日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 30(2): 52-60 (2013)
doi:10.20731/zeoraito.30.2.52

解説解説

種結晶添加による有機構造規定剤を用いないゼオライト合成Seed-assisted Synthesis of Zeolites without the Use of Organic Structure-Directing Agents

東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻Department of Chemical System Engineering, The University of Tokyo ◇ 〒808-0135 文京区本郷7-3-1

受理日:2013年4月5日Accepted: April 5, 2013
発行日:2013年6月7日Published: June 7, 2013
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ゼオライト合成時に利用される有機構造規定剤(OSDA)は様々な骨格構造の合成を可能としてきたが,コスト・環境負荷の面から考えると,その使用量は極力低減されることが望ましい。近年,種結晶添加法を用いたOSDAを利用しない合成が相次いで報告され注目を集めている。本解説では,種結晶添加法による最近のOSDAを用いない合成について概説したのち,筆者らが合成条件を設定するために提案した「Composite Building Unit(CBU)仮説」について解説する。CBU仮説は,種結晶ゼオライトと種結晶無添加反応ゲルから得られるゼオライトとの間に共通のCBUが存在する場合に合成が可能であるとした仮説である。CBU仮説提案の背景を解説すると共に,CBU仮説に基づくZSM-11, ZSM-12およびECR-18などの合成について紹介する。また,本合成法を適用する場合の必要条件と本合成法によって得られるゼオライトの特徴について述べる。

Organic structure-directing agents (OSDAs) have enabled us to synthesize zeolites with novel framework types; however, the use of OSDAs is undesirable from a practical view point because of the high environmental burdens as well as their high cost by the complex total process. Therefore, the synthesis of zeolites without the use of OSDAs has been one of the most important topics for the commercialization of zeolites. Recently, the OSDA-free syntheses of useful zeolites have been achieved by utilizing the zeolite seed crystals. In this review, the overview of recent advance in seed-assisted, OSDA-free synthesis of zeolites is shown, and a new working hypothesis named “Composite Building Unit (CBU) Hypothesis” proposed by us for broadening zeolite types by seed-assisted synthesis is explained. This hypothesis focuses on the structural relationship between seed (target) zeolite and the zeolite obtained from the reactant gel without seeds. The background of the proposal of this hypothesis is explained, and the validity of the hypothesis is introduced. It is confirmed that several zeolites such as ZSM-11, ZSM-12 and ECR-18 can be synthesized by applying this hypothesis. In addition, some requirements for the successful synthesis of zeolites by this method and the unique features of zeolites obtained are explained.

キーワード:ゼオライト;合成;種結晶;有機構造規定剤;コンポジットビルディングユニット

Key words: Zeolites; Synthesis; Seed; Organic Structure-Directing Agent; Composite Building Unit

1. はじめに

ゼオライトの骨格構造は現在206種類1)を数え,年を追うごとに増え続けている。これほど多様な骨格構造が合成可能であるのは,フッ素イオンやヘテロ金属種の導入などによるものであるが,とりわけ寄与が大きいと考えられるのは様々な有機構造規定剤(organic structure-directing agent; OSDA)の活用である。ゼオライト合成の歴史を見ると,A型(LTA)やX, Y型(FAU),mordenite(MOR)など初期の合成ゼオライトはOSDAを用いずに合成されており,これらのゼオライトは工業的に重要な役割を担ってきた。一方,近年合成された新規構造を有するゼオライトは嵩高いOSDAの使用が必須であるものがほとんどである。これらは特に大細孔,ハイシリカ組成などの特徴を持つものが多く,新たな応用が期待されている。しかしながら複雑化したOSDAは高価であるばかりでなく,合成プロセスにおいて生じる有機物含有廃液や,合成後のOSDA除去のための焼成時の排ガスの処理などが必要となる。そのため,OSDAの利用に伴う生産コストの増大,プロセスの煩雑化,高環境負荷などは不可避である。また,フッ素イオンやAl以外のヘテロ金属の利用も,実用化には大きなハードルとなっている。工業的な観点からはOSDAやフッ素イオンを用いないアルミノシリケートゼオライトの合成法の開発が望まれている2)

