日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(3): 84-87 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.3.84

トピックストピックス

ゼオライトのsolvent/OSDA-free合成

1静岡大学工学部化学バイオ工学科 ◇ 〒432–8011 静岡県浜松市中区城北3丁目5–1

2大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻

受理日:2019年6月6日Accepted: June 6, 2019
発行日:2019年7月15日Published: July 15, 2019
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1. はじめに

ゼオライトとは,均一なミクロ孔が規則的に配列した構造をもつアルミノケイ酸塩である。このミクロ孔は分子と同程度の大きさであり,分子の大きさに応じて分子をふるい分ける,いわゆる「分子ふるい能」を有する。また,アルミノケイ酸塩の骨格は負に帯電しており,電気的中性を保つため,陽イオンが存在する。また,この陽イオンは,他の陽イオンに交換可能である。さらに,この陽イオンがプロトンの場合,非常に強い酸触媒能を示す。このような多機能性材料であるため,これまで多様な化学プロセスにおいてイオン交換剤,触媒,吸着剤,分離膜として使用されてきた1–4)

一般的なゼオライトの合成において使用する原料は,シリカ源,アルミナ源,アルカリおよび溶媒の水である。さらに,Si/Al比の大きな高シリカゼオライトを合成する場合には,有機構造規定剤(organic structure directing agent: OSDA)と呼ばれる鋳型剤を添加する。これらを混合し,高温高圧下で結晶化させる。最終的に焼成により鋳型剤のOSDAを除去する。しかしながら,ゼオライトの製造プロセスにおいて,コスト面および環境面を考えると新規な合成手法の開発が望まれる。その一つとして,OSDAが非常に高価な物質であり,ゼオライトの原料の価格の大半を占めている。さらに,OSDAを用いた場合,高温での焼成プロセスが必要となり,多くのエネルギーを消費する。加えて,焼成によるOSDAの除去の際に有害な窒素酸化物を生じてしまう。OSDAの使用に加えて,溶媒の使用も問題である。溶媒を用いることにより,合成容器の肥大化,廃液処理の問題,収率の低下といった問題が生じる。これらの観点から,OSDAおよび溶媒(solvent)を用いずにゼオライト合成が可能となれば,非常に魅力的である。そこで本研究グループでは,メカノケミカルと呼ばれる手法で機械的に原料固体を粉砕および混合し,得られた粉末を水蒸気雰囲気下で結晶化させるゼオライト合成手法を開発した。本記事では,“ZSM-5を種結晶として添加するsolvent/OSDA-free合成”および“種結晶を用いないsolvent/OSDA-free合成”の二つの手法に関して紹介する。

2. ZSM-5を種結晶として添加するゼオライトのsolvent/OSDA-free合成5)

原料として,粉末のシリカ(ワコーゲル),アルミン酸ナトリウム(Al2O3 53.50 wt%, Na2O 46.29 wt%),水酸化ナトリウム,種結晶のZSM-5(東ソー株式会社, SiO2Al2O3=39)を用いた。60 gのシリカ,4.2 gのアルミン酸ナトリウム,8.0 gの水酸化ナトリウム,0.6 gのZSM-5をボールミルに投入し,直径10 mmのボールを用いて24 hの粉砕および混合を行った。この時,ボールミルの回転数は100 rpmで行った。粉砕後の粉末および水蒸気源の少量の水をオートクレーブ容器内の個々の容器に置き,453 Kで結晶化時間を変えて,水蒸気共存下で結晶化を行った。その後,水による洗浄および乾燥を行った。比較として,種結晶,ボールミルによるメカノケミカル処理,結晶化過程における水蒸気のそれぞれの効果を調べるためにそれぞれの条件を省いて合成を行った。

XRD測定およびFE-SEM観察により,結晶化過程の観察を行った。図1に結晶化時間を変化させた時のXRDパターンを示す。粉砕後および結晶化時間6 hのサンプルでは,XRDの回折ピークが全く存在しなかったが,結晶化時間が12 hになると,MFI構造由来のピークが現われはじめた。結晶化時間が18 hおよび24 hになると,非常に強い強度のMFI構造由来のピークが現れた。このXRD測定の結果より,結晶化時間12 h付近でMFI構造の形成がはじまり,結晶化時間24 hで高純度のMFI型のゼオライトが得られることがわかった。

Zeolite 36(3): 84-87 (2019)

図1. XRD patterns of the samples prepared by solvent/OSDA free synthesis method with seed crystals with different crystallization time.

