日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 35(2): 78-79 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.2.78

基礎講座基礎講座

第二回

発行日:2018年4月15日Published: April 15, 2018
HTMLPDFEPUB3

ゼオライトを合成したいのですがどのような試薬・道具が必要でしょうか。

ゼオライトは,一般的に100°C以上での水熱合成にて得ることができます。原料を適切な組成で混合して,耐圧容器内で数時間~数日間,加熱する必要があります。以下に,項目ごとに準備するものと,それぞれの操作で気を付けるべき点を記します。なお,合成時の試薬の選び方・混合方法などの詳細については,本誌のバックナンバーにある記事1)も参照ください。

●試薬

アルミノシリケートからなるゼオライトの合成原料には,ケイ素源,アルミニウム源,鉱化剤(mineralizer,mineralizing agent,具体的には,NaOH,KOHなどの水酸化アルカリ)および水が必要となります。また構造規定剤(または構造指向剤,structure-directing agent;SDA)と呼ばれる四級アンモニウム塩ないし有機アミンを原料混合物に加えることもあります。

鉱化剤は,原料混合物に含まれるSi源,Al源を溶解する,アルミノシリケート種の加水分解・脱水縮合を促進する,ゼオライト骨格構造を形成させる,といった働きを担っています。また,鉱化剤に含まれるNa+などのカチオンは,合成後のゼオライト骨格の負電荷を中和する役割もあります。水酸化アルカリの水溶液は強塩基性であるので,ゼオライト合成の原料混合物は強アルカリ条件となります。なお,フッ化物イオン(F)を含むフッ酸(HF)なども鉱化剤として使用されることがあります。

●器材

ゼオライト合成は100°C以上の水熱条件で実施されますので,耐圧容器(通称,オートクレーブ)が必要となります。また,合成のための原料混合物は強塩基性であるため,溶解の恐れのあるガラス容器は使用できません。耐圧容器は一般的にステンレス製ですので,容器の内壁からの金属成分の溶出,容器の腐食などを懸念する場合には,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE,通称テフロン®)製の内筒容器を用いることを推奨します。また水熱合成中に水蒸気自己圧がかかるため,肉厚のPTFE容器(例えば5 mm以上)が望ましいです。PTFEの耐熱温度は260°C程度と一般的に知られていますが,ゼオライト合成は1日以上連続して加熱することもありますので,安全が確保できるメーカーの指定範囲の温度での使用を強く推奨します。

●加熱源

小さい容積の耐圧容器(~500 mL程度が目安)では,定温恒温槽(いわゆるオーブン)の中に耐圧容器を設置することで容器全体を加熱します。大量のゼオライトの合成を目的とする場合,大きな容積の耐圧容器(例えば1000 mL以上)では大きすぎて市販の定温恒温槽に入らないので,耐圧容器を電熱ヒーターなどで囲んで加熱することとなります。その際には,容器の外部と内部で温度差がつく可能性があるので,耐圧容器の外部温度を観測するとともに,合成液の温度も測定することを推奨します。

●撹拌の有無

撹拌は,ゼオライト合成で目的の結晶相を得るための重要な制御因子の一つです。同一の原料混合物を用いた場合でも,撹拌条件下で水熱合成して得られる生成物と,撹拌せずに得られる生成物のゼオライトの結晶相が異なる(または結晶化が起こらない)ことがあります。既報告を参考にして,目的とするゼオライトを得るための撹拌の必要性を考慮する必要があります。

大きな容積の耐圧容器では,撹拌羽根を挿入することで原料を撹拌・混合することができます。一方,小さな容積の耐圧容器では,撹拌羽根を挿入できない,また磁力駆動の撹拌子を用いることが難しい場合もあります。そのため,耐圧容器ごと回転させることで原料液を混合することが可能な定温恒温槽が販売されています。

●液量

耐圧容器の容積の1/3以下の液量とすることを強く推奨します。100°C以上の加熱下では,水蒸気の自己圧が容器内にかかります。容器の容量に近い量の原料液を仕込んだ場合には,自己圧により容器のフタがわずかに開いた際に液漏れが起こる,などの事故につながります。なお,ある温度で生じうる水蒸気の自己圧は,容器内の液で満たされていない容積によらず,一定の値となります。

●固体試料の回収

ゼオライト結晶は,一般的に数百ナノメートルから数マイクロメートルの大きさで得られます。水熱合成後の容器の中では通常,無色透明の液相と白色沈殿に分離しています。この白色沈殿を回収するにはろ過を行います。ろ紙はセルロース製のものを用い,自然ろ過または吸引ろ過することで液相と固相を分離します。

ゼオライトのX線回折測定の回折角2θの範囲について

粉末X線回折(X-Ray Diffraction: XRD)測定は,結晶性の試料にX線を照射して回折されたX線の回析角度と強度を測定することにより,結晶構造を解析する測定方法です。照射されたX線は結晶の格子面において散乱されます。このとき,異なる格子面に照射された平行なX線は,X線の波長λ・入射角θ・格子面間隔dがブラッグの条件nλ=2dsinθを満たす場合に,位相がそろい互いに強めあいます(高校物理の教科書を参照)。例えば,X線源として標準的に使用されるCuKα線の波長λ=0.154 nmを用いると,入射角2θ=1,5,10,20,40,60˚に対応する多孔性材料の格子面間隔は,それぞれ8.8,1.8,0.88,0.44,0.23,0.15 nmです。XRDの測定においては,試料の格子面間隔に応じた入射角を設定する必要があります。メソ孔(>2 nm)を有するメソポーラスシリカ等の測定では,入射角2θ=1–10˚付近を中心に用いられます。マイクロ孔(<2 nm)を有するゼオライトや金属有機構造体(metal-organic framework: MOF, PCP)等の測定においては,入射角2θ=5–50˚付近を中心に用いられます。詳しくは,参考書(例えば,中井泉・泉富士夫(2012)「粉末X線解析の実際 第2版」朝倉書店など)で一通り学んで頂けると思いますので,そちらを参照ください。

Zeolite 35(2): 78-79 (2018)

引用文献References

1) ゼオライト,26(2)(2009)65–71“Verified Synthesis of Zeolitic Materials(Synthesis Commission of IZA)の紹介”

This page was created on 2018-04-18T13:29:53.591+09:00
This page was last modified on


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。