日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 34(3): 98-105 (2017)
doi:10.20731/zeoraito.34.3.98

解説解説

銀含有ゼオライト蛍光体Phosphor of Silver-Containing Zeolite

レンゴー株式会社 中央研究所 新素材研究グループRengo Co., Ltd. Central laboratory New material Development Group ◇ 〒553–0007 大阪市福島区大開4–1–186 ◇ Ohiraki 4–1–186, Fukushima-Ku, Osaka-shi, Osaka 553–0007 Japan

受理日:2017年5月26日Accepted: May 26, 2017
発行日:2017年7月15日Published: July 15, 2017
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蛍光体とは光などのエネルギーを吸収し,発光する材料のことであり,一般的にはレアアースが使用されている。今回,レアアースではない銀をゼオライトに陽イオン交換法を用いて担持させることにより,この材料が蛍光体としての特性を有することを見出した。本材料はレアアースを含む蛍光体に比べ,安価で安全な材料である。現在,紫光LED励起型の高演色性白色照明向け蛍光体としての開発を進めている。さらに化粧品や偽造防止材としての応用も検討している。本稿ではこれまでに得られた銀含有ゼオライト蛍光体の研究成果および今後の展開について解説する。

Phosphors are materials emitting light by absorbing energy such as light, and rare earth elements are generally used to them. The zeolites introduced silver which was not rare earth element by using the cation exchange method, and that the materials had the property of phosphors. These materials are cheaper than the phosphors including rare earth elements, and are safe. At present, we push forward the development as the phosphors for high color rendering white LED illuminations by the violet light excitation. Furthermore, we examine the application as cosmetic components and anti-counterfeit materials. In this paper, we describe the results of research for the zeolites containing silver as phosphors to date and future developments.

キーワード:蛍光体;銀;ゼオライト;LED照明;化粧品;偽造防止

Key words: Phosphor; Silver; Zeolite; LED illumination; Cosmetics; Anti-counterfeit material

1. はじめに

蛍光体とは,光の色すなわち波長を変換する材料であり,一般に吸収した光の波長よりもやや長い波長の光を放出する。身近なところでは旧来の蛍光灯,液晶のバックライト,ディスプレイ,車載ランプ,インクや塗料,また特殊な用途としてシンチレータなどに無機蛍光体が応用されている。近年青色LEDの開発に伴い,旧来の蛍光灯の代替としてLED照明が急速に増加しているが,白色のLED照明であっても三原色のLEDを搭載したタイプのものは非常に少なく,青色LEDをベースに無機蛍光体を塗布してあるものが大半である。それら無機蛍光体は,用途や求められる発光色および特性によって様々な種類がありながら,現在市場に出回っているもののほぼ全てにレアアースが使用されている。また無機蛍光体の製造は現状そのほとんどが固相法に依っているが,1,000°Cを優に超える高温での焼成を経るために量産性が比較的低く1),硬度の高い結晶の粉砕工程を経ることやレアアースを原料として使用していることと併せて,高性能の無機蛍光体は非常に単価の高い材料となっている2)

レアアースとは,スカンジウム,イットリウムおよびランタノイド元素からなる計17元素の総称である。それぞれの性質は似通っており,精製の難しさゆえ特に分離済みの単体元素は高価であるが,特異な電子配置やイオン半径をもつために付加価値の高い様々な部材に応用されている。世界のレアアース産出量は酸化物換算で年間12万トン以上になるが,実にその80%以上が中国により産出されている3,4)。2010年,尖閣諸島沖にて発生した中国漁船衝突事故を機に中国政府がレアアースの輸出量を絞り,世界的にレアアースの価格が高騰した。レアアースという資源の応用範囲の広さとともに,その資源が中国一国の寡占状態であることが知られることとなった契機である。現在では価格も比較的安定しているが,潜在的なリスクは解消されておらず,わが国でも継続的にレアアースの代替・低減技術の開発支援が行われてきている。

銀含有ゼオライトの蛍光発光現象は偶然により発見されたものであったが,レアアースを使用せず,かつ量産適性の高い条件で製造できるために比較的低価格での提供が可能であること,粒径コントロールが容易であること,その蛍光特性が市販品と比較して特徴的であること,人体への高い安全性をもつことなど,多くの点で優れていることがわかってきた。本研究は,この銀含有ゼオライト蛍光体の性能を向上させ,その特徴を活かした市場に投入することを目的としている。

