日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(3): 64-74 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.3.64

解説解説

古典的なASFモデルを打破するジェット燃料直接合成用Co/Ymeso-La触媒Co/Ymeso-La Catalyst for Jet Fuel Direct Synthesis by Breaking the Classical ASF Model

富山大学大学院理工学研究部工学系応用化学Department of Applied Chemistry, School of Engineering, University of Toyama ◇ 〒930–8555富山市五福3190番地

受理日:2019年5月7日Accepted: May 7, 2019
発行日:2019年7月15日Published: July 15, 2019
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近年,FT(Fischer–Tropsch)合成技術を用い,その複雑な反応経路を制御することにより目的生成物の選択性を向上させるという研究が盛んに行われている。筆者らは,修飾されたメソ体ゼオライト-コバルト触媒を用いることにより一酸化炭素と水素の混合ガスである合成ガスから一段階で様々な液体燃料を二次水素化精製処理なしに高い選択率で合成することに成功した。具体的には,メソ細孔を有するY型ゼオライトとコバルト(Co)を組み合わせた触媒を用い,La,Ceなどの修飾によってゼオライトの酸性度と細孔径の調整を行うだけで,ガソリン燃料,ジェット燃料,軽油燃料をそれぞれ74,72,58%という高い選択率で直接合成できた。特に合成ガスからのジェット燃料の一段合成は世界初で成功した。この結果は従来のFT合成における生成物分布の法則であるAnderson-Schulz-Flory(ASF)分布から逸脱したものである。我々は炭素–炭素結合分解寄与度,炭素連鎖成長確率という二つの要素を含むより包括的な新しい生成物分布モデルを確立した。

To tune the product selectivity by controlling the complicated reaction paths is a big challenge in Fischer–Tropsch synthesis. Here, we report an integrated catalytic process for the direct conversion of syngas (CO/H2) into different types of liquid fuels without subsequent hydrorefining post-treatments of Fischer–Tropsch waxes or other hydrocarbon products. Outstanding selectivities for gasoline, jet fuel and diesel fuel as high as 74, 72 and 58% are achieved, respectively, by only using mesoporous Y-type zeolites in combination with cobalt nanoparticles and La, Ce, K promoters. The types of liquid fuels can be readily tuned by controlling the porosity and acid properties of the zeolites with the aid of promoters. The present work offers a simple and effective method for the direct synthesis of different types of liquid fuels. Especially, it is the first time that the jet fuel is synthesized from syngas directly. We further build a new product-distribution model, containing both carbon chain cracking degree and carbon chain propagation probability, for these bifunctional catalysts, which do not obey the classical Anderson–Schulz–Flory (ASF) distribution.

キーワード:Fischer–Tropsch合成;Anderson–Schulz–Flory分布;Y型ゼオライト;二元機能触媒;ジェット燃料

Key words: Fischer–Tropsch synthesis; Anderson–Schulz–Flory distribution; Y-type zeolites; bifunctional catalysts; jet fuel

1. はじめに

近年,天然ガス,バイオマス,石炭を原料として液体燃料を合成する手法が注目されている1,2)。その典型的な合成経路を図1に示す。天然ガス,バイオマス,石炭は水蒸気処理後,ガス化または部分酸化を経て合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)へと転換される。合成ガスはさらにFT(Fischer–Tropsch)合成を経由することで液体燃料やワックス(C21以上の炭化水素)へと変換される。FT合成は式(1)で表される。

(1)nCO+(2n+1)H2=CH3(CH2)n2CH3+nH2O(n=1)

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図1. 天然ガス,バイオマス,石炭のFT合成を経由した液体燃料への変換プロセス

液体燃料とワックスは同時生成するため,収率向上を目的として,ワックス成分については液体炭化水素と分離後,さらに固体酸触媒を用いて水素化改質や水素化分解など,液体燃料へ変換する別の工程が必要となる。この工程には専用の反応塔と触媒が必要となるため生産コストが高くなってしまう。従って,特定の液体燃料を一段階で選択的に合成できる技術を確立することで現代エネルギー産業の発展につながることが容易に予測される。

