日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 35(4): 156-157 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.4.156

基礎講座基礎講座

第四回

発行日:2018年10月15日Published: October 15, 2018
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SDA(構造指向剤,構造規定剤)とは?

構造規定剤(structure-directing agent, SDA)は,水熱合成条件下においてゼオライトの骨格構造形成に関与するイオンや分子を指します。SDAにはNa+,K+,Li+等の無機SDAと4級アンモニウムカチオンなどに代表される有機SDAがあります。当初は,アルミナ原料(水酸化アルミニウム,アルミン酸ナトリウムなど),シリカ原料(ケイ酸ナトリウム,コロイダルシリカ,ヒュームドシリカなど),水,アルカリ(無機SDA)を含む反応混合物を調製し,その後高温高圧で水熱処理することで,ゼオライトを合成する手法がとられてきました。無機SDAは,ゼオライト骨格構造を結晶化するために必要なアルミノシリケート前駆体の形成に関与すると考えられています。このとき無機SDAの種類と反応混合物組成,反応条件(温度,時間,攪拌の有無など)を変化させることで,例えばA型,X型,Y型,L型,MOR型などのゼオライトが得られることが知られています1)。その後,4級アンモニウムカチオン等の有機SDAを含む反応混合物を水熱処理することによって,*BEA型をはじめ,様々な高シリカゼオライトの合成が可能となりました。嵩高く剛直な有機SDAは,その周囲に存在するシリケート前駆体と相互作用し,結晶化を促進させ,有機SDAの幾何学的構造とその集合状態に対応したゼオライト骨格構造を形成すると考えられています2,3)。有機SDAを用いてゼオライトを結晶化させた場合,高温焼成操作によって骨格内に残存する有機SDAを取り除くことで,ゼオライトの細孔構造が発現します。有機SDAの利用は,ゼオライトの製造コスト高や製造プロセスの煩雑化を招く要因と考えられていますが,一方で,新しい有機SDAをデザインすることによりこれまでにない新しい性能や骨格構造を有したゼオライトの開発が世界的に進められています。また,近年,種結晶添加法を用いることでこれまで有機SDAが必須であったゼオライト骨格を有機SDAフリーで合成できることも報告されています4)。無機および有機SDAはゼオライトの骨格構造形成に必要ですが,未だこれらの詳細な効果が明らかになっていない部分も多く,現在も様々な分析手法を用いたゼオライトの結晶化機構の解明が世界的に検討されています。

天然ゼオライトにはどのようなものがありますか

日本は世界でも代表的な天然ゼオライトの産地であり,最近,ゼオライト類縁鉱物として新しい構造を有する千葉石が発見されるなど研究の歴史は長く,産業利用の発展が期待されています5–7)。天然ゼオライトは現在,鉱物種としてInternational Mineralogical Association(IMA(国際鉱物学連合))により約100種が登録されています。それらは成因によって,堆積起源と火成起源に分けられます。ほとんどのゼオライト鉱物種は火成起源で,岩石の晶洞中に比較的大きい結晶を生成しますが,産出量はごく少量で,産業利用には適しません。堆積起源のゼオライトは,大規模の鉱床をつくるので産業利用できる産出量がありますが,そのほとんどモルデナイトとクリノプチロライトで,一部アナルサイムやフェリエライトなどに限定されます。また,堆積起源のゼオライトは通常,石英,クリストバライト,長石,輝石などの鉱物が共存するので純度が低く,粗粒なため,合成ゼオライトと比較するとイオン交換容量,イオン選択性,触媒活性などの性能が十分発揮されません。そのため,低コスト・大量使用が必要とされる土木,農林,水産,畜産,食品飲料(浄水など)関係に天然ゼオライトが利用されています8)

用語説明

水熱反応/水熱合成(水熱処理)
水熱反応は高温高圧環境下において,水が関与して起こる反応。水熱合成(水熱処理)は,密閉された耐圧反応容器中で,水を含む反応混合物を高温高圧で反応させて,目的物質(ゼオライト)を合成することをいう。
高シリカゼオライト
骨格中に含まれるシリカ量が多い(Si/Al比が高い)ゼオライト。これに対して骨格中のアルミ量が多い(Si/Al比が低い)ゼオライトは低シリカゼオライトと呼ばれている。
種結晶添加法
反応混合物に予め合成したゼオライトを種結晶として添加し,水熱処理する手法。種結晶を添加することで,有機SDAフリーで結晶化する,粒子形態を制御する,結晶化速度を促進することなどが可能になる(参考文献4)も参照)。
晶洞
岩石に空いた空洞。
堆積起源と火成起源
堆積起源ゼオライトは,主に大量に堆積した火山灰が地下で温度・圧力を受けて変質してできたもの。これに対して火成起源ゼオライトは,岩石中の晶洞などに供給される熱水や地下水のミネラル分によってできたもので,比較的大きい結晶が形成される。
鉱床
資源となる鉱物が地中に局所的に集まっている状態,または場所。

引用文献References

1) D. W. Breck, “Zeolite Molecular Sieves”, Wiley, New York(1974).

2) “ゼオライトの科学と工学”,講談社,978-4061533899.

3) “有機SDAとゼオライト骨格の相互作用解析”,ゼオライト,30(2)(2013)45–51.

4) K. Itabashi, Y. Kamimura, K. Iyoki, A. Shimojima, and T. Okubo, J. Am. Chem. Soc., 134 (2012) 11542–11549.

5) “新鉱物 千葉石(chibaite)について”,ゼオライト,28(1)(2011)25–32.

6) “ゼオライトを主体とした放射性物質の吸着剤の開発と応用”,ゼオライト,35(2)(2018)64–74.

7) A. Dyer, “An Introduction to Zeolite Molecular Sieves”, Wiley, Chichester(1988)4–11.

8) 冨永博夫編“ゼオライトの科学と応用”,講談社サイエンティフィック,東京(1996)39–70.

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