炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber-Reinforced Plastics)や1)リチウムイオン電池の負極等2),炭素材料は近年産業界で大きな役割を果たしつつある。CFRPは通常ポリアクリロニトリルを原料として得られ,軽量性および優れた強度と弾性率とを特長とする。エレクトロニクス等の先端分野においても炭素材料の応用が図られており,カーボンナノチューブ等の有する特異なナノ空間と電子状態を利用した応用が期待される。
上述の二次電池や電気化学キャパシタをはじめとする蓄電デバイスとしての炭素材料の利用においては,高容量化や充放電の高速化等による性能の向上が求められており,そこでは炭素材料の多孔化や表面特性の制御が一つの鍵となる3,4)。また当研究室では,吸着・分離分野において,易脱着性や高選択性等を利用した省エネ・高効率な吸着・分離プロセスの開発を行っており,材料の多孔化や表面特性の制御の重要性を吸着・分離の観点から提唱している5,6)。
特に多孔化においては,上記分野における性能の向上や技術の高度化のニーズを満たすために,比表面積や細孔容量といった基礎的な細孔特性に優れるだけでなく,細孔の形状や連結性,充填密度,細孔壁の厚み,およびそれらの均一性や階層性といった特性がナノレベルで高度に制御された多孔質カーボンを得ることが求められる。
水熱手法は,2000年代初頭に開発された比較的低温(通常250°C以下)の水溶媒中での,糖あるいはバイオマスを原料とした炭素材料の新しい合成手法である(英語では,“Hydrothermal Carbonization”と呼ばれる)7–11)。表面官能基に富んだユニークな表面特性を有する炭素材料が,再生可能資源からエネルギー消費の少ない方法で得られる合成手法であり,電気化学や吸着・分離分野をはじめとする産業分野への応用に向けた,材料への機能付与が期待される。
本稿では水熱手法で合成される炭素材料に注目し,本材料への制御された細孔空間の付与による多孔質カーボンの合成と,得られる材料の細孔特性およびその制御方法について,筆者らの研究成果を中心に解説する。
細孔特性の高度に制御された多孔質材料を得るための強力な手法の一つが,テンプレート法である。テンプレート法はハードテンプレート法とソフトテンプレート法の二手法に大別される(Scheme 1)。多孔質カーボン合成におけるハードテンプレート法では,まず予め合成した無機多孔体の細孔内に原料(炭素源)が含浸される。次に,熱処理等により原料を炭素化させることにより,無機多孔体―カーボン複合体が形成される。その後,強酸または強塩基によるエッチング処理により,複合体から無機部分を選択的に溶解除去することにより,多孔質カーボンが得られる(Scheme 1 (A))。ハードテンプレート法で得られる多孔質カーボンは,無機テンプレート細孔構造を型取った構造を有することから,カーボンレプリカとも呼ばれる。
ソフトテンプレート法では一般に,界面活性剤や両親媒性ポリマー等の“柔らかな”分子の集合体と炭素源との相互作用が構造形成に利用される。テンプレートとの相互作用存在下で炭素化が進行し,分子集合体とカーボンとの複合体が形成される。この複合体から,熱処理や溶媒抽出によりテンプレートが選択的に除去されることにより,多孔質カーボンが得られる(Scheme 1 (B))。ソフトテンプレート法はミセルや液晶等の集合体構造を,カーボンの細孔形状にそのまま反映させられることが特徴である。
テンプレート法による多孔質カーボン合成の初期の一例は,Knoxらの,メソポーラスシリカビーズをテンプレートとしたメソポーラスカーボンの合成である12)。Knoxらは,フェノールとヘキサミンの溶融物のシリカ細孔内への含浸,および塩基でのエッチングによるシリカ除去により,比表面積150 m2 g−1のメソポーラスカーボンビーズを合成した。さらに,本ビーズを液相クロマトグラフィーの担体として利用し,ODS(Octadecyl-Silica)カラムと分離特性を比較している。これ以降,MCM-41やSBA-15を代表とする規則性メソポーラスシリカの開発等の影響も受けて,これらのより高度に制御された細孔構造を有する無機多孔体がテンプレートとして利用され,細孔径等の均一性の高い多孔質カーボンが合成されている13–15)。