一般的に,FT合成により合成された炭化水素燃料は硫黄分や芳香族化合物をほとんど含まないため石油精製由来の燃料よりクリーンであるといえる。しかし,FT合成による炭化水素生成物は一般的に広い炭素数(炭化水素分子内の炭素原子数)分布を有し,これはASF(Anderson–Schulz–Flory)分布として昔から確立されている3,4)。長い間,FT合成の生成物はASF法則に従うものだと考えられ,その大半が予測可能であった。しかし,従来のASF法則は長鎖の炭化水素中の炭素–炭素結合を分裂させるような触媒作用を持つ触媒には適応できず,そのような触媒における生成物分布は従来のASF分布とは大きく逸脱したものであった。この現象を踏まえ,炭素鎖成長と炭素鎖切断の二つの触媒作用を持つFT合成用二元機能触媒においても正確な生成物分布が必要とされていた。

ASF法則では,炭素nの活性種が炭素n+1の活性種へ成長する速度の定数kp,炭素nで重合が停止する速度の定数をktとすれば,炭素数nの活性種の連鎖成長確率αは式(2)で表される。

(2)α=kp/(kp+kt)

炭素数nの重合生成物の全重合生成物に占める重量分率Wnを示した式(3)が重合反応の重合度分布を示すAnderson–Schulz–Flory式である5,6)

(3)Wn=nα(n1)(1α)2

FT合成用触媒では,生成物はおおむね重合確率則に従うため,高い選択率で目的の留分を得ることができない。具体的に,ガソリン燃料(C5–11),ジェット燃料(C8–16),軽油燃料(C10–20)では選択率がそれぞれ48,41,40% という値を超えられないと予測されていた。様々な研究機関がFT合成によるこれらの生成物の選択率向上のために研究を行った結果,ガソリン,軽油燃料については増加傾向が見られたが,ジェット燃料については依然として選択率を向上させることは困難を極めていた。

現在,FT合成には鉄(Fe)とコバルト(Co)が活性金属として使用されている。Fe系の触媒は反応温度域が比較的広く,様々なH2/CO比の合成ガスが用いられるのに対し,Co系の触媒は,一般的に高転化率かつ長鎖炭化水素が高選択率で合成される1,5)。またZSM-5やβ型のゼオライトは多元機能触媒(ここでは炭化水素の異性化と炭素–炭素結合の切断という二つの役割を担う)として炭素鎖C5–12付近の液体燃料成分の一段階合成に用いられている7,8)。これまでに一部の研究報告においては触媒の特性を変化させるだけで各燃料をより高選択率で得ることに成功していたが,高選択率で液体燃料成分を合成しようとすると,一種類のゼオライトが直接合成可能な燃料成分は一種類のみであった7–9)

本研究では,Coが担持されたメソ細孔を有するY型ゼオライト(Co/Ymeso)をベースとし,特定の化学種を導入させることで合成ガスから直接,ガソリンやジェット燃料,軽油などの液体成分をそれぞれ高い選択率で合成することに成功した。特に,重質イソパラフィンを含むジェット燃料については,選択率が72% と高い値を示し,合成ガスからジェット燃料の直接合成に世界初で成功した10)。さらにFT直接合成用二元機能触媒に対する生成物分布モデルを新たに確立した。本分布モデルは,重質炭化水素の炭素–炭素結合の分裂度合いも考慮したものである。

2. 触媒の調製と反応

市販のYmicro-Na(Si/Al=2.8,東ソー(株))とEDTA(ethylenediamine-tetraacetic acid)水溶液をフラスコの中に入れ,373 Kで6時間撹拌させつつ還流を行った。その後ろ過により固体を分離,乾燥させた後,水酸化ナトリウム水溶液内に加え,338 Kで0.5時間撹拌を行った11)。このようにして調製したメソ細孔を有するYmeso-Naゼオライトをろ過,乾燥を経た後に,各NH4+,Ce3+,La3+,Li+,K+ 硝酸塩水溶液中に入れ,353 Kで12時間撹拌し,イオン交換を行った。さらにろ過後,823 Kで6時間,Air下で焼成を行った。これらの操作により粉末状担体であるYmeso-H,Ymeso-Ce,Ymeso-La,Ymeso-Li,Ymeso-Kゼオライトが得られた。また対照実験用に,Ymicro-Naゼオライトにそれぞれ硝酸NH4+, Ce3+を用いて上記と同様にしてYmicro-H,Ymicro-Ceゼオライトを調製した。

