日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(3): 75-83 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.3.75

解説解説

実験化学,計算機化学,データサイエンスの融合による設計的ゼオライト合成Designed Synthesis of Zeolite by the Integrated Experimental Chemistry, Computational Chemistry and Data Science Approach

東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻Department of Chemical System Engineering, The University of Tokyo

*1

現:米国カリフォルニア大学/ローレンス・バークレー国立研究所Present Address: University of California, Berkeley/Lawrence Berkeley National Laboratory

*2

現:物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門Present Address: Research and Services Division of Materials Data and Integrated System, National Institute for Materials Science

受理日:2019年5月15日Accepted: May 15, 2019
発行日:2019年7月15日Published: July 15, 2019
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あらゆる候補を計算機でスクリーニングして,与えられた課題に最適なものを予測した上で,それを合成する—ゼオライトの設計的な合成(Designed Synthesis)とはこのようなものと考える。現実はこれとは程遠く,実験による試行錯誤的な探索と最適化が進められている。このような現状を打破するために,我々は結晶構造,化学組成,原子位置に注目し,計算機化学とデータサイエンスを用いたゼオライトの設計的合成を目指して検討を進めてきた。その結果,結晶構造と化学組成との間の依存性の解明や,Al原子位置制御といったゼオライト合成における長年の課題の解決に貢献した。このような計算機支援による設計的合成は今後一層重要性を増すと思われる。

An ideal scheme for the designed synthesis of zeolites should start from a computational screening of all possible candidate materials towards a given application and end with synthesizing the predicted material. Unfortunately, current exploration and optimization of zeolites heavily rely on the laborious trial-and-error approach. To break through this situation, we have applied computational chemistry and data science to assist designed synthesis of zeolites with the focus on three structural descriptors of zeolites: crystal structures, chemical compositions, and atomic configurations. The results have contributed long-standing questions such as why a crystal structure is realized with a particular composition and how to control the location of Al. This computer-aided approach will be an important approach for materials design.

キーワード:Al原子位置;マテリアルズ・インフォマティクス;NMR;計算機化学

Key words: Al location; materials informatics; NMR; computational chemistry

1. はじめに

かつて材料は自然界から採取されるものであった。価値ある資源を含む鉱山は地政学的インパクトを持ち,採掘された材料は人間の生活と歴史に多くの影響を与えてきた。鉱物資源分布の調査が進むにつれ,新しい材料を得るという課題は材料科学者の手に委ねられた。今日では,材料科学はイノベーションの鍵であり,地球規模の社会問題の解決へ貢献することが期待されている1)。研究室での新材料の「採掘」は様々な出発物質と調製プロトコルを組み合わせることによって主に行われている。例えばゼオライトは,Si源,Al源,鉱化剤,無機カチオン,有機構造規定剤(OSDA),水を混合し,密閉して加熱することで合成され,化学組成や温度プロファイルを変えることで異なるゼオライトを結晶化させることができる2)。このような合成実験による材料探索は強力な手法であり,200種類以上もの新しいゼオライト構造を実現してきた3)。しかし,未だゼオライト合成のメカニズムは詳細な理解に至っておらず,ある合成パラメータが,どのように結果に影響を与えるかは不明である。

このような合成実験による試行錯誤の限界を突破し,材料探索を加速する手段として,理論計算やデータサイエンスを活用する動きが世界中で注目されている。その嚆矢となった米国のThe Materials Genome Initiativeのコアデータベースには,数十万もの材料が登録されており,それを用いた更なる理論計算,データマイニング,そして合成実験が進められている4)。ゼオライトにおけるこのようなデータベースはInternational Zeolite Associationが整備しており3),格納されている結晶情報データは結晶構造の可視化や理論計算のインプットファイルに用いられている。実験的に知られている248種類に加え,数百万種類以上の仮想ゼオライト結晶構造が理論的に予想され,データベースに登録されている5)。このようなゼオライト構造データベースを対象に,大規模な理論計算によるスクリーニングが行われている6,7)。しかしながら,「248種類」とはゼオライトの結晶構造のバリエーションを示すものである。ゼオライトの構造を支配する因子としては,他に化学組成や原子位置が挙げられる。これまでのゼオライトのデータベースや大規模スクリーニングは,結晶構造,化学組成,原子位置の少なくとも1つを網羅しておらず,ゼオライトの全体像の理解を阻んでいた。特にゼオライトの原子位置に関する研究は,分析技術の欠如などから十分に行われてこなかった。しかし近年,触媒利用においてゼオライトのAl原子位置が重要な役割を果たすことがわかってきている8)。原子位置の詳細な解析には,既往の分析技術を理論計算で補助することが必要であると考えられる。

