カゴ状シルセスキオキサンを層間に持つ層状ペロブスカイトの開発Formation of Hybrid Layered Perovskites with Cage-like Silsesquioxanes
国立研究開発法人産業技術総合研究所National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) ◇ 〒305–8565 茨城県つくば市東1–1–1 中央第五
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Polyhedral oligomeric silsesquioxanes(POSS)と呼ばれるカゴ状シルセスキオキサンは,強固なカゴ状骨格と8本の有機基を端末からなるシロキサン化合物の一種である。POSSは,シロキサンの無機骨格に有機官能基の端末を持たせることができるため,有機–無機ハイブリッド材料として様々な分野で応用検討されている。本稿では,そのカゴ状骨格をビルディングブロックとした一例として,POSS含有ハイブリッド型層状ペロブスカイトについて紹介する。強固なカゴ状骨格を持つPOSSを層間材料に適用することで,機能を維持しつつ層間にミクロ孔を持つ層状ペロブスカイトが得られる。更に,ミクロ孔の利用開拓を目的とした細孔容積を拡大する技術についても紹介する。
Polyhedral oligomeric silsesquioxanes (POSS) are siloxane compounds that possess both a rigid cage structure and flexible organic moieties. POSS are also known as versatile organic-inorganic hybrid materials and are widely applied for various purposes. In this short review, POSS utilized as interlayers in layered perovskites are discussed. Owing to their rigid cage structures, micropores between perovskite layers are created; their volume can be increased by replacing POSS interlayers with small amines.
キーワード:シルセスキオキサン;POSS;細孔構造;層状ペロブスカイト;ハイブリッド
Key words: silsesquioxane; POSS; porous structure; layered perovskites; hybrid
© 2019 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2019 Japan Zeolite Association
Si–O–Si結合を持つシロキサン化合物はケイ素(Si)原子1個に対して有機基が結合している数で図1のように分類される1)。Si原子が1つの酸素(O)原子と3つの有機基Rと結合したものはM単位(monofunctional unit)と呼ばれ,組成式(R3SiO0.5)nで表される。Si原子が2つのO原子と2つの有機基Rと結合したD単位(difunctional unit)は,シリコーンポリマーの原料であり組成式(R2SiO)nで表される。Si原子が3つのO原子と1つの有機基Rと結合したT単位(trifunctional unit)はシルセスキオキサンと呼ばれ,組成式(RSiO1.5)nで表される。Si原子の結合手の全てがO原子と結合したQ単位(tetrafunctional unit)は,シリカであり組成式SiO2で表される。
シロキサン化合物は様々な構造を持つことが知られているが,T単位とQ単位は立方体型のカゴ状構造を持つ(図1)。T単位の場合は一般的にPOSSと呼ばれ,これまで様々な官能基を持つ有機端末をもつPOSSが合成されてきた2)。POSSは,強固なカゴ状骨格と柔軟な有機基を端末に持つことから,万能なハイブリッド材料として知られている。例えば,POSSはポリマーへの添加やイオン流体としての応用例が数多く報告されている3–5)。しかしながら,カゴ状骨格という特異な形状を生かしたPOSSの応用例は限定的である6,7)。一方,立方体カゴ状骨格を持つQ単位の場合は,ゼオライトの基本単位の1つである二重四員環(double 4 rings: d4r)ユニットとして広く知られている。ゼオライトの中には,A型ゼオライトとソーダライトなどのように,d4rユニットが存在することにより細孔が形成されたり,細孔空間が拡大されたりするものがある。
