①細孔の分類:「nanopore」の定義の追加
細孔はそのサイズ(直径やスリット幅)により,(1)ミクロ孔(micropore):細孔直径d<2 nm;(2)メソ孔(mesopore): d=2~50 nm;(3)マクロ孔(macropore): d>50 nmと分類されている。今回の改訂では新たに「ナノ孔(nanopore): d<100 nm」という定義も追加された。すなわち,ミクロ孔・メソ孔・100 nm以下のマクロ孔をすべてまとめてナノ孔と呼ぶこととなった。
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ゼオライトをはじめとする多孔質材料のキャラクタリゼーション手法の一つとして,ガスないし蒸気の吸着等温線を測定・解析するアプローチが多用されている。1985年にIUPACから吸着等温線について定義・分類などが定められた1)。その後,改訂の検討が進められ,2015年8月(アクセプトは同年4月)に発行されたIUPAC Technical Report2)の内容から,主な4つの変更点を順に解説していく。
細孔はそのサイズ(直径やスリット幅)により,(1)ミクロ孔(micropore):細孔直径d<2 nm;(2)メソ孔(mesopore): d=2~50 nm;(3)マクロ孔(macropore): d>50 nmと分類されている。今回の改訂では新たに「ナノ孔(nanopore): d<100 nm」という定義も追加された。すなわち,ミクロ孔・メソ孔・100 nm以下のマクロ孔をすべてまとめてナノ孔と呼ぶこととなった。
吸着等温線の形状は1985年のIUPAC Reccomendation1)によりⅠ型~Ⅵ型の6つの形に分類されていた。今回の改訂では,基本は従来の6分類と同じであるが,Ⅰ型がI(a)型とI(b)型に,Ⅳ型がIV(a)型とIV(b)型に分かれ,合計8つの形に分類されている。ここではⅠ型とⅣ型について説明する。
Ⅰ型等温線は,低相対圧(p/p0<0.1)で急激に吸着量が増加した後,飽和してほぼ一定になる形状であり,比較的小さな外表面をもつミクロ多孔体(ゼオライト,活性炭,MOF/PCPなど)へのN2吸着やAr吸着で観測される。これはミクロ孔内では細孔内壁の距離が近くポテンシャルが重なりあい,吸着質–表面相互作用が平面の場合と比較して強くなるために低圧での吸着が起こり,細孔がすべて吸着分子で満たされるミクロ細孔充填(micropore filling)が起こるからである。I(a)型は主に細孔径が1 nm以下の小さな細孔を有するミクロ多孔体の場合,I(b)型は1 nm以上の大きなミクロ孔や2.5 nm未満のメソ孔などI(a)型の場合よりも広い範囲に細孔を有する場合に観測される。
Ⅳ型等温線は,低相対圧においてⅡ型と同じ形状であるが,中相対圧(0.1<p/p0<0.9)以上で吸着質が細孔内へ凝縮(毛管凝縮)することによって吸着量の急激な増加が起こり,高相対圧(p/p0>0.9)で飽和する形状を示す。この形状は,MCM-41やSBA-15などのメソポーラスシリカの等温線によくみられ,細孔径の違いにより「吸着ヒステリシス」が見られる場合とそうでない場合がある。IV(a)型では,脱着側と吸着側の等温線が一致しないヒステリシスが見られるが,これは,メソ孔のサイズがある臨界値(これは吸着質と吸着温度に依存する)を超えると見られる現象である。一方,メソ孔径が臨界値以下となるとヒステリシスは消失し,IV(b)型のように完全に可逆な等温線が得られる。Ⅳ型等温線はメソ多孔体へのガス吸着でよく観測され,細孔径分布が狭いほど吸着等温線の立ち上がりがシャープになる。
吸着ヒステリシスとは,吸脱着等温線の吸着側と脱着側が重ならない現象で,主に吸着ガスのメソ孔への毛管凝縮(脱着側は毛管蒸発)することと関係がある。ヒステリシスが生じる原因は,現時点でも完全に結論が下されたわけではないが,吸着側の疑似平衡(metastability)とネットワーク効果(network effect)によるものがあると考えられている。
ヒステリシスの形状の分類は従来,4通り(H1~H4型)であったものが,今回,図2に示すように6種類に分類された。H2型がH2(a)型とH2(b)型に分けられ,新たにH5型が加わった。ここではH2型とH5型を説明する。
