日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 35(4): 129-138 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.4.129

解説解説

架橋ホスホン酸化合物から合成する非シリカ系メソポーラス材料Nonsiliceous Mesoporous Materials Prepared from Bridged Phosphonates

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(中部センター)無機機能材料研究部門Inorganic Functional Materials Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) ◇ 〒463–8560 愛知県名古屋市守山区下志段味穴ヶ洞2266–98

受理日:2018年5月31日Accepted: May 31, 2018
発行日:2018年10月15日Published: October 15, 2018
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メソポーラス金属ホスホン酸塩(MOP)の合成が初めて報告されたのは2003年のことであり,規則性メソポーラス材料の合成法として有名な両親媒性有機分子の自己集合が適用された。骨格組成がホスホン酸アルミニウムのものが最初の報告例であり,既存のメソポーラス材料ではほとんど見られなかった親水的な孔内環境が提供できるとともに,親水性をある程度制御できることも示されている。その他,メソポーラスホスホン酸チタンに関する報告例では,重金属イオンの吸着,有機汚染物の光分解,CO2の捕捉・回収など,液相中での利用技術が提案されている。以上のような経緯から,本解説では,特徴的な性質を示すことが多い非シリカ系のハイブリッド型メソポーラス材料,特に架橋ホスホン酸と金属源との反応を利用して合成するメソポーラスMOPに着目し,それらの合成と応用について紹介する。

Since the first report of mesoporous metal organophosphonate (MOP) in 2003, the self-assembly of amphiphilic organic molecules, which is the famous synthetic method for the preparation of ordered mesoporous materials, has been applied. The first publication was about frameworks composed of aluminum organophosphate, providing hydrophilic porous environment which was rarely observed in existing mesoporous materials, and their hydrophilicity can be controlled to some extent. Moreover, in the reports on mesoporous titanium organophosphonates, their usages in liquid phase, such as heavy metal adsorption, photodegradation of organic pollutants and CO2 capture, has been proposed. Considering the previous researches, this review focuses on non-siliceous mesoporous materials, which frequently shows characteristic properties, especially on mesoporous MOP prepared through the reaction between bridged organophosphonates and metal sources, with their synthetic methods and applications.

キーワード:メソポーラス材料;両親媒性有機分子;金属ホスホン酸塩;ハイブリッド骨格;非シリカ系酸化物;水蒸気吸着

Key words: mesoporous materials; amphiphilic organic molecules; metal organophosphonate; hybrid framework; nonsiliceous oxides; water vapor adsorption

1. はじめに

無機種と有機基が分子スケールで交互に配列した非シリカ系のハイブリッド型材料は,特異な機能を発現させるための高度な組成設計が可能であると考えられる。無機種や有機基に由来する機能設計だけでなく,その相乗効果による機能発現も期待される。その代表例がMOF(Metal-Organic Framework)1–13)やメソポーラス金属ホスホン酸塩(MOP: Metal Organo-Phosphonate)14–18)である。MOFは金属錯体と有機リンカーとの配位結合で骨格が形成されるが,MOPはホスホン酸と金属源との反応で生成した共有結合(M-O-P結合)がハイブリッド骨格を安定化するという違いがある。図1に示すように,架橋ホスホン酸と金属源との反応で生成する溶解オリゴマー種が界面活性剤の集合構造を取り囲むような自己組織化によりメソポーラス構造を形成する。

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図1. 架橋ホスホン酸と金属源との反応を利用したメソポーラスMOPの合成

本解説では,非シリカ系のハイブリッド型メソポーラス材料の更なる発展の一助となることを切に願い,メソポーラスMOPの合成法を中心にまとめた。個々のメソポーラスMOPの詳細な合成手順は引用元を参照していただきたいが,最近の進展として,架橋ホスホン酸の反応性を制御する新たな手法が考案されたことで多様なメソポーラス材料の合成が可能になってきているので,そうした新たな知見についても簡単に紹介したい18–20)。また,関連研究は,組成,構造,形態の多様化を中心に進展してきたが19,21–51),MaとYuanの研究グループでは触媒応用や分離材料としての適用可能性を精力的に検討しているので14,16,17),本物質系に特徴的な応用展開も含め,解説していく。

