福島第一原子力発電所事故では,炉心冷却のために数百トン/日の注水が続けられ,セシウム(Cs)などの放射性物質を高濃度(初期~106 Bq/cm3)で含む高汚染水が,短期間で大量に発生し,地下水の流入により毎日400トン程度増加している。高汚染水は,主に放射性Csを含む海水系汚染水であり,極めて大量かつ高放射能の汚染水の対策は過去には例がない。事故の収束に向けた道筋のステップ1において,放射性Csを除染する水処理設備が設置され,冷却水として再利用する循環注水冷却システムが開始された1–4)。これにより原子炉の安定的な冷却が可能となり,原子炉の冷温停止状態(ステップ2)が達成されている1)。図1に循環注水冷却システムの概略図を示す。本システムでは,Cs吸着剤としてゼオライト,CST(結晶性シリコチタネート),不溶性フェロシアン化物が使用されている。Csに関しては,高い除染係数が得られているが,ヨウ素(I),ストロンチウム(Sr),コバルト(Co),トリチウムなどの放射性核種は吸着されず,海水塩とともに逆浸透膜(RO)の濃縮塩水中に濃縮されタンクに貯蔵され続けている。平成26年1月15日現在,循環注水に伴う高汚染水の累積処理量は約850万トンに達し,約50万トン(建屋内の高汚染水9万トン,濃縮塩水等41万トン)が発生している5)。将来80万トンにも達すると見積もられており,保管場所の確保は非常に困難な状況となっている。濃縮汚染水に残留する放射性物質の濃度を告示濃度限度以下に除去するため,多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System: 「ALPS」)の試運転が行なわれている6)(図2)。今後長期間にわたりシステムの運転を継続する必要があり,高機能性吸着剤の開発,除染の高効率化,高度化が緊急の課題とされている。本解説では,CsとSrの選択的除染剤の吸着特性,高機能化および安定固化に関わる研究開発および二次廃棄物の保管等の課題について紹介する。
2.1 Cs選択性と特性
Csの選択的吸着剤は,主に無機イオン交換体に関して数多くの報告がある2–4)。放射能高汚染水に関しては,耐放射線性の高い無機イオン交換体の使用に限定される。無機イオン交換体のCs選択性は,イオン交換等温線を作成し,キーランドプロット(選択係数の対数vs交換イオンの当量分率)により,イオン交換自由エネルギー変化(ΔG0)が算出される。図3にCsに高選択性を示す無機イオン交換体のイオン交換自由エネルギー変化を比較して示す2)。マイナス値が大きいものほどCsに選択性が高く,序列としては不溶性フェロシアン化物>ヘテロポリ酸塩(AMP)>ゼオライト群である。実際に,海水,高濃度(5 M)のNa塩溶液および高濃度(3 M)の硝酸溶液からのCsの分配係数値(Kd (cm3/g),Csの固相と液相での濃度比)を測定すると,不溶性フェロシアン化物(KNiFC, KCoFC)やヘテロポリ酸塩(AMP, AWP)が103 cm3/g以上の極めて高い分配係数(吸着率としては90%以上)を示す2)。ただし,これらの高選択性吸着剤は,そのままでは微粉末粒子であり,取り扱いが難しく造粒などの賦形化法の開発が必要である。従来,無機多孔体(シリカゲル,ゼオライト等)への担持複合体が数多く研究されている4)。一方,ゼオライトは,Na塩溶液からでもCsに高い吸着性を有しており,わが国に豊富に産出すること,粒状としてカラム吸着分離に使用できる点で,現場でのCs除染用吸着剤として最も優れている。図4および図5に,これらCs選択性吸着剤のCs吸着後の構造模式図を示す。
2.2 Csの分配係数と吸着速度
各種ゼオライトへのCsの吸着(Csの分配係数,Kd)に対する共存イオンの影響が調べられており,イオン交換自由エネルギー変化からも推定されるように,吸着性の序列は,モルデナイト>クリノプチロライト>A型ゼオライトの順であり,10−2 M以上では共存イオン濃度の影響が大きくなる。福島原発事故での高汚染水は海水系であることから,各種吸着剤による海水からのCsのKd値と吸着速度定数との比較がなされた2)。図6は,放射性Csを含む海水からの,各種吸着剤によるCsのKd値および吸着速度定数を求め,その相関を示す。図の右上のものほど,Cs吸着効率が高いことが示唆される。図から明らかなように,CsのKd値は前述の通り,高選択性の不溶性フェロシアン化物およびCST(結晶性シリコチタネート),ゼオライト群に大別される。ゼオライト群は,Kd値が102~103 cm3/gの範囲であるが,吸着速度には大きな差が認められる。このことは,ゼオライトの粒度,純度,表面形態,マクロ孔などの物理化学特性に依存していると考えられる。ただし,ゼオライト利用に関しては,吸着特性以外に,キャラクタリゼーションを厳密に評価し,固化処理まで含めた総合的な評価で判断することが重要である。ゼオライトを吸着塔に充填し,放射性Csを通液して除染する場合には,Csのカラム内での動的な交換特性および吸着後の内部の安全性評価は重要である。
