日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 31(4): 125-130 (2014)
doi:10.20731/zeoraito.31.4.125

解説解説

大面積DDR型ゼオライト膜の開発Development of DDR-type Zeolite Membrane on Multichanneled Support Having Large Membrane Area

日本ガイシ株式会社 研究開発本部 NCMプロジェクトNGK Insulators, LTD., NCM project, Corporate R & D ◇ 〒467-8530 名古屋市瑞穂区須田町2-56 ◇ 2-56 Suda-cho, Mizuho, Nagoya 467-8530, Japan

受理日:2014年8月12日Accepted: August 12, 2014
発行日:2014年12月10日Published: December 10, 2014
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当社は,DDR型ゼオライトの膜化に世界で初めて成功し,各種ガスの透過性能測定結果から,高い分画性能を有していることを確認している。今回,直径180 mm,全長1000 mmで,膜面積12 m2というモノリス型の大面積DDR型ゼオライト膜を開発した。大面積化した目的は,例えば天然ガス精製のような膨大な処理量に対応するためである。供給ガス圧0.3 MPaG,50/50の二酸化炭素/メタン混合ガスでの二酸化炭素の透過速度および二酸化炭素/メタンの分離係数は,それぞれ,5×10−7 mol/m2 s Paおよび160以上と高く,天然ガス精製へ適用可能なレベルと考える。この他,水素/メタン混合ガスからの水素分離,二酸化炭素/水素からの二酸化炭素分離なども可能である。また,当社のDDR膜は,アルミニウムをほとんど含まないため耐酸性に優れている。有機溶媒からの脱水に適用した場合,浸透気化法による酢酸濃度90 wt%,温度90°Cの試験において,高い分離性能を200時間以上維持することを確認している。酢酸以外にも,フェノール,エステル,アルコールからの脱水において高い分離性能を発現するため,広い用途展開が期待される。

NGK have first prepared DDR-type zeolite membranes, and has thereafter revealed its molecular sieving effect through measurements of single gas permeation of various gas species. Recently, we have succeeded in scaling up this DDR-type zeolite membrane into a large multichanneled structure with a diameter and length of 180 mm and 1000 mm, respectively, realizing a membrane area of 12 m2 within a single membrane. This membrane was developed for aiming large-scale applications with high throughput, such as natural gas purification. Taking this application for example, the performance of our membrane is discussed through the separation of CO2 from CO2/CH4 mixtures, which is a reference index for natural gas purification. Our membrane exhibited a high CO2 permeance and selectivity of >5×10−7 mol/m2 s Pa and >160, respectively, for equimolar mixtures of CO2 and CH4 at a total feed pressure of 3 bars. We expect that this high performance shall be promising for industrial applications. Application to other binary systems including H2 separation from H2/CH4 and CO2 separation from CO2/H2 mixtures was also confirmed to be possible. Another beneficial feature of our DDR-type zeolite membrane is its remarkably low aluminium content. In general, zeolites with lower aluminium content are more chemically stable and thus our membrane is expected to have high acidic resistance, suitable for dehydration applications. The dehydration performance of our membrane has been actually tested in several organic solvent/water systems using pervaporation method. Our membrane showed high performance and excellent stability for more than 200 hrs in dehydration of 90% acetic acid solution at 90°C. Enhanced dehydration performance has also been observed in other solvents including phenol, ester and alcohol solutions.

キーワード:DDR;ゼオライト膜;ガス分離;脱水;天然ガス;酢酸

Key words: DDR-type zeolite membrane; gas separation; natural gas; dehydration; acetic acid

1. 背景

当社は,DDR型ゼオライトの膜化に世界で初めて成功し,各種ガスの透過性能測定結果から,高い分画性能を有していることを確認している1)。今回,直径180 mm,全長1000 mmの大面積のモノリス型DDR型ゼオライト膜を開発したので,その特徴,大面積化の目的,ガス分離性能について述べる。さらに,脱水用途への展開として,DDR型ゼオライト膜での期待と,各種脱水性能を紹介する。

1.1 DDR型ゼオライト膜の特徴

はじめに,DDR型ゼオライト膜の特徴について紹介する。DDR型ゼオライト(以下,DDRとする)は,1980年代にGiesにより初めて合成され,酸素8員環からなる0.36×0.44 nmの楕円形の2次元細孔を有することが報告されている2–5)図1に,DDRの結晶構造を示す。結晶内の均一細孔により,膜化した際には高い分画性能を示す。また,当社のDDR膜は,アルミニウムをほとんど含まないハイシリカ組成なので,アルミニウムを含む一般的なゼオライトに比べて化学的に安定で,耐水蒸気性や耐酸性に優れている。

