日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 30(3): 85-94 (2013)
doi:10.20731/zeoraito.30.3.85

解説解説

非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜の新展開Recent Progress of Non-siliceous Mesoporous Metal Oxide Films

1(独)物質・材料研究機構 若手国際研究センターInternational Center for Young Scientists (ICYS), National Institute for Materials Science (NIMS) ◇ 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1

2(独)物質・材料研究機構 WPI-国際ナノアーキテクトニクス研究拠点World Premier International (WPI) Research Center for Materials Nanoarchitectonics (MANA), National Institute for Materials Science (NIMS) ◇ 〒305-0044 茨城県つくば市並木1-1

受理日:2013年7月30日Accepted: July 30, 2013
発行日:2013年9月30日Published: September 30, 2013
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メソポーラス物質は,有機鋳型存在下で無機種の加水分解・重縮合反応を行い,有機/無機ハイブリッド複合体を作製し,最後に有機鋳型を除去することで合成できる。有機鋳型の形状・サイズ・配列を調節することで,そのレプリカであるメソポーラス物質の細孔の形状・サイズ・配列も調節可能である。メソポーラス材料の形態は,ナノ粒子,バルク,ファイバーなど多岐にわたるが,特にメソポーラス薄膜はデバイス応用への観点から注目を集めている。ゲスト種の薄膜中へのアクセシビリティや薄膜中でのそれらの拡散性の向上は,デバイス応用上重要になってくるが,通常のメソポーラス薄膜の細孔配向や細孔サイズが必ずしも適しているわけではなかった。また,細孔骨格の組成としてはシリカが一般的であるが,その絶縁性および物性の乏しさなどにより,メソポーラス薄膜の応用範囲が限られてしまっている。したがって,メソポーラス薄膜のさらなる応用展開のためには,非シリカ系物質へ骨格組成を拡大させ,同時に細孔空間をより精密に構造制御させる必要がある。本解説では非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜に関するこれまでの研究を紹介するとともに,我々が最近着手している一連の研究成果をまとめる。

Synthesis of non-siliceous mesoporous metal oxides has attracted tremendous attention in materials community. Among various morphologies of mesoporous materials, ordered mesoporous films are very attractive for applications in electronics, optics, sensing, etc. Control of the pore architectures in the films, such as vertical mesoporosity and large-sized mesopores, has a significant effect on performance in these applications. Compared to closed pores and cage-type pores, connected mesoporosity allows more effective pore utilization. In particular, vertically connected mesoporosity is much more desirable than horizontally connected mesoporosity, because the vertical orientation exhibits better diffusion of the guest species into the inner mesospace. Unfortunately, 2D hexagonal mesostructures generally tend to lie on the substrate surface. Although some special techniques, such as use of a patterned substrate and magnetic field, have been applied to the creation of vertical mesoporosity in mesoporous silica films, the preparation of non-siliceous mesoporous metal oxide films with vertical mesoporosity is still very challenging and requires further studies. In addition to the pore orientation, it is also very important to fabricate large mesopores since they facilitate the diffusion of guest molecules and can be utilized in emerging applications such as biotechnology involving large target species. In principle, the pore size is determined by the templating micelle. Using long chain surfactants of high molecular weight enables fabrication of ordered large-sized mesoporous materials. It has been recently proven that block copolymers with high molecular weights and big differences in hydrophobicity between the blocks can be directly utilized for the formation of large mesopores. A more facile and straightforward process for synthesizing mesoporous films with desired pore architectures is still needed. In this review, we summary recent progress in the synthesis and applications of non-siliceous mesoporous metal oxide films.