ペロブスカイト型化合物は,八面体の頂点を共有した3次元格子と,Aサイトと呼ばれる空隙に存在するカチオンからなる結晶構造を持つ(図2)。ペロブスカイト型化合物は,電子材料,磁性材料,触媒などの分野で多様な機能を発現しており,幅広い応用開発がなされてきた。その中で,Aサイトの空隙に収まらないような比較的大きなカチオンに対して層状構造をとるものがある。特に,金属ハロゲン化物と有機アンモニウムイオンの組み合わせは,有機–無機ハイブリッド型層状ペロブスカイト型化合物と呼ばれている8)。
このハイブリッド型層状ペロブスカイトは,無機ペロブスカイト層と絶縁体である有機層が交互に存在する低次元材料であるため,電子や励起子などがペロブスカイト層に閉じ込められ,特異な性質を持つことが知られている。この有機–無機ハイブリッド型層状ペロブスカイト化合物は半導体材料や発光素子材料,磁性材料などの分野において,大きな注目を集めている11)。例えば,石原らはヨウ化鉛とアミノデカンの層状ペロブスカイトから励起子の発光を観察し,現在の発光素子や太陽電池の吸収体などへの応用研究に繋がっている12)。Kaganらは,ヨウ化スズとフェネチルアミンからなる層状ペロブスカイトを合成し,それにより薄膜トランジスタ素子(thin film transistor)を作製した13)。層間材料に対しても数多くの有機アンモニウム塩が試されており,例えば竹岡らはアンモニウム塩を持つフラーレンを層間材料に用いて,ヨウ化鉛とのハイブリッド型層状ペロブスカイトを合成した14)。本稿では,POSSを層間材料に用いたハイブリッド型層状ペロブスカイトについて紹介する9,10,15)。
POSSを層間材料として用いるためには,端末にアンモニウム塩を持つPOSSが必要となる。例えば,アミノプロピルトリエトキシシランを原料として塩酸とメタノール中で3時間程度撹拌し,その後1週間程度放置することで生成物が得られる16,17)。合成したPOSSと金属ハロゲン化物を酸(または純水)に溶解した後,貧溶媒であるアルコールに滴下することで,POSS含有層状ペロブスカイトが析出する9)。これまで,銅,パラジウム,鉛,マンガンなどの金属ハロゲン化物による層状ペロブスカイトが合成されている。一例として,塩化銅とPOSSから得られた粗結晶の電子顕微鏡写真を示す(図3)。比較として,原料であるPOSSの電子顕微鏡像も併せて示すが,形状は全く異なる。この合成方法は,金属塩とPOSSを貧溶媒によって析出するだけの手法であるため,微細構造は自己組織化によって決定される。それより層状化合物の特徴である板状結晶が形成されていることがはっきりわかる。
得られた層状ペロブスカイトと原料であるPOSSの粉末X線回折パターンを示す(図4)。POSSの回折パターンとは全く異なり,2θ=5̊から等間隔で約5̊°ごとに鋭い回折線が見られることから,層状化合物であることが示唆される。X線回折パターンからBraggの式より求めた層間距離は1.71 nmであり,合成したPOSSのサイズ(約1.4 nm)とペロブスカイト層の厚さの和とほぼ一致している。元素分析の結果から,その分子式は[Si8O12(C3H6NH3)8][CuCl4]4で表される。更に,塩化銅の層状ペロブスカイト型化合物は20 K以下で強磁性相互作用を持つことが知られているが18), POSS含有層状ペロブスカイトも同様の強磁性相互作用を持ち,層状ペロブスカイトとしての機能を維持していることが確認されている。単結晶X線構造解析の結果からも9),得られた材料がPOSSを層間に持つ層状ペロブスカイトであることが確認された。
POSS含有層状ペロブスカイトの特徴の1つとして,細孔構造を持つことがある。図5に示した塩化銅とPOSSによる層状ペロブスカイトの77 Kにおける窒素吸脱着等温線はI型であり19),細孔径が2 nm以下のミクロ孔を持つことが示唆される。このことは,X線回折パターンより求めたペロブスカイト層の層間距離が1.71 nmである結果とも一致する。吸脱着等温線から,Brunaner–Emmett–Teller(BET)表面積が226 m2 g−1で,P/P0=0.95における窒素吸着量は約70 mL g−1 (STP)であり,これはカゴ1つに対して凡そ窒素5分子分の体積に相当する。図5に併せて示したPOSS単独による窒素吸脱着等温線より,POSSのカゴ内部には窒素分子は吸着しないため,窒素分子はペロブスカイト層の間で,POSSのカゴの外側に吸着することが示唆される。これまで多孔質の有機–無機ハイブリッド型層状ペロブスカイトは報告されておらず20), POSSの強固なカゴ状骨格を導入することで,ペロブスカイト層の層間に細孔が形成されるがわかった。