2.3 Csの安定固化
高汚染水の除染に使用されたゼオライトは,汚染水処理二次固体廃棄物として当面保管される。セシウム吸着装置の吸着塔(スキッド表面線量率4 mSv/hで交換)はコンクリート製のボックスカルバートで,第二セシウム吸着装置の吸着塔は,鉛遮蔽されて保管されている。いずれも高放射性であり,放射能濃度は1015 Bq/m3と推定されている7)。将来的には,Cs吸着ゼオライトの安定固化処理も考慮しておく必要がある。わが国では,東北大学および原子力機構で,無機イオン交換体を用いた発熱元素分離・固化の技術開発が精力的になされてきた2–4)。人造鉱物固化の一例として,各種ゼオライトにCsを吸着後,高温で焼成して発現したCs固定相のキャラクタリゼーション(化学的安定性,機械的強度,相変化,Cs揮発性,Cs浸出性)が詳細に研究されている2)。Cs吸着ゼオライトの高温での再結晶した鉱物相に関しては,概ね,Si/Al比が小さい合成ゼオライトは,再結晶化する傾向が高く,Csを格子構造中に固定化した鉱物相が発現する。一例として,循環注水冷却システムのCs吸着装置内で使用されているチャバサイトの,Cs飽和吸着後の高温での相変化を調べると,1,200°C以上の焼成により,ポルサイト(CsAlSi2O6)に再結晶化することが分かっている8)。結晶化することによりCsは固定化されているため,処分時の浸出性は格段に抑制される。Csを固定したセラミックス固化体は,15 cm ϕ×15 cm高の円柱状サイズまで試作されている(東北大学,図7)。一方,天然産モルデナイト,クリノプチロライトは高温焼成(>1,000°C)で非晶質化し,溶融が開始する。焼成固化体(1,200°Cで3時間焼成)からのCs浸出性は,10−9 g/cm2·dと極めて低いことが報告されている2)。今後,ホットプレス固化も含めた焼成処理および焼成条件の最適化を図る必要がある。ゼオライトの優れたガストラッピング機能および自己焼結機能を利用し,不溶性フェロシアン化物の安定固化が可能である。Csを高濃度で吸着した不溶性フェロシアン化物を各種ゼオライトと混合・成型し,高温で焼結する手順を図8に示す。Csを吸着した不溶性フェロシアン化物は,それ自体を高温焼結するとCsは全て揮発し,Csは固定されないが,ゼオライトを一定比率混合することにより,焼結温度1,000°Cではほぼ100%のCsが固定される9,10)(図9)。不溶性フェロシアン化物(Cs高選択性)をA型ゼオライト(Sr吸着性)に担持した複合体は,Cs/Srの両核種を吸着可能であり,吸着後の核種の固定化にも上記の機能が発揮され,Csの固定化率が高い。
3.1 Sr選択性と分配特性
ゼオライトでは,Na+-Sr2+系について報告されている選択係数から,Srイオンのイオン交換での選択係数の序列は,Csの場合とは全く逆で,A>X≫Y>モルデナイトとなることが知られている2)。A型ゼオライト内部には,2種類のイオン交換サイトがあり,そのうちスーパーケージ(αケージ)中にあるサイトⅠ(交換容量の1/3を占める)ではCs+>Rb+>K+>Na+の順で,スーパ-ケージに面した6員環上にあるサイトⅡでは,逆にNa+>K+>Rb+>Cs+となることが知られている。1 Mの塩化ナトリウム溶液からSrイオンをイオン交換吸着する場合,分配係数の順序は選択係数と同じで,A型ゼオライトで225 cm3/gであるのに対し,モルデナイトでは10 cm3/g程度であった5)。各種吸着剤による実海水からの放射性Srの吸着速度は,時間経過とともにKd値は上昇傾向を示し,24時間以降でほぼ平衡に近づく。Csより吸着性が低いが,吸着性序列(SrのKd値の序列)は,A型ゼオライト>X型ゼオライト>含水酸化チタン樹脂>チャバサイト>クリノプチロライト>モルデナイトであり2),Csの吸着とは逆の傾向を示す。A型ゼオライトのKd値は240 cm3/g(A型ゼオライトはTMI事故時に使用実績有)を示した。ゼオライトに比べSr選択性が高いと期待されるチタン酸塩(チタン酸カリウム)は層状構造を示しており(図10),K+⇄Sr2+のイオン交換によりSrが吸着する12)。