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図1 DDR膜の特徴

図2は,直径30 mm,全長160 mmの小型のモノリス型DDR膜エレメントを用いて,様々なガスの透過性能を調べた結果である。ガスの透過速度はDDRの細孔より大きい炭化水素などは低く,それより小さい二酸化炭素,水素,ヘリウムは高いことより,分子ふるい機構で分離可能であることがわかる。例えば,二酸化炭素とメタンの混合ガスでも高い分離性能が得られ,その用途例として,図3に示すような,天然ガス精製での二酸化炭素分離が挙げられる。ガス田から産出されるガス中には不要な二酸化炭素が多く含まれる場合があり,製品化の前に一定濃度以下まで除去する必要がある。二酸化炭素濃度が比較的低い場合は,アミン吸収などで二酸化炭素を高精度に分離できるが,二酸化炭素濃度が高い場合は,処理量が多くなりエネルギーコストが高くなることが問題となる。一方,分離膜は圧力差が分離の駆動力なので,元々高圧で産出する天然ガスでは低いエネルギーコストで二酸化炭素を分離できる。分離膜とアミン吸収法を併用することで,現状より省エネが可能となる。

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図2 DDR膜のガス透過性能

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図3 用途例:天然ガス精製(CO2分離)

このような用途で膜に求められることは,メタン漏れが少ないこと,二酸化炭素の透過量が多いこと,耐圧性が高いこと,高濃度二酸化炭素にも耐えることなどであり,DDR膜はこれらの要求に見合う性能を持っているため,有望な用途の一つと考えている。

1.2 大面積化の目的

前述の天然ガス精製のような用途で膜を商用化する場合は,膨大な処理量に対応するため,多くの膜面積を必要とする。そのため,設備の容積,設置面積,重量が増大すること,さらに,本数が多くなることで膜とモジュールの接続部,いわゆるシール部も多くなることにより,シール漏れのリスクも増すことが懸念される。そこで,当社では,コンパクトな設計に繋がる形状としてモノリス型を選択し,かつ大型形状とすることにした。当社では,図4に示すように各種分離用途向けにサイズの異なるセラミック膜を製造している。その中でも最も大きい浄水場向けのセラミック膜を改良してDDR膜の基材として使用することとした。形状は,直径180 mm,全長1000 mmで,膜面積は12 m2であり,膜面積は,直径10 mmのチューブ型の膜の約400本分に相当する。

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図4 セラミック膜製品

2. 大面積DDR膜

2.1 製造方法

DDR膜の基本製造工程を図5に示す。主な工程は,種付け,水熱合成,脱テンプレートの3つからなる。基材表面に種結晶となるDDR粒子を付着させ,種を溶液中で結晶成長させて膜化し,最後に有機テンプレートを燃焼除去する。大面積化実現には,基材構成粒子の粒径の最適化による基材表面の粗大欠陥低減,種の粒径と塗布密度の最適化による基材表面への均一な種付け,および水熱合成におけるゾル組成と加熱条件最適化による膜厚のばらつき制御の3つが重要課題であった。

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図5 DDR膜の製造工程

2.2 膜仕様

図6に大面積化したDDR膜の外観を示す。開発した大面積モノリス型DDR膜は,直径180 mm,全長1000 mmで,膜エレメントの長手方向に供給セルと呼んでいる直径2.4 mmの貫通孔を多数設けてありその内表面にDDR膜が形成されている。供給セル数は約1600で,膜面積は12 m2である。当社で把握する限りでは,世界最大級のゼオライト膜エレメントである。また,ガス分離の場合,数MPa以上の高圧化で使用する可能性もあるため,基材の耐圧強度も8 MPa以上へ向上させた。

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図6 大面積モノリス型DDR膜の主な仕様

ガスが供給セルに供給された後,DDR膜を透過しやすい成分が濃縮された透過ガスは供給セルに最も近いスリットセルへ集まる。スリットセルの両端部は閉じられており,集まった透過ガスは膜エレメントの側面部にある側面スリットより排出される構造となっている。なお,DDR膜を透過しにくい成分が濃縮された非透過ガスは供給セルの他方より出てくる。

分離性能は,例えば,二酸化炭素とメタンの等モル混合ガス,膜間差圧0.3 MPa,温度25°Cの試験条件で,分離係数160以上,二酸化炭素の透過速度5×10−7 mol/m2 s Paと高性能を示す。

2.3 ガス分離性能

図7に,高分子膜や他の無機膜の分離性能をまとめたグラフ6)を示す。近年開発が進んでいるゼオライト系の膜は,高分子膜と比較して透過速度と分離係数共に高い性能を有している。当社のDDR膜の性能を図7のグラフ中にプロットした。評価条件が一致している訳ではないため厳密な比較はできないが,他のゼオライト膜と遜色ない性能を発現しており,大面積でかつ高透過速度と高分離係数を実現していることがわかる。

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図7 種々の分離膜のCO2/CH4分離性能

表1には,種々混合ガスでの分離性能を小型のDDR膜を使用して室温にて評価した結果を示す。DDR細孔より小さな分子と大きな分子の組み合わせ,あるいは細孔より小さな分子同士など,多様な組み合わせで分離することが確認できた。