層間にPOSSを用いることで多孔質の層状ペロブスカイトが得られたが,細孔容積は十分に大きいとは言えず,細孔容積を増やせるかという点が課題となる。特に,細孔を利用して層状ペロブスカイトの機能を強化するためには,大きな細孔容積が必要となる。細孔容積を変えるためには種々の方法が考えられるが,層間材料であるPOSSの一部を小さな有機アンモニウムイオン(本稿では,ethylammonium chloride:塩化EA)に交換することで細孔容積を増大する手法を紹介する(図6)10)。
この手法では,原料である塩化銅とPOSSに,更に塩化EAを加えて原料溶液に溶解し,アルコール中に滴下することで複合層間材料を持つ層状ペロブスカイトを得るものである。その際,塩化EAと塩化銅だけからなる従来型の有機–無機ハイブリッド型層状ペロブスカイトはアルコール中に溶解するが,POSS含有層状ペロブスカイトはアルコールに不溶であるため,主にPOSS含有層状ペロブスカイトが析出する。POSSだけが層間材料に含まれる層状ペロブスカイトは,[Si8O12(C3H6NH3)8][CuCl4]4であり,ケイ素と銅の元素比(Si/Cu)は2である。析出した材料を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy: ICP-AES)で解析したところ,Si/Cuは2を下回り,層間に部分的にEAが含まれることが示唆される。原料溶液へ塩化EA添加量を変えて層状ペロブスカイトを合成し,化学式[Si8O12(C3H6NH3)8](1−x)(EA)8x[CuCl4]4としてPOSS交換率xを求めたところ,本手法によって得られる材料の交換率xは0~0.2程度であることがわかった。
POSSとEAを層間に含む層状ペロブスカイト(x=0.038, 0.161, 0.202)の粉末X線回折パターンを図7に示す。比較のため,層間材料がPOSS単独と,EA単独の層状ペロブスカイト(層間距離=1.06 nm)の回折パターンも併せて示す。x=0.038,0.161の回折線は,POSS単独の回折線(5.2°, 10.3°, 17.9°)と一致しており,EAに由来する回折線は全く見られず,得られた材料は1.71 nmの層間距離を持つことがわかる。ただしx=0.202では,POSSによる回折線に加えて,僅かにEAに由来する回折線が見られる(8.3° and 15.6°)。いずれにせよ,得られた層状ペロブスカイトは,層間距離はPOSS由来の1.71 nmをほぼ維持したまま,部分的に層間にEAが含むことがわかった(図6参照)。
交換率x=0.038~0.202の範囲でEAが層間に含まれるPOSS含有層状ペロブスカイトについて,それぞれ77 Kにおける窒素吸着測定を行った。図8は,吸着等温線からt-plot法によって求めたミクロ細孔容積と,BET比表面積を交換率xに対してプロットしたものである。交換率の増加に伴って,ミクロ細孔容積,BET比表面積ともに単調的に増加することがわかる。これは,層間にあるEAによって細孔が広げられていることを裏付けるものである。これにより,層状ペロブスカイトの層間をPOSS由来の1.71 nmに維持したまま,部分的に小さな有機アンモニウムであるEAを導入することで,細孔容積を増大させることを明らかした。
本稿では,POSSを層間に持つ金属ハロゲン化物の層状ペロブスカイトについて紹介した。このパイブリッド型層状ペロブスカイトは,ペロブスカイトとしての機能を維持しつつ,細孔構造を持つ材料である。また,原料に他のアンモニウム塩を添加することで,POSS含有層状ペロブスカイトの細孔容積を変化させることができる。今後,層状ペロブスカイトの細孔構造を生かした機能強化を行う予定である。
これらの成果の一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(平成26年度~),JSPS科研費(課題番号:16K05902)の一環として得られたものである。
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