日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
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Zeolite 31(2): 57-60 (2014)
doi:10.20731/zeoraito.31.2.57

ゼオゼオゼオゼオ

天然ゼオライトの開発利用を追いかけ50年

新東北化学工業株式会社 取締役会長

受理日:2014年5月15日Accepted: May 15, 2014
発行日:2014年6月10日Published: June 10, 2014
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キーワード:ゼオライト;呼吸性内装材;調湿材;セシウム吸着材;ペット用脱臭砂

2011年3月11日,東北を襲った東日本大震災(震度7,マグニチュード9)は,津波とともに福島にある東京電力の福島第一原子力発電所を破壊した。それを機に放射性物質セシウム137などの吸着材としてゼオライトが俄然注目を浴びた。

翻って60年前の1954年3月1日,太平洋のビキニ環礁でアメリカの水爆実験による死の灰セシウム137を浴びたマグロ漁船第五福竜丸の乗組員だった久保山愛吉さんが亡くなった(図1:読売新聞より許可を得て転載)。

当社創業者の丹野実は,水産業の仕事に関わり長く日本の水産業の振興に尽力しながら,戦後初の衆議院選挙(1946年)で宮城県から弱冠の35歳の若さで当選している。その関係で久保山さんの出来事にいたく関心を持ち,死の灰セシウム137を吸着するゼオライトの開発に取り掛かることになる。

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図1 読売新聞 昭和29年3月16日

東北大学鉱山工学部(当時)岩床鉱床学の権威である鈴木廉三九教授の指導で全国のゼオライト鉱床を調査し,現在の宮城県仙台市青葉区にあるゼオライト鉱床を発見した。

東京大学の歌田教授の調査によると,当社のゼオライトは「カルデラ」内の火山ガラスの多い堆積物を母岩とし,「カルデラ」内に保たれた適当な温度条件で生成した。純度が高い理由は,原材料がほとんど純粋に近い火山ガラスであることであり,これが堆積物になるには運搬の過程で良く分級されたのだろうと述べられている。

丹野実が会社を創業したのは52歳の1963年12月で,昨年でちょうど50年を迎えた。現在の当社はゼオライト鉱床(板嵐鉱山:いたあらしこうざん)に約80ヘクタールの自社山を所有し,その埋蔵量は約1億トンに及ぶ。2万坪の敷地に各工場と研究室を配し,月間1,000トン前後のゼオライトを出荷している。(図2図3

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図2 鉱山

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図3 工場

創業当時のゼオライト資源の開発利用の事業は,一介の地方の零細企業には資金力,開発力,販売力と大変な事業であり,まさにパイオニア的な大事業であった。50年経つ今でも道半ばで,これからも長い困難なパイオニア的な道のりは続くが,会社創立50周年を機会に,会社の歩みを振り返りたいと思う。

最初の開発に取り組んだのは放射性廃液中のセシウム137の吸着だった。ゼオライトの先進地アメリカから天然ゼオライトがセシウム137を吸着するということは情報として知っていた。

東京大学総合研究所で行った実験の結果,セシウム137は選択的によく吸着した。セシウム137の水和イオンとゼオライトの細孔が近似値なのか相性がよく,特異な選択吸着を示した。海水中のナトリウムやカルシウムなどの影響をあまり受けず,また,酸性・アルカリ性にもあまり左右されずによく吸着した。吸着したセシウム137の分離再生も塩化アンモニウム,塩化カルシウムなどでイオン交換すると再生回収された。その後,東北大学原子核工学部(当時)の萩原善次教授の研究室でも,セシウム137の分離再生の研究が続けられた(1967年,1968年 原子力学会誌発表)。また,同じ東北大学で三村均教授によってセシウム137を吸着したゼオライトを固化する研究が進んでいた。

当時日本でも原子力発電の到来は時間の問題となっており,原子炉施設,使用済み燃料の再処理工場などから出るセシウム137の吸着などの利用に期待を高めたが,時代がまだ早かった。