3.2 Srの安定固化
Sr吸着ゼオライトの高温での再結晶した鉱物相を調べると,Si/Al比が小さいゼオライト(A,X,Y,チャバサイト)は,再結晶化する傾向が高く,Srを格子構造中に固定化した鉱物相が発現する。1,200ないしは1,100°C以上の焼成により,Sr長石(SrAl2Si2O8)に再結晶化する2)。結晶化することによりSrは固定されているため,処分時の浸出性は格段に抑制される。Csの場合と同様に,Srを固定したセラミックス固化体も,15 cm ϕ×15 cm高の円柱状サイズまで試作されている。一方,天然産モルデナイト,クリノプチロライトは高温焼成(>1,000°C)で非晶質化し,溶融が開始する。焼成温度によりSrの浸出性は急激に低下し,1,100°C以上の焼成によりSrAl2Si2O8相にSrが固定されると,Srの浸出は原子吸光分析の検出限界以下である。Srを吸着した含水酸化チタンおよびチタン酸カリウムは,1,000°C以上の高温焼成により,チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に結晶化しSrが固定される12)。
Cs除染用吸着剤としてのゼオライトは,様々な高機能化処理により,核種吸着性能の高度化を図ることができる。表1はゼオライトの高機能化処理とその効果を示す。ゼオライト自体の改質によるものと複合化手法等により吸着性能の高度化が達成できる13)。高機能化処理に関しては,特に,焼成処理および不溶性フェロシアン化物やヘテロポリ酸塩の担持処理により,Cs吸着性能の向上が期待できる。A型ゼオライトの細粒化は,海水系からのSrの吸着速度を向上させる。フィルターおよびハニカム化は,粉末状ゼオライトが担持されており(図11),吸着速度の向上,核種の濃縮など応用範囲が広い。ハニカム成型体(図12)は,セラミックス繊維を骨格として,これにスラリー状ゼオライトを含浸させている。東北大学では,放射性CsおよびSrの吸着特性を調べている。平衡pHが8.7~8.9の範囲で,CsとSrの分配係数は4.8×103 cm3/g(吸着率として98.2%)および1.8×104 cm3/g(99.6%)であり,CsとSrの飽和吸着量は0.87 meq/gおよび1.94 meq/gであった。いずれも1,200°C焼成により,ポルサイト(CsAlSi2O6)(図13)およびSr長石(SrAl2Si2O8)が生成し,CsとSrが安定に固定できる。ゼオライトは種類により核種選択性が異なり,混合造粒することにより多核種除去性能が高まる。図14は各種ゼオライトの放射性Cs,SrおよびEu分配係数値の比較を示す。図から明らかなように,CsはSi/Al比が大きいトンネル状孔路を有するモルデナイト,クリノプチロライトおよび提燈型のチャバサイトに選択性を有し,SrはSi/Al比が小さく,かつ三次元かご型構造を有するA型ゼオライトに高い選択性を有する。L型ゼオライトは孔路径が大きいトンネルとケージの両方を有する構造であり,3価カチオンのEuやAmに高い吸着性を有している14)。
表1 ゼオライトの高機能化処理処理 | 処理法 | 効果 |
---|
焼成処理 | 高温焼成し表面改質 | 吸着速度向上 焼き締め効果 微粉末化抑制 |
酸処理 | 酸処理しH形化と表面改質 | H形化でイオン形を調整 表面の不純物除去 |
コンディショニング | 交換性イオンをNa形,K形等に調整 | コンディショニングにより吸着性能の制御 |
複合化 | 複数種のゼオライトを混合造粒 | 多核種除去性能向上 吸着速度向上 |
細粒化 | カラム使用下限までの小粒径化 | 吸着速度向上 |
造膜 | 不織布等にゼオライト担持 | フィルター利用 吸着効率向上 多目的使用可 |
ハニカム化 | 無機膜にゼオライト担持し成形 | 吸着効率向上 多目的使用可 |
高選択性剤担持 | 高選択性吸着剤をマクロ孔内に析出担持 | Cs吸着性能向上 |