2. 類似技術との相違

ゼオライトの構造中には,数Åオーダーの微細な孔が高い規則性をもって並んでいる(図1)。その孔の径よりも小さい分子は構造内部へ侵入できるが,大きい分子は侵入することができないという特徴を活かし,分子ふるいとしてガスの濃縮や不純物除去,脱水などに多く使用されている。またその孔には水中で交換可能なカチオンが含有されており,このカチオンの交換機能ゆえ,ゼオライトの構造中に銀イオンを取り込ませることは非常に容易である。

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図1. フォージャサイト型ゼオライトおよびA型ゼオライトの構造モデル

製造方法の一例を以下に示す。まず市販の硝酸銀を1.60 g秤量し,これを1000 mLのイオン交換水に室温下で溶解させる。これにX型ゼオライトを5.0 g投入し,60分撹拌する。濾過および洗浄を行い,50°Cに設定した乾燥機で16時間乾燥させることにより,302 nmのUV-B照射で黄色に発光する銀含有ゼオライト蛍光体を得ることができる。

銀イオンを水中でのイオン交換によりゼオライトの構造中に導入して蛍光体とする技術については,これまでにもベルギーのK. U. Leuven(カトリーケ・ルーベン大学)や日本の弘前大学などから報告されていたが,そのいずれもが比較的高温,400~500°C程度での焼成を必要とし,かつ大気雰囲気下に放置すると500時間程度で蛍光特性が失われるものであった。蛍光特性が発現するメカニズムは焼成時に銀イオンが還元されることによるオリゴ金属銀クラスターの生成であるとされ,大気中では水蒸気や酸素の影響によりそのクラスターが徐々に崩壊して蛍光特性が失われるとされていた5~7)。ゼオライトを母材として蛍光体を作製する技術に関しては吉澤石灰工業などから報告されていたが,蛍光特性の中心を担うものとしてレアアースであるユウロピウムをイオン交換により導入することが重要であると述べられていた。こちらの技術についても,吸湿による特性劣化を防ぐために700~1,100°C程度での焼成が必要であるとされていた8)

本研究における蛍光体は,レアアースを使用せず,焼成が不要であり,大気中に放置していても蛍光特性を失わない世界初の銀含有ゼオライト蛍光体であって,前述の金属銀クラスターを作製する技術とは明らかに異なっている。金属銀クラスターに依らない蛍光発光の原理はまだ完全には解明されていないが,粉末X線回折法によるリートベルト解析からは,銀やその他のイオンを含有するゼオライトに結晶構造の歪みが生まれていると推察できる結果が得られており,また蛍光寿命測定や,励起波長と発光波長の三次元マッピングから,銀やその他のイオンの配位子場またはゼオライト骨格,あるいはその両方が影響を受けて新たな電子軌道が生じ,蛍光発光特性の獲得に至っているものと推察している。

銀含有ゼオライト蛍光体は,母材となるゼオライトの構造やSi/Al比,さらに銀以外の成分の追加により,様々な発光色を示す(図2)。母材としてはごく一般的なフォージャサイト型ゼオライトやA型ゼオライトが使用でき,中でも可視光により励起され,赤色の蛍光を発するA型ゼオライトの蛍光体を見出したことにより,本研究は大きく飛躍することとなった。特にA型ゼオライトが赤色に発光する蛍光体となるためには,第二成分として亜鉛の配合が必須であり,この発光メカニズムの解明はまさに現在も重要なテーマとして取り組み中である。

