日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 31(4): 143-146 (2014)
doi:10.20731/zeoraito.31.4.143

ゼオゼオゼオゼオ

ゼオライトを活用した触媒プロセス開発に携わって

株式会社日本触媒研究本部 ◇ 〒564-8512 大阪府吹田市西御旅町5-8

受理日:2014年10月15日Accepted: October 15, 2014
発行日:2014年12月10日Published: December 10, 2014
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ゼオライトとの出会い

最初にゼオライトという用語に接したのは大学3年(1975年)の研究室持ち回りのゼミであった。最初の輪講担当がゼオライトの権威である小野先生でモルデナイトの文献を読むことになった。慣れない英語の専門用語に四苦八苦しながらも,おもしろい物質があるものだという印象を持った。卒論・修論は越後谷研究室でヘテロポリ酸の研究に携わったため,直接ゼオライトを扱うことはなかったが,当時ZSM-5という画期的なゼオライトが合成されメタノールからガソリンが合成できるということが話題になっていたことを記憶している。

企業に入ってからはヘテロポリ酸触媒を用いたメタクリル酸製造,酸塩基触媒を用いたエチレンイミン製造の触媒プロセス開発を担当し,企業化に漕ぎ着けることはできたが,ゼオライトを使うことはなかった。触媒を社名に持つ企業なのにゼオライトを研究している人がいないのは問題であると考え,アングラでゼオライトの合成などを試みてはいたが,あまり成果は上がらなかった。

モノエタノールアミン(MEA)選択製法開発

エチレンイミンの企業化の次のテーマとして,1991年からMEAの選択合成に取り組んだ。弊社ではエタノールアミンはアンモニア水とエチレンオキシド(EO)を反応させて製造していたが,この方法ではMEAを選択的に製造することができない。触媒を使って選択性を出すことができないかという研究であった。先行技術として選択性はないものの陽イオン交換樹脂が高活性を示すことは知られていた。当時主任研究員となっていたため,ある程度裁量があり,触媒の候補としてゼオライトを挙げ,ゼオライトの強い酸触媒としての性質と形状選択性の可能性を見極めることとした。単にゼオライトを研究したいというのではテーマにはならないが,実体のあるテーマの中で自分のやりたいことをうまく入れていくことが大事である。形状選択性の概念から言うと分岐したトリエタノールアミン(TEA)の生成を抑えることができる可能性は高い。しかしMEAと同じ直鎖で分子径はほとんど同じジエタノールアミン(DEA)の生成を抑えることができるかどうかは難しい問題で可能性は余り高くはなかった。しかし常々何とかゼオライト研究の足掛かりを作りたいと考えていたので,これを良い機会として高活性で選択性発現の可能性はあるということで上司を説得?し,研究者を一人専任としゼオライトの合成から始めることにした。

当時MFI型ゼオライト合成に関する情報は十分あり,SDAを使えば容易に合成することができた。市販のZSM-5も入手して評価したが,強い固体酸であるZSM-5なら活性が高いであろうという予想に反して,選択性どころか活性も低いことが分かった。陽イオン交換樹脂の実用化例があるためその後の固体触媒研究は固体酸に集中しており,我々も固体酸が有効と考えていた。しかし液体アンモニア中での反応であるので強い酸があってもすぐアンモニアが吸着して被毒する可能性がある。すなわち必ずしも強酸でなくとも良いことを意味している。実際単なるシリカアルミナよりそれにアルカリを加えた方が活性は高かった。ZSM-5にアルカリを加えても活性が上がらないため,MFI構造ゼオライトの酸強度を制御することを試みた。Al以外のT原子のメタロシリケートの合成と性能評価を行ったところ,Fe-MFIが比較的高い活性を示すことが分かった。しかしFe/Siの原子比や種々調製法を検討したものの十分な活性・選択性は得られなかった。

