日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 33(1-2): 19-27 (2016)
doi:10.20731/zeoraito.33.1.19

解説解説

ゼオライトの超高速合成Achievement of Ultrafast Synthesis of Zeolites

1東京大学大学院工学系研究科Department of Chemical System Engineering, The University of Tokyo ◇ 〒158–0083 東京都文京区本郷7-3-1 ◇ 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8656, Japan

2(株)三菱化学科学技術研究センターMitsubishi Chemical Group, Science and Technology Research Center ◇ 1000 Kamoshida-cho, Aoba-ku, Yokohama 227-8502, Japan

受理日:2016年1月20日Accepted: January 20, 2016
発行日:2016年4月15日Published: April 15, 2016
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ゼオライトはその合成に数時間から数日,場合によっては数週間かかる。しかし合成時間が長くなると,その分エネルギーやコストの観点から不利となる。特に,耐圧容器を必要とする100°C以上の合成では,その設備導入の時点でコスト面において大きな負荷がかかる。できるだけ短時間で所望の構造・組成・形態を有するゼオライトを合成したいと皆考えているが,これを実現することは至難の業である。最近我々のグループではゼオライト合成の高度化を目的とした多くの研究を行っている。本記事では,当グループがこれまでに行ってきた“ゼオライトの超高速合成”に関する一連の研究について解説する。

Zeolites and zeotype microporous materials have conventionally been synthesized through hydrothermal treatment under batch operation, which suffers from disadvantages such as time-consuming and low-energy efficiency. Considering the wide applications of zeolites and zeotype materials, developing an efficient synthesis route is of high significance. The emergence of ultrafast synthesis on the order of minutes has offered an opportunity to pave the way for overcoming the drawbacks of long-time hydrothermal treatment. Continuous flow synthesis of zeolites has also been established, thanks to the ultrashort synthesis period. In this review, we summarize our recent progresses on the ultrafast syntheses of zeolites and zeotype materials, including aluminosilicate zeolite (SSZ-13), purely siliceous zeolite (silicalite-1) and aluminophosphate (AlPO4–5). The method of ultrafast synthesis is deeply discussed on the basis of individual material. Thereafter, the continuous flow syntheses of AlPO4–5 and SSZ-13 are described, through which we provide our concepts on how to develop a continuous flow synthesis. Ultrafast synthesis can also be combined with the bead milling technique, which creates an efficient way to tune the particle size of zeolites. This top-down method for ultrafast tuning of nanosized zeolites is then discussed.

キーワード:超高速合成;流通合成;ゼオライト;急速昇温;種結晶;ナノ粒子

Key words: fast synthesis; continuous flow synthesis; zeolite; rapid heating; seed; nano particles

1. はじめに

ミクロ多孔性物質であるゼオライトは触媒,吸着剤,イオン交換剤などに利用されており,現在の化学工業に大きく貢献している材料である1)。さらに近年は既存の用途とは全く異なる応用へ向けた開発も盛んになされている2)。ゼオライトの合成には,対象とするゼオライト種やその組成などにより差異はあるが,一般的に数時間から数日,場合によっては数週間かかるのが常識とされている。しかし,合成時間が長くなると,その分エネルギーやコストの観点から不利となる。さらに水の沸点よりも高い温度においてオートクレーブを用いたバッチ式条件で合成する場合,特にその設備導入の時点でコスト的に大きな負荷がかかる。もし所望の構造・組成・形態のゼオライトをより短時間で合成できれば,それだけでスループットという観点から大きなメリットとなる。また,極端に合成時間を短くすることができれば,バッチ式合成に代わり流通合成も可能になると考えられる。しかし,ゼオライトは熱力学的には準安定相として得られるため,自由エネルギーの観点から同等の結晶相が容易に副生してしまう。純粋な結晶相を超高速で得ることは困難であることが予想される。とはいえ,この困難を突破すれば,新しいゼオライト製造プロセスを提案できるかもしれない。当然,ゼオライトの合成時間を短縮化させる試みは既往の研究でも多くなされてきた。例えば,マイクロ波を用いた合成では短時間でゼオライトを得ることができるが3),マイクロ波を用いるが故に生じる素材の制約からスケールアップは現実的ではない。よって我々は独自の手法を考案する道を選ぶことにした。以上の背景より,“ゼオライトの超高速合成”に関する一連の研究をスタートさせることにした。