循環注水冷却システムで高汚染水の除染に使用されたゼオライトは,汚染水処理二次固体廃棄物として一時保管される。平成26年2月3日時点で,KURION社製セシウム吸着装置の吸着塔466本(鉄遮蔽体表面線量率0.10~250 mSv/h)はコンクリート製のボックスカルバートで,第二セシウム吸着装置SARRYの吸着塔96本は鉛遮蔽(表面線量率0.04~1.20 mSv/h)で保管されている5)。これら使用済み吸着塔は,処理・廃棄体化が始まる20–25年後まで保管する必要があり,現行の一時保管方式が長期保管方策としても妥当であるか,評価研究が進められている。保管中のゼオライト吸着塔の安全性評価では,吸着塔内部での放射性Csの放射線による発熱に対する安定性,水の放射線分解で発生する水素ガスの燃焼の可能性,および残留する海水塩による容器材の腐食等の検討が重要である。水素発生と腐食は,吸着塔内に水がなければ起こらない現象である。ゼオライトは親水性(吸水性)であるが故に,イオン交換によってCsを吸着できるが,脱水しにくい特性は保管評価を難しくする。
原子力機構での評価研究15)では,KURION吸着塔のゼオライトHerschelite(Chabazite-Na)を用いた吸着試験をもとに,事故初期に発生した吸着塔のCs-134,137の放射能濃度を1015 Bq/本のオーダーと推定し,吸着塔内部の水素滞留状況が評価されている。吸着塔内の温度と水素濃度を解析した結果の例を図15に示す。解析条件は,吸着塔下部の汚染水出口管が洗浄水で水没し,Herschelite層が100%湿度状態(含水率25.6 wt%),崩壊熱504 W均一分布,水素発生量20.5 L/dとしている。吸着塔上部にある汚染水入口管,ベント管(排気管)およびベントプラグ(栓)を大気開放した状態では,Cs崩壊熱を駆動力とした熱自然対流や分子拡散により,空気が汚染水入口管から塔内に流入し,水素と混合されてベンド管等から流出すると推定される。この結果,塔内水素濃度は1.6%以下(燃焼下限界は4%)に静定するとともに,Herschelite層の最高温度は211°C以下(自然発火温度は500~571°C)と推定されている15)。なお,水素発生量は,Herschelite層の状態(層高,含水量,塩分濃度等)で変化し,ゼオライトと純水の混合物,湿ったゼオライト,ゼオライトと海水の混合物の順に増加する傾向も明らかとなっている。
ゼオライトを充填した吸着塔容器の材質は,一般的に耐食性が高いとされるステンレス鋼SUS316 Lである。しかし,腐食が促進される放射線照射下の海水中で,ゼオライトと接触したステンレス鋼の腐食に関する研究例は皆無であった。このため,電気化学的手法を用いて,孔食,すきま間腐食等の局部腐食発生の有無についての評価が進められている。Herschelite吸着材をSUS316 L材に接触させることにより腐食発生が抑制されることが明らかになり,海水相当の約20,000 ppmのCl−イオン濃度では直ちに腐食は発生しないと推定されている15)。ゼオライトの腐食抑制メカニズムについては,今後の研究が待たれる。使用済み吸着塔を長期間安全に保管できれば,放射能が減衰して処理・処分の負担も軽減される。より確実に長期保管を行うには,上述の解析的な評価研究の結果と実測データと検証,使用済み吸着塔のモニタリングなども重要と考えられる。事故発生時の1~3号機のインベントリは,Cs重量218.8 ㎏,Cs-137放射能7.0×1017 Bqと推定されている16)。このうち,セシウム吸着装置で回収されたCsは34.1%に過ぎず,大気および海洋への放出量1.9%,高汚染水中1.3%以外の62.7%は炉内に残留していると推定されている5)。現在の高汚染水中のCs濃度は低下しているが,廃炉工程で溶融した核燃料(燃料デブリ)を砕いて取り出す際に,残留Csが再び汚染水に溶けだすことも想定される。
6.1 処分方法の分類
日本における放射性固体廃棄物処分法には4種類があり(図16),①トレンチ処分(地表付近の簡易な埋め立て),②ピット処分(コンクリート構造物への埋設),③余裕深度処分(バリア材を伴う50 m以深への処分)および④地層処分(バリア材を伴う300 m以深への処分,TRU廃棄物および高レベル廃棄物)に分類される。どの廃棄物をどの処分法で処分するかは,公衆の被ばくが年間10 µSv以下になるように安全評価を行い決定されるが,おおよそ廃棄物に含まれる放射性物質の濃度で分類することができる(表2)1)。表に示されている値は,それぞれの処分法で処分可能な最大濃度を示しており,年間10 µSvを満足する濃度の10倍から100倍に設定されている(α核種とトレンチ処分については10倍,他は100倍)。したがって,処分される廃棄物中の平均濃度は表の数値の1/10から1/100以下となる。