表1 各種混合ガスでの分離性能
混合ガス試験条件透過性能
供給ガス組成供給圧力分離係数透過ガス組成
[%][MPaG][—][%]
CO2 : CH4CO2=500.3>160CO2>99
H2 : CH4H2=400.4>50H2>97
H2=600.4>100H2>99
CO2 : H2CO2=400.412CO2=89
N2 : CH4N2=500.39N2=90
膜形状:ϕ30-L160 mm

3. 脱水用途への展開

3.1 DDR膜での期待

DDR膜の用途はガスに限定されるものではなく,液体の分離にも適用できる。特に,DDRの細孔径は水より大きく,多くの有機溶媒より小さいため,有機溶媒の高精度な脱水が可能であると考えている。現在,化学プロセスの中で多くの有機溶媒と水との分離には蒸留法が用いられているが,松方7)は,膜と蒸留の併用,膜で蒸留を代替した場合について,膜の利用により,エネルギー消費の大幅な削減が見込まれることを計算で示している。図87)には,多種の脱水ニーズがあることを示すため脱水ニーズを生産量と技術的難度で整理したグラフを示す。この中で酢酸は生産量が最も多く脱水ニーズも高いが,耐水性,耐熱性,耐酸性の点で技術難度も最も高く実用化へのハードルが高いことが示されている。しかし,当社のDDR膜はハイシリカ組成のため,化学的安定性が高く,一般的なアルミニウムを多く含むゼオライト膜に比べて優れた耐水性や耐酸性が期待できるため,酢酸脱水へも適用できる可能性があると考えている。

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図8 脱水分野における分離対象

3.2 脱水性能

DDR膜が酢酸脱水へ適用できる可能性があることを確認するため,直径30 mm,全長160 mmの小型のモノリス型DDR膜を使用して脱水性能を評価した。なお,試験は,図9に示す浸透気化(PV)法により行った。図10に酢酸脱水の試験結果を示す。試験条件は,供給酢酸濃度40~90 wt%,温度90°C,透過側真空圧50 torrとした。この結果より,当社のDDR膜が幅広い濃度域で高い分離性能を示すことが確認できた。また,図11に,供給酢酸濃度90 wt%,温度90°C,透過側真空圧50 torrで連続試験した結果を示す。200時間以上経過後も分離性能は安定しており,酢酸脱水への適用可能性が確認できた。以上より,当社のDDR膜は,酸性領域でも高耐久性を有していることが示された。

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図9 浸透気化法による脱水性能の評価方法

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図10 酢酸脱水性能―供給酢酸濃度の影響―

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図11 酢酸脱水性能―性能安定性―

表2に,酢酸以外の有機溶媒での評価結果を示す。有機酸は上述の酢酸,芳香族としてフェノール,エステルとして酢酸エチル,アルコールとしてエタノール,イソプロパノール,ブタノール,ケトンとしてアセトン,エーテルとしてテトラヒドロフランを選択した。評価した有機溶媒全てで分離係数が1000以上と高く(透過側への溶媒漏れが少ない),種々の有機溶媒に対し,高精度の脱水ができる可能性が示された。水透過速度は試験条件に大きく依存するので一概には言えないが,比較的高いものであると認識している。

表2 各種有機溶媒からの脱水性能
溶媒試験条件脱水性能
供給溶媒濃度(wt%)温度(°C)真空圧(torr)水透過速度(kg/m2 h)分離係数(—)溶媒漏れ濃度(wt%)
有機酸酢酸9090504.0>1700<0.5
芳香族フェノール50905030.0>10000<0.01
エステル酢酸エチル9770501.5>6400<0.5
アルコールエタノール9070501.0>1700<0.5
イソプロパノール9070504.0>9000<0.1
n-ブタノール9070505.5>9000<0.1
ケトンアセトン9050101.5>9000<0.1
エーテルテトラヒドロフラン9050103.5>9000<0.1
膜形状:ϕ30×L160 mm

3.3 脱水膜の大面積化

DDR膜が脱水へも適用できる可能性があることがわかったので,現在大面積化を開始している。脱水での想定運転条件では,膜を透過した水が基材細孔内を拡散するときの抵抗が大きいことが計算により判明したため,図12に示すようにスリットセルをガス分離用の基材よりも多く設けることにした。現在,作製した基材に対し,DDR膜の形成条件を検討中であるが,今年度中には完成する見通しである。

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図12 脱水用とガス分離用の基材比較

4. まとめ

大面積モノリス型DDR膜の開発を実施した。開発した膜は,コンパクトな設備設計が可能となり,天然ガス精製など大規模用途への展開が容易になったと考えている。また,脱水用途ではDDR膜は高い分離性能と耐久性を有することを確認した。特に,ニーズが高い酢酸脱水への適用可能性を示した。今後,脱水用途に適した基材での大面積化を実現し,各種脱水プロセスへの適用も目指していく。

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