キーワード:メソポーラス物質;メソポーラス薄膜;金属酸化物;チタニア;アルミナ

Key words: mesoporous material; mesoporous film; metal oxide; titania; alumina

1. はじめに

高比表面積を有するポーラス物質は,IUPAC(国際純正応用化学連合)により直径2 nm以下の細孔を持つミクロポーラス物質,直径が2 nmから50 nmの細孔を持つメソポーラス物質,および直径50 nm以上の細孔を持つマクロポーラス物質に分類されている。メソポーラス物質は,中間領域の細孔を持つナノ空間物質群の代表例であり,ミクロ孔を持つゼオライトでは取り扱えないかさ高い分子(たんぱく質・DNAなど)を包接可能なホスト材料として期待されている。メソポーラス物質は,有機分子の集合体からなる超分子鋳型を用いたソフトテンプレート法により合成することができる。この有機鋳型は界面活性剤などの両親媒性分子が自己集合することで形成され,その有機鋳型存在下で無機種の加水分解・重縮合反応を行うことで,有機/無機ハイブリッド複合体が作製される。最後に,有機鋳型を焼成(または溶媒抽出)により除去することでメソポーラス物質が得られる(図1)。有機鋳型の形状・サイズ・配列は使用する界面活性剤の種類,界面活性剤と無機種の比,反応温度・反応時間・出発混合物のpHといった様々な合成条件などにより調節可能であることから,そのレプリカであるメソポーラス物質の細孔の形状・サイズ・配列も調節可能である。ここでは,一般的なメソポーラス物質の解説は省くが,詳細に関しては最近のレビューを参考にして頂きたい1–4)

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図1 有機鋳型を用いたメソポーラス物質の合成方法(ソフトテンプレート法)

1990年代初頭にメソポーラス物質の合成が報告されて以来,シリカ組成を中心に研究され,形態(粉末・薄膜・繊維状など),メソ構造・細孔サイズ制御などの研究が進展してきた5,6)。メソポーラス薄膜は,無数にある細孔空間を生かした低誘電率膜や低屈折率膜としての応用が検討されている。しかしながら,シリカ骨格は機械的・熱的に安定であるものの,絶縁体かつ化学的に不活性であるため,メソポーラスシリカ薄膜の応用は一部の分野に限られてしまう。したがって,メソポーラス薄膜のさらなる応用展開のためには,非シリカ系物質を細孔骨格に持つメソポーラス薄膜の作製が必要不可欠である。本解説では非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜に関する研究をハイライトするとともに,我々が最近着手しているメソポーラス誘電体薄膜に関する研究にも触れる。

2. 垂直配向した一次元メソ空間をもつ金属酸化物薄膜

非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜は,触媒担体や吸着剤としての応用以外に,光触媒,燃料電池・色素増感太陽電池などの電極材料,および分子センサーなどへの応用も検討されている。それらの応用の中で,メソポーラス薄膜の機能性を十分に発揮するためには,ゲスト種の薄膜中へのアクセシビリティ,また薄膜中での拡散性の向上が極めて重要になってくる。2000年代初頭に,結晶化した細孔骨格と規則的なメソ細孔構造を持つチタニア薄膜がいくつかのグループにより合成されているが,基板に対して水平にメソ細孔が配向したり7),3次元のケージ状細孔構造であったりするため8,9),上記の課題を実現させるためには好ましい構造ではない。

最近になって,非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜中で1次元メソ細孔を基板に対して垂直に配向させる試みが活発に行われ始めている。Shanらのグループは,基板上に前駆溶液を滴下し,基板に対して特定の角度から温風を加えることで,垂直配向性メソポーラスチタニア薄膜の合成に成功している10)。また,呉らは代表的なプルロニック系界面活性剤(ポリエチレンオキシド-b-ポリプロピレンオキシド-b-ポリエチレンオキシドからなるトリブロックコポリマー)であるP123 を用いて,メソポーラスチタニア薄膜を作製し,焼成を行うことにより,基板面直方向にアナターゼ型に結晶化したナノピラーを形成させた。それらのピラー間には,一次元メソ空間が規則的に配列している11,12)。本手法は,焼成過程における構造転移を利用している。焼成前の薄膜では,球状ミセルがABABABと最密充填しているP63/mmc構造をとっているが,焼成過程中メソ細孔骨格の結晶化とともに面直方向での異方的な収縮が起こる。その結果,メソ細孔同士が結合しあい,基板面直方向にアナターゼ型に結晶化したチタニアナノピラーが形成される(図2(a))。しかしながら,結晶化前(構造転移前)の薄膜中には,P63/mmc構造のみならず,もう一つの最密充填構造であるFm3m構造(球状ミセルがABCABCとスタッキングしている。)が部分的に混在している。P63/mmc構造とは異なり,Fm3m構造では貫通する一次元ピラー構造の形成は難しい。

