa) SAXSプロファイル,b) Kratkyプロット,およびc)想定される微細構造形成プロセス(Adapted with permission from Ref. 41. Copyright(2019) American Chemical Society)

上記のSAXSに加え,超臨界乾燥冒頭において,ゲルの溶媒がメタノールからCO2(液体または超臨界)へ置換され始めるタイミングで,顕著な体積収縮が起こることも判明している。詳しい機構についてはさらに探究が必要であるが,現時点では,超臨界CO2とキトサン鎖との親和性の低さが,CO2中でのキトサン鎖の凝集に伴うナノファイバー構造の形成と,ゲルのマクロな体積収縮を引き起こしていると考えられる。以上の結果より,少なくとも化学架橋キトサンゲルにおいては,CO2超臨界乾燥中にダイナミックな微細構造変化が生じており,超臨界乾燥が必ずしも「ゲル内部の微細構造を崩さない」静的なプロセスではないことが例証された。

7. おわりに

超臨界乾燥は,ゲル内部の微細構造を維持したまま溶媒だけ抜き取ることができる便利な手法として確立してきた。シリカを主流としたエアロゲル研究は,超臨界乾燥にしても,溶媒や骨格を工夫した常圧乾燥にしても,「いかにしてゲル内部の微細構造を崩さずに乾燥させるか」に取り組んできた長い歴史と技術に支えられている。一方,現実の超臨界乾燥は必ずしも静的な過程ではなく,化学的にも物理的にもさまざまな変化を引き起こす。このことは一部の材料系では知られていたが,あまり着目されてこなかった。このため,キトサンエアロゲルで見られた超臨界乾燥中のダイナミックな構造変化は,エアロゲル研究者にとっては異質であり,超臨界乾燥への認識を改めるものになりうる。一方,異分野に目を向けると,超臨界CO2と多種多様な物質との相互作用は,抽出,合成,晶析・粒子生成,膨潤・発泡など,ごく当たり前の現象として理解され工業利用されている。エアロゲル研究は80年以上の歴史をもつ古い分野であるが,今後,とくに材料の選択幅が広いポリマー系エアロゲルにおいて,既存の乾燥方法にとらわれず,溶媒と材料との相互作用を微細構造形成に積極的に利用することで,全く新しいプロセスや材料が生み出される可能性を秘めている。

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