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アルミニウムを骨格中に多く含むゼオライトは水の吸着剤としてよく知られています。たとえば,モレキュラーシーブ4AはLTA型構造からなるゼオライトであり,その組成はSi/Al=1とアルミニウム含有量が最も多いものです。そのイオン交換サイトにはアルミニウムと等モルのナトリウムイオン(Na+)が位置しています。このNa+に水分子が容易に配位するため,モレキュラーシーブ4Aは相対湿度10%以下でも水を吸着するので,乾燥剤として広く使用されています。
ゼオライト細孔内の水分子の水素と酸素の位置は,一般に20 K以下に冷却して中性子線回折による構造解析で求められていますが1),このようなゼオライト細孔内の配位水は,極低温(4 K以下)に冷却しても凍結しないことが知られています2)。
Na+に配位した水分子を脱離させるには常圧下では450℃以上の加熱が必要です。Na+などのイオン交換サイトに位置する陽イオンへの配位水は,常温で減圧しても容易に脱離しません。すなわち一般的には,ゼオライト細孔内に吸着した水は,骨格構造にダメージを与えない上限近くの温度で減圧しながら数時間程度,保持すると,そのほとんどを脱離させることができます。
ゼオライトに含まれる水分量の測定には,試料中の含水量の定量に汎用的に用いられるカールフィッシャー滴定法[1]を直接的には適用できません3)。ゼオライトがこの測定法に用いる溶剤に溶解しないためです。そこで,ゼオライトを1000℃程度まで加熱して水を脱離させ,脱離した水分をキャリアガスで溶剤に導き,その水分を間接的にカールフィッシャー滴定によって定量する手法があります。その際にはJIS M8211:1995鉄鉱石–化合水定量方法を参照してください。その他に,熱重量分析で試料の重量減少から水の脱離量を見積もる手法があります。
ゼオライトに吸着している水を分光学的に調べる場合には,細孔外に吸着している水の存在に留意する必要があります。たとえば,アルミニウム含有量が非常に多いA型,X型,Y型ゼオライトなどの場合には,十分な量の乾燥したシリカゲルを設置したデシケーターにこれらのゼオライトを室温下で入れておくことで,粒子表面などの細孔外に吸着している水を除去して,細孔内に吸着した水のみを残すことができます。このような前処理をした試料を赤外分光やラマン分光測定すると,目的とするスペクトルを得ることができます。
特別な例として,天然ゼオライトの一つであるローモンタイト[2]は室温下で湿度の変化によってレオンハルダイトという別の相に変化します。乾燥条件下では取り込んでいる水の一部を放出して体積が収縮します。一方,湿潤条件下では,可逆的に結晶内に水を取り込むことで体積膨張してローモンタイトに戻ります。ただし,この収縮・膨張によって,結晶のへき開面に沿って亀裂を起こして白濁してしまいます(「濁沸石」名の由来)。そのため,ローモンタイト標本を保管するには,蒸留水に浸漬させておく必要があります。
[1] カールフィッシャー滴定法:化学反応を利用して試料中の水分を定量する手法です。本手法には,“電量滴定法”と“容量滴定法”の二つの滴定方法があり,電量滴定法は,微量な水分を測定するのに有効な手法です。
[2] ローモンタイト(Laumontite):濁沸石とも呼ばれている。数mm~十数cm大の結晶として採取される。
1) “Mobility of acidic protons in zeolites: A neutron diffraction study of p-heulandite”, Micropor. Mesopor. Mater., 123(2009)15–20.
2) “Neutron diffraction structure refinement of the zeolite gismondine at 15 K”, Zeolites, 6(1986)361–366.
3) “Laumontiteの鉱物化学―特に脱復水挙動について―”,ゼオライト,14(4)(1997)153–158.
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