次に開発したのは,固体酸触媒の担体用ゼオライトである。1969年,ハイドロカーボンのコーキングの課題を乗り越え,東レはトルエンの不均化反応の工業化に成功した(「ゼオライトの最新応用技術」東レ 井上武久 シーエムシー刊)。天然ゼオライトを使用した工業化は初めてのことだった。この工業化のプロセスは,中国等に輸出された。サンプルを提出してから工業化まで4年の歳月を要した。触媒を劣化させるゼオライトに含まれる不純物(主に酸化鉄)を除き,純度を高める事に苦労した。また,初めての陽イオン交換能力測定の分析などに苦労した。

水処理吸着材の開発利用については1970年,陽イオン交換体として主にボイラー用の水処理に使用された。冷却水に含まれるカルシウム,鉄,マグネシウムイオンなどがスケールとして冷却管に沈着すると冷却効果が落ちるため,取り除く必要があった。三菱レイヨン株式会社の子会社,日本錬水によって日本国内の製紙会社,化学工場,プラント会社などに数多く納入された。

また,台湾の養殖施設の水質改善にも使用されている。車エビ,ウナギ,ハマグリなどの養殖場で,餌の食べ残しやフンから出るアンモニアの吸着剤として使用されている。ゼオライトはアンモニアとの相性も良く,いまでも金魚や鯉などの水槽の水質改善に使用されている。

酸素窒素分離の利用開発は1977年,旧大阪酸素工業株式会社が前記萩原善次教授の指導で,天然ゼオライトを改質し,空気から酸素と窒素の分離係数を高めたゼオライトで高濃度酸素を発生させ,ゴミ焼却炉に実用化した。窒素を選択的に吸着するため,酸素がスルーして濃縮される。在宅用酸素発生装置が商品化されたのはこのころだった。

ペットトイレタリーに開発利用したのは1979年。当時この分野はアメリカが先行しており,日本はアメリカから輸入販売していた(アタパルジャイトという粘土鉱物)。ペットフードの親会社だった味の素の研究所で,輸入品とゼオライトの比較実験を行ったところ,同等以上の結果が出たため,新しい開発利用が進んだ。猫の尿はアンモニア臭が強烈だが,ゼオライトはよく吸着した。日本の生活と文化の向上とともに,猫の脱臭砂は需要が顕在化し,大きなマーケットに成長した。現在はハイブリット化した猫の脱臭砂をあるメーカーのOEMでアメリカに逆輸出している。その数量は年々増え,月間20万パッケージを超えている。

床下調湿材も当社がゼオライトの新しい用途として1988年に開発した。日本の住宅の床下は,梅雨や秋雨前線の頃には湿度が飽和状態になる。そのためジメジメして住宅の寿命を短くしている。呼吸性のあるゼオライトを使用することにより,飽和湿度を緩衝してくれる(図4)。

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図4 床下の相対湿度比較

呼吸性調湿内装材の開発利用は鹿島技術研究所と共同開発を行い,1991年に国内外を含めて初めてゼオライトを使用した内装材の商品化に成功した。このことにより,建設業界で工事費見積もりの際に頻繁に使われている,価格情報誌の積算資料の中に「調湿内装材」というジャンルがつくられた。

この調湿内装材は,収蔵庫,美術館,教育施設,病院,福祉施設や一般家屋に数多く使用されている。

1997年には日本とアメリカによるODA事業としてインドネシアの生物多様性博物館に施工された。国内では,仙台市文学館(図5),富弘美術館(図6),鉄道博物館,東京国立近代美術館,東京都写真美術館,大阪市立博物館,国立成育医療センター,三井記念病院,特別養護老人ホーム第二癒しの里,尼崎田能マンション,日新製鋼株式会社堺製造所,明徳義塾校舎,大須桑浜総合小学校などに数多く施工されている。また,韓国のウルサン市立博物館,国立光州科学館,国会議事堂図書館書庫などにも施工されている。

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図5 仙台市文学館(宮城県)

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図6 富弘美術館(群馬県)

以上,時系列的に当社の50年の歩みを省みたが,今後も機能性鉱物ゼオライトをいろいろな材料や技術と組み合わせながら技術開発を続けていきたい。

最後に,ゼオライト学会イベントの想い出写真を懐かしんでください。

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図7 フィールドトリップで当社鉱山見学

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図8 当社敷地内にて野点で懇親した様子

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図9 小野先生

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図10 故 乾先生

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