2. 近年における種結晶添加合成法の進展

最近OSDAの使用が必須とされていたゼオライトを,目的とするゼオライトと同じ構造を有するゼオライトを種結晶として添加することにより,OSDAを使用することなく合成する試みが報告されている。この方法は高価なOSDAを使用せず,有機物含有廃液の処理や焼成処理などが不要であることから,工業的に価値のあるゼオライトの安価かつ低環境負荷な合成方法として期待されている。種結晶は,結晶化速度の増大,生成物の特性の制御などを目的にこれまでも利用されてきたが,特定のゼオライトを生成する系に同じゼオライトの種を添加する系が専ら用いられてきた3)。最近の種結晶添加合成法の嚆矢となったのは2008年にXieらにより報告されたゼオライトbeta(*BEA)の例である4)。betaは石油化学分野の触媒や自動車排ガス処理用吸着剤として現在最も工業的価値の高いゼオライトのひとつであり,テトラエチルアンモニウムなどのOSDAが必須でありながら,実用化されている数少ないゼオライトである。Xieらの論文において,限定されていた反応ゲルの組成範囲(SiO2/Al2O3比,Na2O/SiO2比など)はその後のMajanoら5)や我々6)の報告など7,8)により拡張され,不明瞭であった合成条件や種結晶の要件,生成物の詳細などが明らかになった。現在では再現性よく高収率でbetaを得ることができており,本方法により得られたbetaは低SiO2/Al2O3比であること,種結晶と比較して細孔特性が良好であることが特徴として挙げられる。また,我々はOSDA-free条件で合成したbetaをさらに種結晶として利用可能であることを示し,この方法により合成されたbetaをGreen ChemistryにならってGreen Betaと命名した6)。これにより,OSDAが必要であるのは最初の種結晶合成時のみであり,以降は一切OSDAを必要としないプロセス構築の可能性が示された。

その後,それまでOSDAが必須であった種々のゼオライトのOSDA-free合成が同様に可能であることが報告されており,種結晶添加法はbetaに限らず適用可能であることが明らかになりつつある。Yokoi, YoshiokaらによるTTZ-1(RTH)9,10)の報告では,それまで合成が困難であるがゆえに詳細に検討されて来なかったRTH型ゼオライトが合成され,MTO反応においてプロペン選択性の高い触媒として有望であることを示した。さらに,詳しくは後述するが,低SiO2/Al2O3比の生成物が得られやすいOSDA-free合成において,[Al]-TTZ-1はSiO2/Al2O3=82という,例外的に高いSiO2/Al2O3比を有している点においても興味深い。我々はZSM-12(MTW)11–13)の一連のOSDA-free合成について報告した。ZSM-12は12員環の1次元細孔を有すゼオライトであるが,それまではメチルトリエチルアンモニウムを始めとするOSDAが必須であった。その他,SUZ-4(SZR)14)や,Levyne(LEV)7,15,16)についても種結晶添加法による合成が報告されている。YashikiらによるLevyneの合成15)は,Y型ゼオライトを原料としたものであり,それぞれのゼオライトの水熱条件下での安定性の違いを利用している。すなわち,SiO2/Al2O3比等の違いにより,種結晶として働くLevyneは合成条件下で構造が壊れるY型よりも安定であると言える。一方,構造そのものはOSDAを用いずに合成可能であるが,ナノサイズZSM-5(MFI)17)やハイシリカferrierite(FER, SiO2/Al2O3=29)18)といった,OSDAを用いずには合成が難しい特性を持ったゼオライトも種結晶添加法を利用することにより合成可能であることが報告されている。

また,筆者らはbetaの合成系において,種結晶の添加有無によって結晶化直前の非晶質物質の構造は変化しないことをラマン分光法,固体NMR, および高エネルギーX線回折により確認している19)。これらを踏まえ,ゲルの溶解により液相経由で前駆体が種結晶表面に供給され,betaが結晶成長しているとの考察がなされている。種結晶が一部溶解していることも示唆され,betaは残存した種結晶表面から結晶成長していると考えられる。

しかしながら,この方法によるゼオライトの結晶成長の本質は明らかにされていない。筆者らはこれまでの一連の検討結果6, 11–19)を基に,種結晶の役割,種結晶とそれを添加するゲルから得られるゼオライトとの構造相関性,結晶成長機構等について考察し,種結晶添加・OSDA無添加法により多様なゼオライト種を合成可能にするための作業仮説を提案した20)。その後の継続的検討により,この仮説に基づいて合成可能なゼオライト種は一部のものに限定されず,応用範囲が広いことが明らかになりつつある。以下に我々が検討した合成法について解説する。

3. betaの合成と構造の異なる種結晶の添加効果

種結晶添加法によりbetaが合成可能である反応ゲルは,種結晶無添加時に長時間水熱処理を行うとmordeniteを与えることを明らかにした5,19)。なぜ,本来mordeniteのみが結晶化する組成の反応ゲルにbeta種結晶を添加すると,betaの結晶成長が起こるのであろうか? この疑問が明らかにならない限り,この合成法の更なる展開は困難であった。

