日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 35(1): 34-36 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.1.34

ゼオゼオゼオゼオ

オーストラリア留学体験記

芝浦工業大学大学院理工学研究科地域環境システム専攻

発行日:2018年1月15日Published: January 15, 2018
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1. はじめに

私は2016年10月から2017年9月の1年間,オーストラリアのビクトリア大学に留学しました。初めの半年間はトビタテ!留学JAPANを利用し,残りの半年間は日本特別振興会の特別研究員として渡豪し,Mikel Duke教授のグループで研究する機会を頂きました。

本稿では,ビクトリア大学留学中の研究と私がオーストラリアで経験した出来事について紹介します。

2. Institute for Sustainability and Innovation(ISI)の紹介

Mikel Duke教授の研究グループ,Institute for Sustainability and Innovation(ISI)は,ビクトリア大学のWerribeeキャンパスの一角にあります。Werribeeキャンパスは,メルボルン市内から郊外へ40分程電車に揺られたところにあり,自然豊かで落ち着いた雰囲気の場所です。

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写真1 ISIの研究棟

ISIは,DirectorのStephen Gray教授とDeputy directorのMikel Duke教授が運営する研究グループです。学部生と修士生はおらず,博士課程の学生8名程度と研究者,技術者で構成されていました。また数週間から数か月の短期インターンシップの受入れが多く,私が在籍中にもドイツ,スペイン,オーストリア,ブラジルなどの大学や企業から学生と研究者が来ていました。

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写真2 Mikel Duke教授および研究グループの仲間とFarewell lunchの様子

研究内容は,主に分離膜の応用研究を行っており,高分子膜や無機膜を様々な産業廃水に適用し,膜性能の評価と最適な膜開発,システム設計等について研究開発しています。無機膜はゼオライト膜とチタニア膜が基礎研究から検討されています。実験室は他学科との共用が多いですが,下水や廃水の実験を行うWater lab,ラボスケールで膜の透過性能を評価するMembrane lab,食品や微生物関連の研究は各々実験室を所有していました。また分析機器室(通称Shimadzu room)があり,水中のイオンや有機物質濃度を測定する装置はガスクロマトグラフィーから有機炭素計,ICP発光分析法まで幅広く取り揃えてあり,非常に便利でした。また全ての機器に精通した技術者が常駐しているため,機器トラブルへの対処が素早かったです。

3. 留学先での研究活動

留学期間中の活動として,実験による膜性能評価研究とオーストラリアの膜関連研究機関の訪問の2つを中心に行いました。

1つ目の実験による膜性能評価研究について述べます。私の研究は,主に水素分離や逆浸透分離に適用可能なアモルファスシリカ複合膜の開発です。留学先では,アンモニア廃水の分離を目標として日本で作製したシリカ複合膜の液体透過性を評価しました。また高分子膜の膜性能を評価し,シリカ複合膜との比較をしました。市販の高分子を利用した際に実用レベルの膜性能を実感し,今後も実用化を目指して無機膜開発に精進したいと改めて思いました。また実際の廃水処理場から頂いた原液を用いて膜分離性能を調査し,実液ならではの問題点や興味深い膜性能を見出しました。基礎研究から応用研究へ展開し,実用化へのプロセスの難しさと面白さをわずかではありますが体感できたことは有益でした。

研究を進める上で,一番違いを感じたことは,研究開始前の安全・リスク管理です。研究に着手する前に,個別に研究室全体の安全管理とリスクアセスメントの重要性について説明を受け,その後オンラインで試験を受けました。この試験をパスすると,1年間の実験計画を立て,想定されるリスクと対処法を全て書き出したリスクアセスメントを提出し,このシートが受領されて研究開始となりました。日本の大学にも制度として導入するか否かは別として,後輩を指導する際に実験上の安全管理について効果的に伝える術が必要だと再認識しています。

2つ目の膜関連研究機関への訪問は,4つの大学と2つの研究所,廃水処理場に行きました。膜活性汚泥法や海水淡水化用逆浸透膜や正浸透膜など高分子膜を中心に研究しているシドニー周辺にある3つの大学の見学では,お互い研究発表を行い意見交換ができました。どこの大学も実用段階に近い研究も行っているため,装置のスケールが大きく,企業との連携が活発であることが伺えました。また私自身が膜開発を主に研究していたので,膜を使用する側の話を聞けたことで新たな気づきを得られました。無機膜の研究を行っているQueensland Universityは,オートクレーブや焼成炉など研究室の様子に親近感がありました。またアンモニア廃水のサンプルを頂いた廃水処理場の見学では,現場の様子を知り,臭いや建物の作りから日本の処理場の整備は行き届いてるなと思いました。しかし,膜性能を評価する小屋を処理場内に作りましょうと話がスムーズに進んでいく様子は驚きました。これらの研究機関を訪問したことで,他分野の学生や企業の人の話を聞き,広い分野の知識を取り入れ理解する努力をしようと思いました。留学期間中は自身の研究に集中できる時間が多く,新たな学びと研究の整理,振り返りができたことは有意義でした。

