FCA(Fluid Catalytic Aromaforming; 流動接触芳香族製造)プロセスの開発
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FCA(Fluid Catalytic Aromaforming; 流動接触芳香族製造)プロセスとは,接触分解装置(FCC)から副生する分解軽油(LCO)などを原料として,有用な基礎化学品であるBTX(ベンゼン,トルエン,キシレン類)を製造するプロセスであり,JX日鉱日石エネルギー株式会社と千代田化工建設株式会社との共同で開発を進めている。FCAプロセスでは反応形式に流動床を採用しゼオライトを含む独自の流動床触媒を用いて,高効率にBTXに転換することを目指している。本稿ではFCAプロセスの概要について紹介する。
我が国の石油産業を取り巻く環境は,大きな転換点に差し掛かっている。人口減少等の理由で石油需要が減少傾向であることに加えて,重質油から軽質油への需要シフトにより,需給構造の大きな変化が見込まれている。特に重質油の需要は,今後大きく減少すると想定されている。
重質油の需要減少傾向が進む中,重質油からガソリンを製造することができるFCCは重質油の代表的な処理方法であり,今後も高稼働が見込まれる。一方でFCCから副生されるLCOは,蒸留性状は軽油相当の留分であるが,芳香族分が多く含まれているため,品質面から軽油基材として利用するには適さず主に重油基材として利用されている。そのため,LCOは将来的に余剰となることが懸念されている。一方,ベンゼン,パラキシレンをはじめとする芳香族製品などの基礎化学品の需要は,アジアを中心に今後も伸びていくことが想定されている。
LCOから需要の旺盛なBTXに転換する従来技術としては,水素化分解を経て得られた重質ナフサ留分を接触改質装置にかける方法があるが,このような方法では,高圧水素を多量に消費する上に得られるBTX収率が必ずしも十分でないなどの課題があった。そこで,筆者らはこれらの課題を解決するために,より高効率にBTXが製造可能な新たなプロセスとしてFCA(Fluid Catalytic Aromaforming; 流動接触芳香族製造)プロセスの開発に取り組むこととした。
FCAプロセスの概要を以下に示す。FCAプロセスの原料としては,主にLCOを想定しているが,LCO以外の原料でも灯軽油留分(他装置からの分解軽油を含む)であれば利用可能である。また,必要に応じてあらかじめ部分的に水素化前処理しておくことが望ましいケースもある。
LCOとは,FCCから得られる灯軽油留分を指すが,芳香族の含有量が非常に高いことが特徴である。特に1環芳香族,2環芳香族が多く含まれ,飽和炭化水素なども含まれている。FCAプロセスでは,図1のようにこれらの各化合物から効率的にBTXに転換することを目指している。
すなわち,原料油と触媒が接触することにより,アルキルベンゼン類の脱アルキル反応,ナフテノベンゼン類の開環反応,飽和炭化水素の脱水素・環化反応などが進行し,さらに各種分解反応の進行過程で副生するLPG(液化石油ガス)並びに軽質ナフサからも環化,脱水素反応によりBTXに転換することを目指している。また,2環芳香族と飽和炭化水素との間で進行する水素移行反応を積極的に活用して,2環芳香族からもBTXに転換することを目指している。このように複数の反応を同時にかつ効率的に行うために,触媒,反応条件をそれぞれ適切に制御する必要がある。
上記のような各種反応を効率的に行うためには,触媒の活性を高く保ち続ける必要があるが,FCAで進行する各種反応は,水素化分解とは異なり水素を導入せずに反応させることから反応中にコークが生成しやすく,それにより触媒がコーク被毒されやすい。そこで,触媒を常時再生可能な循環流動床を反応形式として採用することとした。
流動床とは気化させた原料などの流体により触媒粒子を流動化させながら反応させる反応形式である。FCAプロセスで採用する循環流動床の概念図を図2に示す。反応塔内にて触媒は常に流動し,触媒粒子と原料ガスとが十分に混合されながら接触することで反応が進行する。この際,層の温度はほぼ均一となる。また,触媒に流動性があるため,反応塔から触媒を移送することが可能となり,反応塔でコークが付着した触媒は再生塔に移送され,コークを燃焼させることで連続的な再生が可能となる。そのため,常に再生された触媒により反応を行うことが可能となる。この際再生塔でのコーク燃焼によって触媒自身が加熱されるため,コーク燃焼は反応塔内への熱源供給という面でも役割を果たす。流動床触媒には,反応活性と合わせて流動性が必要となり,ある一定範囲に制御された粒径を持つよう加工成型された微粉状の触媒が用いられる1)。
次に反応塔の流動状態の模式図を図3に示す。流動床反応塔では,流体(ここでは原料並びに生成物)のガス線速度によって,触媒の流動状態は大きく異なる2)。石油精製における代表的な流動床プロセスであるFCCでは主に高速流動層にて反応を行うが,FCAプロセスの場合は,FCCに比べ原料油と触媒との接触時間を長くする必要があるため,ガス線速度が遅く,より長い接触時間を確保しやすい,気泡流動層もしくは乱流流動層での反応を想定している。
なお,触媒としては,ゼオライトをベースとして独自に開発した流動床触媒を用いている。開発触媒を用いることで,コーク生成量を熱バランスが取れるレベルに抑えながら,BTX収率を高めることが可能となる。また,流動床プロセスで使用するため,流動性や耐摩耗性などを考慮した微粉状に成型した触媒を使用している。