H2型はbottle-neck構造をもつ材料によく見られるヒステリシスの形状であり,吸着枝はなだらかな形状をもつのに対して,脱着枝の傾きは非常に急峻になる。脱着が起こる圧力はbottle-neck径に依存し,bottle-neck径が均一であるとH2(a)型,bottle-neck径が比較的広い分布を持つ場合にはH2(b)型となる。H2(a)型は,SBA-16(Im3¯ m構造)やKIT-5(Fm3¯ m構造)などのメソポーラスシリカ,H2(b)型はmesocellular silica foams(MCF)などに見られる。なお,脱着の起こる相対圧は,bottle-neckのサイズがある値(臨界径)以上ではbottle-neck径に依存するが,bottle-neck径が臨界径以下になると,「キャビテーション(圧力差により孔内で急激に泡の発生が起こる現象)」が起こるためbottle-neck径によらず同じ相対圧となるが知られている3)。
H5型の事例は少ないが,部分的に細くなったシリンダー状メソ孔をもつシリカ(plugged hexagonal template silicas)など,特殊な細孔構造の場合に見られる。
Brunauer,Emmett,TellerはLangmuirの単分子吸着理論を多分子層吸着に拡張することで理論的な吸着等温線を導出した4)。この理論は3人の頭文字をとって「BET理論」と呼ばれている。BET理論は,Langmuir理論と同じく大胆な仮定の上に成り立っているが,それでも実用的な比表面積の算出法として80年来,利用され続けてきている。ここでBET理論による比表面積の算出において,ゼオライトなどのミクロ多孔体を扱う際に注意すべき点がある。すなわち「ミクロ多孔体にBET理論を適用してよいのか」という問題4)である。
BET理論に基づく吸着等温式は以下のように表わされる。na:吸着平衡圧力pにおける吸着量,p0:飽和蒸気圧,nm:単分子層吸着量
ここでcは単分子層の吸着エネルギーに関する定数であり,c値が小さいときにはⅢ型,c値が大きくなるとⅡ型の等温線となる。c値はその物理的意味から必ず正の値となるべきであるが,ゼオライトのN2吸着等温線からBETプロットを描き,直線の傾きと切片を求めると切片の値が負になってしまうことがしばしばある。ミクロ多孔体の場合,等温線の形状はⅠ型になるが,BET理論で仮定している多分子層吸着ではなく,ミクロ細孔充填が起こっているので,このような場合にBET式を当てはめて解析することに物理的な意味はないと言える。一方で,そのような場合でも何らかの「指標」として計算値を用いたいというニーズもあり,Rouquéolらは解決策として以下の解析法を手案している5,6)。
ただし,この方法で求めた値は先にも述べたとおり物理的には意味がないので,この値は「BET surface area」ではなく単に「BET area」という用語を用いるのが適切である。またBET値を表記する際には,どのような圧力範囲で直線を引いて求めた値であるか記すことも推奨されている2)。
1) K. S. W. Sing, D. H. Everett, R. A. W. Haul, L. Moscou, R. A. Pierotti, J. Rouquérol, T. Siemieniewska, Pure Appl. Chem., 1985, 57, 603.
2) M. Thommes, K. Kaneko, A. V. Neimark, J. P. Oliver, F. Rodriguez-Reinoso, K. S. W. Sing, Pure Appl. Chem., 2015, 87, 1051.
3) L. D. Sarkisov, P. A. Monson, Langmuir, 2001, 17, 7600.
4) S. Brunauer, P. H. Emmett, E. Teller, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60, 309.
5) J. Rouquérol, P. Llewellyn, F. Rouquérol, Stud. Surf. Sci. Catal., 2007, 160, 49.
6) ISO 9277:2010(E) ANNEX C. https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:9277:ed-2:v1:en
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