そこで我々は,ゼオライトを設計,合成するために様々な骨格構造,化学組成,原子位置を有するゼオライトを持つゼオライトを研究対象とし,実験化学と計算機化学を用いて検討を進めてきた。本稿では,そのうちの一部を報告する。

2. Al含有量・位置のエネルギーへの影響

248種類のゼオライト骨格構造のうち,一部のゼオライトは高いSi/Alで主に合成され,一部のゼオライトは低いSi/Alで合成される。このような結晶構造と化学組成との間の依存性の一部は,Si以外のヘテロ原子が骨格構造に導入されることによる安定化に由来すると推察されてきた9)。その効果を評価するために,様々な骨格構造,組成,原子位置を持つ,H型アルミノシリケートゼオライトのモデルを生成するプログラムを開発した。データベース5)から取得した純シリカの結晶モデルを拡張し,T原子の中からランダムに選択したSiをAlに置換し,AlO4の周辺にHをランダムに配置した。得られた43409の構造をGULP10)に実装された原子間ポテンシャル11)を用いて定圧構造最適化した。T–O結合長,T–O–T結合角,O–T–O結合角はいずれも既往の研究と合致する値であった。α-クオーツを基準とした骨格エネルギーと骨格密度の計算値を図1に示す。ピュアシリカゼオライトは,α-クオーツに比べ7 kJ/mol(Si)以上高いエネルギーを有しており,熱分析の結果と一致する12)図1中の点線は,各Si/AlでのT原子としてSi,Al,Pのみを含む組成で合成可能である「典型的な」ゼオライト9)を対象とした場合の回帰直線を表しており,実線はSi/Al=∞のものである。構造が密になるにつれエネルギー的に安定になることがわかる。Si, Al, P以外のT原子が合成に必要な構造の一部は非常に高いエネルギー(30 kJ/mol(Si+Al)以上)を示しており,ヘテロ原子の導入による安定化が必須であることが示唆される。これらの傾向はピュアシリカゼオライトだけでなく,アルミノシリケートゼオライトにも見られることが今回初めてわかった。仮に骨格エネルギーがゼオライトの骨格構造に特有で,化学組成とは無関係とするならば,図1(a)–(f)には変化が見られないはずである。Alの増加とともに回帰曲線の傾きと切片が変化し,データは回帰曲線から離れたことから,骨格エネルギーは結晶構造だけでなく,化学組成と原子位置にも依存することがわかった。

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図1. ゼオライトの相対骨格エネルギーと骨格密度の関係

(a) Si/Al=∞((Si+Al)/Al=∞), (b) Si/Al=31((Si+Al)/Al=32), (c) Si/Al=15((Si+Al)/Al=16), (d) Si/Al=7((Si+Al)/Al=8), (e) Si/Al=3((Si+Al)/Al=4), (f) Si/Al=1((Si+Al)/Al=2). 濃色:T原子としてSi,Al,Pのみを用いて合成可能な構造.淡色:Si,Al,P以外のT原子が合成に必要な構造