ゼオライトの触媒としての特性を調整する方法としてイオン交換という手段もある。種々の金属イオンについて検討したところ先に述べたようにアルカリイオン交換は効果がなかったが,軽希土類元素特にイットリウムやランタンのイオン交換が活性向上に著しい効果があった。これらは単に酸塩基の調整という効果ではないようで原料のアンモニアを活性化する効果があるようである。選択性向上のため外表面の不活性化処理としてCVDやシリル化処理を検討したが,入口細孔を狭める効果もあり選択性改善より活性低下が大きくこの手法は適用できなかった。希土類イオン交換によって活性は十分向上したものの,ある程度予想したことではあったが,TEAの生成は抑制することはできたがDEAの生成は抑えることができずMEAを選択的に製造することはできなかった。

結局MEA選択合成にはゼオライトは使えなかったものの,希土類交換モンモリロナイトが比較的良い選択性と高い活性を示したことからこの触媒でプロセス開発を行った。図1にこの触媒の写真を示した。液相の高速反応のため拡散が律速になり触媒径が大きいと触媒有効係数が1よりかなり小さくなる。これを回避するには触媒粒径を小さくすることが必要である。理論的には当然の帰結であるが,気相反応用触媒の数mmの触媒しか扱ってこなかったので0.3~0.4 mm径の小さい触媒の必要性はなかなか理解を得られなかった。触媒が準備でき1993年にパイロットプラント建設を提案する頃になって営業の初めの話と違ってMEAを増産する必要が薄れ新プラント建設の話が不透明になってきた。技術確立ができてもすぐにプラントを建設する見込みが無くなったのだが,ここまで来た技術は使えるレベルにしておくべきという経営の判断もあって技術確立のためのパイロット実験は行うことになった。このアゲンストの状況では運転にリソースを割くわけにも行かず,私自身も管制室に泊まり込んで夜間もプラントを運転したものであった。設備が順調に稼働するまでには多くの課題があったが,初期の目的を達成して設計に必要なデータを取得できた。

Zeolite 31(4): 143-146 (2014)

図1 MEA選択触媒の形態

DEA選択製法開発

開発したゼオライト触媒はDEA選択性が従来触媒より高く,TEA生成を抑制できることから特許化できることに気づき出願した(図2 エタノールアミン類とMFI細孔構造,図3 細孔内での反応模式図 参照)。研究中断して数年後,外部からDEA選択製法に関する引き合いもあり営業・企画部門でDEAに関して再調査を行ったところ,除草剤グリフォサートの原料であるイミノジ酢酸用途としてこれから市場拡大することがわかった。TEAの副生を抑えてDEA取得量を増加させることが可能なら,大幅な増産が可能になる。単なる既存プロセスの置き換えではなく新たな市場への参入が可能なら設備投資にも耐えられるし新プロセス採用のリスクを冒すことができるということで研究を再開することになった。

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図2 エタノールアミン類とMFIの細孔構造

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図3 細孔内反応模式図

研究テーマ再開に当たって研究室のメンバーにはMEA新法開発の際のスタッフが誰も残っておらず,未経験の研究員に参加してもらわなければならない問題があった。ただ研究中断に当たって研究成果を系統立ててまとめておいたことは大いに役に立った。通常研究成果は月報としてまとめられるが,全体を概観できるような資料はあまり作成されていない。これではテーマが中断し担当者が四散してしまうと再開するのが難しくなる。それを考慮し,研究の再開を信じて担当者が変わってもスムーズに研究が進められるように数十ページの資料をまとめた。

ゼオライトによる形状選択性発現というDEA新法の基本的アイディアはMEA選択製法開発時に見いだしていたが,実用化にはまだ多くの課題があった。

a. 性能がまだ不十分で更に選択性を上げる必要がある。

b. 活性劣化対策としての触媒再生方法の開発。

c. 拡散の影響で触媒有効係数が小さいため拡散距離の小さい小粒径に成形する。

これらの課題を解決する上でやはり発想の転換が必要であった。

選択性向上には希土類元素の交換率を上げる必要があったが,通常の水溶液からのイオン交換操作では繰り返しイオン交換を行っても交換率に限度があった。金属塩を担持して高温で処理することで固相でのイオン交換を行い初めて交換率を上げることができた。後になってからであるがSPring-8のビームラインを使わせていただいてEXAFS分析を行ったところ,担持したランタンは酸化物ではなくイオン交換していることが示唆されるデータが得られた。

