アルカリシリカ反応(Alkali-Silica-Reaction,以下ASRと記す)とは,コンクリート中の骨材から吸水膨張性のゲルが生じ,その膨張圧力でコンクリートにひび割れが発生する現象である。これは,水溶性のアルカリ成分(Na+あるいはK+)がセメントや骨材に元々多く含まれる場合,あるいは海水や凍結防止剤等により外部から供給された場合に,コンクリート細孔中のpHが上昇し,アルカリ反応性を有する骨材成分から吸水膨張性のASRゲルが生じることで発生する。
現在,このASRが生じたコンクリートに対する補修工法の一つとして,Ca-A型ゼオライト(以下Ca-Aと記す)を用いた工法が実用化されている1)。これはコンクリートひび割れ部にCa-Aを含有する超微粒子セメントを低圧注入した後,撥水性の水性シラン系含浸材をコンクリート表面から含浸させる手法である。しかし,この補修方法では,ASRの進行状況によっては再びASRが進行する事例が認められるため,より抑制効果の大きな材料が求められている。一方,近年,Li+がASRを抑制することがわかってきており,亜硝酸Li溶液を圧入する補修工法も開発されている2)。しかし,この工法では多量のLi溶液を消費し,圧入期間が長期間となることから施工価格が高い等の問題も残されている。そこで,上原らは,このLi+及びゼオライトに着目し,Li-A型ゼオライト(以下,Li-Aと記す)がASRを抑制することを示した3)。しかしながら,A型ゼオライトのLi+に対するイオン交換選択性が小さく,その調製において複数回のイオン交換プロセスを必要とするためLi溶液の消費量が多く,高コストになる等の問題があった。
一方,Matsumotoら4)は,シリカアルミナ混合ゾルを水酸化リチウム溶液で処理することでイオン交換プロセスを経ないで,直接Li-EDI型ゼオライトやLi-ABW型ゼオライト(以下,それぞれLi-EDI及びLi-ABWと記す)を合成できることを見いだした。これらLi-EDI及びLi-ABWの骨格構造組成は,Si/Al=1であり,Li含有量はLi-Aに匹敵する。ここで,Matsumotoら4)は,出発物質として市販のシリカ・アルミナゾルを使用したが,コンクリート用補修材料として,これらゼオライトを安価に作製するためには,Si/Al=1の組成でかつ反応性が大きなメタカオリンやアロフェンなどの低価格な材料から,これらゼオライトを作製することが望ましい。ここで,アロフェンは,一般的な入手形態において水分や鉄分を多く含むが,メタカオリンは乾燥試料かつ不純物の少ない試料が容易に入手できる。そこで,筆者らはASR抑制材料としての実用化を志向し,安価なメタカオリンを出発物質として,これらLi含有ゼオライトの合成を試みた。その結果,メタカオリンとLiOH溶液を混合するだけの簡単な操作で,作業工程や無駄な廃液が発生せず,安価にLi含有ゼオライトを合成できる方法を開発した5)。また,開発したゼオライトを使用して,新たなASR抑制用ひび割れ注入材料を試作し,それが十分な注入性能を持つことを示した6)。
本稿では,メタカオリンからのLi含有ゼオライトの合成と,そのASR抑制効果及びコンクリートひび割れ注入材の開発についての,著者らの研究を紹介する。
2. Li-EDIおよびLi-ABWの合成法の開発
2.1 合成法
図1は開発したLi-EDI,Li-ABWおよび一般的なLi-Aの合成フロー図である。なお,既存のコンクリート補修用Ca-Aの合成方法は図1のLi-A合成フローに準じ,LiをCaに置き換えるとほぼ同様となる。図から明らかなように,開発した合成方法は,コンクリートの鉄筋に有害なCl−を含まず洗浄が簡単である。また,洗浄,ろ過も1回の操作で良いことから,その作業工程も少なく,かつ少量のLi量で合成できることから廃液にLiがほとんど含まれない。よって,出発物質であるLi系材料そのものはCa系材料と比較して高価であるが,現行のCa-Aと大きく変わらないコストで合成が可能である。