ゼオライトは偶数員環のみで構成されるものと,奇数員環を含むものに大別される。前者に分類されるABW,CHA,LTL,SOD,LTAと,後者に分類されるBEA,BEB,MFI,STO,GONのデータを図2に抽出した。エネルギー値に分布が見られることから,結晶構造とSi/Alが同一であっても原子位置が異なればエネルギーが異なることがわかる。図2の平均値を比較すると,ABWではSi/Al=1がエネルギー的に最も安定である。ABWは,Si/Al=1で合成される代表的な構造の1つである13)。CHAでも同様にSi/Al=1が最安定という計算結果となった。CHAは広い組成範囲で合成可能だが,高いSi/Al比の実現には構造規定剤として嵩高い有機カチオンが不可欠である。今回の計算条件により近いと思われる,無機カチオンを内包したCHA14)は,Si/Al=2の組成を持ち,今回の計算結果に近いと思われる。偶数員環ゼオライトが無条件にSi/Al=1が最安定な計算結果となるとは限らず,LTLはSi/Al=3で最安定であった。K+存在下で合成されたLTLは,実際にSi/Al=3の組成を持つことが知られている15)。SOD, LTAはABWと同様にSi/Al=1で最安定であり,典型的な合成例と合致している17,18)

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図2. 一部のゼオライトの相対骨格エネルギーとSi/Alの関係性

◇:平均値

一方,奇数員環を含む骨格構造としては,*BEA(BEAとBEBの共晶),MFIなどのペンタジルゼオライトが知られている。これらはOSDAを用いて合成される高Si/Alのゼオライト群のうち,最初期に合成されたものである。BEAの計算結果では,平均エネルギーが1 kJ/molの範囲に収まっており, *BEAの広い合成範囲を反映した可能性がある。天然の*BEAはSi/Al=3を示すが,種結晶添加法によるOSDAを用いない合成19)ではSi/Al=4.5となり,合成時にOSDAを用いることでSi/Al=8.1以上,フッ素を用いることでSi/Al=∞の組成が実現可能である。MFIの計算結果では,Si/Al=31および∞において相対骨格エネルギーが低くなっている。実験結果によれば,Al源を含む条件において,MFIは高Si/Alで合成可能で,Si/Al=∞も可能である20)。STO21)とGON22)は5員環を含み,比較的高いSi/Al比で合成されるゼオライトであるが,これらもSi/Al=31ないし∞で最安定となった。

Al位置制御における究極の目標の1つは,ある特定の結晶学的Tサイトのみに100% Alを導入し,残りのTサイトはSiとした,特異的なAl分布を持つゼオライトの合成である。このような特異的Al分布を有するゼオライトは,触媒反応の活性点となるTサイトのみにAlを導入し,必要な物性を効率よく実現できる可能性がある。そこで,BEAの骨格構造に対して特異的Al分布ゼオライトの結晶構造を生成し,構造最適化した。図3の結果から,ランダムな位置にAl原子を持つモデルよりも,特定の位置に原子を持つモデルの方が安定であることがわかる。特に,Si/Al=15においてT8(図3(a),(b)),Si/Al=7においてT6(図3(c),(d))にAlを有する場合に特に安定であった。これらはβイオン交換サイトに隣接する6員環のAl–O–Si–O–Si–O–Al配列に対応している。この結果はOSDA-freeで合成された*BEAの実験結果5)と一致しており,ゼオライト合成におけるAl位置の分布が,特定の系では生成物の熱力学的安定性の影響を強く受けることを示唆している23)

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図3. BEAの相対エネルギーのボックスプロット

(a)Si/Al=15,(c)Si/Al=7,(b)BEAのT8サイト,(d)BEAのT6サイト,大:Al原子

3. FAUの合成,分析および計算

高Si/AlのFAUは触媒利用のために重要であるにも関わらず,直接合成のルートが限られており,脱Alの後処理が工業的に採用されている。しかし,前章の計算におけるカチオンをNaに変更し,同様の計算を行ったところ,Si/Al=2–3.5でほぼ同程度の安定性を示すことがわかり,OSDAや種結晶を用いないFAUの直接合成法の最高値(2.6±0.2)を更新できる可能性が示唆された(図424)

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図4. FAUにおける相対骨格エネルギーとSi/Alの関係