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図2 (a)焼成過程における構造転移を利用した1次元メソ空間を有する薄膜の作製スキーム。(b, c)F127を用いて作製した垂直配向した1次元メソ空間を有するアルミナ薄膜の断面図。(b)は走査電子顕微鏡像,(c)は透過電子顕微鏡像であり,(c)の挿入図は電子回折パターンである。

我々も,同様の界面活性剤を用いて,アルミニウムトリ-n-ブトキシドをアルミニウム源に用いたメソポーラスアルミナ薄膜の作製も行っている。チタニアの場合と同様に,結晶化前(構造転移前)の薄膜において,球状の細孔が異なる2つの最密充填構造(P63/mmc構造とFm3m構造)を形成し,基板に対しそれぞれ〈001〉と〈111〉の方向に配向していた。1000°Cで焼成することでγ相に結晶化したアルミナナノピラーが得られるが,このような構造変化はP63/mmc構造をとっていた薄膜表面層のみに限られ,完全垂直配向には至っていない13)

このような背景の中,我々はもう1つの代表的なプルロニック系界面活性剤であるF127を用いてチタニア薄膜の作製を行い,電子顕微鏡像および斜入射X線小角散乱測定から,成膜条件を最適化することでIm3m構造のみが一様に広がっている薄膜が合成できることを見出した14)。このような条件下で,F127を界面活性剤に用いてメソポーラスアルミナ薄膜を合成した場合,結晶化前の段階で球状のメソ細孔が体心立方構造(Im3m)に配列していた。広範囲にわたり〈001〉が基板垂直に配向していた。焼成により膜厚が基板面直方向に80%以上収縮するとともに,細孔壁がγ相に結晶化することで,メソ細孔同士が結合し合い基板から薄膜表面まで貫通している一次元のメソ細孔空間が形成できた(図2(b), (c)15)。メソポーラスアルミナ薄膜において,メソ空間を垂直配向させた例は今までなく,Im3m構造からの構造転移はより垂直配向性の高い薄膜を合成する上でも,今後重要になってくると思われる。

このような垂直配向した1次元メソ空間を有する薄膜のメリットをいかし,我々は様々な応用例を示してきた。まず,電子ペーパーの電極としてメソポーラス薄膜を用いることを提案した。溶液中に溶存するロイコ分子を電極基板上で,電気化学的に酸化還元を繰り返すことで色を変化させ,様々な絵や文字を表示させる。垂直配向したナノ空間は,ロイコ分子を溶液中から取り込みやすい構造になっており,また一旦,細孔中に導入されたロイコ分子は細孔中に安定化し,基板面内方面へのドリフトを防ぐことが可能となる。そのため,高速で書き込みを行っても,鮮明な像が得られ,高解像な表示を実現することができた16)。また,垂直ナノ空間を利用した共役高分子を用いたフォトルミネッセンスデバイスへの展開も行ってきた。青色発光ポリマーであるポリ(9,9-ジ-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)は垂直ナノ空間内へ毛細管現象により簡単に導入でき,それらは細孔に沿うように,基板に対して垂直に配列した。偏光板を用いてレーザー光を照射した際,基板垂直方向に偏向子を設定させたときに,最も強い発光強度が得られた。このように配向性メソポーラス薄膜を基板として用いることで,高分子鎖を基板全面で異方的に配向させることが可能となった17)