さらに各Ymeso型ゼオライトに15 wt% のコバルトを担持するために,硝酸コバルト六水和物を用い,融解浸透法によってそれぞれ15 wt%Co/Ymeso触媒を得た11)。まず,硝酸コバルト六水和物とYmesoゼオライトを混合し,乳鉢を用いて0.5時間すりつぶした。その後ガラス容器に入れて333 K,48時間,Air下で乾燥後,673 K,4時間,N2下(40 mL/min)で焼成を行った。以上の操作により,Co/Ymeso-H,Co/Ymeso-Ce,Co/Ymeso-La,Co/Ymeso-Li,Co/Ymeso-K触媒を得た。また対照実験用としてCo/SiO2,Co/Al2O3,Co/Ymeso-Na,Co/Ymicro-Na,Co/Ymicro-H触媒も上記と同様の方法で調製した。反応は固定床流通式反応装置を用いた。各触媒は反応直前に673 K,8時間,H2(60 mL/min)下で還元を行い,反応温度523 K,反応圧力2.0 MPa,合成ガス組成比H2/CO=1,合成ガス流量18 mL/min,接触時間10 gh/mol,触媒量0.5 g,反応時間10時間の条件下でFT合成反応を実施した。また,各触媒における炭素–炭素結合の分解能を評価するためにn-ヘキサデカン(n-C16)を反応原料として分解反応を行った。上記同様,固定床流通式反応装置を用いて,反応前に673 K,8時間,H2(60 mL/min)下で還元を行い,反応温度523 K,反応圧力2 MPa(H2ガス条件下),H2ガス流量60 mL/min,触媒量0.5 g,反応時間10時間の条件下で反応を行った。なおn-ヘキサデカンは送液ポンプを用いて反応管に導入した(0.24 mL/h)。両反応ともガス成分についてはオンラインTCD,FID,液体成分についてはオフラインFIDでの分析を行った。

3. FT直接合成反応結果とその生成物分布

表1図2にFT直接合成反応の結果を示す。

表1. 各触媒におけるFT直接合成反応結果
CatalystCO Conv. [%Hydrocarbon Selectivity [%Ciso/CnColefins%CTY
[mol
CO kgCo−1 h−1
CH4C2–4C5–20C21+
Co/SiO2478.84.464230.618155
Co/Al2O3467.74.962250.517152
Co/Ymicro-Na36149.4716.10.826119
Co/Ymeso-Na32115.472120.724106
Co/Ymeso-H2817196402.21293
Co/YmesoCo/Ymeso-Ce34116.68202.318112
Co/Ymeso-La409.54.58603.317132
Co/Ymeso-Li38114.072130.618126
Co/Ymeso-K30123.974100.41999
Colefin% はC5-C20の中のオレフィン%,CTY(Cobalt-time-yield)は1時間にCo 1 kgあたりに転化されたCOのモル量を表す.
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図2.(a)各触媒におけるFT直接合成反応結果(b)Co/Ymeso-Ce触媒の生成物分布(c)Co/Ymeso-La触媒の生成物分布(d)Co/Ymeso-K触媒の生成物分布

従来のFT合成用触媒であるCo/SiO2触媒とCo/Al2O3触媒はいずれも液体燃料成分の選択率が低く,C21+のワックス成分の選択率が高かった。この結果から,ワックス成分のクラッキング反応により液体燃料成分の選択率を向上させる必要があることがわかる。Co/Ymicro-Na触媒は従来の触媒よりもC5–21の液体燃料成分の選択率が高かった。しかし,望ましくないCH4やC2–4などのガス成分の選択率も高かった。そこでメソ細孔を有するY型ゼオライト(Co/Ymeso-Na)を用いると,ガス成分生成物の選択率は低く,重質炭化水素生成物の選択率を高くすることができた9)。またn–C16分解反応においてもガス成分の選択率が低く,C5–20の液体燃料の選択率が高かった(図2a表2,3)。しかし,Co/Ymeso-H触媒に関しては,C5–20の液体燃料成分の選択率は低く,C21+ の重質炭化水素成分が完全に分解され,望まれないCH4やC2–4の選択率が高かった。