次にLi-ABWおよびLi-EDIの合成方法の詳細を記す。出発物質であるメタカオリン(昭和KDE(株)製あるいはSKWイーストアジア(株)製)は,カオリン(Si/Al=1)を焼成した非晶質物質であり,紙のコーティング材料やコンクリート用混和材として広く用いられているものである。このメタカオリンと1 M~4 M LiOH溶液を混合し良く攪拌する。なお,各試料の配合は,1 M溶液試料がLi1.15Si1.01Al1.00O4.00(ほぼ化学量論組成のLi量), 2 M溶液試料がLi2.30Si1.01Al1.00O4.00(化学量論組成のおよそ2倍のLi量),そして4 MがLi4.60Si1.01Al1.00O4.00(化学量論組成のおよそ4倍のLi量)となる。その後,溶液を所定の温度(20~90°C),所定の時間(5~168 h)静置する。反応終了後,生成物を濾過し,純水で洗浄後,各合成物の評価を行った。なお,得られた試料は,その合成溶液濃度,合成温度,合成時間の順に,例えば1 Mの溶液,40°C,24時間の条件で合成されたものを1M40(24 h)と記す。
2.2 合成物の評価
図2及び図3はLiOH溶液濃度をそれぞれ1 M及び4 Mとし,種々の温度,時間で合成した代表的な生成物の粉末X線回折図である。図4はLi-EDIおよび,Li-ABWの生成量を図示したものである。1 M,20°Cの低温では168 hの処理時間においてLi-EDI単相が,90°Cの高温では5 hの処理時間でLi-ABWの単相が得られた。一方,30~80°Cにおいては両相が共存し,より低温,低濃度,短時間でLi-EDIが,より高温,高濃度,処理時間が長くなるにつれLi-ABWが多く生成する傾向であった。なお,ゼオライト組成のほぼ必要最小Li量である1 Mの低濃度処理溶液でゼオライトが得られ,処理溶液濃度を2倍としてもゼオライト総生成量に大きな差は無く,処理溶液濃度を4倍と高濃度にした場合はむしろゼオライトの総生成量は減少することがわかった。これは,高濃度では非晶質のLiアルミノケイ酸塩物質が生じ,それが一旦生じるとゼオライトには転換しないためと考えられる。
図5は各合成物のAlのモル数(物質量)を1としたときの生成物中のLiのモル数を図示したものである。ここで,Si及びAl含有量は,合成処理前後でほぼ一定である。なお,1 M処理および2 M処理試料では,図4におけるLiゼオライト生成量とLi/Al比との関係がおよそ一致しているが,4 M処理試料では,ゼオライト生成量が少なかったのにも関わらず,むしろLi含有量が多くなる傾向が認められた。これは高濃度ではゼオライトは生成しないが,Liを含有する非晶質物質が生じているためと考えられる。
図6は各合成物の走査型電子顕微鏡写真である。ASRが生じた細かなひび割れに微粒子を注入するためには,各ゼオライトが余り大きく成長せず,細かな粒子として得られることが望ましい。Matsumotoら4)による合成法にしたがって試薬から合成したLi-EDIは長径およそ1 µm,短径0.2 µm程度の柱状粒子であり,Li-ABWと比較して小さい。一方,メタカオリンから合成したLi-EDIを多く含む試料1M20(168 h)は,長径1 µm,短径0.2 µmの柱状粒子が組み合わさり1 µm~2 µm程度のサイコロ状あるいは十字状の大きな粒子として認められる。一方,1M90(5 h)は長径0.3 µm,短径0.05 µmの柱状を示す二次凝集体であり,試薬から合成したものと比較して非常に細かく,そのエッジが明確ではないこと,その表面に付着物質のようなものが認められることから,Li-ABW単相に加え,それと同様組成の低結晶質物質が生じているものと考えられる。処理溶液濃度4 Mにおける合成物は,いわゆるLi-ABWやLi-EDI等の特徴的な形態を示す結晶質物質は認められず,薄片状の形態を示している。これは,メタカオリンから作製したアモルファス状のジオポリマー物質に類似している7)。以上,本合成法で得られたゼオライト粒子は,1次粒径が十分に細かく,その粒径において注入材として問題となる箇所は認められなかった。
