日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 34(4): 139-142 (2017)
doi:10.20731/zeoraito.34.4.139

ゼオゼオゼオゼオ

J. Heyrovský Institute of Physical Chemistry(チェコ共和国・プラハ)滞在記

広島大学工学研究科

発行日:2017年10月15日Published: October 15, 2017
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著者は,2017年5月末より同年8月末まで,チェコ共和国プラハにある,J. Heyrovský Institute of Physical ChemistryのJiří Čejka教授の研究グループとの共同研究を行いました。本稿では,その滞在経験に関して紹介いたします。

1. プラハの様子

チェコ共和国の首都プラハは,同国のほぼ中心に位置し,人口約120万人のチェコ最大の都市です。プラハには,古くから残る町並み,建物が数多く点在しており,国内外から訪れる多くの観光客でにぎわいます。内陸国であるチェコは,周辺国であるドイツ,ポーランド,スロバキア,オーストリアと陸続きで隣接しており,今日に至るまで様々な民族,文化との融合を繰り返してきました。プラハ市街地は,1000年以上の歴史を持ちますが,第一次・第二次世界大戦の被害にも,その後の高度経済成長の波にも巻き込まれなかったことで,ロマネスク建築から近代建築まで各時代の建築様式が並び,現在は,プラハ歴史地区として,ユネスコの世界遺産も登録されています。市街地を歩いて回るだけで,古くから残る美しい建築物を堪能でき,プラハ城の中にある聖ヴィート大聖堂(写真1),多くの露店や大道芸人で溢れるカレル橋(写真2),旧市街広場等コンパクトな市街にたくさんの見どころが集まっています。

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写真1 聖ヴィート大聖堂.100メートル近い鐘楼を持つチェコ最大の教会です.

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写真2 ヴルタヴァ川に架かるカレル橋.橋上からは美しい町並みが見渡せます.

プラハの郊外には国際空港,市内の中心部には国際列車およびバスのターミナルがあり,週末や祝日には多くの利用者で混み合います。市内の公共交通も十分に発達しており,3本の経路から成る地下鉄,それを補うように配線されているバスやトラムを,1種の共用チケットで,比較的安く(90分乗り放題で150円程度)利用できます。

2. J. Heyrovský Institute of Physical Chemistryの紹介

J. Heyrovský Institute of Physical Chemistry1)は,チェコの主要な科学研究所から構成されるCzech Academy of Sciencesに属しており,研究所は,プラハ中心部からヴルタヴァ川を越えて北に向かった先の丘陵にあります(写真3)。研究所の名前は,ポーラログラフィーを発見しノーベル化学賞を受賞した,プラハ出身の分析科学者Jaroslav Heyrovskýから取られており,本機関の先駆けであるLaboratory of Physical ChemistryはCzechoslovak Academy of Sciencesの創設とともに1952年に立ち上げられました。現在では,約150の研究スタッフと約50名の学生が所属しており,国内外の様々な研究機関と積極的な共同研究を進めています。

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写真3 J. Heyrovský Institute of Physical Chemistry研究所

研究所内には,触媒やゼオライトを扱っているグループがいくつかありますが,著者はJiří Čejka教授の研究グループ(Synthesis and Catalysis)にお世話になりました。研究グループのメンバーは15名程度で,ポスドク,研究スタッフ,共同研究先や大学からの受け入れ学生等様々なメンバーが所属していました。メンバーの出身国も,チェコ国内のみならず,スコットランド,フランス,ポーランド,ベラルーシ共和国,ロシア,インド,中国,ブラジル等多種多様で,非常に国際色豊かな環境でした。そのような背景から,メンバー間の意思疎通は英語で行われていましたが,東欧圏のメンバーはお互いの母国が異なっていても,意味はある程度は理解できるらしく,異なる言語にもかかわらずお互いの母国語を使って話しているのが印象深かったです。本研究グループは2次元の層状構造を持つゼオライトに関する研究を精力的に行っており,最近では,ゲルマニウムを含むゼオライトをから得られた層状前駆体を起点として,様々な新規細孔構造体の合成を報告しています2)

研究室にはゼオライトの合成,基礎物性および触媒特性評価に関する設備が十分に整えられており,著者も不自由なく,円滑に研究活動を進めることができました。具体的な設備としては,水熱合成用の高圧装置,X線回折装置,分光装置,ガス吸着装置,触媒評価用のガスクロマトグラフィーなどが利用可能で,特に研究所内で共有の装置に関しては,円滑な利用のため,厳格に保守管理がなされていました。その他の解析装置に関しては,利用機会がありませんでしたが,必要であれば学内外の機関に解析検体をお願いできる体制が整えられていました。本グループは,毎年数回は欧州圏内の国際会議やワークショップを主催しており,著者の滞在期間にも2回国際ワークショップが執り行われました。ワークショップでは,国外の共同研究グループへ短期留学(1–2年)しているメンバー数人とも話す機会も得られ,本研究グループが共同研究のハブ拠点として働き,研究者が短期間にかつ流動的に共同研究所先へ出入りすることで,効果的な共同研究体制を構築しているのが感じ取れました。