表2. 異なる細孔構造および異なる酸性質を有するゼオライトを用いたFT直接合成反応結果
CatalystCO Conv. [%Hydrocarbon Selectivity [%Ciso/Cn
CH4C2–4C5–20C21+
Co/Ymicro-Na36149.4716.10.8
Co/Ymeso-Na32115.472120.7
Co/Ymicro-H3023265102.7
Co/Ymeso-H2817196402.2
表3. 異なる細孔構造および異なる酸性質を有するゼオライトを用いたn-C16分解反応結果
Catalystn-C16 Conv.
%
Hydrocarbon Selectivity [%Ciso/Cn
CH4C2–4C5–15
Co/Ymicro-Na90233.0740.01
Co/Ymeso-Na93151.4840.02
Co/Ymicro-H940.539602.4
Co/Ymeso-H971.925732.1

一般的にゼオライトのブレンステッド酸がワックス成分の水素化分解または異性化を引き起こす12)。そこで,NH3-TPD測定(Temperature programmed desorption of ammonia)とピリジン吸着法を用いたFT-IR測定(Fourier-transform infrared spectroscopy)によって各ゼオライトの酸点の評価分析を行った(図3c,3d)。NH3-TPD測定では高温領域(600 K以上)にピークがあれば,ブレンステッド酸点とNH3の相互作用が強く,強い酸点を有するといえる13)。一方,600 Kを下回る領域のピークは,相互作用が弱く,担体とNH3との物理吸着を意味している。図3cよりYmeso-La,Ymeso-Ce,Ymeso-H触媒の順で高温領域(600 K以上)のピークエリアが増え,ブレンステッド酸強度と酸量がともに大きくなり,Ymeso-Na,Ymeso-K触媒ではブレンステッド酸を有していないことがわかる13–15)。FT-IR測定では,ルイス酸,ブレンステッド酸の酸点を区別して評価することが可能である14,15)図3dより,1544 cm−1付近の吸収帯はブレンステッド酸によるものと考えられる。また1490 cm−1付近の吸収帯はブレンステッド酸とルイス酸のピーク両方を示している。1440 cm−1付近の吸収帯はルイス酸によるものと考えられる。以上のことから,Ymeso-Hゼオライトが最も強いブレンステッド酸を有することが判明した。Ymeso-La,Ymeso-Ceゼオライトが弱いブレンステッド酸を有している理由は,Ymesoゼオライト内では希土類のカチオンが部分的加水分解により水和された状態にあるからだと推測される16)

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図3. Ymesoの細孔構造と酸性度の測定(a),(b)Ymicro-Na,Ymeso-H,Ymeso-Ce,Ymeso-La,Ymeso-KゼオライトにおけるAr吸脱着等温線と細孔径分布(c)各種ゼオライト触媒のNH3-TPD測定結果(d)各種ゼオライト触媒のピリジン吸着法FT-IR測定結果

またCo/Ymeso-H触媒は60時間のFT合成反応において転化率が20%にまで減少し,液体燃料中のガソリン成分の選択率も低かった(図4a)。この結果から,Co/Ymeso-H触媒の過大なブレンステッド酸が触媒活性の不安定化と重質炭化水素の過剰分解を引き起こしたことが判明した。

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図4. FT合成における触媒寿命評価(a)Co/Ymeso-H触媒(b)Co/Ymeso-Ce,Co/Ymeso-La,Co/Ymeso-K触媒