2. ステンレスチューブとオイルバスを用いたゼオライト合成の可能性

我々の戦略はシンプルである。ゼオライトの合成時間の短縮に効果がありそうな要素はすべて採用し,それらを掛け合わせる,というものである。以下がその詳細である。

①最適レシピの選択:ゼオライトが短時間で合成容易な条件を出発点とする。SiO2/Al2O3–OH/SiO2などであらわされる生成領域において,概ねその生成領域の中心あたりが短時間で合成できる条件であることが多い。

②最適原料の選択:①のレシピにおいて,合成原料の種類の影響を調査。さらなる合成時間の短縮化をはかる。

③種結晶添加:結晶化は誘導期間(Induction period),核発生(Nucleation),結晶成長(Crystal growth)に大別される。種結晶を添加することにより,誘導期間を劇的に短縮化させ,また核発生のステップを省略することができる。

④種結晶の粒子径制御:種結晶を添加する際,一般的に量よりもその個数が重要となる。成長の起点となる個数が多ければ多いほど結晶成長速度を向上させることが可能になる。ただし,ゼオライトの合成温度において有効に機能しなければならないため粒子径がただ小さければいいというわけではない。これまでの経験では合成(加熱)中に種結晶が溶解すると結晶化が遅くなる場合もあれば逆に速くなる場合もある。結果として多くの事例を試す必要がある。

⑤高温合成:一般的に合成温度が高い方が結晶化速度は大きくなる。ただし,合成温度が高すぎるとクオーツ,ソーダライトといった細孔が無い(もしくは小さい)高密度相が混入することが多く,その上限を見定める必要がある。

⑥高速昇温:昇温はできるだけ速くする。その分,合成時間を短縮できる。また,種結晶や有機構造規定剤(OSDA)の不活性化を防ぐことができる。

実に多くの要素を同時に考慮しなければならないが,まず手始めとして,合成容器,加熱システムといったハードウェアの改良からはじめることにした。一般的にラボレベルでゼオライトを合成する際,オートクレーブに合成原料混合液を封入してオーブン中で加熱することが多い。このシステム(Figure 1a,1b参照)では昇温に時間がかかる。簡略化した伝熱の計算では150°C前後まで加熱するのに最低でも1時間以上かかることが分かる。そこで,本研究では伝熱を促進するために高アスペクト比のステンレスチューブを用いた合成容器を作製することにした。なお,ステンレスチューブを用いたとしても,オーブン中で加熱する場合,伝熱媒体は空気になる。しかし,空気を介した伝熱では現実的に熱伝達係数は小さく,単位時間,単位面積あたりの伝熱量を稼ぐことができない。そこで,本研究ではステンレスチューブに封入した合成原料混合液を加熱済みのオイルバス中に投入することにした。(Figure 1c,d参照)実測データによるとおよそ1分でほぼオイルバスの温度と同程度まで加熱できることが分かった。少なくとも,これで昇温中の時間ロスは回避できる見込みとなった。なお,この急速昇温が200°Cを超える高温合成においてOSDAの分解前に結晶化を完了させ,結果として飛躍的に合成時間を短縮化させるための重要な要素であることが後に明らかになった。

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Fig. 1 Photographs of the reactors as well as the heating tools used for the synthesis of zeolites.

a, The Teflon-lined autoclave. b, The air-circulating oven. c, The tubular reactor. d, The oil bath.

3. (アルミノ)シリケートゼオライトの超高速合成

ターゲットのゼオライトとして,SSZ-13とSilicalite-1を選択した。SSZ-13はCHA型ゼオライトである。CHAは長らくSi/Al比が2~3程度の組成しか合成できなかったが,ZonesらがTMAdaOH (N,N,N-trimethyl-1-adamantanammonium hydroxide)というOSDAを用いることにより4),そのSi/Al比を15程度まで高めることに成功した。得られたゼオライトSSZ-13はディーゼル車のNOx排出規制に対応する触媒として極めて高い活性を示し,近年実用化されはじめた。SSZ-13はまさに持続的社会の形成のために大きく貢献するキーマテリアルである。Silicalite-1はMFI型ゼオライトに分類され,Alを含有しないピュアシリカタイプであることを特徴とする。吸着材,分離膜などへ実用化が期待されている。これらゼオライトは通常1~数日間水熱合成することにより得られる。上述の戦略に基づき,合成時間の短縮化を試みた結果を以下に説明する。