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図2. 銀含有ゼオライト蛍光体の発光の様子

UV-B照射により左上が茜色,中央が黄色~黄緑色,右下が水色に発光する

3. 白色LED照明への応用

可視光により励起され,赤色の蛍光を発する蛍光体は,希少であるといわれている。その需要が特に高まっているのが,白色のLED照明用途である。白色LED照明の多くは,青色の光を発するLEDとYAGと呼ばれる青色の光を吸収して黄色に発光する蛍光体を組み合わせた疑似白色LED照明である2)。このYAG蛍光体は非常に高い波長変換効率を誇る黄色蛍光体であるが,青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせだけでは太陽光と比較した際に赤の色成分が不足し,太陽光で鮮やかに見えていた赤色の物体の色がくすんで見えてしまう。太陽光と比較した際の色の再現性は演色性という言葉で表されるが,白色LED照明の演色性を向上させるためには黄色蛍光体だけでなく赤色の蛍光体も同時に使用すればよく(図3),高性能の赤色蛍光体の需要が高まることとなった。また更なる演色性の向上を目指し,励起光源となるLEDの発光波長を近紫外~紫程度まで短くし,代わりに青色や青緑色の蛍光体を加えるという改良も一部では進められている。この場合には蛍光体が青色でなく紫色の光で効率よく励起されることが有利になる。その理由の中には蛍光体由来の青色の光が別の蛍光体によって再吸収されてしまうなどの問題が含まれている。銀含有A型ゼオライト蛍光体は430 nm程度までの紫色の光で最も効率よく赤色の光を発するため,その点で優位にある(図4)。

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図3. 白色LED照明の演色性向上のための手段

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図4. 銀含有A型ゼオライト蛍光体の励起–発光スペクトル

銀含有A型ゼオライト蛍光体を白色LED照明に適用するにあたり,最も大きな障壁となったのは熱の問題である。LEDは高効率,長寿命,省電力などを謳っており,実際にその効率も旧来の蛍光灯を凌ぐところまで向上しているが,発熱の問題は常に付きまとっている。正確に測定することは難しいが,LEDチップの直上に塗布される蛍光体は,使用中に最高で150°C程度,より高輝度のLED照明となれば200°C以上ともいわれる温度に晒されることとなる。それゆえに白色LED照明向けの蛍光体の評価指標の中には「熱特性(または温度特性)」と呼ばれる項目があり,室温から加温しながらその場での波長変換効率の低下を調べるという試験の結果が特に厳しく評価される。銀含有A型ゼオライト蛍光体は,開発当初は熱特性においては充分ではなかったが,偶然にもイオン交換時に別の金属イオンを追加することによって,最終的に得られる蛍光体が比較的高温の下でも室温時の蛍光強度を保つということを見出すことができた(図5)。このことを機に熱特性の改善に集中的に取り組むこととなり,現在では温度の上がりにくいデバイス向けであれば使用に耐えうるレベルの熱特性にまで改善されている。

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図5. 銀含有A型ゼオライト蛍光体の温度特性

大きな課題である熱の問題を解決するアプローチとして,蛍光体自身の改良の目処が立っていなかった時期に照明デバイス側での対応策も検討していた。前述の通りLEDチップ直上の蛍光体は熱に晒されることとなるが,LEDチップから離れた位置に蛍光体を配置した場合には熱の影響は小さくなる。この蛍光体をLEDチップから離すという照明形式はリモートフォスファーと呼ばれるが,LEDチップ直上であれば少量で済んだ蛍光体が,LEDチップから離れるほど多量に必要となってくる。ゆえに価格の高い蛍光体は使用しづらく,その面では量産性の高さに由来するコストの安さを狙う銀含有ゼオライト蛍光体は優位にある。このことを受けて,前述の熱特性の向上と並行してリモートフォスファー形式での使用検討も進めている。具体的には,透明度の高いシリコーンゴムと蛍光体を混練して成形し,励起光源となりうる既存のLEDパッケージに被せるという手法である。この手法自体は既に自動車のインテリア照明などに応用されており,銀含有ゼオライト蛍光体に比較的合った使用方法であるといえる(図6)。

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図6. 銀含有ゼオライト蛍光体に適したLED照明への展開方法

4. 変色の抑制

銀の光に関わる工業利用として,写真フィルムがある。近年ではほとんど見られなくなったが,銀塩写真と呼ばれる旧来の写真は,ハロゲン化銀を感光させて微小な金属銀粒子を析出させ,現像のための核とする。この原理から分かるように銀は光に対して敏感であり,銀イオンは光,特に紫外線の照射により還元され凝集しやすく金属銀の微粒子をつくりやすい。ゼオライトの構造中に保持されている銀イオンは基本的に移動しないが,結晶表面に存在する極微量の銀イオンがしばしば還元されて金属銀となる。この現象は変色として人の目に捉えられ,励起光や蛍光を吸収するために性能の劣化を伴う。また蛍光体をいかなる用途で使用する際にも,固定化のためには必ずと言ってよいほど樹脂と混練して硬化させるというプロセスが必要となり,樹脂との複合化においても変色抑制は避けて通れない課題であった。