2. 非シリカ系のハイブリッド型メソポーラス材料の合成

架橋ホスホン酸と金属源との反応を利用した非シリカ系メソポーラス材料の合成が2003年に初めて報告された21)。金属ホスホン酸塩からなる層状物質やゼオライト類縁化合物の報告例は多数あったが52–54),骨格内に有機基を導入した材料に関する報告例はほとんどなかった。M-O-P結合を含む溶解オリゴマー種と両親媒性有機分子(界面活性剤)との相互作用と協奏的組織化により生成するメソポーラスMOPは,従来の水熱合成法による層状構造やミクロポーラス構造を有する結晶性MOPとは全く異なる材料系であると理解できる。

2.1 メソスケールの構造設計

有機基の導入はメソポーラス材料の機能設計の最も有用な手法の一つであり,例えば,シランカップリング剤によるメソポーラスシリカの有機修飾と機能付与が有名である55–58)。2000年前後には,有機架橋部位を有するシラン系化合物(シルセスキオキサン)を利用したメソポーラス材料(PMO: Periodic Mesoporous Organosilica)の合成が報告されている59–64)。PMOの骨格内には有機基が組み込まれているが,骨格中の有機基がベンゼンなどの芳香族化合物になると規則的に配列することもある63,64)。しかしながら,有機架橋部位を有する化合物を出発原料としたアプローチが適用できたのはシリカのみである。機能設計の観点から,シリカ成分から化学的な機能は発現しないので,有機基の性質を利用した用途開発が進められている。

以上のような経緯から,我々は,世界で初めて,非シリカ系のハイブリッド型メソポーラス材料の合成法として,架橋ホスホン酸と金属源との反応による組成設計と両親媒性有機分子を利用したメソスケールでの構造設計の融合を提案した21)。ホスホン酸アルミニウム(AOP: Aluminum Organo-Phosphonate)のメソポーラス化に関する研究を通じて新たに提案した合成法の妥当性を実証した。図2に示したように,最初の論文ではメソポーラスAOPが塩基性条件で合成できることを示したが21,22),金属源を適切に選択すれば酸性条件でより構造規則性の高いメソポーラスAOPが合成できることを見出した22)。酸性条件下でアルキルトリメチルアンモニウム(CnTMA)系界面活性剤を用いて合成したメソポーラスAOPのX線回折(XRD)パターンからも明らかなように,界面活性剤除去後も二次元六方構造(空間群:p6 mm)に帰属可能な回折ピークが観測されている。

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図2. C18TMAClを用いて(左)塩基性条件および(右)酸性条件で合成したメソポーラスAOPのXRDパターン22)

©2005, American Chemical Society

酸性条件での合成は,カチオン性のCnTMA系界面活性剤を利用した合成だけでなく,アルキルポリオキシエチレン(CnEOm)のような非イオン性界面活性剤やポリオキシエチレン–ポリオキシプロピレン–ポリオキシエチレン(EOnPOmEOn)系のトリブロック共重合体の利用も可能とした23)。各種メソポーラスAOPの透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を図3にまとめたが,いずれの場合も二次元六方構造のメソポーラスAOPが得られていることを確認している。用いる界面活性剤のサイズに応じて,1.5 nm前後から10 nm程度の範囲で孔径制御できることも明らかにしている。

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図3. (a)C18TMACl(焼成前),(b)C18TMACl,(c)Brij58(C16EO20),(d)Pluronic F68(EO80PO30EO80),(e)Pluronic F127(EO106PO70EO106),(f)Pluronic P123(EO20PO70EO20)を用いて酸性条件で合成したメソポーラスAOPのTEM観察の結果22,23)

©2005, American Chemical Society

研究開始当初は,界面活性剤を抽出できず,低温焼成により除去していたため21–23),架橋有機基には耐熱性の高い単純なアルキル基(メチレン,エチレンなど)しか適用できていなかった。しかもP-C結合が一部切断されてしまうため,新たな界面活性剤の除去法の開発に迫られた。AOP骨格が水やエタノールの酸性溶液で簡単に溶解してしまうため,例えば,酸性溶液で処理して界面活性剤を抽出する方法は適用できなかった。別のグループからは,C16TMABrを用いてメチル基が結合したモノホスホン酸やエチレン基で架橋されたジホスホン酸からメソポーラス材料を合成したという報告もあったが,TEM観察からは虫食い状の低規則性メソ孔の存在しか示されていなかった24,25)。XRD測定の結果も低角度領域にブロードな回折ピークがひとつ観測されただけで,酢酸–エタノール溶液のような弱酸性の溶液で処理しただけで回折ピークはさらにブロード化していた。