一方,Co/Ymeso-CeとCo/Ymeso-La触媒はC5–20の液体燃料成分の選択率,Ciso/Cn比ともにCo/Ymeso-Na触媒よりも高い値を示した(図2a表1)。さらにCo/Ymeso-Ce触媒についてはガソリン燃料の選択率が74%(図2b),Co/Ymeso-La触媒についてはジェット燃料の選択率が72%(図2c)という高い値を示した。この二つの触媒は,液体燃料成分の選択性に加えて,CO転化率が非常に安定していた(図4b)。対照実験として,SiO2担体(汎用的担体として)にLaを担持したCo/SiO2-La触媒を調製し反応を行ったが,生成物の炭素数分布は広く,イソパラフィンについても選択率向上には至らなかった(図5)。イソパラフィンを多く含む生成物はオクタン価が高く,ガソリン燃料として有効に活用できる上,ジェット燃料として使用した際に,融点を下げることができる。

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図5. 異なる担体を用いたCo-La触媒によるFT合成の生成物分布(a)Co/Ymeso-La触媒(b)Co/SiO2-La触媒

さらに,Co/Ymeso-Li,Co/Ymeso-K触媒をそれぞれ用いた反応では,Co/Ymeso-Na触媒と似た生成物分布を有し,どちらの触媒も液体燃料(C5–20)のうち軽油燃料の割合が高かった。Co/Ymeso-K触媒は軽油燃料の選択率が58% であり,Ciso/Cn比は0.4と低い値であった(図2d表1)。高品質の軽油燃料はイソパラフィン量が少ないことが求められるため,Co/Ymeso-K触媒は他の触媒よりもその基準を満たしているといえる。加えてこの触媒は安定したCO転化率と高軽油燃料選択率を示した(図4b)。以上の結果から,Ymesoゼオライトを用いた時のみ,特定の液体燃料が得られることが判明した。

4. 各ゼオライトにおける細孔分析

各触媒それぞれの細孔構造を比較するためにAr吸脱着測定(図3a,3b表4),エネルギー分散型X線分析装置つき透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)による測定(図6),X線回折測定(XRD)を行った(図7c)。Ar吸脱着測定,XRD測定から,各Ymesoゼオライトは多数のメソポーラス構造を有するが,メソポア,マイクロポアのそれぞれの比表面積,細孔径,細孔容量から判断するにマイクロポアとしての性質も有していることが判明した。TEM-EDSより,各YmesoゼオライトはYmicro-Naと比較することでメソポーラス構造を有していることがわかり,各カチオンが確実に存在することが確認できた。さらに細孔形状の違いで生じる特性について調査するために同化学種,異細孔構造を有するゼオライト担体を用いてAr吸脱着測定(比表面積,細孔径,細孔容量測定),H2-O2法(Co還元度測定),H2化学吸着法(H2吸着量測定),TEM(Co粒子径の測定),XRD(Co3O4およびCoの粒子径測定)による分析を行った(図7a,7b表5)。Co/Ymicro-Na触媒とCo/Ymeso-Na触媒についてはCo還元度,Co分散度,粒子径は似ていたがCo/Ymeso-Na触媒はCo/ Ymicro-Na触媒よりFT合成,n-C16分解測定のどちらにおいても重質炭化水素の選択率が高かった。同じような現象がCo/Ymicro-H触媒とCo//Ymeso-H触媒の間でも確認された(表2,3)。これらの結果からメソポーラス構造が生成物選択性を決定するに重要な要因であることが判明した。

表4. 各ゼオライトにおけるAr吸脱着測定結果(a)BET比表面積(b)細孔径2–50 nmにおける比表面積(c)マイクロポアの細孔容積(d)メソポアの細孔容積(e)メソポアの細孔径(f)マイクロポアの細孔径
SampleABETa
[m
2 g−1
Amesob
[m
2 g−1
Vmicroc
[cm
3 g−1
Vmesod
[cm
3 g−1
Dmesoe
[nm]
Dmicrof
[nm]
Ymicro-Na540540.200.07/0.7
Ymicro-H536510.210.09/0.7
YmesoYmeso-Na5521380.180.27170.7
Ymeso-H5041260.140.25140.7
Ymeso-Ce5151030.170.19210.7
Ymeso-La536760.180.15290.7
Ymeso-K512990.160.20250.7
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図6. Ymicro-Na,YmesoゼオライトのTEM-EDS観察結果(a)Ymicro-Na(b)Ymeso-Ce(c)Ymeso-La(d)Ymeso-K

