日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(2): 29-37 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.2.29

解説解説

単分散メソポーラスシリカナノ粒子の精密作製とコロイド結晶の構築Precise Preparation of Monodispersed Mesoporous Silica Nanoparticles and Fabrication of Colloidal Crystals

1名古屋大学未来材料システム研究所Institute of Materials and Systems for Sustainability, Nagoya University ◇ 〒464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町

2早稲田大学理工学術院先進理工学部応用化学科Department of Applied Chemistry, Faculty of Science & Engineering, Waseda University ◇ 〒169–8555 東京都新宿区大久保3–4–1

3早稲田大学各務記念材料技術研究所Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology, Waseda University

受理日:2019年2月19日Accepted: February 19, 2019
発行日:2019年4月15日Published: April 15, 2019
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ナノ粒子を規則配列させたコロイド結晶は,フォトニック結晶やユニークなテンプレートなど様々な展開が期待される物質である。本稿では,メソポーラスシリカナノ粒子(MSNs)に着目し,コロイド結晶を構築するために必要な単分散性や分散安定性を有するMSNsの作製方法およびその規則集積について概説する。一般にコロイド状MSNsの作製には通常のMSNsと比して作製条件に制限があるが,精密構造制御にはシードグロース法を利用した合成が有効であった。ここではシードグロース法を用いてコロイド状MSNsを精密設計し,コロイド結晶化した我々の報告を中心に紹介する。さらに,最近では,作製したMSNsの単分散性を維持したまま形態を制御する方法を確立しつつあり,中空粒子やクローズドポアを有するMSNsの作製についても説明する。

Colloidal crystals, ordered assembly of nanoparticles, have attracted great attentions in various fields as photonic crystals and templates. In this review, the preparative methods of mesoporous silica nanoparticles (MSNs) with high monodispersity and colloidal stability were presented. Fabrication of colloidal crystals composed of MSNs was also mentioned. Although the preparation conditions of colloidal MSNs have generally been limited, a seed-growth method allowed precise structural design of colloidal MSNs. Our reports on the precise design of colloidal MSNs using the seed-growth method and fabrication of colloidal crystals were introduced. In addition, the preparation methods of MSNs with hollow structure and closed pores were discussed because recent researches clarified that the structure and morphology of MSNs can be controlled while retaining their monodispersity.

キーワード:単分散;コロイド結晶;メソポーラスシリカ;コロイドナノ粒子

Key words: monodispersity; colloidal crystals; mesoporous silica; colloidal nanoparticles; キーワード英文

1. はじめに

粒子が規則的に配列した物質はナノ粒子結晶やコロイド結晶などと呼ばれ,その規則性を生かした様々な応用が期待されている1,2)。これらは主としてコロイド粒子の自己集合により構築されており,規則的な集積を達成するためには単分散性(この言葉は粒子が孤立して分散しているという意味でも近年使われているようだが,ここでは粒径分布の相対標準偏差が10%未満であるという本来の定義で用いる)と高い分散安定性の両立が必須であるため,コロイド結晶が構築できる組成は限定される。その代表例が,シリカナノ粒子が規則配列したコロイド結晶であり,リソグラフィーのマスクやフォトニック結晶として利用されるなど,その基礎研究や応用展開は古くから行われてきた3)。特に,シリカナノ粒子の粒径を制御することで,コロイド結晶の周期性や細孔径を制御可能であるため,粒径制御は重要な課題の一つであるが,近年ではStöber法の改良により100 nmを切るような粒径の小さなものでも単分散コロイドナノ粒子を作製し,コロイド結晶化できるようになっている。これらの粒径の小さなシリカナノ粒子で構築されるコロイド結晶を利用した研究も精力的に行われてきた4–9)。例えば,その粒径制御性の高さと選択的除去能を生かし,様々な物質のテンプレートとして利用されている。特に,シリカナノ粒子をテンプレートとして得られる多孔性の金属や金属酸化物は規則的でかつ非常にアクセス性の高い構造であるため,触媒や電極材料などの幅広い応用が期待される物質群である10–13)。この他にも,複数種類のシリカナノ粒子を同時に集積することで超格子結晶を構築し,4種類の細孔を有するメソポーラス物質を創製したり14),シリカコロイド結晶自体を結晶化させたりすることで機能化するなど15),その発展は止まるところがない(Fig. 1)。

