ナノ空間の科学
株式会社豊田中央研究所
© 2014 ゼオライト学会© 2014 Japan Association of Zeolite
この度,ゼオライト学会の副会長を仰せつかりました。この巻頭言の場を借りて,私がこの研究分野に入るきっかけとなったメソポーラスシリカの発見の経緯と,最近の状況について述べます。
1992年7月,私はカナダのモントリオールにいました。第9回国際ゼオライト会議(9th IZC)に出席するためです。この会議で,私はモービルが我々と同じメソポーラスシリカの合成に成功していたという衝撃的な事実を知りました。私は,黒田先生が既に報告していた層状シリケートからのメソポーラスシリカの合成に興味をもち,そこにアルミニウム源を添加して固体酸の発現に成功したので,その成果を発表するために本会議に出席していました。モービルのMCM-41に関する最初の論文(Nature)は,1992年10月に出版されたため,この会議の時点では,誰もその存在を知りませんでした。私のポスターは,広い会場のどちらかと言うと隅の方に位置していましたが,会場の中央で人だかりのできているポスターがありました。それが,モービルのポスターでした。参加者は,ゼオライトよりはるかに大きな細孔径(2~30 nm)をもつ新しい多孔物質の登場に驚いていました。しかし,一番驚いたのは私です。Ⅳ型の急激に立ち上がる窒素吸着等温線,低角に見られる一本の強いピークと数本の弱いピークを示すX線回折パターンは,我々のFSMとまったく同じでした。また,界面活性剤を合成に用いている点も同じでした。次第に,我々のポスターにも人が集まってきて,モービルのMCM-41と似ていることが話題になりました。
あれからもう20年以上が経過しました。メソポーラス物質の研究分野は大きく発展し,国際学会(IMMA)が発足し,国際シンポジウム(IMMS)も回を重ねてきました。昨年に日本の淡路島で開催された第8回IMMSは記憶に新しいところです。
当初,メソポーラス物質は,その大きな細孔径から、重質油のクラッキング触媒として期待されました。結局,耐久性に問題がありクラッキング触媒には採用されませんでしたが,嵩高い機能性分子の合成触媒として,研究が活発に行われました。しかし,その後,メソポーラス物質の研究は多様化して,酵素固定,ドラッグデリバリーシステム,電極材料,センサー,発光体,電解質,太陽電池,人工光合成,人工酵素など,ゼオライトの延長上にない機能や応用が出てきました。最近,国際ゼオライト学会(IZA)からメソポーラス物質のコミッションが消えましたが,これは,メソポーラス物質のサイエンスがゼオライトとは異なるので,研究発表はIMMAを主体にしてゆきたいという意見がIMMSのCouncil membersの多数を占めたためです。
一方,日本でも,ゼオライト研究発表会が,メソポーラス物質の主な研究発表の場となってきましたが,これからもそのままでいいと思います。確かに,サイエンスは異なってきていますが,異なるサイエンスが混在する中で,新しい着想が得られる場合もあります。そういう点では,最近研究が活発化しているPCP/MOF, COF, 多孔性ポリマーなどの発表がもっと増えてもいいと思います。少なくとも,これらには,ナノ空間の科学という共通点があります。それぞれのナノ空間材料の特長を知ることで,その特長を活かした機能や応用を追求することができます。学会の枠を広げ過ぎてもいけませんが,時代の変化にどう対応して行くかの議論は必要かも知れません。
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