日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 35(2): 75-77 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.2.75

ゼオゼオゼオゼオ

ブリュッセル自由大学滞在記

岐阜大学工学部

発行日:2018年4月15日Published: April 15, 2018
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筆者は2017年3月より2018年3月まで,ベルギー王国の首都ブリュッセルにあるブリュッセル自由大学(Vrije Universiteit Brussel(以下,VUB))のJoeri F. M. Denayer教授のグループで在外研究の機会を得た。本稿では,ベルギー王国や現地の様子,研究生活について紹介する。

1. ベルギー王国

ベルギー王国(通称:ベルギー)はその名の通り,立憲君主制の国家であり,2013年よりフィリップ国王が国家元首となっている。ベルギーの総人口はおよそ1,130万人であり,東京都の人口よりも少なく,国土は30,528平方キロメートルと関東地方の面積と同程度である。2016年の一人あたりのGDPは41,491ドルと高水準である。ただし,失業率は8.4%と高い。伝統的にベルギーと日本は友好関係を維持しており,2016年には国交樹立150周年を迎え,ベルギー国内でも盛大に祝賀されたようである。実際,滞在中も筆者やその家族が日本人であることがわかると,非常にフレンドリーに対応してもらえることが多かった。

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フィリップ国王(左下)筆者撮影

ベルギーはブリュッセル首都圏地域,フランデレン地域,ワロン地域の3つの地域からなっている。北部を占めるフランデレン地域はフラマン語(オランダ語)圏,中南部を占めるワロン地域は主にフランス語圏であり,ワロン地域の東部の一部はドイツ語圏となっている。ブリュッセル首都圏地域は,フラマン語とフランス語の併用地域である。フランデレン地域とブリュッセル首都圏地域では英語はほぼ問題なく通用するが,ワロン地域では通じない場合も多い。

ベルギーの首都はブリュッセルとして知られているが,ブリュッセル市はこの首都圏地域の一部であり,一般的にブリュッセルという場合,全19の基礎自治体から構成されるブリュッセル首都圏地域を指す。首都圏地域の人口は120万人近くになる。ブリュッセル最大の特徴は,EUの首都とも呼ばれているように,EU本部やNATO本部をはじめとする国際機関の本部が多く置かれている点にある。そのため,ブリュッセルは外国人居住者も多く,国際色豊かな都市のひとつである。

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EU本部(ベルレモン)

2. ブリュッセルでの生活

ブリュッセルでは英語がほぼ通じることから,言語の面で困ることは少ない。ただし,標識やスーパーで販売されている商品など,フラマン語とフランス語は併記されているものの英語表記はないため,買い物などでは不便さが残る。ブリュッセルはヨーロッパ諸国の中でも在留日本人が多い(ベルギー全体でおよそ6,000人)地域であるため,日本食食材店,日本人学校もあり,日本人にとって比較的生活しやすい地域と言える。企業等から派遣されている現地駐在の日本人はほぼ自動車を所有していたが,ブリュッセルは地下鉄,トラム,バスの公共交通機関も発達しているため,自動車を所有していなくても十分に生活は可能であった。

ベルギーは美食の国とも呼ばれているように,食事は美味しいものが多い。ベルギーと言えば真っ先に浮かび上がるのが,チョコレート,ビール,ワッフル,さらにはフリットと呼ばれるフライドポテトであろうか。それらに加え,ムール貝を白ワインで煮たもの,小エビのコロッケ,ワーテルゾーイと呼ばれる肉や魚のクリーム煮,ミートボールなどがあり,いずれも美味しい。フランス系(ワロン系)のレストランはフランス料理に近く外れが少なかった。なお,ブリュッセルのパスタは,イタリア人が調理しているイタリアンレストランを除き,茹で過ぎのものがほとんどであるため,あまりお勧めしない。日本食レストラン(主に寿司屋,ラーメン屋)もあり,日本人が経営している日本食レストランでは十分に美味しい日本食が提供されている。寿司はヨーロッパ諸国の大都市と同様に,スーパーなどでも購入できるが味は満足行くとは言い難い。先に述べたように日本食食材店もあるため,日本食の調理に困ることはあまりない(薄切り肉以外)が,価格はもちろん高い。

郵便事情はとにかく悪いことで有名。他人の郵便物が筆者のポストに入っていることや,筆者宛の郵便物を他の住人から受け取ることもしばしばあった。そのため,確実に相手に届けたい場合は,民間の宅配便サービスを利用する方が良いかもしれない。