表2 処分法に応じた濃度上限値の推奨値1)(Bq/ton)核種 | トレンチ処分 | ピット処分 | 余裕深度処分と地層処分の区分値 |
---|
濃度上限値推奨値 | 区分値従属性の評価値 | 濃度上限値推奨値 | 区分値従属性の評価値 |
---|
C-14 | — | 1010 *1 | 1011 | — | 1016 |
Cl-36 | — | 107–108 | — | 1011 *1 | 1013 |
Co-60 | 1010 | — | 1015 | — | — |
Ni-63 | — | — | 1013 | — | — |
Sr-90 | 107 | — | 1013 | — | — |
Tc-99 | — | 105–106 *1 104–105 *2 | 109 | — | 1014 |
I-129 | — | 104 | — | 1010 *2 | 1012 |
Cs-137 | 108 | — | 1014 | — | — |
α核種 | — | 109 | 1010 | — | 1011 |
*1:Co-60に対する相対濃度からの推定値。*2:Cs-137に対する相対濃度からの推定値。 |
6.2 汚染水処理廃棄物処分の課題
今回の福島第一原子力発電所内汚染水の処理によって発生した固体廃棄物の処分については,①含有核種(放射能量,半減期),②発熱量,③表2の処分法に応じた濃度上限値の推奨値(Bq/ton)固化形態,④同伴物質などの点について考慮する必要がある1)。含有核種の種類と濃度は,どの処分法(深度)に処分するかを決定する上で重要である。処分深度を決める際には,Cs-137以外の核種の濃度が重要となり,γ線核種に関しては測定が容易であるが,それ以外の核種については濃度測定あるいは推定のための情報が今後必要となる。発熱量は,処分場の設計段階で重要となる。発熱量が大きいと処分した際の地下での熱の除去が問題となり,バリア材の耐熱温度以下に維持するため,廃棄物間隔を空ける等の考慮が必要となる。発熱量の多い核種は半減期が比較的短いため,処分するまで中間貯蔵することも考えられる。吸着材を処分に適した形態に処理することも重要な課題である。特に不溶性フェロシアンスラッジについては,放射性Cs濃度が高く,還元および不活性環境下では分解する可能性があり,適切な固化形態に変換する必要がある。ゼオライトは,そのままの形態でも処分場の設計は可能と考えられるが,焼結固化,ガラス化等の固化形態が可能である。高温でのCsの揮発抑制には,固化担体としてゼオライトが有効であり,ガストラッピング機能および自己焼結機能が利用できる。セメント固化法は,セメントの耐熱温度と含有水分の放射線分解による水素発生の観点から,濃度が高い場合は安易に選ぶべきでない。同伴物質についても充分考慮するべきである。汚染水処理に際しては,油分や塩分が含まれており,これらとバリア材の相互作用について検討が必要である。塩分は,金属容器の腐食やコンクリート構造物の強度低下,粘土の膨潤力/止水性の低下等を起こす怖れがある。油分(有機物)の含有は,放射線分解による水素等のガス発生の懸念があるため,焼却や酸消化等の処理が必要になる。以上の点に注意しつつ,それぞれの固化体に応じた処分法を決定していくことになる1)。
高除染吸着剤やゼオライトの吸着能を利用して,現在,循環注水冷却システムが稼動している。一方で,多量の廃吸着剤(二次固体廃棄物)が保管・管理されている。これら吸着剤の高機能化,安定保管さらに将来的には安定固化法の開発が課題となっている。わが国に豊富に産出する天然産ゼオライトは,Csに高い選択性を有すると共に,高温でのCsガスのトラッピング機能および安定固化を実現できる自己焼結機能など優れた特性を有しており,高汚染水の処理および処分において今後重要な役割を果たすものと期待できる。
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