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Fig. 1. シリカ系ナノ粒子のコロイド結晶とその様々な展開

近年では単純なシリカナノ粒子を集積させるだけでなく,メソポーラスシリカナノ粒子(MSNs)を精密に設計し集積する技術も開発され始めてきた。メソポーラスシリカは均一な細孔や高い比表面積,修飾可能な表面を生かし,ゲスト種の導入による様々な機能性付与が可能である。2003年から矢野らを中心に粒径が数百nm程度のMSNsを利用したフォトニック結晶としての応用が検討され始めており16),密な構造のナノ粒子結晶やコロイド結晶では発現し得ないユニークな機能を有することが明らかになっている。例えばフォトニック結晶として利用する場合にメソ細孔に選択的に機能物質を導入することで,フォトニックバンドを乱すことなく機能化できる。また,MSNsで構成されるコロイド結晶のメソ細孔に酸化鉄ナノ粒子を導入した場合には磁気光学特性効果の増強も確認されている17)。この他にも蛍光色素を導入することでレーザーとしての利用が検討されているほか18),高い比表面積を利用したセンサーとしても活用されている。また,テンプレートとして利用する場合にも,細孔内部に反応物を詰めることで従来にない新規物質を創製することも可能である19,20)。このように,MSNsのコロイド結晶は基礎的には興味深い性質を示すことが知られているが,シリカ系ナノ粒子で注目を集める粒径が100 nm以下のナノ粒子ではそもそもコロイド結晶の構築自体に至っていなかった。

本稿では,一般論として高い分散安定性を有するMSNsを作製するための方法について説明したのちに,単分散性と高い分散安定性とが両立するメソポーラスシリカナノ粒子を作製した報告を中心にまとめた。これらを規則的に配列させ,コロイド結晶化する方法についても解説する。また,最近の進展として,単分散コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子の形態や細孔を独立して後から精密に制御することが可能になってきており,これらについても簡単に紹介する。

2. コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子

一般的にカチオン性界面活性剤のミセル溶液に対して塩基とテトラアルコキシシラン(Si(OR)4, R=Et, Me)を加え,加水分解・縮重合反応を行うことによりシリカ–有機メソ複合体が形成される。得られた複合体を焼成や化学処理によって有機成分(=テンプレート)を除去することで,メソポーラスシリカが得られる。このとき,pHや溶液中のSi濃度を調節することによって粒径100 nm以下のナノ粒子を得ることができ,Mannらが粒径数十nm程度のMSNsを作製して以来21),様々なMSNsが作製されている。しかし,ほとんどの報告は分散安定性について言及しておらず,凝集体として得られているものと推察される22)

我々が知る限りではコロイドMSNsという単語が利用されるようになったのは2007年のBeinらの報告が初めてである23)。これまでMSNsの分散安定性については明瞭に議論がなされたことがほとんどなくTEM観察による議論に限定されていたが,この報告を契機に多くの論文で動的光散乱法などによるMSNsの分散安定性について議論がなされるようになった。それ以降,多くの論文でコロイド状という言葉が使われているが,1次粒子の状態で高い分散安定性を有するMSNsについて記した論文は一握りに限られる。高い分散安定性を有するMSNsの作製は二つの過程で決まる。一つ目は界面活性剤–シリカ複合体を作製する過程,二つ目は界面活性剤を除去する過程である(Fig. 2)。

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Fig. 2. コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子の合成に向けた二つの過程

界面活性剤–シリカ複合体を作製する過程において,メソポーラスシリカがナノ粒子として得られているからといって,コロイドであるとは限らない点に注意が必要である。分散安定性の高い界面活性剤–シリカ複合体を作製する方法の一つが界面活性剤濃度を上げることである。作製段階において高い分散性を維持させるためには,セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)などの界面活性剤ミセルが鋳型として働きつつ,粒子表面で分散剤としても働く必要がある。実際に,Si/CTAB比を変化させていくと,CTAB量が少ない時には白濁したナノ粒子の沈殿物が得られるが,CTABの量を増やしていくとナノ粒子がコロイドになることが明らかになっている24)