樹脂との混練に関わる変色にも,成形加工時に発生するものと,加工後に紫外線や水蒸気あるいは酸素に晒されることで経時的に発生するものの二通りがある。両方を同時にケアしながらの対策として,銀含有ゼオライトが古くから抗菌剤として利用されてきたという点に着目し,抗菌剤の変色抑制手法を応用することで解決に向かおうとしている。例えば銀含有A型ゼオライトを可視光の励起で使用する場合には紫外線吸収剤が使用可能であり,ゼオライト粒子の周りに低~中程度の分子量の樹脂コーティング層を形成するという手法も有用である。現在も検討は継続しているが,開発当初とは比較にならないほど変色は抑制され,応用先次第では既に適用可能なレベルへ到達している。

5. その他の用途

ゼオライトは,多くの結晶水および付着水を保持することが知られている。銀含有ゼオライト蛍光体の構造中にも水分子が含有されており,熱特性のより一層の向上に対してはその水分子のコントロールが鍵となるが,その一方で弊社は熱および水分子の吸脱着を活かした用途の展開も考えている。その背景には,保持された水分子の吸脱着により銀含有ゼオライト蛍光体の蛍光発光波長が大きく変化するという興味深い性質の存在がある(図7)。ある一定以上の吸湿量になると発光色が変化するインジケータや,温度の上昇により発光強度がリニアに変化する温度センサーのような使用方法は独自性を活かせるものである。

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図7. 銀含有A型ゼオライト蛍光体の水吸着による発光色の変化

銀含有ゼオライトは古くから抗菌剤として利用されてきたと述べたが,そこから派生する大きな長所として,人体への安全性の高さが挙げられる。肌に触れる用途に使用可能であるため,化粧品や整髪料,ボディペイントなどへの応用が考えられる。化粧品へ蛍光体を配合する試みは既になされており,太陽光由来の紫外線を吸収しつつ赤~赤外の光を放出することで血流改善や顔色を良く見せる効果を狙うというコンセプトのものが市場に出ている。人体に触れる用途での使用実績を含む安全性という面では銀含有ゼオライト蛍光体は優れた材料であり,このような分野の商品への応用も期待できる。

フォージャサイト型ゼオライトを母材とする銀含有ゼオライト蛍光体は280~315 nmのUV-Bでのみ蛍光発光を示す材料であり,ブラックライトなどの一般的な波長350~370 nm程度の紫外線ではほとんど蛍光発光しない。通常は例えば蛍光灯用であったり電子線励起用であったりというような蛍光体であっても,必ずと言っていいほどブラックライトなどの長波長の紫外線でも蛍光発光が視認できる。ゆえに315~380 nmのUV-Aで視認できるほどの蛍光発光しない蛍光体という特徴は貴重であり,偽造防止用途などに応用できる。このことから,セキュリティを更に高める工夫として,弊社で従来から製造していたゼオライトとパルプの複合繊維の利用を考えた9)。これまでも蛍光繊維として,レーヨンやナイロンなどの合成繊維に蛍光体を練り込んだものは使用されていたが,パルプ繊維の様な天然由来の形状のランダムさは合成繊維には得難いものであり,そのパターニング自体がセキュリティの一段階となる(図8)。パルプ繊維はセルロースを主成分とするため,200°Cを超えると分解し始め,400°C程度で完全に分解してしまう。そのため,一般的に1000°C以上の焼成を必要とする蛍光体の製法ではパルプ繊維との複合化は達成されず,天然由来の形状を活かすことはできない。このゼオライトとパルプの複合繊維の製造技術を有しているのは当社一社のみであり,偽造のハードルをより高くしている。

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図8. 銀含有ゼオライト蛍光体を配合したパルプ繊維の発光の様子

