日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 35(1): 30-31 (2018)
doi:10.20731/zeoraito.35.1.30

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ゼオライトとは?

発行日:2018年1月15日Published: January 15, 2018
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ゼオライトとは?

「ゼオライトとは?」と訊かれて,思い浮かぶ物質の範囲は,研究者・技術者のそれぞれの状況に応じて少し異なるのではないでしょうか。それが,ゼオライトをこれから勉強される皆さんにとって,少々わかりにくくしているのかも知れません。

例えば,一般的な無機化学の教科書では,ゼオライトは「結晶性アルミノケイ酸塩で,分子ふるい能を有する」と説明されています。しかしながら,最近では,大孔径のものを含めて,ゼオライトと類似の構造をもった規則性多孔体を「ゼオライト類縁化合物」と呼んだり,あるいは単に「ゼオライト」と呼ぶこともあります。このことは,ゼオライトの研究分野が大きく展開し,現在まで発展してきた証であると言えます。今後も,新規なゼオライト類縁化合物が発見され,それに伴い「ゼオライト」に関連する科学・技術が大きく発展していくことを期待しています。

ここでは,まず,「ゼオライト(結晶性アルミノケイ酸塩)」の発見の歴史からご紹介します。ゼオライトは,1756年,スウェーデンの鉱物学者アクセル・フレドリク・クルーンステット(Axel F. Cronstedt)(余談ですがNiを発見したのもこの科学者です)がアイスランドの火山岩を調査しているときに発見されました。この鉱物は,水を吸着しており,加熱すると沸騰しているように見えたため,ギリシャ語の”沸騰する石”という名前の由来から「ゼオ(沸騰)ライト(石)」と名づけられました。日本語では沸石(ふっせき)と呼ばれます。そのため,ゼオライトの日本語名はモルデン沸石,フェリエ沸石など「○○沸石」が使われています(ちなみに,化学の実験で使われる沸騰石とは別のものです)。

その後,1940年代にリチャード・バーラー(R. M. Barrer)が初めてゼオライトを合成し,今では,天然ゼオライトと合成ゼオライトを合わせて200種類以上の構造が発見されています。「イオン交換能」,「分子ふるい」,「酸性質」など,構造由来の特異な性質が次々に見いだされ,これまでに触媒や吸着剤として広く利用されてきました。

結晶構造だけでなく,構成元素も多様になり,「リン酸塩型」や遷移金属を含む「メタロシリケート」など骨格原子が種々の元素で構成された数多くの結晶性ミクロ多孔体物質群が合成されました。これらゼオライトが有する諸性質に関しては,本シリーズの今後の記事で取り上げる機会があると思います。また,ゼオライトの基礎については,教科書(例えば,「ゼオライトの科学と工学」小野嘉夫,八嶋建明/編集,講談社サイエンティフィク,2000年)や学会のホームページ(http://www.jza-online.org/)で一通り学んで頂けると思いますので,そちらを参照ください。

ゼオライトは,なぜMFI, LTAのように3文字のアルファベットで呼ぶのでしょうか?

1979年にIUPAC委員会(IUPAC Commission on Zeolite Nomenclature)により,3つの大文字からなる名称で表記するというゼオライト命名法が設定されました(Pure Appl. Chem. 51, 1091–1100 (1979))。ゼオライトが有する基本構造を示すFTC (Framework Type Code,通称:3文字コード)は,一般に物質名に由来し,大文字ローマ字以外の数字や文字が含まれていません。FTCの割り当ては,1986年,東京で開催された第7回国際ゼオライト学会(7th International Zeolite Conference)の国際ゼオライト協会(The International Zeolite Assiciation: IZA)の決定に従い,IZA-SC構造委員会(IZA-SC: IZA Structure Commission)による審査と承認を受けることが必要となります。さらに,2001年にIUPACにより明確に定義されました(Pure Appl. Chem., 73, 381–394 (2001))。

FTCコードの命名は,IZA構造委員会が決定したルール(Atlas of Zeolite Framework Types,付録http://www.iza-structure.org/books/Atlas_6ed.pdf)を満たす構造のみ,コードが割り当てられ,骨格構造内に結合がない部分(T-OH結合)があるゼオライトは,3文字コードの前には-(ハイフン)がつけられます。また,2種の構造の類似した多形(polymorph)の混晶である場合は,3文字コードの前に*(アスタリスク)を付けます。なお,FTCは,T原子(Si,Al,P,Ga,Ge,B,Beなど)の組成,分布,セル長または対称性に依存せず,FTCが命名法の基となった物質を「type material」と呼びます。

ゼオライトの鉱物名の英語表記について

天然ゼオライトに限らず,鉱物名はair(空気),benzene(ベンゼン),gold(金),iron(鉄)などと同じ「物質名詞」ですので,頭文字は文頭では大文字,文中では小文字,aやanの接頭語を付けない,単数扱いで複数形にしないなどの原則に従って記載します。ただし,鉱物名は,しばしば有名な研究者,またはその鉱物が模式的に産する産地名にちなんで名づけられるので,敬意を表して固有名詞のように使う,すなわち,文中でも頭文字を大文字にすることもあります。例えば天然ゼオライトで,Barrerite(バーライト,STI,R. M. Barrerに由来),Yugawaralite(ユガワラライト,YUG,神奈川県「湯河原」町に由来)などが挙げられますが,一般的な学術論文では固有名詞として記載せず,前述の通り「物質名詞」とします。

用語説明
イオン交換
ゼオライトのアルミノシリケート骨格の負電荷を補償するために,交換可能な陽イオンが骨格外に含まれます。
分子ふるい
ゼオライトの細孔径と分子のサイズの大小関係により,選択的な分子の取り込みが起こります。広い意味では,取り込み速度差が大きい場合にも,分子ふるいとよぶ場合もあります。
酸性質
イオン交換可能なゼオライトでは,H+(プロトン)を導入することができ,固体酸性質を示します。
リン酸塩型
アルミニウムとリンの酸化物からなり,ゼオライト構造類似の骨格をもつものをAlPO-nと呼びます。AlPO骨格に異種元素を導入した化合物を総称してリン酸塩型のゼオライトと呼びます。
メタロシリケート
アルミノシリケート型ゼオライトのAlあるいはSiを遷移金属を含む他の金属元素に置換したゼオライトの総称をメタロシリケートと呼びます。
T原子
ゼオライト骨格構造内で4配位構造を取る原子を示し,4配位を示す,Tetrahedralの頭文字を用いて,T原子という。

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