SDA(構造指向剤,構造規定剤)とは?
構造規定剤(structure-directing agent, SDA)は,水熱合成条件下においてゼオライトの骨格構造形成に関与するイオンや分子を指します。SDAにはNa+,K+,Li+等の無機SDAと4級アンモニウムカチオンなどに代表される有機SDAがあります。当初は,アルミナ原料(水酸化アルミニウム,アルミン酸ナトリウムなど),シリカ原料(ケイ酸ナトリウム,コロイダルシリカ,ヒュームドシリカなど),水,アルカリ(無機SDA)を含む反応混合物を調製し,その後高温高圧で水熱処理することで,ゼオライトを合成する手法がとられてきました。無機SDAは,ゼオライト骨格構造を結晶化するために必要なアルミノシリケート前駆体の形成に関与すると考えられています。このとき無機SDAの種類と反応混合物組成,反応条件(温度,時間,攪拌の有無など)を変化させることで,例えばA型,X型,Y型,L型,MOR型などのゼオライトが得られることが知られています1)。その後,4級アンモニウムカチオン等の有機SDAを含む反応混合物を水熱処理することによって,*BEA型をはじめ,様々な高シリカゼオライトの合成が可能となりました。嵩高く剛直な有機SDAは,その周囲に存在するシリケート前駆体と相互作用し,結晶化を促進させ,有機SDAの幾何学的構造とその集合状態に対応したゼオライト骨格構造を形成すると考えられています2,3)。有機SDAを用いてゼオライトを結晶化させた場合,高温焼成操作によって骨格内に残存する有機SDAを取り除くことで,ゼオライトの細孔構造が発現します。有機SDAの利用は,ゼオライトの製造コスト高や製造プロセスの煩雑化を招く要因と考えられていますが,一方で,新しい有機SDAをデザインすることによりこれまでにない新しい性能や骨格構造を有したゼオライトの開発が世界的に進められています。また,近年,種結晶添加法を用いることでこれまで有機SDAが必須であったゼオライト骨格を有機SDAフリーで合成できることも報告されています4)。無機および有機SDAはゼオライトの骨格構造形成に必要ですが,未だこれらの詳細な効果が明らかになっていない部分も多く,現在も様々な分析手法を用いたゼオライトの結晶化機構の解明が世界的に検討されています。