種々の検討を重ねた結果,骨格内の有機基を完全に保持しつつ界面活性剤(Cn(EO)mとEOnPOmEOn)が除去できる方法として,脱水アセトン中で加熱処理して界面活性剤を分解する方法を見出すことができた26,27)。非常に湿度に敏感な方法であるが,テフロン内包型密閉容器にサンプルを入れて加熱処理するだけでCn(EO)mとEOnPOmEOnを分解,除去することができる。依然,メソポーラスAOP前駆物質からCnTMA系界面活性剤を除去する方法については開発の目途が立っていないが,アルミニウム以外の金属種,ホスホン酸チタン(TiOP),ホスホン酸バナジウム(VOP)およびホスホン酸鉄(FeOP)の合成で,塩酸–エタノール溶液を用いたC16TMABrの抽出が報告されているので28–30),CnTMA系界面活性剤の抽出に向けて引き続き検討していきたいと考えている。

2.2 マクロスケールの構造設計

階層的なメソポーラス/マクロポーラス構造を有するMOPが種々報告されている31–36)。AOPでは,比表面積は最大で154 m2 g−1とあまり大きくないが,有機架橋部が3級アミンであるホスホン酸からの合成で階層的な多孔体が得られている31)。界面活性剤にPluronic F127やPluronic P123を用い,水酸基を持つ有機架橋ホスホン酸(HEDP)から階層構造を有するTiOPが合成されており,比表面積は511 m2 g−1に達している32)。非イオン性ジブロック共重合体(EO30PO34)を用い,チタンテトラブトキシド由来のブタノールが生成するような環境β-シクロデキストリンやブチルアミンを添加して形成させたエマルジョンを利用することで,同様の階層構造を有するメソポーラスTiOPが得られている33,34)。エマルジョンはブチルアルコールのような疎水的な有機分子の存在によって形成されるので,界面活性剤を用いない単純な系でも階層的な多孔質構造を設計することもできる35,36)

一般的に,規則的なマクロポーラス材料は粒径の揃ったポリマービーズやコロイダルシリカ粒子を鋳型として合成するが65–68),マクロポーラスMOPの合成にも同様の手法が利用されている37)。加えて,ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS-b-PEO)ジブロック共重合体の球状コロイドを鋳型としたマクロ孔の導入も報告されている38,39)。PS-b-PEOの濃厚溶液に水を添加することで球状コロイドを形成させ,AOPの前駆溶液と混合してからスピンコート或いはスプレードライすることで,球状マクロ孔を内包する薄膜或いは粉体試料を得ることができる。PS-b-PEOは添加する水の量で溶解性が変化し,凝集体の大きさ(凝集体中のPS-b-PEOの数)を様々に変えられ,これによって導入される孔径が30 nmから200 nmの範囲で制御できることが確認されている。ただし,PS-b-PEOの量が多くなると前駆溶液の粘性が高くなるので,スプレードライによる粉体合成の場合には,図4の走査型電子顕微鏡(SEM)観察で見られたように,繊維状の試料が混在するようになる。また,PS-b-PEOの球状コロイドが柔軟性を有するため,TEM観察から,繊維状形態の内部ではその影響を受け,マクロ孔の形状が球状から楕円状へと大きく変化する様子が確認されている39)

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図4. PS-b-PEOの球状コロイドの存在下で合成したAOP(400°C焼成)のSEM観察とTEM観察の結果39)