3.1 SSZ-135)とSilicalite-16)の合成条件

ステンレスチューブは以下の仕様とした。1/4インチのステンレスチューブを購入し,13.5 cmの長さとした。両端をSwagelok,SS-400-Cでキャップした。オイルバスは最高210°Cまで加熱できるよう,安全対策とともに装置を構築した。SSZ-13合成の出発組成は1.0SiO2 : 0.040Al2O3 : 0.12NaOH : 0.20TMAdaOH : 20H2Oとした。また,種結晶はSi量換算で10 wt%をAgingの前に添加した。合成原料混合液は95°Cで48時間Agingした。その後,1.5 mLをチューブ型反応器に封入し,210°Cのオイルバス中に所定の時間静置した。加熱後は直ちにチューブ型反応器を水中に投じ,合成を終了させた。なお,210°Cという温度はゼオライト合成にとっては非常に高温であり,これが超高速合成実現のための重要な要素である。

Silicalite-1合成の出発組成は1.0SiO2 : 4.0EtOH : 0.25TPAOH : 10H2Oとした。また,種結晶はSi量換算で10 wt%をAging前に添加した。合成原料混合液は室温で2日もしくは7日間Agingした。その後,1.5 mLをチューブ型反応器に封入し,190°Cもしくは210°Cのオイルバス中に所定の時間静置した。加熱後はSSZ-13合成同様,直ちにチューブ型反応器を水中に投じ,合成を終了させた。

3.2 SSZ-13合成の結果

Figure 2に得られたサンプルのXRDパターンを示す。この合成条件ではAl源としてGibbsite(Al(OH)3,結晶性水酸化アルミニウム)を用いた。加熱開始直後はまだGibbsiteのXRDパターンが確認されるが10分後にはそれが消えて,単相のSSZ-13が得られていることが分かる。SEM像よりファセットが明確なSSZ-13が観察された。29Si MAS NMRより添加した種結晶と同程度の骨格Si/Al比であることが分かった(Si/Al=11.2–11.3)。詳細は関連論文をご確認いただきたいが5),要点を下記に記す。

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Fig. 2 Ultrafast synthesis of SSZ-13 in the tubular reactor.

a, XRD patterns for the ultrafast synthesis of SSZ-13 in the tubular reactor (the circles denote the peaks of gibbsite, and all other peaks are due to CHA). b and c, SEM images for the SSZ-13 seed and the SSZ-13 product synthesized for 10 min, respectively.

  • 種結晶を添加しないと高密度相であるMTN型ゼオライトが生成する
  • ステンレスチューブではなく,オートクレーブ中で加熱すると合成に2時間必要である
  • 反応性の高いAl源(Al(OH)3,非晶質水酸化アルミニウム)を原料とすると,合成時間が大幅に(8時間:オートクレーブで合成の場合)長くなってしまう
  • 合成温度を210°Cから160°Cに低下させると合成時間が2時間から8時間に長くなる(オートクレーブで合成の場合)

特に今回得られた知見として,Al源の反応性が高すぎるとAging中に安定な非晶質アルミノシリケートを形成してしまい,これがゼオライトへ変化するプロセスに時間がかかってしまうことが挙げられる。相対的に溶解しにくい結晶性GibbsiteをAl源として用いた方が格段に結晶化時間の短縮化に効果的であったことは興味深い。結果としてわずか10分でSSZ-13の合成に成功した。また,得られたSSZ-13は高い水熱耐久性を有し,NOx浄化反応として重要なアンモニアSCR反応において,市販レベルのSSZ-13と同等の反応性を有することが明らかになった。

3.3 Silicalite-1合成の結果

Figure 3にSilicalite-1合成の概要を示す。Silicalite-1は合成原料混合液から直接結晶が析出・沈殿してくるため,回収した固形成分の結晶性は常に100%である。従って,Figure 3aでは合成時間に対する結晶性のプロットではなく,Si量換算の収率の変化を示している。Figure 3aより合成10分後には投入したSiのうち70–80%が結晶相へ取り込まれ,一定となっている。すなわち結晶化は10分で終了したことを意味している。Figure 3bには使用した種結晶,Figure 3cには生成物のSEM写真を示す。200 nm程度の種結晶が成長し,10分後には500 nm程度のファセットが明瞭なSilicalite-1が得られていることが分かる。特筆すべき点として,その結晶成長速度の大きさが挙げられる。Si源の種類によっても変化するが103~104 nm/hで成長することが明らかになった。具体的には10分間で200 nmの種結晶が3.5 µmまで成長するという,既往の報告よりも著しく結晶成長速度が向上することが明らかになった。高温(190–210°C),すなわち非平衡度の高い状態において一気に結晶化させたことが超高速合成の成因であると考えている。なお,SSZ-13合成と同じく,種結晶添加,高温合成が高速結晶化に必須であることを示し,最適な仕込みH2O/SiO2比があることを明らかにしている。本研究では安全性の観点からオイルバスの最高温度を210°Cとしているが,より高温にすればさらなる超高速合成が可能になると考えている。

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Fig. 3. Ultrafast synthesis of silicalite-1 in the tubular reactor.

a, Yield curve for the ultrafast synthesis of silicalite-1 in the tubular reactor. b and c, SEM images for the silicalite-1 seed and the silicalite-1 product synthesized for 10 min, respectively.

