サウジアラビアのKAUSTにて研究留学
大阪大学大学院基礎工学研究科西山研究室修士2年
© 2018 一般社団法人日本ゼオライト学会© 2018 Japan Zeolite Association
今回三ヶ月の研究留学を指導していただいたKAUST大学のJorge Gascon教授は2017年の6月にDelft工科大学(オランダ)から赴任されたばかりであったが,今回の留学を快く引き受けてくれた。初めて聞く大学の名前であったがそれもそのはず,2009年に開校されたばかりの新大学であり,場所はサウジアラビアという我々にとっては未知な世界にあった。
サウジアラビア西部にある国内第2の都市ジェッダから北へ車で一時間,山手線の約半分の面積に相当する広大な敷地に,王立キング・アブドラ工科大学(KAUST: King Abdullah University of Science and Technology)を中心とする国際学園都市がある。広大なキャンパス内に必要な設備はすべて常設されており,スーパーマーケットや映画館,小学校やゴルフ場まで何もかもがキャンパス内に揃えられている。KAUST大学は,サウジアラビアのアブドラ国王が約一兆円の資金を投じて建設され,現在では約80ヶ国から研究者が集まり,中東のMITとも呼ばれている。さらに,2016年の2016 QS World Univ. rankingでは論文引用数が教授一人当たり世界一となり,近年大変注目を集めている大学の一つでもある。
8月初旬にGascon教授に研究留学を行いたいと連絡し,面接,VISAの手配を素早く行い,10月頭から研修を開始することができた。現在KAUSTではVisiting studentとして学生を多く招致しているようなので,ここでは我々にとっては未知な国であるサウジアラビアへの入国までのプロセスについて簡単に説明したい。教授とのコンタクト後は,KAUSTのインターンシップ担当の面接官とのスカイプ面接があった。30分程度の面接で,こちらに来て何をしたいのか,何を学びたいのかという質問を受けた。基本的な簡単な面接ではあったが,Visitingであってもここであまりにも英語のレベルが低い場合は選考から外れる可能性もあるようだ。面接後は,VISAの手続きに進む。日本国籍の場合,サウジアラビアに入国する際は,事前にVISAを申請する必要がある。VISA取得までは約1ヶ月の期間を要したが比較的スムーズに取得することができた。VISA取得後は,航空券の手配に進み,渡航約一週間前にEチケットが送られる。そして驚くべきところは,Visiting studentの待遇である。航空券はもちろん,海外保険料やVISA申請時の費用,さらには3ヶ月の宿泊施設と毎月US$1,000のLiving allowanceも支給される。KAUSTがまだ開校されたばかりということもあり,潤沢な資金から宣伝も兼ねて毎年多くの学生を招致しているようである。サウジアラビアという異国な土地である上に,この手厚い待遇ということもあり却って不安にもなったが,研修が始まると私と同じようにVisiting studentとして来ている学生も多く,三ヵ月間何事も不自由なく快適に研究生活を送ることができた。
修士課程の2年間を通して,「超膨潤ラメラ相を鋳型とした新規MOFナノシート合成法」をテーマにこれまで研究を行ってきた。Gascon研究室では液液界面で簡便に大スケールかつ独立的なMOFナノシートを構築することに成功しており,これまで課題の一つであったMOFの応用化に関しても,有機ポリマーとナノシートの複合材料も作成することで,実際にガス分離膜として機能することを見出している。今回の研究留学では,有機ポリマーとの複合材料の作成方法とガス分離膜としての評価方法を学び,西山研究室で開発された新規MOFナノシートの材料としての評価を最終的な目標とした。
研修は2週間の安全教育から始まった。KAUSTでは安全に関する指導に非常に力を入れており,この2週間のトレーニングを終えるまでは,一人で実験室に入ることは許されないということであった。これは現在学生を多く招致しており,年間にVisiting studentだけでも約100人近く出入りがあるため,安全に関する共有を第一に考えているようである。安全教育にはオンラインでの試験もあり,徹底して行われた。さらに,時間外勤務における実務には必ず申請が必要であり,夕方18時以降実験室に残る場合は,時間外届の提出が義務づけられていた。
KAUST内は充実した研究設備だけでなく,研究者が無料で利用できるジムやプール,テニスコートやボーリング場などがいくつもあり,基本的にオフの日には体を動かしたり,キャンパス内のビーチで過ごした.また,キャンパス近くには巨大モールが幾つかあり,友人とのショッピングも楽しむことができた.上の写真は,研究室内で恒例になった週に2度のジム風景の写真.
2週間の安全研修が終わると自身の研究がスタートした。留学期間はポスドクの方に直接指導していただき,Gascon研究室で用いられているナノシート合成法と評価方法を習得し,さらにその方法を用いた新規MOFナノシートの合成も行った。隔週でチームミーティングもあり,そこで2週間の成果を全体の前で発表するというのはチームの習慣であった。研究室の中では,修士学生が私ただ一人であったが,ミーティングの際は年齢,Visiting studentは一切関係なく,徹底的に議論が行われた。ときには,ミーティングが長引き出前をとりながら議論を行うということもあった。
Visiting studentには,シェアハウスのアパートが提供され,3人の学生と共同生活を行う.といってもほとんどの学生がオフィスで日中を過ごすので顔を合わせることはほとんどない.冷蔵庫,台所,洗濯機など必要なものはすべて備わっており,共同で設備を利用する.
三ヵ月間の研究留学を終え,海外での研究キャリアについて深く考えることができた。Gascon研究室の研究者達は非常にアグレッシブで,研究を仕事としてとらえている方は一人もおらず,もっと知りたいという気持ちから研究されている方ばかりであった。海外Ph.D.に挑戦するということは,このような優秀な研究者達と同じフィールドで一意奮闘するということであり,私自身にその覚悟はあるのかということを強く考えさせられる経験にもなった。
サウジアラビアにあるKAUST大学での三ヵ月間の研究留学は,多様な経験をしたというだけでなく,国際的に活躍する研究者としてのキャリアを深く考え,学ぶ,非常に大きなきっかけになりました。また,KAUST大学という最先端の設備と素晴らしい研究者達が一同に揃っている環境で研究留学を体験できたことに関しては,非常に恵まれた経験を与えていただいたと帰国後改めて感じております。最後に,三ヶ月間の研究留学への参加を快諾していただいた西山憲和教授,内田幸明准教授,受け入れ先研究室のJorge Gascon教授,そしていろいろな面で支えてくれた家族に感謝の言葉を述べたいと思います。三ヵ月間本当にありがとうございました。
This page was created on 2018-01-30T14:08:04.539+09:00
This page was last modified on
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。