さらに,得られたコロイド粒子から界面活性剤を除去する過程においても,粒子が不可逆的に凝集することが多い。MSNsは一般的に表面にシラノール基を多く有しており,一度凝集するとシラノール基同士の脱水縮合により粒子同士が連結してしまう。遠心分離による沈降と塩酸エタノール溶液による抽出を繰り返す操作は分散性を維持しつつMSNsの鋳型を除去する最も一般的な手法ではあるが,粒径の比較的大きな粒子にしか適用できず,MSNsのロスも多い。筆者らのグループでは分散したMSNsの精密作製を目指し,様々な合成を行ってきた。透析膜を利用して酢酸/エタノール混合溶液に対する溶媒置換を繰り返すことで,凝集過程を経ずに界面活性剤を除去可能ということを明らかにしている。実際に,この手法で作製したコロイド状MSNsはTEM像から算出される平均粒径と動的光散乱測定により測定した流体力学的直径がほとんど一致していることを確認した25)。最近では,Heynesらが不可逆的な凝集をしないように表面修飾を行ったり26),Beinらが分散したまま焼成することで鋳型を除去したりするなど27),多様な手法が開発されている。これらの二つの要素を考慮することで初めてコロイド状MSNsを作製することが可能である。

3. 単分散コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子

先述のようにコロイド状MSNsの作製には大量の界面活性剤を使用するが,これらは核発生を促進することにも繋がるため,自発核が大量に析出することになる。そのため,多くのコロイド状MSNsは粒径分布の標準偏差は比較的大きいものになっている。そこで,我々はシードグロース法による粒子成長を単分散MSNsの作製に適用することにした28)。ただし,単純に作製ステップを分けるだけでは自発核の発生を抑えることができなかったために,MSNsの作製に利用するテトラアルコキシシランを使い分け,シード作製時と粒子成長過程で加水分解速度を制御することで自発核発生の抑制を狙った。Fig. 3(左上)が核となるMSNsのTEM像であるが,この時点で標準偏差が約5 nm程度の非常に粒径分布の狭いMSNsを得ることに成功した。得られた種粒子をテトラプロポキシシラン(TPOS)を用いて核成長させることで,自発核を抑えつつ粒子成長させた。この時,TPOSを加える回数を増やしていくことで粒径を制御可能であり,60 nmから160 nmまで幅広い範囲で粒径を制御することに成功した。いずれも粒径分布の絶対標準偏差はほとんど変化しておらず,最初のシード粒子の単分散性を反映したMSNsが得られている。このことから,MSNsのシードグロースにおいても,古典的な核発生理論を適用した粒径制御方法が活用できるのだろうと考えている。

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Fig. 3. シードグロース法を利用した単分散コロイドMSNsの合成方法と粒径および細孔系の独立した制御

そこで,さらにこの単分散メソポーラスシリカナノ粒子の細孔径を粒径と独立して制御することを考えた。一般に古典的な核発生理論におけるLaMer機構で得られる粒子の場合には,粒子成長過程において自発核発生がない時にシードの大きさと数に変化がなく粒径が一定となる。このシード成長の段階においては,テトラアルコキシシランの加水分解を著しく早めるなど自発核発生を促進する物質でなければ様々な添加物を導入可能である。我々はこれまでに分散安定性を維持しつつ細孔径を拡大するためにトリイソプロピルベンゼン(TIPB)をミセル膨潤剤として添加することが有効であることを明らかにしていたが,単純にTIPBの添加は同時に粒径も大きく変化させてしまうことが判明していた29)。これは粒子の核発生速度が変化し,粒子数などが大きく変化することに起因する。そこで,このTIPBをシード粒子作製後の粒子成長過程のみに添加させた。これにより,細孔径をTIPB量,粒径をTPOS量で独立して制御可能なMSNsの作製法を確立した。この細孔拡大MSNsの細孔の詳細な構造は明らかになっていないが,窒素吸脱着等温線からは二種類の細孔が混じっていることが確認されている。実際に,粒径が60 nmから80 nm程度のMSNs粒子の細孔径のみを3 nmから十数nmまで大きく変化させることに成功している(Fig. 3(下)30)。細孔径の大きなMSNsには様々なゲスト種を導入することが可能になり,ナノ粒子やタンパク質など多様な物質を内部に導入可能になる。この粒子成長過程において添加可能な物質はミセル膨潤剤に限らず,有機アルコキシシランなども添加可能であり,テトラアルコキシシランとのco-condensationにより単分散MSNsを機能化することも可能である。実際に,アミノプロピルトリエトキシシランを加えても単分散性を維持しつつ粒子成長することを確認しており31),MSNsの精密作製法として様々な展開が期待される。