フォージャサイト型の銀含有ゼオライト蛍光体は,既存の市販無機蛍光体と比較しても遜色ない波長変換効率を誇る。そして母材となるゼオライトの組成において,Si/Al比を適切に変えることで高い耐熱性を獲得できる。組成を適正化した銀含有フォージャサイト型ゼオライト蛍光体は,600°Cで数時間の焼成であってもその前後で蛍光特性に変化がなく,低融点のガラス原料と混合することでガラス焼結を行うことができる(図9)。ガラス焼結の最大のメリットは有機物を使用せずに蛍光体を固定化できることにあり,短波長の紫外線に対しても高い耐久性を発揮することが期待できる。このことから,適用先としては殺菌用の光源などのインジケータが考えられ,人体への安全性の高さを考慮すると皮膚にマーキングするような使用方法も適している。

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図9. 銀含有Y型ゼオライト蛍光体をガラス焼結させたサンプルの発光の様子

有機物を使用しない蛍光体の固定化という面では,更に新規な技術を開発している。ゼオライトの用途として,分子ふるい効果を利用するものが多くあると前に述べたが,この分子ふるい効果を利用する際にはゼオライト粒子間がガスの通り道となってはならないため,膜状に結晶成長させたゼオライト膜が使用される。そして通常ゼオライト膜を成長させる基材となるのは,ゼオライトの細孔よりも大きい空隙をもつ多孔体である。弊社は,このゼオライト膜を形成させる技術を応用し,ガラスなどの透明基板上に厚み数µmのゼオライト層を設けることに成功している。このゼオライト層を蛍光体化すると,平板状の蛍光プレートを得ることができる。固定化のために樹脂等を使用していないため,耐久性や耐熱性の面で大きなアドバンテージをもつ素材といえる。これにゼオライトの屈折率に近い素材で表面をコーティングして平滑化すれば,透明な蛍光プレートを得ることも可能である(図10)。

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図10. 銀含有A型ゼオライト蛍光体を析出させたガラスプレートの発光の様子

更に一部の銀含有ゼオライト蛍光体はX線の照射後に,発光波長が大きく変わるものも見つかり,医療用途などへの応用も検討している。

6. おわりに

ごく一般的な工業材料であるゼオライトに銀イオンを担持させることにより,蛍光特性が発現することを見出した。また別種のゼオライトについて同様の検討を行い,安定的に可視光を吸収して赤色の蛍光を発する希少な材料を得ることができた。それらの応用に関しても,白色LED照明,化粧品,偽造防止技術,高耐久デバイスなど,各方面に応じてそれぞれ検討を交えながら,実用に向けて大きく前進を遂げることができた。銀含有ゼオライト蛍光体は今後,既存の市場を一部置き換えるだけでなく,より幅広く独自の市場を開拓することが期待される。

引用文献References

1) 垣花眞人,小林 亮,加藤英樹,佐藤泰史,冨田恒之,「無機材料合成・探索法」 (2014).

2) 富士キメラ総研,「2014 LED関連市場総調査(下巻)」pp. 144–147 (2014).

3) U. S. Geological Survey, “Rare Earths,” Mineral Commodity Summaries 2017, pp. 134–135 (2017).

4) 機能材料マーケットデータ,「レアアース工業の市場動向」,月刊機能材料,37, 57–69 (2017).

5) E. C.-Gonzalez, M. B. J. Roeffaers, B. Dieu, G. D. Cremer, S. Leyre, P. Hanselaer, W. Fyen, B. Sels, and J. Hofkens, “Determination and Optimization of the Luminescence External Quantum Efficiency of Silver Clusters Zeolite Composites,” J. Phys. Chem. C, 117, 6998–7004 (2013).

6) Y. Suzuki, N. Matsumoto, T. Ainai, T. Miyanaga, and H. Hoshino, “In Situ Infrared and EXAFS Studies of an Ag Cluster in Zeolite X,” polyhedron, 24, 685–691 (2005).

7) 星野英興,三戸祐介,柳沼慶祐,鈴木裕史,小豆畑 敬,宮永崇史,「大気中で密封された着色銀型ゼオライト12Ag-Aの発光」,弘前大学教育学部紀要,99, 55–62 (2008).

8) 特開2005–48107「蛍光体およびその製造方法」.

9) 杉山公寿,「光る!高機能繊維『ハイパー銀セルガイア®』」,機能紙研究会誌,(51) 17–21 (2012).

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