Li含有ゼオライトをASR抑制材料として使用する際には,二通りの使用方法が考えられる。一方は,新設コンクリートに生じる可能性のあるASRを抑制するために,コンクリート練り混ぜ時に使用する混和材としての利用。他方は,既設コンクリートでASRが生じたとき,ひび割れ注入等の補修材料として使用する方法である。以下に,それぞれ使用方法における異なるASR抑制作用機序を想定したASR抑制試験の結果を記す。
3.1 混和材としての利用
混和材としてゼオライトを利用する場合は,コンクリート作製時にセメントや骨材と置換としてゼオライトを添加する。そこで,ASR反応性骨材を使用したモルタル作製時に各合成物を添加して,そのASR抑制効果を検討した。各モルタルの配合条件は表1の通りである。なお,合成物の置換量は1M40(48 h)の10質量%置換を基準とし,それと添加Li量が同じになるよう添加量を調整した(Ca-A型ゼオライトの添加量は,1M40(48 h)と同様に10質量%とした)。また,各添加試料中のLi-ABWおよびLi-EDIの割合は,それぞれ,1M40(48 h)=(16.2%, 56.0%),1M60(48 h)=(47.9%, 8.9%),1M90(48 h)=(63.5%, 0%),4M40(48 h)=(0%, 0%),4M60(48 h)=(11.7%, 0%)である。
表1 ゼオライト添加モルタルの配合添加試料名 | NPセメント(g) | 添加物量(g) | 反応性骨材(g) | 水(g) |
---|
無添加 | 600.0 | 0.0 | 1350 | 300 |
1M40(48 h) | 540.0 | 60.0 | 1350 | 330 |
1M60(48 h) | 542.2 | 57.8 | 1350 | 330 |
1M90(48 h) | 546.8 | 53.2 | 1350 | 330 |
4M40(48 h) | 546.8 | 53.2 | 1350 | 330 |
4M60(48 h) | 553.4 | 46.6 | 1350 | 330 |
Li-ABW | 551.2 | 48.8 | 1350 | 330 |
Li-EDI | 540.0 | 60.0 | 1350 | 330 |
Li-A | 542.2 | 57.8 | 1350 | 330 |
Ca-A | 540.0 | 60.0 | 1350 | 330 |
1M20(168 h) | 534.2 | 65.8 | 1350 | 311 |
1M90(5 h) | 549.6 | 50.4 | 1350 | 311 |
Li-ABW,Li-EDI:試薬から合成したもの。Li-A:Li-A型ゼオライト,文献3)。Ca-A:市販Ca-A型ゼオライト,Li-A:Li-A型ゼオライト,Ca-A:市販Ca-A型ゼオライト。 |
図7は表1の配合により作製したモルタルの促進膨張試験結果である。図から明らかなように試薬から合成したLi-ABWが最も膨張率が小さく,Li-ABWの含有量が多いものほど膨張率が小さくなる傾向が認められた。また,ゼオライトがほとんど生じていない4 Mの試料に関してもASR抑制効果が認められた。これは,4 M試料がいわゆるゼオライトを含まないもののLi含有ゼオライト類似の非晶質アルミノケイ酸塩物質であり,いわゆるジオポリマー物質のそれと似たようにイオン交換能を示すためと考えられる7)。将来的にはASR抑制材料として,これら非晶質物質の利用も考えられるが,現時点では,高濃度のLiOH溶液を使用して作製される4 M処理試料は,廃液に多くのLi溶液を含むこととなり,溶液回収システムを構築しない限り,その材料コストが高くなる。したがって,現実的な選択においてASR抑制用混和材として本合成物を利用する場合,余計なLi溶液を使用せずに無駄が少なく,かつASR抑制効果の大きなLi-ABWを多く含む1M90系列の試料が良いことがわかった。
