ゼオライトとは?
「ゼオライトとは?」と訊かれて,思い浮かぶ物質の範囲は,研究者・技術者のそれぞれの状況に応じて少し異なるのではないでしょうか。それが,ゼオライトをこれから勉強される皆さんにとって,少々わかりにくくしているのかも知れません。
例えば,一般的な無機化学の教科書では,ゼオライトは「結晶性アルミノケイ酸塩で,分子ふるい能を有する」と説明されています。しかしながら,最近では,大孔径のものを含めて,ゼオライトと類似の構造をもった規則性多孔体を「ゼオライト類縁化合物」と呼んだり,あるいは単に「ゼオライト」と呼ぶこともあります。このことは,ゼオライトの研究分野が大きく展開し,現在まで発展してきた証であると言えます。今後も,新規なゼオライト類縁化合物が発見され,それに伴い「ゼオライト」に関連する科学・技術が大きく発展していくことを期待しています。
ここでは,まず,「ゼオライト(結晶性アルミノケイ酸塩)」の発見の歴史からご紹介します。ゼオライトは,1756年,スウェーデンの鉱物学者アクセル・フレドリク・クルーンステット(Axel F. Cronstedt)(余談ですがNiを発見したのもこの科学者です)がアイスランドの火山岩を調査しているときに発見されました。この鉱物は,水を吸着しており,加熱すると沸騰しているように見えたため,ギリシャ語の”沸騰する石”という名前の由来から「ゼオ(沸騰)ライト(石)」と名づけられました。日本語では沸石(ふっせき)と呼ばれます。そのため,ゼオライトの日本語名はモルデン沸石,フェリエ沸石など「○○沸石」が使われています(ちなみに,化学の実験で使われる沸騰石とは別のものです)。
その後,1940年代にリチャード・バーラー(R. M. Barrer)が初めてゼオライトを合成し,今では,天然ゼオライトと合成ゼオライトを合わせて200種類以上の構造が発見されています。「イオン交換能」,「分子ふるい」,「酸性質」など,構造由来の特異な性質が次々に見いだされ,これまでに触媒や吸着剤として広く利用されてきました。
結晶構造だけでなく,構成元素も多様になり,「リン酸塩型」や遷移金属を含む「メタロシリケート」など骨格原子が種々の元素で構成された数多くの結晶性ミクロ多孔体物質群が合成されました。これらゼオライトが有する諸性質に関しては,本シリーズの今後の記事で取り上げる機会があると思います。また,ゼオライトの基礎については,教科書(例えば,「ゼオライトの科学と工学」小野嘉夫,八嶋建明/編集,講談社サイエンティフィク,2000年)や学会のホームページ(http://www.jza-online.org/)で一通り学んで頂けると思いますので,そちらを参照ください。