©2012, American Chemical Society

2.3 形態制御と溶媒揮発速度の重要性

界面活性剤を用いて合成されるメソポーラス材料は,粉体試料だけでなく,薄膜,ファイバー,ビーズ,モノリスのような多様な形態で得ることができる。例えば,薄膜化などの形態制御を行う合成法には,溶媒揮発(EISA: Evaporation-Induced Self-Assembly)プロセスが含まれている69–73)。均質な前駆溶液を調製した後,スピンコーティングなどの際に溶媒が揮発する過程で界面活性剤の濃度が上昇し自己集合が誘起されメソポーラス構造が形成されるというものである。先に述べたメソポーラスAOPの合成でも,プラスチックトレーに前駆溶液を流し入れ,室温で一晩,次いで50°Cで乾燥という穏やかな条件で溶媒を除去した結果として,構造規則性の高いサンプルを得ているため,溶媒揮発法を含む合成プロセスになっていると理解できる。

他方,トリブロック共重合体を用いたメソポーラスAOPの合成に関しては,球状粒子(粉体)及び薄膜としてサンプルを作成するため,透明な前駆溶液を調製し,それぞれスプレードライ及びスピンコートによる形態制御を試みた40–43)。スプレードライは噴霧温度によって溶媒の揮発速度を変えることができ,スピンコートは室温でしか操作できないが,スプレードライよりも溶媒の揮発速度は速いと考えて問題ない。噴霧乾燥する温度など,様々の合成条件を検討した結果,スプレードライでメソポーラスAOPを球状粒子として回収することが可能であった。この場合は低温(例えば110°C)でのスプレードライにより構造規則性のより高いメソポーラスAOP球状粒子を得ることができた43)。しかしながら,溶媒の揮発速度が速くなってしまうスピンコートでは,従来と同程度までメソスケールでの構造規則性を高めることは難しかった。以上の結果から,メソポーラスAOPの合成では,溶媒の揮発速度が生成する構造規則性に大きく影響しており,溶媒の揮発速度が遅い方が適していることが示唆されている。

スプレードライを利用したメソポーラスアルミナ,メソポーラスシリカ,メソポーラスジルコニアといった無機酸化物の合成では,同じエタノール–水系の前駆溶液を使用していたが,高温(例えば400°C)のスプレードライで合成されていた。また,ホスホン酸アルミニウムと組成が近いメソポーラスリン酸アルミニウム(AlPO)でも,中低温(例えば170°C)のスプレードライでメソスケールの構造規則性が最も高く,それより高い温度でもメソ構造に由来するXRDのピークは明瞭に観測されていた。以上の結果をより正確に理解するため,溶媒の揮発速度に加えて,ハイブリッド骨格を形成する溶解オリゴマー種における界面活性剤との相互作用点の数が影響していることを考察した43)図5に各種溶解オリゴマー種とEOnPOmEOnとの相互作用を模式的に示したが,溶解オリゴマー種はEOnPOmEOnのEO部と酸性の前駆溶液中に存在するH+を介して相互作用すると考えられる。AOPの溶解オリゴマー種は単位体積あたりの相互作用点となるアルミニウムのサイトがAlPOやアルミナよりも少ない。従って,図6にまとめたように,AOPの場合は,界面活性剤と相互作用できなかった溶解種も骨格内に取り込むためには,ゆっくりと溶媒を揮発させなければならない。これによりメソ構造体の骨格密度を高めることができ,構造安定性が高まると考えた。このような溶媒の揮発速度まで高度に制御したメソポーラス構造化技術のことを「controlled EISA」と命名した。

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図5. 溶解オリゴマー種による界面活性剤との相互作用の違い

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図6. 「controlled EISA」の概念図:構造規則性の高いメソポーラスAOPを得るための溶媒の揮発速度に関する考え方

2.4 無機種と有機基の多様化

メソポーラスAOPの合成技術を基盤として,ジルコニウム(Zr),ニッケル(Ni),チタン(Ti),バナジウム(V)といった様々な金属種でも図7に挙げる有機架橋ホスホン酸を用いたメソポーラスMOPの合成が報告された。ドデシルスルホン酸ナトリウムを界面活性剤に用いて,p-ジメチルピペラジン構造を有する有機架橋ホスホン酸BPMPやL-プロリン構造を有するホスホン酸H3PMPからメソポーラスホスホン酸ジルコニウム(ZrOP)が合成された44,45)。ただし,これらの報告では,メソスケールの構造規則性の存在を裏付けるような分析結果は示されておらず,窒素吸脱着測定によるメソ孔の存在が示されているのみであった。ヘキサメチレンN,N,N’,N’-テトラキス(メチルホスホン酸)(HDTMP)を用いることで,ミクロ孔を有する結晶性の層状ホスホン酸ニッケルが合成された74)。この材料は結晶性の層状物質であり,ホスホン酸ニッケルシートが有機リンカーによって保持され,層間にミクロ孔が存在している。多様な層状ZrOPと同様に,骨格内に有機基が存在しているわけではない52,53)