さらに,ブロック共重合体とフェノール―ホルムアルデヒド16),レゾルシノール―ホルムアルデヒド17)またはフロログルシノール18)との自己組織化を利用したソフトテンプレート法による多孔質カーボンの合成が発表された。これらは炭素材料に,両親媒性高分子の高次構造等に由来する高度に制御された細孔構造を付与した先駆的かつ重要な研究である。しかし,用いる炭素源や炭素化手法に起因して,得られる多孔質カーボンの表面は反応性に乏しく,表面の機能化や制御が難しいほか,疎水性が高く,例えば水相での応用の機会が限られるという欠点があった。また,枯渇性資源や,高温での熱処理を利用した資源・エネルギー消費の比較的高い方法であった。
一方,水熱手法は,糖類あるいはバイオマスを炭素源として利用した低温・水溶媒中の比較的マイルドな条件で行われる炭素合成手法であり,含酸素表面官能基に富む炭素材料が得られる。非化石燃料由来の原料を使用し,かつ比較的エネルギー消費の少ない合成手法である。
例えばBergiusらは,石炭の液化をはじめとする高圧下での化学反応の発展に貢献し,1931年にノーベル化学賞を受賞しているが,その中では,泥炭(ピート)を原料とした高圧下における水素合成に関する研究も行われている。水素生成時の副生物として,天然石炭に組成の類似する炭素様物質が見出されており,この知見を元に,水熱手法によりセルロースから炭素様物質が得られた19)。
本炭素合成手法は,2000年代初頭に炭素材料の新しい合成手法として再び注目された7–11)。また,炭素循環サイクルへの水熱合成の導入により,二酸化炭素の固定源であるバイオマスを迅速に炭素に変換し,炭素固定過程を人工的に促進させることで,大気中二酸化炭素を削減する手段としても関心を集めている20)。
水熱合成は,通常250°C以下の密閉条件下で水溶媒を用いて行われ,その反応過程は以下の三つのステップに分けられると考えられている21);
- ①脱水(Dehydration)―主要中間体であるフルフラールまたはヒドロキシメチルフルフラールの生成
- ②重合(Polymerization)―アルドール縮合等の多様な縮合および重合反応によるポリフランを主骨格とする炭素ネットワークの形成
- ③炭素化(Carbonization)―分子間脱水等を伴ったさらなる分子間・分子内縮合
上記①から③よりなるとされるステップを経て,炭素粒子が生成する。その生成機構は,飽和溶解度以上での核生成と,水溶液中のモノマー消費による核成長からなるLa Merモデルに従うと考えられている22)。
さらに重合過程は,界面が親水基で保護されながら進行する乳化重合と推測される。その結果,ポリフランが炭素–炭素結合等で架橋された構造の主鎖骨格からなり,その末端に含酸素官能基を有するとされる炭素ネットワークが形成され,炭素リッチの中心部と含酸素官能基リッチの表面からなる単分散炭素マイクロ粒子が得られる。
例えば,1 Mのグルコース(ブドウ糖)水溶液を180°Cで10時間加熱処理すると,直径約1.5 µmの単分散球状粒子が得られ,その表面には,C=Oや–OH等の官能基が存在する8)。この特性は,炭素粒子表面の,機能性分子による化学修飾等による更なる機能化に有利である。また,水熱合成で生成した炭素骨格は,不活性雰囲気下での焼成により芳香族化がさらに進行し,例えば900°C付近以上での焼成後に得られる炭素材料は電気伝導性を帯びる。