4. アルミノフォスフェートの超高速合成7,8)

同様の手法を用い,アルミノフォスフェートゼオライトの超高速合成についても調査した。対象はAlPO4–5とした。AlPO4–5合成の出発組成は1.0Al2O3 : 1.0P2O5 : 1.0TPAOH : 50H2Oとした。また,種結晶は10 wt%をAgingの前に添加した。室温で24時間Agingした後,1.5 mLをチューブ型反応器に封入し,190°Cのオイルバス中に所定の時間静置した。加熱後は直ちにチューブ型反応器を水中に投じ,合成を終了させた。

Figure 4aに結晶化曲線を示す。種結晶添加条件でオイルバス中で合成すると,驚くべきことに1分後には結晶化が完了していることが分かる。種結晶を添加しないと結晶化に20–25分かかることから,アルミノシリケートゼオライト同様に種結晶添加が合成の高速化に重要な要素であることが分かる。また,ステンレスチューブをオイルバスではなく,空気循環型のオーブンに静置したところ結晶化に30分かかることから,オイル中にステンレスチューブを投入し,急速昇温させることが,超高速合成にとって重要であることも明らかになった。本合成プロセスを詳細に調べたところ,

  • 種結晶(Figure 4b参照)は一見したところ一旦溶解する
  • 溶解した種結晶が,核生成を促進しているらしい
  • オイルバス中で急速昇温することにより,より微細で均一粒径の生成物が得られる(Figure 4c参照)

ことが分かった。いくつかの既往の研究では,数時間単位での合成が可能であることが示されているが,本研究では分単位という極めて短い時間でAlPO4–5を合成することに成功した。

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Fig. 4. Ultrafast synthesis of AlPO4–5 in the tubular reactor.

a, Crystallinity curves for the ultrafast synthesis of AlPO4–5 in the tubular reactor. b and c, SEM images for the AlPO4–5 seed and the AlPO4–5 product synthesized for 1 min, respectively.

5. AlPO4–5及びSSZ-13の流通合成

一般的にゼオライトは耐圧容器を用いたバッチ式合成法により生産されている。一方,今回各種ゼオライトの超高速合成が可能になったため,流通合成の実現も視野に入ってきた。無論,合成時間が長くても流通合成は可能であるが,流通管は長くなり,合成中に沈殿物(=生成したゼオライト)により閉塞する可能性もあるため,わざわざ流通プロセスにするメリットはない。1~10分の合成時間であれば流速を大きくして沈殿物による閉塞を防ぎつつ,連続的にゼオライトを生産できるようになるかもしれない。そこで,AlPO4–5及びSSZ-13を研究対象とし,これらゼオライトを流通プロセスで合成することを試みた。

AlPO4–5の流通合成:4項で説明したAlPO4–5の合成において,粘度は最大でも100 cP程度である。よって,Aging後の合成原料混合液を単純にポンプで供給し,そのままオイルバス中で加熱すれば流通合成は可能である。すなわち,Figure 5aのような単純な流通合成プロセスを設計した。なお,加熱後は直ちに大量の水を供給,温度を下げて反応を停止させたのち,バックプレッシャーバルブで供給圧をコントロールしながら生成物を回収するシステムを構築した。

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Fig. 5. Continuous flow synthesis of crystalline microporous materials.

a, Flow chart for the continuous flow synthesis of AlPO4–5. b, Flow chart for the continuous flow synthesis of SSZ-13.