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図7. 種々の架橋ホスホン酸の分子構造(H3PMPのみモノホスホン酸)

HEDPやEDTMPと金属源(四塩化チタン:TiCl4)をオートクレーブ中で加熱しながら生成物中に含まれる溶媒を除去することで,メソポーラスTiOPがモノリス状の試料として回収される46–49)。界面活性剤にはBrij56(C16EO10)とC16TMABrが用いられており,いずれの場合も二次元六方構造のメソポーラスTiOPが得られている。C16TMABrを用いた際には,立方構造(Ia-3d)のメソポーラスTiOPを得ることも可能であり,均一な球状粒子(400~500 nm)として回収されている49)。また,ミクロ孔を有する結晶性の細孔壁からなるメソポーラスMOP(M=Ti, Zr, V, Al)も合成できると主張されている50)ただし,その根拠となっているTEM観察の結果は,結晶相を観察したとした格子縞が示されているが,金属の種類に関係なく似通ったXRDパターンしか示されていない。結晶性のラメラ構造のAOPとして報告したAOP-1に比べても51),固体31P MAS NMRの結果もブロードなピークしか検出できていない。

かさ高い有機基からなるTPPhAを用いても,界面活性剤なしで,メソポーラスVOPとTiOPが合成されている75,76)。その他にも,CnTMABr(n=14, 16, 18)を用い,有機架橋シラノレートホスホン酸とアルミニウム源を塩基性条件下で反応させることで二次元六方構造のホスホン酸アルミニウムシラノレートが合成されている77)。C16TMABrの存在下でNMPAと硝酸鉄(Ⅲ)および水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を混合,水熱合成することで骨格が結晶化したメソポーラスFeOPが合成された29)。NMPAとメタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)およびTMAOHからもメソポーラスVOPが合成された30)。また,C16TMABrとアニオン性ポリマーであるポリアクリル酸(PAA)を併用することで,HEDPとの反応を経て,階層構造を有するTiOPも合成されている28)

3. 非シリカ系のハイブリッド型メソポーラス材料の応用展開

メソポーラスAOPの水蒸気吸着特性は,界面活性剤を鋳型として合成されるメソポーラス材料の中でも特徴的である22)。リン酸アルミニウム(AOPの骨格に有機基を含まないもの)は吸着初期でのAlO4ユニットへの水の配位により高い親水性を示す78,79)。この性質はアルデヒドのような酸素原子を構造中に持つ分子の吸着にも効果的であった22)。メソポーラスAOPは有機架橋基の導入により若干疎水化するが,親水的な性質はある程度保持されており,リン酸アルミニウムの弱点であったメソポーラス構造の水に対する安定性を改善することができる。また,孔径が大きくなると多孔性AOPの水蒸気吸脱着挙動は,メソポーラスシリカよりもはるかに親水的な挙動を示し,珪藻のようなマクロ孔を有するシリカに似てくることもわかっている39)