しかしながら,得られる球状粒子の内部には炭素ネットワークが密に発達していると考えられ,実際に,得られる炭素材料の細孔特性は限られる。よって,前述の吸着・分離や電気化学分野をはじめとする種々の応用分野に適用できる炭素材料へと展開するためには,本材料に制御された細孔空間を付与し,細孔径および形状や細孔の壁厚等が,高度に制御された細孔特性を有する多孔質カーボンを得ることが必須である。
そこで筆者らは,水熱手法へのテンプレート法の適用により,表面官能基を有しかつその細孔特性が高度に制御された多孔質カーボンを合成することを目指した(Scheme 2)。以下,糖を炭素源とし,水熱手法を利用した多孔質カーボンの合成を,それぞれハードテンプレート法,ソフトテンプレート法,および二種のテンプレートを同時に用いて行われるデュアルテンプレート法を適用した三つの系に分けて,合成方法と得られる多孔質カーボンの構造およびその制御について解説する。
3.1. 水熱-ハードテンプレート法
ハードテンプレート法では,シリカやアルミナ等の無機多孔体がテンプレートとして使用される23)。テンプレートの細孔内に炭素源または中間体を浸漬させ,後にテンプレートを酸または塩基エッチングで除去する方法により行われる。水熱手法で形成される炭素骨格は,耐酸性・塩基性を有するため,エッチング処理後も炭素骨格は維持される。
ハードテンプレート法による多孔質カーボンの水熱合成における最初の例は,Titiriciらによる,多孔質シリカをテンプレートとしたメソポーラスカーボンの合成である24)。そこではまず,水熱条件下におけるハードテンプレート法成功の鍵は,浸漬過程においてテンプレート表面と炭素源や中間体との極性を最適化させること,そしてそれにより,熱力学および濡れ性の観点から炭素源や中間体の浸漬を促進させることである,と仮説が立てられた。これは,両者の極性が合致しない場合には浸漬が十分に進行せず,テンプレートの細孔構造が上手く転写されない,ということを意味している。そこでまず,シリカの表面特性を親水的から疎水的へと段階的に変化させ,それに対する細孔充填の度合いが検証された。
それによると,親水性表面を有するシリカ細孔内へは,炭素源であるグルコースが浸漬するが,中間体(フルフラール)の生成に伴い,中間体がシリカ細孔内を離れ,細孔外で球状マイクロ粒子を形成することが分かった。一方,トリメチルクロロシランを用い,表面シラノール基の約半分をメチル化し,シリカ表面を疎水化すると,浸漬の度合いは向上したが,粒子の表面近傍のみまでしか浸漬せず,その結果シリカ除去後は炭素中空粒子が生成した。
最適な細孔充填は,800°Cでの焼成により表面シラノール基が脱ヒドロキシル化されたメソポーラスシリカビーズを用いた場合に達成されている。シラノール表面よりも疎水性が高く,一方でメチル化された表面よりは低い特徴を持つ表面である。180°Cでの水熱条件下でシリカ細孔内にフルフラールを浸漬させることが可能であり,シリカ除去後には多孔性テクスチャが粒子内部まで発達したメソポーラスカーボンビーズが得られた。窒素吸着測定からメソ孔の存在が確認されている(Brunauer-Emmett-Teller(BET)比表面積:200 m2 g−1,全細孔容量:0.32 cm3 g−1,細孔径:4.5 nm)。さらに,X線光電子分光分析においてはC=OやC–OH結合に帰属されるピークが得られており,含酸素表面官能基の存在も確認された。
この原理を応用し,同じくTitiriciらにより,ハードテンプレート法による規則性多孔質カーボンの合成が実証されている。ここではSBA-15規則性メソポーラスシリカの表面を同様に脱ヒドロキシル化し,フルフラールをハニカム細孔内へ浸漬させることにより,SBA-15の有するナノ構造の転写が可能となった25)。さらに,含酸素表面官能基を利用し,表面を3-クロロプロピルアミンを用いて化学修飾することにより,アミン系表面を有する多孔質カーボンを得ることに成功している。