3.2 ひび割れ注入材料としての利用
ひび割れ注入材として効果を発揮するためには,ひび割れ箇所に充填された充填材から,Liが溶出し,周りのコンクリート躯体からアルカリ成分を吸着することが必要である。そこで,ASR反応性骨材を使用して,アルカリを添加したモルタルにドリルで孔を開け,そこにLi含有ゼオライトを添加したセメントペーストを注入し,ASR抑制効果を検討した(図8)。注入試験に使用したモルタルの配合は表2に,注入材の配合を表3に示す。
表2 注入試験用モルタルの配合(R2O=1.6%)NPセメント(g) | 骨材(g) | 水(g) | NaOH(g) |
---|
600.0 | 1350.0 | 300.0 | 7.9 |
骨材はASR反応性安山岩を使用 |
表3 注入材料の配合試料名 | 合成物添加量(%) | 母材ペースト種 | 母材ペースト量(g) | 合成物添加量(g) | 混和液量(g) |
---|
無添加 | 0 | アーマ | 300 | 0 | 240 |
1M20(168 h) | 20 | アーマ | 240 | 60 | 240 |
1M90(5 h) | 20 | アーマ | 240 | 60 | 240 |
Ca-A | 20 | アーマ | 240 | 60 | 240 |
Li-A | 20 | アーマ | 240 | 60 | 240 |
アーマ:三菱マテリア製ルひび割れ充填材アーマ#600P,Ca-A:市販Ca-A,Li-A:Na-Aから調製したLi-A。 |
図9は注入施工供試体の膨張試験結果を図示したものである。図7の結果と異なり,Li-EDI単相からなる1M20(168 h)を添加したペーストを注入したものが,Li-ABW単相である1M90(5 h)を添加したものを注入したものと比較して膨張抑制効果が大きい結果となった。また,Li-EDI単相試料のASR抑制効果はLi-Aのそれと匹敵し,現行のCa-Aより大きいことがわかった。
3.3 Li含有ゼオライトのASR抑制機構
前項で述べたように,モルタル作製時にLi含有ゼオライトを添加する場合,Li-ABWを多く含む試料が,注入材としてそれを利用する場合,Li-EDIを多く含む試料のASR抑制効果が大きかった。そこで,これらLi含有ゼオライトのASR抑制機構を検討した。
図10は,各合成物を添加したセメントペーストを作製し,各材齢における可溶性のLi,K,Na量を測定することにより,各合成物から放出されるLi+量と各合成物が固定化したNa+,K+イオン量を検討した結果である。なお,セメントへの合成物添加量はおよそ20質量%とし,各合成物の含有Li量により,添加Li量が一定となるように微調整した。
試薬から合成されたLi-EDIはLi-ABWと比較して,早期から多くのLiを放出する。これはLi-ABWと比較してアルカリ環境下でLi-EDIは不安定であるため,セメントペースト中で壊れやすく,Li-EDIがより早期にLiを放出するためと考えられる。一方,Li-EDIとLi-AはLi-ABWと比較して,Na及びKの固定能力が高い。これは,Li-ABWのイオン交換選択性がNaやKに対して小さいことに起因している。ただし,その固定率はLi放出率と比較して小さいことから,早期の段階でゼオライトの多くが壊れ,一部残存しているゼオライトあるいは新たに生じた非晶質物質がNaやKイオンを固定化するものと推察される。メタカオリンから合成した試料も,Li-ABWおよびLi-EDIの含有量と相関し,Li-EDI含有量の多いより低温で作製した試料が,早期にLiを多く放出し,かつアルカリ固定化量が多かった。また,4M40,4M60などの非晶質試料もゼオライトと同様のイオン交換性性質を示すことがわかった。
上記結果から,Li-EDIが注入材としてASR抑制効果が大きいのは,注入材中からより多くのLiイオンを放出し,周辺のアルカリイオンを固定化することで,注入材周縁のASR膨張を抑制するためと考えられる。一方,Li-ABWが,練り混ぜ時に混和材として用いた場合に,ASR抑制効果が大きくなる理由は明確ではない。おそらく混和材として用いた場合は,上記化学的な要因の他に,セメントペースト組織の緻密性など物理的要因がASR抑制効果に影響するものと推察される。