4. メソポーラスシリカナノ粒子のコロイド結晶

一般的にコロイド結晶が得られるためには,単分散性と分散安定性の両立が必要である。我々が作製してきた単分散MSNsは規則配列に必要な粒径分布の狭さは有していたが,単純なコロイド結晶の濃縮や乾燥では規則配列には至らなかった。これはMSNsの分散安定性の低さに起因すると予想した。一般的にコロイド粒子を結晶化させるためには,剛体球斥力のみを仮定した場合だと体積分率φが0.49まで濃縮する必要がある。このような濃縮状態でも分散状態を保ち続けることができる粒子が結晶化する。シリカ系粒子の場合には静電相互作用が働くために0.49よりは低い濃度でも結晶化が進行するが,極めて高い分散安定性が必要になるという点では変わりない。従来のコロイド状MSNsでは全く報告されていなかった濃度の領域であり,多くの単分散MSNsは分散安定性の欠如により規則配列に至っていないと推測される。

MSNsは表面にシラノール基(Si-OH)を有しており,等電点(pH2)以上ではプロトンが解離することでシラノレート基(Si-O)になる。このシラノレート基の負電荷による静電相互作用が主な斥力として作用することで,MSNsは分散している。このような静電相互作用で分散する粒子における斥力をさらに増加させるためには,脱塩が効果的であることは知られている。溶液中に反対電荷のイオンを取り除くことで,電荷の影響を遮蔽するものがなくなり拡散電気二重層が広くなるためである(Fig. 4(左))。そこで,作製したMSNsの溶液をイオン交換樹脂に浸漬したところ,拡散電気二重層が広がったためか明確なイリデッセンスが観察され,溶液中で疎充填型コロイド結晶を構築していることが示唆された。この十分に斥力が働いている状態でコロイド溶液を乾燥したところMSNsが規則的に配列することが確認された。これはMSNsの粒径が60 nmから100 nm程度まで作製した全ての単分散MSNsに適用可能であり,いずれも規則配列することを確認している28)。細孔を拡大したMSNsでも同様に規則配列が可能ではあったが,細孔を拡大することで機械的強度が落ちることは確認しており,特に細孔径が10 nm以上のMSNsに関しては乳ばちを利用した粉砕程度の加圧で構造が崩壊してしまうことも判明している30)。これらのMSNsはコロイド結晶を構築するものとしては最小の大きさであり,ユニークなテンプレートなどへの展開を期待している。

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Fig. 4. (左)脱塩による分散安定性向上の模式図および外観写真,(右)作製したコロイド結晶のSEM像

5. 単分散コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子の形態制御

メソポーラスシリカナノ粒子といっても,その形態や構造は多岐にわたる。例えば,中空粒子やクローズドポアを持つ粒子は内部に様々な物質を貯蔵することができるため,コロイド結晶としての価値が高い。しかしながら,単純なメソポーラスシリカナノ粒子でさえ単分散コロイド状で作製することが難しい中で,これらの形態制御まで同時に行うことは容易ではない。これらの達成には単分散コロイドナノ粒子の形態を後からpost-treatmentにより変化させることが有効である。

こういったpost-treatmentにより単分散性と分散安定性を維持しつつ形態変化に成功した例をここでは紹介する。近年注目を集める材料の一つに中空ナノ粒子が挙げられ,メソポーラスシリカナノ粒子に有機架橋型アルコキシシランを添加したところ,コア粒子が溶解して中空粒子が得られることが確認された32)。この中空ナノ粒子は元のメソポーラスシリカナノ粒子の大きさを反映したものであり,粒径や単分散性,分散安定性をほぼ保持していたことから,形態を後から制御することに成功したといえる。通常シリカ系粒子をテンプレートとしてシェルを被覆する場合には,コアシェル型ナノ粒子になり,中空化には塩基処理などによるエッチングが必要となるが33),この手法では有機アルコキシシランを添加して加熱するという極めて簡便な手法でコロイド状中空ナノ粒子を得ることに成功している。この手法は単分散メソポーラスシリカナノ粒子の簡便な精密作製に繋がるため,この現象のさらなる調査を行った。