スケールバー:TEM像,EDS像(a)50 nm,200 nm(b)100 nm,200 nm(c)50 nm,100 nm(d)100 nm,200 nm

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図7.(a)Ymicro-Na,Ymeso-NaゼオライトにおけるAr吸脱着等温線と細孔分布 (b)Ymicro-H,Ymeso-HゼオライトにおけるAr吸脱着等温線と細孔分布 (c)各ゼオライトにおけるXRD測定結果

表5. 各触媒における物理化学的な特性(a)Co還元度(b)H2化学吸着量(c)Co3O4の粒子径(d)Co分散度(H2化学吸着量から算出)(e)Coの粒子径(XRDから算出)(f)Coの粒子径(TEMから算出)
SampleReduction degreea
%
H2 chemisorption amountb
[µmol g
−1
Size of Co3O4c
[nm]
Co dispersiond
%
Co diametere
[nm]
Mean Co sizef [nm]
Co/Ymicro-Na7764226.51519
Co/Ymeso-H4953168.51116
Co/Ymeso-Ce7072198.11216
Co/Ymeso-La7385149.21013
Co/Ymeso-K8076177.51314
Co/SiO28479167.413/

5. 反応メカニズム

Yゼオライトのメソ細孔は反応の進行に不可欠である。嵩高い異性体炭化水素,長鎖炭化水素がスムーズに触媒粒子から脱出するために,マイクロ細孔よりメソ細孔の存在は重要である。さらに水素がCOより拡散しやすいため,マイクロ細孔のみでは細孔内H2/CO比がより高くなり,このような水素リッチな環境では炭素連鎖成長が困難になり,メタンも過剰に生成する。メソ細孔の導入は炭素連鎖成長を促進することおよび嵩高い異性体炭化水素,長鎖炭化水素の脱出両方に貢献できる。Kの導入がYゼオライトの酸点をほとんどなくし,ノルマル体のFT軽油成分を多く保留した。一方,Ceの導入によってCo/Ymeso-Ce触媒には強酸点が非常に多く生成し,水素化分解と異性化能力をかなり発揮し,FT軽油成分をiso-C8などのガソリンまで変換した。Co/Ymeso-La触媒はCo/Ymeso-Ce触媒より強酸点が少なく,水素化分解と異性化能力も相対的に弱く,FT軽油成分をiso-C11などのジェット燃料まで変換した。

6. FT直接合成用二元機能触媒のための新しいASF分布モデルの確立

従来のASF分布モデルはFT合成反応における生成物の分布を表す際に,炭素鎖成長率αを用いて上手く描写されていた(式3)3–6)。この分布モデルを用いることで,従来使われてきたSiO2またはAl2O3担体にCoやFeを活性金属として用いたFT合成用触媒では,それぞれに対する液体燃料生成物の選択率はおおよそが予測可能であった。しかしながら,Co/Ymeso触媒では炭化水素生成物中の炭素–炭素結合切断作用が現れ,生成物分布が劇的に変化した。この結果は従来のASF分布モデルから大きく逸脱したものであり,その生成物選択率を図8aに示す。よって筆者はFT直接合成用二元機能(炭素連鎖成長と炭素連鎖切断)触媒を用いた際の,より包括的な生成物分布モデルを描写するために重質炭化水素を液体燃料に変換させる能力を数値化した,分解寄与度βを新たに設定した。

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図8. 従来のASF分布とFT直接合成用二元機能触媒の分布モデルの比較:(a)従来のASF分布から算出したα=0.9という値を採用したときの生成物選択率(黒)とFT直接合成用二元機能触媒用分布モデルでの液体燃料選択率(その他の色)の比較(b)ガソリンの分布モデル(c)ジェット燃料の分布モデル(d)軽油の分布モデル