水酸基をもつHEDPを含むメソポーラスTiOPに塩化スルホン酸を反応させることで,スルホン酸基が導入でき,TiOP骨格自身に由来するイオン交換能(3.9 mmol g−1)を更に(+2.7 mmol g−1)増加させることに成功している46)。また,メソポーラスTiOPは,重金属(Cu2+)の吸着,ローダミンB(RhB)の光触媒による分解や液相中のCO2除去にも有用であることが示されている。エチレンジアミン基をもつEDTMPを含むメソポーラスTiOPはNa+やK+といったイオンの存在下でも金属錯体形成による重金属(Cu2+, Pb2+, Cd2+など)の捕捉に効果的であった51)。Cu2+の吸着後,焼成により酸化銅(Ⅱ)のナノ粒子をサンプル中に分散させることもでき,CO酸化活性を発現させることもできている48)。メソポーラスMOPは酸性,塩基性,中性の種々の化合物の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分離にもその効果を発揮した50)。HDTMPを含むミクロ孔を有するNiOPは,金属カチオン(Cr3+, Pb2+, Hg2+, Cd2+)に対する高い吸着能と水素化ホウ素ナトリウム存在下でのニトロベンゼンの還元に高い触媒活性を示した74)。pH応答性のBPMPを含むメソポーラスZrOPは,腫瘍の光線療法でのアニオン光センサとして利用された44)。H3PMPで修飾したメソポーラスZrOPはリソザイムやパパインの吸着に利用された45)。NMPAを含むメソポーラスFeOPやメソポーラスVOPは,双方ともリチウムイオン電池(LIB)の活物質として良好なサイクル特性を示した29,30)

4. 架橋ホスホン酸化合物の反応性制御による多様なメソポーラス材料の合成

架橋ホスホン酸は架橋部の構造によって金属源との反応性が変わってしまうため,例えば,構造規則性の高いメソポーラスAOPを合成できた組成は有機架橋部がメチレン基やエチレン基といった小さな有機基に限定されていた。架橋有機基部をフェニレン基にしたくても,アルミニウム源(塩化アルミニウム:AlCl3)との反応の進行が遅く,構造規則性の高いメソポーラスAOPを得ることができなかった。一方,架橋ホスホン酸の水酸基がすべてエステル化された架橋ホスホン酸エステルを原料とした場合は,AlCl3との反応性が高過ぎてすぐにゲル化してしまうため,前駆溶液の調製すら困難な状況であった。

以上の予備実験の結果を受けて,ホスホン酸とホスホン酸エステルの中間にある反応性を有するホスホン酸化合物が必要だと考え,架橋ホスホン酸化合物の反応性を制御する方法として,架橋ホスホン酸エステルを部分的に酸処理することを提案した18–20)。具体的には,架橋ホスホン酸エステルを塩酸水溶液で部分的に加水分解して,P-OHとP-ORが同一分子中に共存する状態で金属源と反応させるというものである(図8左側参照)。P-OHとP-ORの存在比は連続的に変えられるので,架橋ホスホン酸化合物の反応性は連続的に制御できると考えた。その結果,従来法ではメチレン基やエチレン基といった単純な有機基でしか構造規則性の高いメソポーラスAOPを得ることができていなかったが,ベンゼンやキシレンで架橋されたホスホン酸や更にはベンゼン環に塩基性のアミノ基や酸性のスルホン酸基を付加したものまで利用できるようになった(図8右側参照)。

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図8. メソポーラス材料合成のための有機架橋ホスホン酸化合物の酸処理による反応性制御

以上の研究成果は,メソポーラスAOPの親水的な孔内環境を利用した材料設計として,無機種の性質を反映する表面特性とその近傍にある有機基に由来する酸塩基性を活かした触媒機能の設計並びに探索が可能になったものと考えている。また,チタンやバナジウムといったアルミニウム以外の金属源に対しても適用できることを確認しており,無機種の多様化への道も一気に切り開くことができる成果として期待できる。温度や溶媒組成,水の量といった合成条件の最適化だけでは十分な反応制御ができない材料組成に対して,新たな適用可能性が示された意義は大きい。

5. おわりに

界面活性剤,金属源,架橋ホスホン酸を用いて合成するメソポーラスMOPは,その設計性の高さから,最も魅力的な非シリカ系ハイブリッド型材料のひとつであると言っても過言ではない。本解説では,規則的なメソスケールの構造規則性の形成メカニズムや最近の骨格形成に関する新手法の提案などを紹介してきたが,メソポーラスMOPの合成法を詳細に理解することは,応用展開を想定した材料設計を可能にするものと考えている。今後は,金属源との反応性を制御するためにホスホン酸化合物の分子構造を有機合成により設計することも含め,更に多様なメソポーラスMOPが合成できるようになり,メソポーラス材料の新しい物質群の構築が進めば,光,熱,電気に反応するデバイスや複合的な機能を有する高性能吸着及び高効率触媒変換といった多彩な材料設計が可能となってくるだろう。

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