SSZ-13の流通合成:3項で説明したSSZ-13の合成中においては,粘度は極端に上昇し,ゲル化する。これをポンプで供給することは不可能であるため,Figure 5bのような2液混合型流通合成プロセスを設計した。すなわち,加熱後2分間は粘度が上昇しないため,そのままポンプで供給するが,そのまま加熱を続けると極端に粘度が上昇してしまう。そこで,SSZ-13合成時に分離・回収した上澄み溶液(固形ゼオライト分が沈殿した状態の上澄み溶液)を供給し,希釈した。粘度の上昇を抑えた状態でさらに10分間加熱し,AlPO4–5の流通合成同様,生成物を回収した。

その結果,AlPO4–5及びSSZ-13いずれにおいても,流通合成に成功した。所要時間はそれぞれ3分及び12分であった。ゼオライトの流通合成に数年携わった結論として,ポイントは一にも二にも閉塞の回避である。粘度の上昇が抑えられる条件(最大でも500 cPが望ましい。1000 cP以上になると失敗する可能性大)を探索することである。このような合成条件と超高速合成条件は必ずしも一致しないかもしれない。しかし,両者を鑑みて最適条件を探し出せるかが腕の見せ所であると考えている。

6. 高速再結晶化法の開発

我々が行っている超高速合成法は種結晶を用いるため,概して生成物は種結晶より大きく成長する。得られた生成物は単位重量あたりの個数が少ないため(=外表面積が小さいため),これを単純に再度合成用の種結晶として用いたとしても,超高速合成を達成することは期待できない。従って,本超高速合成プロセスを実用化へと導くためには生成物であるゼオライトを再度微細化させる手法を確立する必要がある。近年著者らは,ミクロンサイズのゼオライトを粉砕後,非晶質化した部分を再結晶化させることにより高結晶性の微細ゼオライトを得る手法,「粉砕・再結晶化法」を開発した9–11)。現在,本手法を活用したゼオライトナノ粒子の大量生産に向けたさまざまな試みを行っている。是非他の参考文献をご覧いただきたい。本稿ではこの「粉砕・再結晶化法」の再結晶化操作の部分を高速化する試みを行った12)。なお,これまでの粉砕・再結晶化法において,再結晶化操作は1~24時間程度かかっていた。これを上述の手法により短時間化できるか検証することにした。対象とするゼオライトはSSZ-13,AlPO4–5とした。

SSZ-13,AlPO4–5を上述の通り合成した。この際,合成後の上澄み溶液は分離・保管した。次に得られたゼオライトはビーズミルを用いて粉砕した(アシザワファインテック(株):LMZ015)。粉砕時間は60分とした。得られたスラリーは乾燥させ,粉砕粉末を得た。再結晶化処理は粉砕粉末と合成後の上澄み溶液を混合させ,ステンレスチューブに封入,オイルバス中で加熱することで行った(Figure 6a参照)。その結果,SSZ-13は10分程度で,AlPO4–5は5分程度で再結晶化可能であることが明らかになった。Figure 6b–6dは粉砕・再結晶化法前後のSSZ-13のSEM写真である。本再結晶化処理中に,粘度の上昇は確認されなかったため,上述の流通合成の成果と本成果を組み合わせれば,①流通合成でゼオライトを超高速合成,②ビーズミル粉砕,③流通条件下高速再結晶化,という一連の操作で微細ゼオライトを生産できるようになるかもしれない。

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Fig. 6 Ultrafast tuning of nano-sized zeolites.

a, Scheme for the ultrafast tuning of nano-sized zeolites by combining bead milling and fast recrystallization in the tubular reactor. b, SEM image of the micro-sized SSZ-13 obtained in ultrafast synthesis. c, SEM image of the milled SSZ-13. d, SEM image of the nano-sized SSZ-13 after 10 min recrystallization in the tubular reactor.

7. おわりに

本研究における目標の一つは「ゼオライト合成は時間がかかる」という常識を覆すことである。一般的にゼオライト合成には数時間~数日必要とされるが,本研究ではSSZ-13,Silicalite-1及びAlPO4–5において1~10分程度で合成できることを示した。その生成メカニズムの詳細は現在も議論中ではあるが,チューブ型反応器の使用,種結晶の使用,種結晶を有効に働かせるための添加タイミング,最適合成温度の選択,など多くの要素があり,これらは単独では効果を発揮せず,協奏的に作用させることが必要であることは間違いない。また,他の工業的に重要なゼオライトの超高速合成にも成功しており,本手法のゼオライト構造種に依らない一般性が示唆されている。本手法は,耐圧容器を用いたバッチプロセスにより大量合成している現行生産システムを流通合成プロセスへと一変させる可能性を秘めており,学術面のみならず工業的価値が極めて高いと考える。ゼオライトは現在においても持続可能な社会を実現するためのキーマテリアルとして,多くの分野でその構造・物性・機能の精密制御に関する研究が続けられている。様々なアプローチによるゼオライトの合成・設計に関する研究は益々重要性を増してくるものと考えられる。本稿がそのような研究の一助となれば幸いである。

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