上記ASR抑制試験から,合成したLi含有ゼオライトが大きなASR抑制効果を示すことがわかった。ここで,開発したゼオライトの当面の使用方法として,より高い材料コストが許されるASR用補修材料としての使用が想定される。しかし,実際に使用するためには,例えば注入材ならば,非常に細かいひび割れに注入できる施工性を有すること,一定の強度があること等,ひび割れ注入材としての性能が要求される。そこでLi含有ゼオライト添加セメント系ひび割れ注入材の性能を評価するため,各種試験を実施した。
4.1 ひび割れ注入材の試作
Li含有ゼオライトを添加したセメント系ひび割れ注入材として,既存のCa-A 添加セメント系注入材(三菱マテリアル(株)製アーマ#610)のCa-A部分をLi-EDIを多く含む1M20(168 h)に置き換えてひび割れ注入材を試作した。試作注入材は,1バッチ当りの混練量を2.5 kg とし,水粉体比68%を標準水量とし,減水剤等でフレッシュ性状を調整した。材料の混練にはハンドミキサーを使用し,混練時間は2分間とした。
4.2 ひび割れ注入材性状評価試験
試作ひび割れ注入材の硬化前性状(フレッシュ性状)および硬化後性状試験に用いた方法を表4に示す。なお,ひび割れ注入材のフレッシュ性状は,その施工性,ひび割れ充填性のために,流動性が良く(漏斗流下時間が短い)かつ可使時間が適度に長く(凝結始発時間が10時間程度),流下時間,粘度などの流動性に関する特性の時間変化が少ないことが求められる。一方,ひび割れ注入材の硬化性状は,硬化後にしっかりとひび割れを充填するために,十分な強度,コンクリートとの十分な接着強さ,適度な吸水量等が求められる。
表4 試験方法P漏斗流下時間 | JSCE-F521-1999 |
JA漏斗流下時間 | JSCE-F531-1999 |
粘度 | B型回転式粘度計で測定 |
単位容積質量 | JIS A 1116に準じて 400 mlの容重ますで測定 |
凝結時間(始発,終結) | 自動凝結試験機 |
コンシステンシー | JSCE-F 521 |
流動性の変化 | JSCE-K 542 |
保水係数 | JSCE-K 542 |
膨張収縮率 | JSCE-K 542 |
圧縮強さ | JSCE-G 505 |
圧縮静弾性係数 | JIS A 1149 |
曲げ強さ | JIS R 5201 |
接着強さ | JSCE-K 542 |
吸水率 | JIS A 1171 7.4 |
表5に試作ひび割れ注入材および現在市販されているASR用ひび割れ注入材(三菱マテリアル(株)製アーマ#610)のフレッシュ性状評価試験結果と硬化後の性状試験結果を示す。1M20(168 h)を添加したひび割れ注入材は,前試験の結果から,やや流動性が悪くなることがわかっていたため減水剤の配合を若干変えてあるが,表5に示すように市販注入材と極端に大きな差異は認められず,減水剤の微調整でその基本性能を満たすことが確認できた。
表5 試験結果試験項目 | | 市販注入材 | Li-EDI |
---|
P漏斗流下時間(秒) | 直後 | 10.1 | 10.3 |
同上 | 60分後 | 10.7 | 10.8 |
JA漏斗流下時間(秒) | 直後 | 12.5 | 13.1 |
粘度 (mPa・s) | 直後 | 34 | 20 |
同上 | 60分後 | 56 | 20 |
単位容積質量(kg/m3) | | 1620 | 1620 |
凝結時間 (時間–分) | 始発 | 15–50 | 10–20 |
同上 | 終結 | 20–10 | 16–30 |
保水係数(%) | | 27%以上 | 27%以上 |
圧縮強度(N/mm2) | | 14.0 | 11.1 |
静弾性係数(N/mm2) | | 7890 | 9210 |