FCAプロセスで得られる生成物はBTXの他,水素を含むメタンやエタンなどの軽質ガス,LPG,灯軽油留分及びコークとなる。FCAプロセスにおける想定収率を表1に示す。従来技術では20%前後のBTX収率であるのに対し,FCAプロセスではより高収率にてBTXが製造されることが見込まれる。プロセスの回収系には,これらの各生成物を効率的に回収可能な工程が組み込まれる。
生成物 | 収率,mass% |
---|---|
形質ガス(水素含む) | 5~20 |
LPG | 5~20 |
BTX | 30~35 |
灯軽油留分 | 30~45 |
コーク | 3~7 |
本プロセスは,現在実用化に向けた検討を進めている。技術開発課題のいくつかを紹介する。
FCAプロセスでは,図1に記載されているような各種反応を効率的に進行させることが,触媒設計や反応条件検討において重要であり,そのためには原料油の詳細組成を把握する必要があった。石油精製におけるプロセス開発においては,通常留分ごとの性状等は把握するが,化学構造まで詳細に解析する事例は多くない。
従来の原料油組成の分析手法としてはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析やFID(炎イオン化検出器)ガスクロマトグラフ分析があるが,前者は飽和分の化合物タイプや1環芳香族がナフテノベンゼンかアルキルベンゼンかといった点まで特定することはできず,後者は複数のピークが重なってしまうため詳細な分析を行うことは困難であった。そこで,LCO中の化合物タイプを詳細に分析する手法として,2次元ガスクロマトグラフ装置を用いて分析を行った。2次元ガスクロマトグラフ装置ではタイプの異なる2つのカラムを用いることでより良好な分離が可能となり,FIDとqMS(四重極質量分析計)の検出器を用いることで定量性を持ってピーク同定することが可能である。2次元ガスクロマトグラフ装置で分解軽油を分析した結果を図5に示す。図中下方向に沸点順,右方向に極性順に化合物が分離されており,ピークがより高いほど,化合物が多く存在することを表している。分解軽油中の各化合物タイプは,良好に分離されていることが確認され,あわせて各化合物タイプを定量的に解析する手法を確立した。
FCAプロセスでは,原料中の飽和分(特にナフテン分)と芳香族(特に2環芳香族)との水素移行反応を活用したBTXへの転換も視野に入れており,モデル物質を用いてその効果を確認している3)。一方で原料によってはFCAプロセスから副生する水素などを用いて原料を部分的に水素化前処理することが好ましいケースもある。
水素化前処理のターゲットとなる2環芳香族に着目し,ナフテノベンゼン,ナフテンと水素化させた際の原料の反応性を,固定床装置にて簡易的に評価した結果を図6に示す。ナフタレン骨格の片環を水素化しナフテノベンゼン(テトラリン)とすることで,BTX生成能は大きく向上し,コーク生成は抑制された。一方,さらにナフテン(デカリン)にまで水素化すると,むしろBTX収率は低下した。また,水素消費量の面からも,ナフテノベンゼンへの水素化に留めた方が,ナフテンまで水素化するよりも有利である。
原料を適切に前処理することでBTX収率が向上しコーク収率を抑制できるため,環境によっては触媒やプロセスの選択範囲が広がり,より効率的なBTX製造が可能となる。
主としてゼオライトからなる活性成分をバインダー等とともに噴霧乾燥させることで流動床触媒を製作している。コークを抑制しながらBTX収率を向上させると同時に,循環流動床評価が可能な流動性を有することが重要であり,これまでに流動床で使用可能な触媒を開発している。
触媒循環について検証し,気泡流動層状態で反応評価を行うため,ベンチスケールの評価装置を作成し各種評価を実施している。評価装置の全景を図7に示す。評価装置の高さは約7 mで0.3 BD処理相当の評価装置である。
循環流動床装置の概略フローを図8に示す。反応塔,再生塔,そして触媒に付着した生成油を取り除くためのストリッパーで構成されている。反応塔では気化した原料油によって触媒を流動させると同時に原料油と触媒が接触し反応が進行する。触媒は反応塔上部からストリッパーに移送され,触媒上の生成油を取り除いた後,窒素で上方までリフトされて再生塔に移送される。再生塔では空気によって触媒を流動化させつつ触媒上のコークを燃焼し,再生された触媒は反応塔へと戻っていく。装置運転に際しては,各部の圧力バランスをとることが重要であり,装置に設けたスライドバルブの開度を変えると同時に差圧を適切に制御することで触媒循環量をコントロールして反応評価を行っている。
これまでに本装置を用いて,触媒の流動性試験,安定した触媒循環の確立を含む反応評価技術の開発,各種反応条件等の検討を実施しており,さらなるBTX収率向上にむけて検討を重ねている。
FCAプロセスとは,触媒を連続的に再生する循環流動床方式のプロセスを採用して,高圧水素を多量に消費せずに,LCOからBTXを高収率で製造できるプロセスである。本プロセスの完成により,LCO副生のボトルネックが解消されFCC装置の高稼働維持が可能となり,需要の減少が見込まれる重質油の削減を通じて,我が国の石油精製技術の高度化がより一層促進されると考えている。今後も本プロセスの早期商業化に向けて開発を継続していく。
本技術の研究は経済産業省の補助金により,一般財団法人 石油エネルギー技術センターが実施している「重質油等高度対応処理技術開発」事業の一環として行われたものである。ここに感謝申し上げます。
1) 鞭 巌,森 滋勝,堀尾正靭,“流動層の反応工学”,初版,p. 1–12 (1984,培風館).
2) 池田米一,“流動層プロセス開発ノート”,初版,p. 3 (2007,化学工業社).
3) 藤山優一郎,第112回触媒討論会討論会A予稿集,p. 373 (2013).
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