OSDA-free合成において,ゼオライトのSi/Alを向上させるには,反応混合物中の水酸化物イオンの濃度を減らす,ないしSi/Alを上昇させるというアプローチが考えられる。このようなアプローチによってSi/Al=2.1のLTA18)を得ていた米国Houston大学Rimer研究室との共同研究により,Si/Al=3のFAU,HOU-3の合成に成功した24)。HOU-3は通常のFAU25)と比べ3日間と非常に長い合成時間を要し,7日後もGISなどの不純物が副生しない。この現象は,HOU-3が熱力学的に非常に安定であることを示唆している。この仮説を検証するために,我々はHOU-3のAl原子位置の解析に取り組んだ。

ゼオライト中のAl原子位置の分析法としては,27Al MAS NMRが最も強力な手法の1つである。しかし,FAUは対称性が比較的高い構造であり,単位胞のT原子はすべて結晶学的に等価である。このため,Alの周辺環境は同一であると考えられ,27Al MAS NMRによる原子位置の区別は難しい。そこで,29Si MAS NMRを用いて間接的に情報を得ることを試みた(図5(a))。既報で知られているように,29Si MAS NMRから得られるピークから,Siに結合したO–Alの数nを推定することができる26)nの割合から計算されるSi/Alは元素分析の結果と一致した。このようなnが,FAUの原子位置が無作為なために統計的に現れる値なのか,それとも何らかの偏りが生じた結果現れた値なのかを確認するために,ランダムなAl原子位置分布を持つSi/Al=3のNa-FAU結晶モデルを2,000通り生成し,nの情報を得た。モデルから得られたnの分布を図5(b)に示す。原子位置がランダムであったとすると,図5(b)の平均値(◇)に近い実験値が現れるはずだが,29Si MAS NMRによる実験値(×)との間には乖離があった。この偏りの起源を探るため,2,000のFAUモデルのうち,最もnの実験値と近い5つのモデルのエネルギー値を評価し,Al原子位置がランダムな場合と比較した。実験値と合致するnを示す構造の1つを図5(c)に示す。図5(d)に見られるように,実験値と合致するモデルは,ランダムなモデルよりも低いエネルギーを有していることがわかった。この結果は,前章と同様,本合成経路が熱力学的安定性の影響を強く受ける系であることを示唆している24)

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図5.(a)HOU-3の29Si MAS NMRスペクトル,(b)ランダムに生成された2,000個のSi/Al=3のFAUモデルのQ4(nAl)の割合,(c)HOU-3のNMRと最も合致するAl原子(青)の位置,(d)HOU-3とランダムに生成されたSi/Al=3のFAUのエネルギー値の比較

4. IFRの合成,分析および計算

前章までに見られたようなAl原子位置のエネルギー依存性が他の系でも現れるとすれば,合成条件によって人為的に系の熱力学的安定性を制御することで,ゼオライト骨格中の特定の位置にAlを導入するというアプローチが考えられる。この仮説を検証するために,以下の条件を満たすゼオライトを研究対象とした。

  1. 27Al MAS NMRにより区別可能なTサイトを有する
  2. OSDAが「真のテンプレート」27)に近い挙動を示す

27Al MAS NMRによりAlの位置を詳細に分析するためには,骨格中の異なるTサイトに存在するAlが,それぞれ異なる信号を発し,得られるピークが分離可能である必要がある(条件ⅰ)。更に,OSDAによるAl位置の変化を評価するためには,ゼオライト骨格中でOSDAがほとんど移動・回転することがない,「真のテンプレート」に近いことが必要であると考えた(条件ⅱ)。これらの条件を満たし,かつ複数のOSDAで合成可能な骨格構造をデータベースからスクリーニングした結果,本研究では4つの結晶学的Tサイトを有するIFRを研究対象とした。

2章で得られたアルミノシリケートIFRの構造モデルを解析したところ,存在するTサイトの違いにより,Al周辺の局所構造が大きく異なることが示唆された。この結果は,IFRが条件ⅰを満たしている可能性があることを示唆している。また,IFRの合成に用いられるOSDA(図6(a))の構造空隙中での挙動を分子動力学計算により確認したところ,443 Kにおいて,ほとんど回転・移動することがなく(図6(b)),IFRが条件ⅱも満たし得ることがわかった。

