MOFとは何ですか?
金属有機構造体(metal-organic framework: MOF)は,金属イオンと,分子内に2つ以上の配位部位を持つ有機分子(有機配位子)の配位結合によって形成される結晶性の多孔性物質で,多孔性配位高分子(porous coordination polymer: PCP)とも呼ばれます1,2)。MOFを形成する代表的な金属イオンとしては,Al3+,Ti4+,Cr3+,Fe3+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+等,有機配位子としては,カルボキシル基を含む化合物や窒素を含む複素環式化合物等が挙げられます。構成する金属イオンと有機配位子の組み合わせが多様であるため,現時点で報告されているMOFの種類は,1000種類以上とも言われています。MOFの名称は,研究者が所属機関の名称等を用いて独自に命名する例が多くあります。尚,名称中の元素記号は,MOFを構成する金属イオンを示します。
MOFとゼオライトとの類似性に注目すると,金属イオンのCo2+やZn2+とイミダゾール類から形成されるMOFは,ゼオライト型イミダゾール構造体(zeolitic imidazolate framework: ZIF)と呼ばれ,ゼオライトと同様の基本構造を有します。これは,イミダゾール類が形成する配位結合の角度が約145°であり,ゼオライトのSiO4単位のSi-O-Siの角度と類似しているためです。例えば,Zn2+と2-メチルイミダゾールから形成されるZIF-8のトポロジーは,ソーダライト(SOD)と同じです。
MOFは,その構造に応じて,高い比表面積,シャープな細孔径分布,構造柔軟性等の特徴を持つことが知られています。研究例の多いMOFのBET[1]比表面積の報告例としては,Cu-BTC[2]:約2000 m2/g,ZIF-8[3]:約1800 m2/g,UiO-66[4]:約1000 m2/g,MIL-100(Fe)[5]:約2100 m2/g,等が挙げられます。最も高い比表面積を持つMOFとしては,7000 m2/gを示すNU-110[6]が報告されています。細孔径は,最も狭いネック部分では最小0.3 nm程度から,最も大きなケージ部分では10 nm程度まで報告されています。MOFの骨格構造を形成する配位結合は比較的弱い結合であるため,一部のMOFは構造に柔軟性があり,ゲスト分子の吸脱着による細孔径の変化,一定の圧力以上で急激に吸着が始まるゲート型の気体吸着特性,吸着による結晶の体積変化を示すことが報告されています3,4)。
以上のようなMOFの特徴を生かし,新規なMOFの開発,構造や吸着特性に関する基礎研究5),そして様々な応用へ向けた研究が進められています。応用例としては,気体の吸蔵,触媒,センサー,プロトン伝導材料,吸着材料6),分離膜7,8),合成場としての利用9),等が挙げられます。