また筆者らは,マクロポーラス陽極酸化アルミナメンブレンをテンプレートとして用い,水熱手法により均一なマクロ孔径を有するチューブ状多孔質カーボンを合成した26)。ここでは,得られた多孔質カーボンの表面を熱応答性ポリマーで化学修飾することにより,チューブ状多孔質カーボン粒子の分散・凝集を温度変化で制御している。
3.2. 水熱-ソフトテンプレート法
前項のように,水熱手法にハードテンプレート法を適用することが可能であった。これらは糖から水熱手法で得られる炭素材料に制御された細孔空間を付与したパイオニア的な例であり,表面官能基を有する多孔質カーボンが得られる重要な合成手法である。一方,得られるカーボンの構造はテンプレート無機多孔体に直接的に依存するため,細孔特性の制御は容易ではないと考えられる。また,得られる多孔質カーボンの細孔制御範囲も,無機テンプレート自体の細孔範囲に支配されると考えられる。さらに,無機テンプレートの合成,炭素源の浸漬・炭素化,およびテンプレート除去からなる多段階プロセスや原料・エネルギー消費型プロセス,強酸・強塩基を用いたエッチング処理が必要となることを考慮すると,材料合成プロセスの観点から,ハードテンプレート法は工業的な応用には必ずしも向かないと予想される。よって炭素材料に多様な細孔特性を付与するためには,無機テンプレートを用いない,より拡張性の高い合成手法の開発が求められる。
そこで,無機鋳型を用いないソフトテンプレート法による多孔質カーボンの水熱合成が,筆者らにより取り組まれた。ここではまず,ポリエチレンオキシド(PEO)-ポリプロピレンオキシド(PPO)-ポリエチレンオキシド(PEO)ブロック共重合体(Pluronic® F127)と果糖との混合水溶液を,130°Cで密閉加熱することにより,炭素と上記ブロック共重合体とよりなる複合体が合成された27,28)。透過型電子顕微鏡により複合体粒子の内部構造を観察すると,大きさ約10 nmのドメインと厚さ約6 nmのドメインとが互いに規則的に並んでいる様子が認められた。それぞれブロック共重合体部分および炭素部分と考えられ,ブロック共重合体が炭素源存在下において自己組織化することが示唆された(Fig. 1 (A))。
本複合体の規則構造は小角X線散乱法により解析された。本手法では,散乱したX線の強度分布パターンを解析することにより,ナノメートルレベルの規則構造における構造の周期や種類(ヘキサゴナル,キュービック等)が分かる。例えば,周期dの構造がθ方向の散乱に起因するとき,散乱ベクトルq=4π sin θ/λ(Braggの条件)に対してd=2π/qの関係がある。
得られた散乱パターンは規則構造に由来するBraggピークを有しており,ピークのq値とその組み合わせからユニットセルパラメータ23.6 nmのキュービック相Im3 m構造と帰属された(Fig. 1 (B))。よって本複合体はキュービック規則構造を有することが分かった。
構造形成の鍵は,130°Cという比較的低い水熱温度を用いること,および炭素源として果糖を選択することであった。水熱手法で広く用いられる180°C付近の温度では炭素化は速やかに進行するが,ブロック共重合体高次構造の安定性が低かった。一方130°Cでは,ブロック共重合体の高次構造の安定性が向上すると考えられる。ここで果糖は,他の糖炭素源と比較してより低温で脱水反応を起こすため,炭素源として果糖を選択することで水熱条件下におけるブロック共重合体高次構造の転写が可能になった。
ブロック共重合体を熱分解除去するために行われる複合体の窒素雰囲気下,550°Cでの焼成の後に得られる炭素粉末は,C:82.6%,O:14.2%,H:3.2%の組成からなった。本粉末は多面体粒子からなり(Fig. 2 (A)),透過型電子顕微鏡像から規則構造が保持されていることが確認されるが,炭素壁が比較的厚いという特徴を持つ(約7~10 nm,Fig. 2 (B))。小角X線散乱パターンにおいては,q値が大きくなる,すなわち高角側へのシフトが認められ(Fig. 2 (C)),規則構造の周期dが減少していることが分かった(ユニットセルパラメータ17.4 nm)。これは焼成中に起こる炭素ネットワークの縮合に伴い規則構造フレームワークが収縮するためと予想される。