3. 大口径メソポーラス金属酸化物薄膜

前述したメソ細孔の配向制御の他に,メソ細孔のサイズを大きくすることもメソポーラス薄膜合成において重要な課題である。バイオセンサーやドラッグ貯蔵などの生物医学的用途に非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜を利用するためには,比較的サイズの大きな分子(たんぱく質や抗体など)を取り込む必要がある。プルロニック系界面活性剤を用いた場合,得られる細孔径は高々15 nm程度であり,それ以上細孔を大きくすると細孔の配列に乱れが生じてしまう。

そこで近年,プルロニック系界面活性剤の代わりにポリスチレン系の疎水部を有するブロックコポリマー(例えば,ポリスチレン-b-ポリエチレンオキシド(PS-b-PEO)など)を用い,よりサイズの大きなミセルを有機鋳型に用いることで,細孔径の大きなメソポーラス金属酸化物薄膜が合成されている。木村らのグループは,分子量の大きいPS-b-PEOを用いることで,メソ(マクロ)ポーラスチタニア薄膜を合成し,細孔径のサイズも40 nmから100 nmにわたる広範囲で制御可能としている18)。これらの薄膜に,ウマ心臓由来シトクロムcを取り込むことにも成功している。また,同様の手法でメソ(マクロ)ポーラス無機酸化物半導体(酸化チタン,酸化亜鉛および酸化スズ)薄膜の合成も行っており,色素でラベルされたDNA・抗体・抗原-抗体複合体の取り込み,および色素由来の蛍光・光電流を用いたセンシングにも成功している19)。これらの薄膜は結晶化した細孔骨格を有するものの,メソ孔(マクロ孔)の配列の規則性は低く,大きな細孔を規則的に配列させるには,合成手法のより高度な最適化が必要であると考えられる。

我々は,塩化チタンとPS-b-PEO(それぞれのブロックの分子量は,それぞれ18000と7500である。)からなる前駆溶液の調製方法の最適化を行うことで,直径約30 nmのメソ孔が規則的に配列したチタニア薄膜の合成に成功した(図3(a))。薄膜中の細孔配列の規則性は,前駆溶液中の溶媒,および酸化チタンの加水分解速度に強く依存する。用いる溶媒としては,PS-b-PEOを溶解させるためのテトラヒドロフランの他に,エタノールを加えた混合溶媒を用いることで,水溶性のチタン溶液と混合した際にPS-b-PEOが激しく凝集することを防ぐことができる。また,塩酸を用いてpHを調整することで,塩化チタンの加水分解・重縮合速度を制御させることができる。このような最適な前駆溶液から作製した結晶化前の薄膜では,一様なサイズの球状ミセルが広い範囲にわたって密に充填されており,薄膜表面ではハニカム状に配列した球状ミセルが確認できた。350°Cでの焼成でミセルは完全に取り除くことができ,骨格はアナターゼ型へ結晶化した(一般的に,アナターゼ型への結晶化温度は,300°Cから400°Cである。)(図3(b))。結晶化後も,メソ構造の規則性が保持されていることを電子顕微鏡像および斜入射X線小角散乱測定から確認している20)

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図3 PS-b-PEOブロックコポリマーを用いて作製した(a, b)メソポーラスチタニア薄膜および(c, d)メソポーラスアルミナ薄膜の電子顕微鏡像。(a, c)は走査電子顕微鏡像,(b, d)は透過電子顕微鏡像であり,(b, d)の挿入図は電子回折パターンである。

我々は,同様のPS-b-PEOブロックコポリマーを用いて,メソポーラスアルミナ薄膜の合成へ展開している(図3(c), (d))。この場合,アルミニウム源として塩化アルミニウムを用いた。チタニアの場合同様,共溶媒として用いるエタノールの存在が極めて重要な役割を果たすことが分かった。エタノールの量を最適にした場合,PS-b-PEOと塩化アルミニウムの比を変化させても,ミセルの形状に顕著な変化は起こらず,得られる薄膜のメソ細孔構造も類似したものであった。一方,塩化アルミニウムの量を減らすと,メソ細孔の骨格壁は薄くなるため,細孔間に小さなウインドウが形成され,細孔間同士の結合性が向上した。チタニアとは異なり,アルミナは高い熱的安定性のあるセラミックであり,本メソポーラスアルミナ薄膜も1000°C以上の安定性を確認しており,触媒担体などへの応用も期待できる21)