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図6.(a)IFR合成に使用した3つのOSDA(b)IFRとOSDA2の複合体

OSDAがAl原子位置に及ぼす影響を調べるために,3種類の異なるOSDAを用いて,IFRを同一合成条件下で合成することを試みた。様々な合成条件の検討の結果,2段階加熱法を採用することで,IFRを同一合成条件下かつ異なるOSDAで合成可能であることを見出した。CHN元素分析,TG-DTA,ICP-AESより,IFRのケージ1つあたりに1つのOSDAがそれぞれ含まれており,Si/Al比は20–30程度であることがわかった。

次に,結晶中のAlの情報を得るために,NMRによる分析を行った。シングルパルス27Al MAS NMRから得られるスペクトルでは,ピークが真の値からシフトし,ブロードニングしてしまう。そこで,四極子相互作用の二次項を除去可能な,27Al MQMAS NMRを使用した(図7)。得られた2次元スペクトルからはδF1とδF2の情報を得ることができる。δF2の値を用いてシングルパルス27Al MAS NMRで各TサイトのAlの占有率を求めた28)(表1)。δF1とδF2から以下の式で計算される真の化学シフトδisoの値を用いることで,理論計算との比較が可能になる28)

δiso=1727δF11027δF2

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図7. IFRの27Al MAS NMRスペクトル

(a, c, e)27Al MQMAS NMR,(b, d, f)シングルパルス27Al MAS NMR

表1. 異なるOSDAを用いて合成されたIFRのAl占有率(%)
OSDAT1T2T3T4
OSDA139282211
OSDA254231210
OSDA35025817

3つのOSDAがIFR中のどの位置のAlを安定化するかを調べるために,Quantum ESPRESSO29)に実装された密度汎関数法を用いてOSDA–IFR複合体を構造最適化したところ,各Alサイトの安定性が表2のように変化した。いずれのOSDAでもT1サイトが最も安定であり,Alの占有率がT1サイトで高いという実験結果と一致する。一方,不安定なサイトはT3であった。中でもOSDA3とT3の組み合わせはエネルギー的に最も不安定であり,占有率も低いという結果であった。しかし,OSDA1とT3の組み合わせでは安定性と占有率が改善された。その起源を探るため,密度汎関数法による構造最適化後の結晶モデルを検討したところ,OSDA1の電気的に中性なN原子とT3に隣接するO原子との間の距離が3.7 Åと非常に近く,これにより系が安定化している可能性が示唆された。

表2. 異なるTサイトにAlを有するIFRとOSDAの複合体のエネルギー(kJ/mol)
OSDAT1T2T3T4
OSDA10196
OSDA203314
OSDA304371

この結果は,他の影響を排除した合成条件下でOSDAによるAl位置規定効果を検討し,それを各Tサイトの存在比に定量的に帰属した初めての例であり,一般に速度論的に決定すると思われていたAl位置分布30)が,特定の系では生成物の熱力学的安定性から影響を受けること示唆している31,32)。本研究で使用したOSDAとIFRの系が「真のテンプレート」に近いことが,この現象を引き起こす理由の1つとして考えられる。

5. おわりに

本研究では,与えられた課題に対して最も適切なゼオライトを設計,合成するために,構造,化学組成,原子位置に着目した計算機支援合成ワークフローの確立を目指した。その結果,骨格構造と化学組成との間の依存性や,ゼオライトのAl原子位置制御といった長年の課題の解決に貢献した。材料合成の分野でも理論計算やデータサイエンスの活用は非常に有用である。実験と計算の様々な手法を結集することで,設計的ゼオライト合成を可能とする技術基盤およびデータベースを開発していきたいと考えている。

謝辞Acknowledgments

本研究は,科学研究費助成制度(16J10484, 16K18284),公益財団法人旭硝子財団の研究助成を受けて実施されました。計算資源の一部は分子科学研究所および東京大学物性研究所により提供されました。本研究の一部は,米国Houston大学Assoc. Prof. Jeffrey D. Rimer,東京大学生産技術研究所の吉川健准教授,早稲田大学の下嶋敦教授との共同研究によって行われたものです。

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