FF-SEM観察の結果を図2に示す。原料と粉砕後の粉末のSEM画像を比較すると,粉砕後ではシリカゲルおよびアルミン酸ナトリウム粒子の原形は見られないことから,ボールミルによるメカノケミカル処理によって,原料粒子は粉砕および混合されていることが確認された。結晶化過程に焦点を当てると,結晶化時間6 hの時にサブミクロンのアモルファス粒子が観測された。XRD測定では結晶は現れてはいないが,このサブミクロンの粒子は,結晶核を含んでいると考えられる。そして,結晶化時間12 hでは,大半がアモルファスであったが,ごく一部分では,MFI型特有のcoffin型の結晶性の粒子が観測された。この一部のcoffin型の粒子が存在しているため,XRDの回折ピークが現われたと考えられる。さらに結晶化時間を延ばすと,結晶化時間18 hでは,一部アモルファスが存在するが,大半がcoffin型の結晶性の粒子となり,結晶化時間24 hでは,完全にcoffin型の結晶性の粒子のみ観測された。結晶化時間18 hまでは結晶のサイズが大きくなっており結晶成長が見られることから,水蒸気雰囲気下でアモルファスシリカ粒子からの結晶化が起こっていることが推測される。FE-SEM観察から,結晶化時間24 hで純粋なMFI型のゼオライトが得られたことがわかった。さらなるキャラクタリゼーションとして,27Al-NMR測定を結晶化時間24 hのサンプルに対して行った。その結果,図3に示すように四配位由来のAlのピークのみ観測された。この27Al-NMR測定の結果からも結晶化時間24 hで純粋なMFI型のゼオライトが得られたことがわかった。

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図2. FE-SEM images of (a) silica gel, (b) sodium aluminate, (c) ZSM-5 (seed), (d) milled as made, crystallized samples after (e) 6 h, (f) 12 h, (g) 18 h and (h) 24 h.

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図3. 27Al-MAS NMR spectrum of ZSM-5 sample crystallized after 24 h.

次に,種結晶,ボールミルによるメカノケミカル処理,結晶化過程における水蒸気の効果に関して調べるため,それぞれの条件を省いて合成を行った。図4に示すように,種結晶,ボールミルによるメカノケミカル処理,結晶化過程における水蒸気がなければ,いずれの条件においてもMFI型ゼオライト由来のXRDの回折ピークが存在しせず,結晶化が起こらなかったことがわかった。以上により,それぞれの条件が,ゼオライトの結晶化に必須であることがわかった。

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図4. XRD patterns of the samples prepared in the presence or the absence of seed, mechanochemical and steam (Crystallization time is 24 h).

3. 種結晶を用いないゼオライトのsolvent/OSDA-free合成6)

原料には,粉末のシリカ(ワコーゲル),アルミン酸ナトリウム(Al2O3 53.50 wt%, Na2O 46.29 wt%),水酸化ナトリウムを用いた。シリカの量の混合比を変えて,x SiO2: Al2O3: 3.2 Na2O (x=2, 4, 8, 16, 24, 32, 40)の組成になるように原料をボールミルに投入し,24 h粉砕および混合を行った。その後,前述と同様に453 Kで水蒸気共存のもと結晶化を行った。

原料のSi/Al比および結晶化時間を変化させて合成したサンプルの結晶構造を表1にまとめた。原料のSi/Al比が1および2の時,CAN型のゼオライトが得られた。原料のSi/Alを4に増加させると,結晶化時間24,48 hではCAN型のゼオライトが多少含まれるが,主生成物としてANA型のゼオライトが得られた。結晶化時間72 hでは,ANA型のゼオライトのみ得られた。さらに,原料のSi/Al比を増加させていくと,MOR型のゼオライト,MFI型のゼオライト,そしてα型の石英が得られた。以上の結果をまとめると,原料のSi/Al比の増加に伴って,CAN型のゼオライト,ANA型のゼオライト,MOR型のゼオライト,MFI型のゼオライト,α型の石英へと結晶構造が変化していくことがわかった。また,この結果から,Si/Al比が低い領域でのみゼオライトが形成されることもわかる。つまり,カウンターカチオンがある種のテンプレートのように働き,ミクロ孔を形成していることが示唆される。さらに,得られたゼオライトは天然に存在するものが多いことから,天然ゼオライトと近い合成条件であることも示唆された。

表1. The crystal structure of the product obtained from starting materials with various Si/Al ratios and crystallization time
SiO2/Al2O3 ratios of starting materials [−]Crystallization time [h]
244872
2CANCANCAN
4CANCANCAN
8ANAANAANA
16AmorMOR (+ANA)MOR (+ANA)
24AmorAmorMOR(+MFI)
32AmorMOR (+MFI+α-Quart)MOR (+MFI+α-Quartz)
40Amorα-Quartz (+MOR)α-Quartz (+MOR)
*Amor means amorphous phase.

4. おわりに

種結晶を用いることで,solvent/OSDA-free条件下でMFI型ゼオライトであるZSM-5の合成に成功した。また,種結晶を用いない場合においては,CAN,ANA,MOR型などの種々のゼオライトの合成に成功した。本研究で開発したsolvent/OSDA-free合成では,上述のようにコスト面および環境面において非常に優れた手法である。今後も詳細な合成条件を最適化することによって,多くの種類のゼオライト合成を目指していきたい。本手法が将来産業界で利用されることを期待したい。

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