4. 骨格の結晶化向上への取り組み

非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜の性能を十分に発揮するためには,メソ細孔の配向やサイズを制御し,ゲスト種のアクセシビリティを向上するほかに,細孔骨格組成由来の物性を最大限利用する必要がある。そのためには,細孔骨格の結晶化向上は不可欠である。ほとんどの金属酸化物は熱処理により容易に結晶化するため,焼成過程を利用して有機鋳型の除去と同時に骨格の結晶化が行われている。しかしながら,有機鋳型に用いられる一般的な界面活性剤は比較的低温で燃え尽きてしまうため,骨格内の結晶粒子が比較的小さい(壁厚を超えない)場合にはメソ細孔構造はある程度保持されるものの,結晶成長が進み結晶子サイズが大きくなる(壁厚を超える)とメソ細孔構造は崩壊してしまう傾向にある22,23)

メソ細孔構造を保持しつつ細孔骨格の結晶化を向上させるための手法は,これまでにもいくつか提案されてきた。例えば,まずCVD法を用いて酸化物骨格表面をシリカ層でコーティングした後,焼成により骨格の結晶化を行い,最後にシリカ層を溶解除去する方法があげられる24)。ただし,この手法ではシリカ層を溶解除去する際に金属酸化物骨格にダメージを与えないよう十分配慮する必要がある。また,炭素コアを利用する合成も行われている。はじめに不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことで有機鋳型を炭化させ,メソ孔を炭素で充填させた後,高温焼成により骨格を結晶化させる。最後に酸素雰囲気下で焼成することで炭素コアを取り除く。この手法では焼成過程を2度行う必要があるため,より簡便な方法が求められる25)

最近,我々はポリメチルスチレンとポリエチレン/ポリブタジエンからなるブロックコポリマーを水素化・スルホン化した熱耐性ブロックコポリマー(以下,Sulfonated HmSEBmSと省略する。)を新たに合成し,これを有機鋳型として用いることで,結晶性の高いメソポーラス酸化スズ薄膜を大気中での焼成で得ることに成功した。熱重量測定からSulfonated HmSEBmSは400°Cに達した時点でも,約65 wt%残っていることを確認しており,この温度は酸化スズの結晶化温度よりも高い。実際,焼成温度が400°Cに達した時点で取り出した試料は,コポリマー由来の炭素が存在しているため黒い。この時,広角X線回折の結果からは,骨格結晶化がすでに始まっていることが確認できた。コポリマー由来の炭素コアは細孔骨格の結晶化の際,メソ細孔構造を保持する支持体として働くが,焼成過程が進むにつれ徐々に取り除かれる。その結果,メソ細孔構造の規則性は保持しつつ,細孔骨格の結晶化度を上げたメソポーラス酸化スズ薄膜を得ることができる(図426)

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図4 熱耐性ブロックコポリマー(Sulfonated HmSEBmS)を用いた際のメソポーラス酸化スズの作製スキーム

さらに,Sulfonated HmSEBmSを用いて,メソポーラスチタニア薄膜の合成も行った。電子顕微鏡像によりメソ細孔構造を確認したところ,700°Cで焼成した薄膜においてもメソ細孔骨格の膨張は生じておらず400°Cで焼成した薄膜と同様のメソ細孔構造が見られた。焼成温度が上昇するにつれ広角X線回折のピーク幅が狭くなることから,メソ細孔骨格内での結晶成長が確認できた。比較としてP123を用いた薄膜も合成したが,400°Cでの焼成後の段階では良好なメソ細孔構造が見られたものの,それ以上の高温で焼成するとメソ細孔骨格の完全結晶化に伴いメソ細孔構造は完全に崩壊した27)。これは,P123は低温(約250°C)ですべて燃え尽きてしまうため,骨格が結晶化する温度では細孔構造を保持する支持体はすべてなくなっているためである。同様の比較実験は,KLEと呼ばれる他のブロックコポリマーを用いた報告でも確認されている28)