有機シロキサンを利用したシリカの溶解現象はこれまでにも報告されており,オルガノシリカエッチングと呼ばれるシリカナノ粒子のエッチングとして提唱されていた34,35)。この他にもいくつか有機シロキサンによる溶解現象は提案されていたが,実際にはそのメカニズムの詳細は不明であった36)。そのような中,この中空粒子が形成する現象は,コア粒子が単純に溶媒中に溶解するエッチング現象ではないことを我々は明らかにした。具体的には,Fig. 5 (a–e)に示すようにコアシェル粒子が形成後,コアに存在するQ環境のシリケートが溶解してシェルにほぼ全量が再析出することで中空化が進行していることが明らかになった(Fig. 5 (f))。特に二次元NMRの結果からQ環境シリコンはT環境シリコンと混ざっていることが示唆されており,シェル部の再構築とコアの溶解は同時に進行していることが予想された。実際に,ICP発光分光分析(Fig. 5 (f))や幾何学的な体積計算の結果もQ環境シリコンが溶媒にほとんど溶け出していないことを示唆している。有機シロキサンを利用したナノ構造体作製は非常に一般的な手法であるが,このようにQ環境シリコンと複合化することでシリカを溶解させるといった現象は学問的にも材料合成手法としても非常に面白いものである。現在のところ,有機シロキサンがT2ユニットを多く保持している場合にはこのような溶解再析出が進行することが明らかになっており,さらなる組成や構造体の展開を進めている。規則配列するナノ粒子の作製にも成功しつつあるため,今後もさらなる検討を予定している。

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Fig. 5. 中空ナノ粒子の作製スキーム,(a–e)HAADF-STEM像(それぞれ2,4,8,12および24時間経過後の像),(f)ICP発光分光分析により算出した溶解Si量および(g)NMRスペクトル((上)2時間後,(下)24時間後)

最近の報告としてMSNsの単分散性を維持しつつクローズドポアを付与することも試みている。例えば,MSNsの分散液のpHや粒子濃度を適切に制御したのちに,テトラアルコキシシランを添加して加水分解・重縮合させることで,MSNsの内部細孔を維持しつつ密なシリカシェルで被覆することに成功した37)。この内部細孔は外部空間から隔離されており,窒素分子のアクセスもできないクローズドポアとなっている。このシリカ被覆の際に,MSNsの細孔内部に事前に蛍光色素を導入しておくことで,クローズドポアの内部に色素を閉じ込めることにも成功している。このクローズドポアを有するMSNsは元のMSNsの粒径や単分散性を維持しており,アクセス性のみを制御することに成功したともいえる。この他にも,鋳型除去前のメソポーラスシリカナノ粒子をエタノールと共に水熱処理することで,単分散性を維持しつつクローズドポアを有するMSNsを作製することにも成功している。この方法に関しては得られているMSNsの内部構造などは不明瞭であり,メカニズムも調査段階ではあるが,単純な水熱操作だけでクローズドポアが得られるという点で非常に興味深い現象であり,簡便に形態制御する手法としての展開も期待される。

6. おわりに

本稿では,メソポーラスシリカナノ粒子のコロイド結晶を作製するため,精密に単分散コロイド状メソポーラスシリカナノ粒子を作製する手法を紹介した。これまでに,粒径や細孔径を厳密に独立して制御し,規則的に配列させることができるようになっている。近年では,それに止まらず単分散性を維持した形態制御方法も確立されつつあり,コロイド結晶の幅も大いに広がることが予想される。コロイド結晶の元となるMSNsの精密設計自体は成熟しつつあるが,全ての要素を複合的に制御するという点においては未だに発展途上である。実際に,形態制御と構造制御の両立は未だに一部のMSNsでしか報告がなされておらず,自在に制御可能だという水準には達していない。今後は作製したコロイド結晶自体を利用する研究が推進されると共に,粒子自体の設計方法の確立も続けていくべき課題である。

謝辞Acknowledgments

本稿に記した筆者らの研究成果は以下の共同研究者らの努力と科学研究費補助金(15J06919)および国際科学技術共同研究推進事業(分子技術)「触媒のための新規2次元および3次元メソスケール構造形成に向けた分子制御ハイブリッドナノビルディングブロックの自己集合」の援助によってなされたものであり,ここに記して感謝する。

共同研究者:下嶋敦教授,和田宏明教授,浦田千尋氏,大西健太氏,森聖矢氏,内田早紀氏,程鹿々氏

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