3. チェコでの生活

研究所での生活

研究所の最寄り駅のLadviには,プラハ中心部のプラハ中央駅から地下鉄C線を使用し15分ほどで到着します。Ladvi駅には小規模なアウトレットが付随しており,食料品,日用雑貨の買い物,郵便局,銀行,レストランの利用が可能です。駅周辺はプラハ市街地と比較して,比較的新しく開発された地区らしく,多くのマンション,アパート,民家が並び,落ち着いたベッドタウンの様な様相でした。著者が滞在した宿泊施設は研究所の直近にあり,Ladvi駅および研究所まで徒歩5分程度と非常に便利な立地でした。研究所周辺のプラハ市街地から北部の地区は手付かずの山林や林をそのまま公園にしている個所が多くあり,緯度が高いことから日照時間も比較的長いため(おおよそ4時日の出,22時日の入り),時間のゆとりをもって屋外での散策を楽しめました。

渡航前著者はチェコが寒い国という印象を持っていましたが,渡航期間(5月~8月)はチェコの夏季にあたり,最高気温がしばしば30度を超え,少々驚きました。ただ,湿度が低いため,気温ほど暑くなく,日陰にして窓を開放しておけば十分快適に生活できました(実際に宿泊部屋には冷房はありません)。チェコ在中の方々は,明日から雨が降ると分かるとしばしば喜びます。日本では梅雨の時期に,雨の日は気が滅入るときもしばしばあったため,はじめはなぜ喜んでいるのか不思議に思っていました。どうやら内陸で雨が少ない気候のため,水不足にしばしば悩まされるという背景と,雨が降ると気温がぐっと下がり過ごしやすくなることかららしいです。

食事に関して

研究所での昼食は①駅周辺のレストラン,②施設内のカフェテリア(割引クーポンを利用可能),③弁当を持参と選択肢がありました。カフェテリアの食事はボリューム満点で安価でもあったのですが,著者には1食分が多く,結局自作の弁当に落ち着きました。他のメンバーも倹約も考えて,昼食を持参する人が多かったのですが,Jiří Čejka教授を含むグループリーダーの方々は昼食も兼ねて会議(小話)をするらしく,毎日カフェテリアを利用されておりました。

チェコは欧州連合に加盟していますが,独立貨幣(コルナ)でるためか,物価の高騰はそれほど見受けられず,生活するうえで非常に助かりました。品目によって変動はありますが,パンや生鮮食品,ビールなどは国柄大々的に生産しているためか特に安く手に入れることができます(例えばコッペパンは2コルナ(10円),500 ml瓶ビールは12コルナ(60円程度)など)。日本では昨今食品の価格高騰が見受けられますが,新鮮な食材が安く手に入る環境は非常にありがたく,市場で買ってきたものを簡単に味付けし調理するだけで,日々の食事は大変充実しておりました。

チェコは世界一のビール消費大国であり,その背景からか街中にポスタバ(ビアホール)やビアレストランがあります。著者も週末には,メンバーとともにいろいろなお店にお邪魔しました。その中でも驚いたのが,ビール銘柄を約1000種類を集めている,チェコ料理屋(写真4)で,日替わりでおすすめのビールが楽しめます。そこでは,チェコの素朴な郷土料理を楽しみつつ,千差万別の味を持つチェコの地ビールを堪能いたしました。料理の中でも豚肉のローストが絶品で,付け合わせの洋辛子はほのかに甘いですが食べやすく,肉との相性は抜群でした。その他にも,チェコの茹でるパン(クネドリーキ)や地の野菜が入ったグラーシュ等素朴な味付けながら,美味しく,お酒と一緒に楽しい時間を過ごせました。

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写真4 プラハ市内のビアレストランにて.

最後に

本滞在は,著者自身の最初の海外留学の機会でした。いくつか国際会議には参加し,海外の風土に触れる機会はありましたが,実際に現地に住み,生活し,研究していくのは,短い会議の期間では決して得られない経験だったと感じております。著者自身も滞在中,全く異なる環境で培った考えを基にお互いに話し合うことで,研究指針の可能性が格段に広がっていくのを感じました。本寄稿が海外に興味を持たれている若手の方々やゼオライト学会関係者の今後の研究・教育活動の糧になれば幸いです。

謝辞Acknowledgments

共同研究の遂行には,広島大学インキュベーション研究拠点「環境共生スマート材料研究拠点」および「機能性ナノ酸化物研究拠点」のご支援をいただきました。また,共同研究に際して,広島大学から多大なるサポートをいただきました。海外留学を積極的に後押しいただいた佐野庸治教授,海外滞在のアドバイスをくださった定金正洋准教授をはじめとして,所属学科・専攻の教員,スタッフの皆様に感謝の意を表します。J. Heyrovský Institute of Physical Chemistryのラボメンバーの皆様も公私にわたってサポートしていただきました。ここに挙げきれなかった方々を含めて皆様に感謝申し上げます。最後に,私との共同研究を快く受けていただき,研究に関して多大なご助力をいただいたJiří Čejka教授にお礼申し上げます(写真5)。

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写真5 研究室のメンバー.右上がJiří Čejka教授.

引用文献References

1) 研究所の詳細に関しては以下のURLを参照.http://www.jh-inst.cas.cz/www/

2) P. Eliášová, M. Opanasenko, P. S. Wheatley, M. Shamzhy, M. Mazur, P. Nachtigall, W. J. Roth, R. E. Morris, J. Čejka, Chem. Soc. Rev., 44(2015)7177–7206.

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