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世界遺産グランプラス

3. 研究生活

VUBの化学工学科は,Gert Desmet教授をトップに,6名の教員(+名誉教授1名)が在籍しており,クロマトグラフィー,マイクロフルイディクスなどを中心に研究しているDesmet教授のグループと,多孔質材料の吸着に関する研究を進めているDenayer教授のグループで構成されている。研究室の構成員は教員に加え,秘書1名,ポスドクとPhDの学生がそれぞれ20名ほどおり,彼らが中心となって研究を進めることになる。これに加え,技術職員が4名(常勤は3名)在籍しており,彼らが研究室のあらゆる実験設備の新規立ち上げ(装置の組み立てだけでなく,PCの装置制御用ソフトウェアの開発まで!)から改修,保守までを担っており,非常に羨ましく感じたのを覚えている。

研究は既に述べたように,ポスドクとPhDの学生が中心となって進めている。修士の学生も修士論文のための研究をするが,期間は数か月程度と短いことから,研究室に常時在籍している訳ではなく,日本とはシステムが大きく異なっている。なお,PhD学生は学位取得までの期間は通常4年であるが,教育プログラムを含んだ6年コースもあるとのこと。研究の進め方は,同じ研究プロジェクトのメンバーが集まるミーティングの頻度はそれほど高くなく,教員との個別でのやり取りが多い印象を受けた。筆者の場合は,自身の研究テーマであったため,基本的にはDenayer教授と1対1で実験結果と次の方向性について議論した。ディスカッションでは大変参考になる助言を多く頂けただけでなく,筆者の考えも尊重頂き,自由に研究を進めることができたことは大変有難かった。

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Joeri Denayer教授と

なお,研究室の勤務時間などは特に決まりはなかったが,多くのメンバーは9時前後に研究室に顔を出し,17時~18時頃には帰宅することから,19時頃には研究室はもぬけの殻状態であった。滞在当初,同室のポスドクから17時頃になると,そんなに仕事しなくて良いからもう帰った方がいいよ,と言われたことは衝撃的であった。

4. 研究テーマ

筆者が博士課程の学生時代にcore-shell構造化MFI型ゼオライトを用いたパラキシレン合成を研究していたが,そのパラキシレン選択性の由来に常々興味があった。VUBではその手掛かりを得るべく,自身の試料について,キシレン異性体の吸着を含め,いくつかの手法により試料の吸着特性評価を進めてきた。結論を得るのは大変難しいテーマであり,実際に結論を得るには至らなかったものの,個人的には非常に興味深い成果が得られたように思う。また,滞在当初から研究室で進められている研究に少しでも貢献したいとの思いも強くもっていた。ヨーロッパでは再生可能エネルギーのひとつとして,バイオブタノールの研究開発が盛んであり,Denayer教授のグループでもバイオブタノール発酵液からのブタノール回収技術開発に精力的に取り組んでいた。そこで,筆者が用意していた試料(ゼオライト)がバイオブタノール回収技術に使えないかを検討した。こちらについてもある一定の成果を達成できたと考えている。

なお,Denayer教授のグループでは,ゼオライト,活性炭,MOFなど多孔質材料を用いた吸着および吸着分離プロセス開発が研究の主題となっている。MOFなど比較的新しい物質については,実験的および計算科学的手法を用いた吸着特性評価とそのメカニズムの解明などの基礎科学的な研究に取り組んでいる。その一方で,化学工学を基盤としていることから,上で述べたバイオブタノール回収技術など,各種分離プロセス開発に向けた出口志向の研究も盛んになされている。

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Gino Varon名誉教授と

5. 終わりに

ベルギーでの筆者の経験を元に,当地での生活,研究について紹介させて頂いた。少しでも皆様の参考になるとともに,当地に対する認識が深まれば幸いである。滞在中の経験は得難いものであり,研究面はもちろんのこと,それ以外についても多くのことを学ばせて頂いた。今後は,この経験を日本での研究・教育に活かしていきたい。在外研究にあたり,岐阜大学の上宮成之先生はじめ,日本,ベルギー両国の多くの方々に公私に渡りご支援,ご協力頂いた。また,資金面では日本学術振興会科学研究費助成事業によりご支援頂いた。誌面を借りて,ここに深謝の意を表する。

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