5. 異種原子ドーピング

これまで,単一成分を骨格に有する非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜に関して述べてきたが,異種原子を細孔骨格にドーピングした薄膜についても簡単に触れる。異種原子ドーピングの効果の1つにメソ細孔骨格を熱的に安定化させる効果がある。上記で用いた熱耐性ブロックコポリマー(Sulfonated HmSEBmS)を用いて,メソポーラス酸化スズ薄膜を作製したところ,400°C焼成後においては規則性の高いメソ細孔構造を有する薄膜が得られたものの,高温焼成時においてはメソ細孔構造の規則性は低下してしまった(図5(a), (b))。一方,亜鉛ドーピングを行った薄膜では,600°C焼成後においてもメソ細孔構造がはっきりと確認できた(図5(c))。また,斜入射X線小角散乱測定ではメソ細孔の規則性に由来するピークが顕著に表れた(図5(d))。広角X線回折測定の結果,酸化スズ由来の回折ピークのみ観測され,酸化亜鉛由来の回折ピークは観測されなかったことから,骨格内で相分離は起こしておらず,亜鉛はよく分散していると考えられる。シェラー式で結晶子サイズを見積もったところ,亜鉛をドープした薄膜中では,ドープ無しの薄膜中に比べて結晶子サイズが小さかったことから,ドープされた亜鉛は酸化スズの結晶成長を抑制する効果があることが分かった。このように,亜鉛をドープすることにより,高温においてもメソ細孔構造の崩壊は起こらず,もともとのメソ細孔構造を保持することができる26)

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図5 Sulfonated HmSEBmSを用いて作製した(a)400°Cおよび(b)600°C焼成後のメソポーラス酸化スズ薄膜の走査電子顕微鏡像および(c)600°C焼成後の亜鉛ドープメソポーラス酸化スズ薄膜の走査電子顕微鏡像。(d)各薄膜における斜入射X線小角散乱測定によるin-plane方向のプロファイル。

また,異種原子ドーピングによりメソ細孔骨格の機能性を強化することも可能である。例えば,メソポーラス酸化スズ薄膜の骨格にアンチモンドーピングを行うことで,伝導電子を注入し,導電性を上げることができる。我々は,メソポーラスアンチモンドープ酸化スズ(ATO)薄膜を作製し,メソ構造と導電性の関係性について系統的に調べた。コポリマー量が相対的に少ない場合,結晶化前の薄膜では規則構造が見られるが,細孔壁の結晶化に伴いメソ細孔の規則性が失われる(図6(a))。このような薄膜では,多くの箇所で細孔骨格が断絶しているため,電子が流れにくく抵抗率も高い(図6(c)のコポリマー量20 mg~40 mgの領域)。一方,コポリマーと無機種の比が最適な場合,結晶壁が結晶化してもメソ細孔の規則性を保持することが可能となり,細孔骨格の断絶を食い止めることができる(図6(b))。その結果,抵抗率を~1×10−1 Ω·cmにまで下げることに成功した(図6(c)のコポリマー量50 mg~70 mgの領域)29)。この値は,KLEを用いた他のグループの結果と同程度であるが30),市販されている(無孔性)透明電極の抵抗率の域には残念ながら達していない。しかしながら,無数に存在するメソ細孔空間の特長を生かすことができれば,新たな透明電極材料として利用できる可能性がある。

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図6 (a)Sulfonated HmSEBmSの量が少ない時および(b)最適時におけるアンチモンドープメソポーラス酸化スズ薄膜の走査電子顕微鏡像。(c)作製した薄膜における抵抗率のコポリマー量依存性。