焼成後の材料の窒素吸脱着等温線はI型に近い特性を示し,また低圧側でヒステリシスを生じた(Fig. 2 (D))。これは,吸脱着過程において細孔構造の変化が生じたためと推測される。BET比表面積は257 m2 g−1, 全細孔容量は0.14 cm3 g−1であり,急冷固体密度汎関数理論(Quenched Solid State Density Functional Theory, QSDFT)法により算出される細孔分布曲線では0.9 nmに比較的鋭いピークと2 nm付近にブロードなピークが存在した。
規則性メソポーラスシリカの細孔は,合成系への有機助剤の添加により膨潤され得るが,本合成系においても合成溶液中にトリメチルベンゼンを添加すると,得られる規則構造の幅が広がることが観測された。粒子形状および規則構造が保たれていることも電子顕微鏡観察およびX線小角散乱測定から確認された(ユニットセルパラメータが17.4 nmから18.9 nmに増大,Fig. 3 (A)–(C))。窒素吸着等温線はⅣ型へのシフトが見られ(Fig. 3 (D)),QSDFTによる細孔分布解析では,1.0 nmの鋭いピークの他に4.0 nm付近に新しくピークが生じ,細孔径の拡大が見られた。
ここで,水溶液中での一般的なミセル形成およびミセル構造転写が本水熱合成系に当てはまると仮定した場合,初期段階ではブロック共重合体は親水PEO部を水相に向けてミセル形成をしていると考えられる。果糖分子は,PEO部とおそらく水素結合を介して親水部に配置され,果糖からの炭素ネットワーク形成と,後のテンプレート除去によりミセル構造が転写された細孔が形成されると考えられる。さらに,添加されたトリメチルベンゼンは,PPO部からなるミセル疎水部に配置され,疎水部分の体積,すなわち細孔径の拡大に寄与すると考えられる。一方で,果糖の脱水反応および重合の進行に伴い形成されるポリフランを主骨格としたネットワークは,比較的疎水性であるため,逆ミセル形成の可能性も無視できない。今後,構造形成機構および転写機構の解明が進み,構造制御の幅が広がることが期待される。
3.3. 水熱-デュアルテンプレート法
ソフトテンプレート法による多孔質カーボンの合成は,複数の異なるテンプレートを同時に用いるデュアルテンプレート法に拡張され,これにより構造の階層化が可能になる。筆者らは,上記のブロック共重合体に加えて,有機コロイド粒子を第二のテンプレートとして用い,両者の水溶液中での安定性および分散性を制御することでマイクロ―メソ―マクロの三元細孔構造を有し,階層ナノ構造からなる多孔質カーボンモノリスの合成に成功した28,29)。
有機コロイドには,乳化重合により合成されヒドロキシ末端を有する直径63 nmのポリスチレンラテックス単分散粒子の水分散液が用いられた30)。Scheme 3に合成スキームを示した。まず,上記ラテックス水分散液にブロック共重合体および炭素源である果糖を加える(Scheme (A)→(B))。この混合液を水熱処理して果糖を炭素化させた後(Scheme (B)→(C)),窒素下での焼成によりテンプレートを熱分解除去することで階層ナノ構造多孔質カーボンモノリスを得る(Scheme (C)→(D))。水熱温度やテンプレート/炭素源濃度比等を変化させた種々の比較検討により,Scheme (B)から (C)に示す過程においてブロック共重合体が下記の三つの役割を同時に担っており,階層ナノ構造の形成に大きく寄与することが示唆された:
- ①コロイド粒子の凝集促進―粒子表面近傍に配置され,粒子同士の静電反発を妨げることにより,オパール構造の形成に寄与
- ②ミセル形成―逆オパール構造の細孔壁内におけるテクスチャ形成に寄与