ZSM-5は成形性が悪いため通常アルミナをバインダーとして30%ほど添加して成形している。このバインダーが存在することによって,ヒドロキシル基へEOが付加した副生物が多く生成してしまった。この副生物は沸点が高くまたTEAと蒸留分離が難しいため触媒で生成しないことが求められた。アルミナ以外の種々のバインダーを検討したが,十分な強度が得られかつ副生物が生成しないバインダーはなかった。この状況を打開すべく試行錯誤をしていた際に,松方先生のドライゲル法を参考にシリカ担体の表面にゼオライト層を作成しようと試みた研究員がいた。この試みはドライゲルの部分だけでなくシリカ担体の一部も結晶化するという予想外の結果となり,これをきっかけにゼオライトを成形するのではなく成形したシリカ担体をその形を保ったままゼオライトに変換するという新しい結晶化法が開発できた。この方法は1 mm程度のシリカ担体にAl源,アルカリ,SDAを担持し,高温高圧の飽和水蒸気で処理するものである。(図4 ゼオライト結晶のSEM写真,図5 ゼオライト成形体例)

Zeolite 31(4): 143-146 (2014)

図4 固相結晶化法SEM写真

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図5 成形体形状

弊社ではゼオライトの製造の経験はなく,さらに世の中で誰も実施していない方法でスケールアップすることには困難がつきものである。結晶化時の温度が均一でないと不均一な触媒ができる可能性がある。実際の製造装置での温度の不均一性はいつも問題になり,今回のようにオートクレーブ中に循環ファンもなくガスを流通させるわけでもない場合は通常であれば大きな温度の不均一性が予想されるが,加熱方式の原理的な面からこの問題の克服には自信を持っていた。通常装置内の熱伝達は対流伝熱であるが,今回の場合はオートクレーブの底の蒸気発生部で発生した飽和蒸気が,シリカの細孔に毛管凝縮の原理で凝縮することによる物質移動による熱伝達であるからである。細孔内の飽和蒸気圧が低いことによる圧力差が推進力となって物質移動が起こり,凝縮潜熱と顕熱とによって触媒前駆体が加熱されるので,全体が均一に加熱されていくのである。ただこの原理はこれまでの現場の経験からはすぐには腑に落ちなかったようで,技術部の設計担当者に理解してもらうには時間がかかった。

もう一つの難問は触媒の再生であった。液相反応でのゼオライト触媒再生は例が少なく,従来使われていた過酸化水素による酸化分解という方法は無効分解も多く,また分解・酸化熱による温度上昇が激しく固定床の断熱反応器に充填された触媒に適用できる方法ではなかった。幸いなことに劣化はしても触媒が黒くなるようないわゆるコーキングには至っていなかったので,何とか洗い流すことはできないか検討した。系内を汚したくなかったので新しい溶剤は持ち込まず,まずは反応原料のアンモニアで処理しようとしたが反応温度程度では再生はできなかった。触媒劣化はゼオライトの細孔内に拡散を阻害する物質が閉塞しているためであるので,後から考えれば反応温度で除去できるはずはなかったのであるが,処理温度をかなり上げることで再生ができるようになった。

このような困難を乗り越えて図6の写真や図7のPFDに示すプラントが完成し,試運転を経て本格稼働に至った際には非常にうれしかった。何度も挫折を経験し,また多くの技術課題を解決して企業化に漕ぎ着けることができたのも多くの関係者の努力の賜物であり改めて感謝したい。

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図6 製造プラント 反応器

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図7 プロセスプロー

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