FT直接合成用二元機能触媒の生成物分布モデルを描写するにあたり,従来触媒であるCo/SiO2触媒を用いてCo/Ymeso触媒と比較したところ,Co/SiO2触媒では,Co粒子サイズが類似していたことと炭素-炭素結合分解寄与度が低かったことから,C5–11の炭化水素生成物においてα=0.9という理想的な炭素鎖成長確率の値が得られた(図8a表5)。Co/Ymeso触媒においてこのαの値と様々な液体燃料成分の選択率の値を式7–12 3–6)に代入することによって炭素-炭素結合分解度を算出した。この計算結果から各Co/Ymeso触媒におけるβの値は,ガソリン,ジェット燃料,ディーゼル燃料それぞれ0.7,0.8,0.6であった(表6)。

表6. 従来のASF分布での生成物選択率(ASF分布より算出したα=0.9という値を採用した)と各Co/Ymeso触媒を用いたFT直接合成反応におけるβの算出値:(a)ガソリン(b)ジェット燃料(c)軽油燃料

以上の過程で算出したαβの二つのパラメーターに基づいて,ガソリン,ジェット燃料,ディーゼル燃料の生成物分布モデルを作成した(図8b–8d)。計算式は下記(3)–(12)に示す(Snは生成物選択率)。図8b–8dの各液体燃料選択率の等高線図は,分解寄与度βに対して炭素鎖成長確率αの値をプロットすることによって得られた。x軸上の燃料分布はb,c,dそれぞれC12+,C17+,C21+の分解寄与度を表している。

(3)Wn=nα(n1)(1α)2

(4)W14=n=14(nαn1(1α)2)

(5)W511=n=511(nα(n1)(1α)2)

(6)W12+=1W14W511

ガソリン分布モデルを描写する際に用いた式(7),(8)

(7)W511=W511+β(1W14W511)=β+(1β)×W511β×W14=β+(1β)×n=511(nαn1(1α)2)β×n=14(nαn1(1α)2)

(8)S511(%)=W511×100

ジェット燃料分布モデルを描写する際に用いた式(9),(10)

(9)W816=β+(1β)×n=816(nαn1(1α)2)β×n=17(nαn1(1α)2)

(10)S816(%)=W816×100

軽油燃料分布モデルを描写する際に用いた式(11),(12)

(11)W1020=β+(1β)×n=1020(nαn1(1α)2)β×n=19(nαn1(1α)2)

(12)S1020(%)=W1020×100

最終的に,算出したFT直接合成用二元機能触媒の生成物分布での生成物選択率と本研究において反応に用いたCo/Ymeso触媒の実験値を比較するとそれぞれの液体燃料選択率での誤差は5%以内であった(表7)。

表7. 従来のASF分布の各留分(α=0.9を使用),各種液体燃料分布の実験データと二元機能触媒の分布モデルから算出した生成物分布の比較:(a)Co/Ymeso-Ce触媒でのガソリン選択率(b)Co/Ymeso-La触媒でのジェット燃料選択率(c)Co/Ymeso-K触媒での軽油燃料選択率
SampleHydrocarbon Selectivity
%
C5–11C8–16C10–20
Ideal ASF distribution263337
Bifunctional catalyst distribution model727259
Experimental distribution74a72b58c

7. 総括

本研究ではCoナノ粒子に加え,助触媒をYmesoゼオライトに担持させた触媒を用いることで,ガソリン,ジェット燃料,ディーゼル燃料をそれぞれ高選択率で直接合成することができた。具体的には選択率がそれぞれ74,72,58%という従来のASF法則から予測される値と比べ,非常に高い値を示した。各触媒における生成物の分布は,Ymesoゼオライト中の酸性度と細孔サイズの二つの要素,つまり炭素–炭素結合分解寄与度,炭素連鎖成長確率が大きく関与することが判明した。また,FT合成用二元機能触媒の生成物分布について従来のASF分布よりさらに効果的に表すことができる分布モデルの創成を行った。特定の生成物の選択率を向上させるためにこれら二つのパラメーターを合理的にコントロールする必要があるといえる。以上のように,異なる種類の液体燃料を一段階で合成する簡単な方法論を提案した。この統合的合成法は他の多段階触媒反応を一段合成反応にする可能性を示唆するものとなった。

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