留学最終日は,1年間の研究について発表し,お世話になった方々と琥珀露を頂きながらランチをしました。多くの人から研究に関する質疑,コメントを多くいただき,膜関連の国際会議で再び会いたいねとお互い話しながら,帰国しました。

4. オーストラリアの生活

(1)メルボルンの気候

オーストラリアは南半球のため,9~11月は春,12~2月は夏,3~5月は秋,6~8月は冬です。夏は東京よりも気温は高いですが湿度が低く,冬は雪が降らず,最低気温が10°C以下の日は多くはないため,快適に1年間を過ごせました。また,メルボルンは1日の間に四季があると言われるほど,朝夕と日中の寒暖差が大きいです。例えば真夏であれば,最高気温は38°Cに到達しても,朝夕は20°Cと1日で約20°Cの気温差がありました。また突発的な強風やごく短時間の雨が降ることもあり,天気が読めないことも多く初めのうちは戸惑いました。しかし,どんなに天気がコロコロ変わろうと,現地で生活している人々が口々に「これ(天気がすぐ変わること)がメルボルンだから仕方ない。」と話しているのを聞き,天気の変化も楽しめるようになりました。

(2)オーストラリアの動物

オーストラリアと聞いて思い浮かべるのは,コアラやカンガルーなどオセアニア特有の動物ではないでしょうか?私は留学前に想像していたよりも多くの野生動物に出会うことができました。まず,Werribeeキャンパス内には野ウサギやカラフルなインコ,そしてブルータンリザードと呼ばれる大きなトカゲが住んでいました。東京都内の大学では味わえない自然を感じることができ,キャンパス内の散歩は良い気分転換になりました。またWerribeeから西へ車で1時間ほど向かったGreat Ocean Road沿いには,野生のカンガルーやコアラに出会えるスポットがあり,これらの動物を間近で見ることができ大変嬉しかったです。特にコアラはオーストラリア人でもめったに遭遇できないそうで,1年間の留学期間中に木の上で動くコアラを観察できたことは貴重な経験でした。一方,カンガルーは総数が多いため,公園や道路沿いに出没します。カンガルーと車の接触事故を耳にする機会が何度もあり,日本の鹿のような存在ではないかと思いました。さらにカンガルーは食用肉としてスーパーで簡単に購入できます。香草と一緒に焼いたカンガルーステーキはレアで頂くと,しっとりとしておいしかったです。

Zeolite 35(1): 34-36 (2018)

写真3 Great Ocean Road沿いで見つけた野生のコアラ

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写真4 野生のカンガルー

(3)きれいな海

メルボルンの海岸沿いは,サラサラした砂浜と透き通った青い海が広がっています。キャンパスから南へ15分ドライブすると海水浴やBBQのできるビーチがあり,休日には友達と何度か遊びに行きました。ここで都市部からトラムですぐのブライトンビーチを紹介します。写真のように海岸に小さな小屋が立ち並んでいます。各小屋のペイントが素敵で,日本にはない景色を楽しめます。

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写真5 ブライトンビーチ(Brighton beach)の様子

(4)住居:学生寮,シェアハウス

メルボルンの一般的な住居は,平屋の戸建てでリビング,バスルーム,2つ以上の寝室と広い庭を持っています。単身者用のアパートやマンションは少なく,日本のようなワンルームや1Kでの一人暮らしが可能な部屋を見つけることは困難です。多くの留学生は学生寮やシェアハウスを利用しています。私の場合は,学生寮で3週間過ごし,その後家賃の安いシェアハウスに引っ越しました。シェアハウスは,多国籍で学生から社会人まで異なる文化や価値観をもつ人と出会うことができ,色んな方面から自身の研究や生活について振り返るきっかけとなりました。

5. おわりに

私の研究留学概要とオーストラリアでの生活について簡単に紹介いたしました。今後,研究留学を考えている方やメルボルンを訪問される方の参考になればと思います。

最後に,博士課程在学中に留学する機会を与えて頂いた野村幹弘教授およびオーストラリアでお世話になりましたMikel Duke教授と研究グループのみなさまに感謝の意を表し,締め括らせて頂きます。

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