日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 32(3): 90-91 (2015)
doi:10.20731/zeoraito.32.3.90

ゼオゼオゼオゼオ

落ち葉からエチレンガスを取り出す課題研究の指導について

市川学園 市川高等学校 講師

発行日:2015年9月10日Published: September 10, 2015
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1. 市川高校でのSSHの指導

市川高校は約78年前に創立の私立の学校で,最初は男子校であったが,現在は中学校を併設し,男女共学の高校である。2009年に文部科学省よりSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され,5年後の2014年に再指定された。高校2年で理系生徒約240人が市川サイエンスで週2時間,課題研究に取り組んでいる。名苗君の研究も,市川サイエンスにおける課題研究であるが,午後連続の2時間だけでは実験が終わらないので,放課後も引き続き熱心に研究した成果である。

2. 落ち葉から燃料オイルを取り出す研究

落ち葉に関するバイオマス資源からエネルギー物質を取り出す研究は,2008年より実施している。最初は,急速熱分解によりオイルが取り出せるのではと考え,落ち葉を首の短い枝付きフラスコに入れて加熱すると,200°Cから液体の留出物が得られた。黒いタール状の液体も留出した。230°C以上でリグニンが分解し,380°C以上でセルロースが分解する。黒いタール状の液体をGC-MSで分析した結果,リグニンから得られる2.6–ジメトキシ–4–(2–プロぺニル)–フェノールなどのフェノール性化合物と,セルロースから得られるフルフラールなどのフラン系化合物が検出された。実験に取り組んだ生徒はJSEC2009に出場でき,バイオマス科学会議1)でも発表した。

3. 落ち葉からエチレンガス

急速熱分解によりオイルを取り出す研究で,燃焼性のガスが発生することがわかっていたので,2010年度にSSHの課題研究として,サクラ,カエデ,マツ,イチョウの4種類の落ち葉の熱分解でガスに注目し研究した。生徒は,針葉樹のマツからエチレンガスが最も多く発生させることができた。落ち葉5 gを熱分解し,550°Cでエチレンガスを最大で質量比約5%取り出すことに成功した。2年生の時にのみ課題研究の時間が設定されていたが,担当した生徒は,非常に研究熱心で,3年生の夏休みまで研究した。研究成果を2011年9月に千葉大学で開催された,高校生理科研究発表会で発表し,特別賞の千葉市長賞を受賞した。

4. リグニンからエチレンガス

2012年に課題研究した生徒は,筑波大学の大学院生命環境科学研究科中川明子准教授の研究室を訪問して,リグニンの含有量を定量するクラーソンリグニン法を教わり,植物中のリグニンの含有量を定量した。その結果,熱分解によるエチレンガス発生量と植物中のリグニン含有量の間に相関があることを明らかにした。2013年3月に東北大学で開催されたジュニア農芸化学会でポスター発表し,8月5・6日には工学院大学で開催された日本エネルギー学会2)で発表した。

5. ゼオライトを使う研究

2012年に水質関係の課題研究でアンモニウムイオンの吸着実験に天然ゼオライトを使った研究を行っていて,各種の合成ゼオライト(東ソー)も入手していた。2013年にも落ち葉の熱分解の課題研究を9月から生徒が担当した。落ち葉にゼオライトを入れて実験したが,各温度によるガスの発生量は,落ち葉だけの場合と比べて,あまり変化がなかった。

一連の課題研究の中で,名苗君の取り組みは,検索能力にすぐれ,非常に良いセンスを持っている。塩化亜鉛やパルプ工場のリグニン廃液に気づいたのは,名苗君のアイデアである。「ノーベル賞を取る前に,高校生の時に日本学生科学賞で活躍しよう」という激励の言葉がある。名苗君は2年生の時にJSEC2014に論文を応募したが,データ量が少なかったためか,残念ながら落選した。現在受験勉強中で研究できないが,将来大きな仕事をしてくれると期待している。

名苗君の研究を現在,化学部の1年生が発展させ,ゼオライトを使うと,アルコールの化合物から脱水反応でエチレン,プロペン,ブテンがなぜ発生するか,どのような化合物のどの化学結合が切れるか,リグニンの分子構造に迫る課題研究に取り組んでいる。

引用文献References

1) 中島哲人,保坂大和,バイオマス科学会議発表論文集,102–103 (2010).

2) 中島哲人,後藤 彩,渡辺苑生,水島菜摘(市川高),日本エネルギー学会大会講演要旨集,22, 146–147 (2013).

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