曲げ強さ(N/mm2) | | 5.1 | 4.9 |
接着強さ(N/mm2) | | 2.7 | 3.4 |
吸水率(%) | | 30.4 | 25.7 |
Li-EDI:1M20(168 h)相当品 |
4.3 ひび割れ注入試験
ASR によるひび割れが発生した大型コンクリート供試体(50×50×100 cm)に,幅0.2 mm以上のひび割れから実施工と同様の低圧注入工法によるひび割れ注入を行った。図11は大型コンクリート供試体(50×50×100 cm)に生じたASR によるひび割れに低圧注入法により,開発ひび割れ注入材を注入している写真である。この施工においても作業性などの問題は認められず,開発材料が従来型のひび割れ注入材をそのまま代替する形で使用できることが明らかとなった。また,図11右側の写真は,注入施工したひび割れ部を拡大した写真である。図から明らかなように,ひび割れ注入材は,0.1 mm以下,0.04 mm程度のひび割れにも注入されおり,試作注入材はひび割れ注入施工用注入材料として十分使用できることが明らかになった。
メタカオリンとLiOH水溶液の混合物を所定の温度で処理することで,Liイオンを含有するゼオライトを低コストで合成する手法を見出した。Li含有ゼオライトの合成において,高温域の処理ではLi-ABWが生じ,コンクリート練混ぜ時に投入する混和材として使用することで大きなASR抑制効果を示すことを明らかにした。また,低温域で合成した場合,Li-EDIが生じ,ひび割れ注入材などの補修材料として活用することでASR抑制に大きな効果を発揮することを明らかにした。さらに,開発したLi-EDIに関して,市販のASR抑制用セメント系ひび割れ注入材の主要材料であるCa-Aと置き換えてひび割れ注入材の性状評価試験を行った結果,幅0.1 mm以下,幅0.04 mm程度の微細なひび割れでも注入できることを確認し,ひび割れ注入材として実用的に使用できることがわかった。
共著者の後藤義昭先生が2014年1月26日逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。
引用文献References
1) 土門勝司,守屋 進,益田 豊,多記 徹:各種補修工法によるアルカリ骨材反応抑制効果に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,Vol. 23, pp. 409–414, 2001.
2) 金好昭彦,里 隆幸,得能敏巳,岩田 功,河井 淳,谷室裕久,山ノ内智之,野田 明,山田信之:コンクリート構造物のアルカリ骨材反応抑止方法,特開2002-173380, 2002.
3) 上原元樹,石田正和,円城寺守:Li型ゼオライトによるアルカリ骨材反応抑制効果,第50回粘土科学討論会講演要旨集,pp. 88–89, 2006.
4) Matsumoto, T., Miyazaki, T. and Goto Y. “Synthesis and characterization of Li-type EDI zeolite” Journal of the European Ceramic Society, 26, pp. 455–458, 2006.
5) 上原元樹,水野 清,佐藤隆恒,松本泰治,後藤義昭:メタカオリンを出発物質としたLi含有ゼオライトの合成,粘土科学,Vol. 50-1, pp.1–11, 2011.
6) 水野 清,上原元樹,佐藤隆恒,松本泰治,後藤義昭:リチウム含有ゼオライト添加注入材の開発とアルカリシリカ反応抑制効果,第11回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム,2011.
7) Cristina-Soare, L. and Gracia-Luna, A. Ceramic Engineering and Science Proceedings, 28–9, 283–292, 2007.