日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 36(1): 18-19 (2019)
doi:10.20731/zeoraito.36.1.18

基礎講座基礎講座

第五回

発行日:2019年1月31日Published: January 31, 2019
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ゼオライトはどのように社会で利用されていますか?

ゼオライトは,イオン交換能,吸着機能,分子篩機能,固体触媒作用を有することが知られています。これらの性質を利用して,ゼオライトは洗剤用ビルダー,脱水剤,化学物質の分離,抗菌・脱臭剤,石油精製/石油化学触媒等,化学工業・環境・生活分野において幅広く利用されています。

イオン交換能の応用例としては,界面活性剤の機能発現の阻害要因となるマグネシウムやカルシウムイオンをナトリウムA型ゼオライトとのイオン交換によって除去する(硬水の軟水化)洗剤用ビルダー1)や,放射性セシウム・ストロンチウムを含む高濃度汚染水からの放射性物質除去2)等が挙げられます。

吸着機能の利用としては,微量の水分除去が典型例として挙げられます。A型・X型ゼオライトはシリカゲルやアルミナと比べて水との親和性が極めて高く,空気や各種ガスの脱水精製や,溶媒・冷媒等の乾燥に使用されています。空気を極低温に冷却して酸素・窒素・アルゴン等を分離する深冷空気分離プロセスでは,低温で固化して配管を閉塞する水と二酸化炭素を,冷却前にゼオライトで除去します3)。また冷媒乾燥用に,カーエアコンや冷蔵庫の冷凍サイクル内に使用されたり,複層ガラスの結露防止のためにガラスの間に充填されたりしています3)。バイオエタノールの脱水にも,ゼオライト成形体やゼオライト膜が使用されています4)。ハイシリカゼオライトは工場から排出される有害な揮発性有機化合物(volatile organic compounds (VOCs))の吸着除去や濃縮に広く利用されています5)。ゼオライトパウダーは樹脂に混合することも可能なため,吸水・脱臭機能のある樹脂フィルムや包装材料としても使用されています。

ゼオライトの分子篩機能を利用した代表的な使用例としては,ゼオライトの均一な細孔径を活用した,ガソリンのオクタン価向上のための5Aゼオライトによるイソパラフィンからノルマルパラフィンの分離6),13Xゼオライトによるパラキシレンとメタキシレンの分離7)等が挙げられます。また,窒素と酸素の分子径や極性の差を利用して,工業用・医療用の酸素発生装置にもゼオライトが使用されています8)

また特殊な例としては,Y型やA型ゼオライトに銀を導入することで抗菌機能が付与され,生活空間における抗菌剤・脱臭剤等として使用されています9)

なお,ゼオライトの触媒機能の応用については,次項で説明します。

ゼオライトは触媒としてどのように利用されていますか?

ゼオライトは固体触媒として広く活用されています。その利用方法は,ゼオライトそのものを触媒として利用する場合と,触媒活性を示す金属成分を担持する担体として用いる場合に大別できます。

アルミノシリケートからなるゼオライトは,SiO4四面体と(AlO4)四面体が三次元に連結した構造をとるため,[≡Si–O–Al≡]結合の酸素上に(−1)の負電荷が生じます。この負電荷をプロトン(H+)で補償すると,この部位はBrønsted酸性を示すようになります。ゼオライトは非晶質のシリカアルミナに比べるとはるかにターンオーバー頻度が高いため,工業的に非常に有用な固体酸触媒として使用されています。またゼオライトは,結晶構造に由来するミクロ細孔があるため,高い比表面積を有することから,金属成分を高分散に担持できる触媒担体として利用されています。金属成分の担持状態は,金属または,金属酸化物の微小な粒子として担持される場合と,[≡Si–O–Al≡]結合の酸素近傍に陽イオンとして担持される場合に分けられます。前者の例としては,白金(Pt)が担持されたゼオライトがあり,この触媒はPtの水素化・脱水素能とゼオライトの固体酸性質を兼ね備えているため,二元機能触媒と呼ばれています。後者の例としては,銅イオン(Cu2+)をイオン交換により担持したゼオライトがあり,自動車排ガス中の窒素酸化物(NOx)を選択的に還元するための触媒として研究が進められ,活用されています。

本稿ではアルミノシリケートからなるゼオライトのみを解説しましたが,アルミニウム(Al)を他の元素に同型置換10)したゼオライトでは,Lewis酸性質が現れる,また過酸化水素(H2O2)を酸化剤とする酸化触媒として作用する,といった特長もあります。

応用例の詳細は参考文献11–16)をご覧ください。

用語説明

[1] 分子篩:英語ではモレキュラーシーブ(molecular sieve)と呼ばれており,ゼオライト細孔径と分子サイズの大小関係により,分子の選択的な取り込みが起こることである。この性質を利用して,工業的に化合物の分離が行われている。

[2] Brønsted酸:プロトン(H+)を他の物質に供与することができる物質を指す。

[3] ターンオーバー頻度:単位個数の触媒活性点が単位時間に変換できる反応物の量数を表す数値。

[4] Lewis酸:他の物質(例えば,アンモニア(:NH3),ピリジン(C6H5N:)等)の電子対を受容することができる物質を指す。

引用文献References

1) “洗剤ビルダー用ゼオライトの新しい研究動向”,ゼオライト,7(3)(1990)16–21.

2) “ゼオライトを主体とした放射性物質の吸着剤の開発と応用”,ゼオライト,35(2)(2018)64–74.

3) “ゼオライトを用いた吸着分離技術”,東洋曹達研究報告,29(2)(1985)161–167.

4) “実機バイオエタノール脱水用ゼオライト膜の現状”,ゼオライト,25(3)(2008)93–101.

5) “ゼオライトハニカム吸着体の応用例と今後の展望”,ゼオライト,29(2)(2012)37–42.

6) “ゼオライトを利用した石油工業プロセス”,燃料協会誌,47(7)(1968)561–569.

7) “新版石油精製プロセス”,公益社団法人石油学会編/講談社,(2014)307–309.

8) “ゼオライト系吸着剤の圧力スイング法(PSA)への利用”,Zeolite News Letter, 9(2)(1992)60–68.

9) “無機系抗菌剤の最近の動向”,ゼオライト,13(2)(1996)56–63.

10) “ゼオライト骨格に入る元素はどのようなものがありますか?”,ゼオライト,35(3)(2018)118.

11) “原料多様化用触媒/無機系機能材料としてのゼオライトの応用展開”,ゼオライト,30(3)(2013)95–107.

12) “プロピレン増産のためのFCC触媒及びアディティブ”,ゼオライト,24(4)(2007)125–132.

13) “FCC触媒の最近の進歩”,ゼオライト,23(1)(2006)11–17.

14) “産業界から見たゼオライトの20年―私的感慨を含めて―”,ゼオライト,20(4)(2003)141–146.

15) “産業界から見たゼオライト20年の進展”,ゼオライト,20(3)(2003)97–103.

16) “固体酸としてのゼオライト―徒然なるままに―”,ゼオライト,18(1)(2001)2–9.

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