- ③特異な相分離の誘発―水相と炭素リッチ相との両連続構造の形成に基づく,三次元幹状構造の形成に寄与
水熱合成は,130°Cと180°Cの二つの異なる温度で行われた(それぞれの温度で得られた材料をTHTC_130/550およびTHTC_180/550と呼ぶ)。どちらの場合も,水熱処理後のモノリス材料の窒素雰囲気下での熱分析において,ブロック共重合体とポリスチレンの熱分解に相当する重量減少(それぞれ360–380°C付近および420°C付近)が見られることから,二種のテンプレートとも複合体に含まれていることが分かった。また,ポリスチレンの熱分解温度以上の温度において本複合体の焼成を行えば,二種のテンプレートを同時に熱分解除去できると考えられるため,テンプレート除去は550°Cの窒素下で行われた。
THTC_130/550は,太さ0.5~1 µmの三次元に連なる炭素幹からなり,幹中に直径が約50~60 nmの逆オパール構造様の細孔が存在することが観察された(Fig. 4 (A) and (C))。THTC_180/550については,2~4 µmの太さの三次元に連なる炭素幹中に,同様に直径が約50~60 nmの逆オパール構造様の細孔が観察された(Fig. 4 (B) and (D))。50~60 nmの細孔径は,テンプレートポリスチレンの粒子径の大きさと良く一致することから,逆オパール様の細孔はポリスチレン粒子の抜けた跡であると考えられる。さらに,透過型電子顕微鏡により細孔壁を観察すると,THTC_130/550には,細孔壁内にさらに数ナノメートルレベルのテクスチャが観察された(Fig. 5 (A))。一方,THTC_180/550ではこうしたテクスチャは見られず,50~60 nmの細孔がより密に充填されていた(Fig. 5 (B))。
このような細孔構造の違いは,上記のブロック共重合体の三つの役割について,その寄与の度合いが水熱温度によって異なることに起因すると考えられる。これは水熱条件下でのソフトテンプレート法による多孔質カーボン合成においては,水熱合成パラメータの変化により細孔構造の制御が可能であることを示している。
水銀ポロシメトリーによる細孔特性評価では,THTC_130/550およびTHTC_180/550について,それぞれ2.4 µmおよび3.3 µmに細孔分布のピークが現れ,三次元に連なるマクロ孔の幅がそれぞれ均一であり,かつ水熱温度により制御可能であることが分かった(Fig. 6 (A))。計測された累積圧入容量は,それぞれ4.03 cm3 g−1,2.34 cm3 g−1であった。窒素吸着等温線にはⅣ型の特性が見られ,マイクロ孔およびメソ孔(もしくは小さなマクロ孔)が存在した(Fig. 6 (B))。THTC_130/550とTHTC_180/550のどちらも,全細孔容量(それぞれ0.90 cm3 g−1,1.00 cm3 g−1)のそれぞれ73%および77%がメソサイズ以上の細孔の寄与からなる大きな細孔が優位な材料である。BET比表面積はそれぞれ621 m2 g−1,634 m2 g−1と算出された。
Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法による細孔分布評価では,THTC_130/550およびTHTC_180/550どちらの場合も約60 nmにピークが得られた。このことから,壁のテクスチャや三次元連続孔の幅が制御されながら,逆オパール様構造は保持されていることが言える。X線光電子分光分析では,C–O–やC=O結合に帰属されるピークが得られ,含酸素表面官能基が存在していることが確認された。本逆オパール構造は,窒素雰囲気下における900°Cでの熱処理後も維持された。130°Cでの水熱合成の後に,900°Cでの熱処理を行うことによって電気伝導性を付与された材料は,BET比表面積823 m2 g−1および全細孔容量0.93 cm3 g−1を有した。得られた材料は,均一な細孔を有する電極材料としての応用が期待される。