6. 最近の展開:メソポーラス誘電体

最後に,我々が取り組みはじめたメソポーラス誘電体薄膜の研究を紹介する。今日の情報化社会の進展はめざましいものがあり,それに伴いデジタル電子機器が取り扱うべき情報量は増加の一途をたどっている。そのため,現在ではより高性能なメモリが求められている。強誘電体メモリ(Ferroelectric Random Access Memory; FeRAM)は高速に何回でも書換え可能な不揮発性メモリ(電源を供給しなくても記憶を保持するメモリ)であることから新型メモリとして注目されている。これまでチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を強誘電体物質に用いたFeRAM研究が活発に行われているが,有害な鉛を使用しているため環境規制に対応するのは難しい。そのため,より環境負荷の少ない強誘電体であるチタン酸バリウム(BT)がその代替物質として注目されている。しかしながら,BTのキュリー温度(強誘電性を発現できる限界温度:Tc)は約130°Cと低く,FeRAMに応用するためにはそのキュリー温度の上昇が必要不可欠である。先行研究から基板との界面歪みによりBT薄膜のキュリー温度・誘電性が上昇することが報告されている31)。我々は,メソポーラス構造を用いれば,細孔壁の結晶に歪みを効果的に加えることができ,BT薄膜のキュリー温度・誘電性向上が起こるのではないかと考えた。

まず,BTの基板材料として一般的なチタン酸ストロンチウム(ST)のメソポーラス薄膜を,界面活性剤にP123を用いたソフトテンプレート法により合成する。その後,600°C以上の焼成温度で細孔壁の結晶化を行う。STの場合,結晶成長が穏やかであるため,1000°Cで焼成した薄膜においてもメソ細孔構造が保持される。合成したST薄膜のメソ細孔空間内にBTの前駆溶液を導入した後,加熱処理を施すことでBTを結晶化させ,メソポーラスST/BT複合体を作製した(図7(a))。一般的にST/BTヘテロ界面では結晶格子の不整合に起因する圧縮歪みが生じBTのキュリー温度・誘電性向上をもたらすことが知られている。本複合体の場合には,無数のST/BTヘテロ界面が存在するため,歪みの効果が著しく発揮される。その結果,キュリー温度・誘電性の上昇が顕著に起こり(図7(b)),ST/BT系において世界最高値のキュリー温度・比誘電率を達成している。また,圧電応答顕微鏡を用いた圧電ヒステリシス測定では,ST/BTヘテロ界面においてST単体・BT単体領域に比べ強いヒステリシス曲線が得られており(図7(c)),ST/BTヘテロ界面における歪みカップリングがBTの表面再構成を防ぎ,安定な強誘電性を発現することが明らかとなった32)。これまでメソ細孔構造を利用した(光触媒などの)応用研究は数多くなされているが,強誘電体においては本研究が最初である。現在,強誘電性のさらなる向上を目指した研究を進めている。

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図7 (a)メソポーラス構造を利用したST/BT複合体の作製スキーム。(b)ST/BT複合体における比誘電率の温度依存性。(c)圧電応答顕微鏡を用いて測定した圧電ヒステリシス曲線。

7. おわりに

本報では,非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜に関するいくつかのトピックスを我々の研究成果を中心に紹介するとともに,メソポーラス薄膜の新たな応用利用の例としてメソポーラス誘電体薄膜についても触れた。合成・構造評価から始まった非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜の研究は,メソ細孔の配向・配列制御へと展開し,今日では細孔骨格組成由来の物性を生かした応用研究へと発展している。今後は,さらに非シリカ系金属酸化物としての機能性を最大限に発揮できるよう,本稿でも紹介したメソ細孔構造と骨格結晶化を同時に制御する精密設計が重要になってくると思われる。物性においては,既存材料を凌ぐような非シリカ系メソポーラス金属酸化物薄膜が実現することを期待したい。

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