この理由を明らかにするために,結晶構造の異なる種結晶の添加効果を検討した。本方法においてbetaが比較的短時間(48 h)で結晶化する0.3Na2O:0.01Al2O3:SiO2:20H2Oの組成のゲルに,種結晶としてmordenite(SiO2/Al2O3=18.0)またはferrierite(SiO2/Al2O3=32.0)を添加した。この反応ゲルは種結晶無添加時に140°Cで168 h加熱するとmordeniteが得られる(Fig. 1)。一方,mordeniteを種結晶とした場合は,140°Cで1 h加熱後には明らかなmordeniteの結晶成長が認められ,12 h後にXRDより求めた結晶化度が最大となった(Fig. 2)。また,ferrieriteを種結晶とした場合もferrieriteの結晶化は速く,150°Cで24 h加熱後にXRD結晶化度が最大となった(Fig. 3)。

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Fig. 1. Evolution of the XRD patterns of the product from the seed-free gel with hydrothermal treatment at 140°C.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

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Fig. 2. Evolution of the XRD patterns of the products from the gel with mordenite seeds with hydrothermal treatment at 140°C.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

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Fig. 3. Evolution of the XRD patterns of the products from the gel with ferrierite seeds with hydrothermal treatment at 150°C.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

添加した種結晶はいずれも新たなゼオライト結晶成長のための核として有効に作用していることがわかる。また,液相に存在するアルミノシリケートまたはシリケート種のうちのあるものは上記3種のゼオライトの結晶成長に共通して有効に作用していると考えられる。すなわち,3種のゼオライトには構造的共通性があると推定した。

3種のゼオライトの共通構造を知るために骨格内リング分布と構造単位(Composite Building Unit; CBU)について検討した。共通するリング構造は5員環(5R)と12員環(12R)のみであり,それらの割合についても共通する特徴を見出すことはできなかった(Fig. 4)。それに対して,Structure Commission of the International Zeolite Association1)のデータベースに記載されている47種のCBUの中で3種のゼオライトに含まれるCBUは,Table 1に示すものであった。mordeniteはmorユニットのみを有し,betaは3種のユニットのうちのひとつがmorである。また,betaの骨格構造を観察すると,それはmorユニットと4員環のみから構築可能であり,残りの2つのユニット(bea, mtw)は,morユニットと4員環が組み上がった結果として構造中に見出されるということが分かった。一方,ferrieriteはferユニットのみを含むが,ferユニットはmorユニットに5員環(5R)が結合した構造である(Fig. 5)。これらの結果から,mordenite, beta, ferrieriteの3種のゼオライトには共通のCBUとしてmorが存在することになる(Table 1)。

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Fig. 4. Ring distributions in MOR, *BEA, and FER.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

Table 1. Effect of different seeds and CBU in products.
SeedProduct (FTC)CBU
mordenite (MOR)mor
betabeta (*BEA)mor, bea, mtw
mordenitemordenite (MOR)mor
ferrieriteferrierite (FER)fer=mor+5R
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Fig. 5. Structural correlation of the composite building units between fer and mor.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

4. CBU仮説とその妥当性

上記の検討結果から,以下の作業仮説を提案した20)。「種結晶添加・OSDA無添加法ゼオライト合成において,種結晶無添加の反応ゲルを水熱処理することにより生成するゼオライトと目的ゼオライトが少なくともひとつのCBUを共有するという関係にあるとき,目的ゼオライトの種結晶をその反応ゲルに添加すれば,目的ゼオライトが結晶化する」。

この仮説は,ゼオライト合成用反応ゲル中に,共通CBUと同一構造を有するシリケート分子,アルミノシリケート分子,イオンの存在を主張するものではなく,あくまでも種結晶添加法における合成条件検討の指針として提案したものである。

MordeniteとZSM-5および ZSM-11(MEL)はFig. 6に示すCBUの相関性を有することから,上記の仮説に基づけばbetaを合成した前記のゲルにそれぞれの種結晶を添加すれば合成できるはずである20)。仮説の妥当性を確認するため,ZSM-5種結晶(SiO2/Al2O3=23.8)およびZSM-11種結晶(SiO2/Al2O3=66.0)を添加して合成した結果,それぞれ140°C×20 hおよび140°C×15 hでXRD結晶化度が最大となった(Fig. 7, Fig. 8)。これらの結果より,CBU仮説はbetaおよびferrierite以外の系にも適用可能であることが分かる。ここで得られたZSM-5とZSM-11のSiO2/Al2O3比はそれぞれ18.6と17.6である。ZSM-5のその値は,これまでのOSDA-free合成により得られている結晶の下限値よりも小さい値である。また,ZSM-11のOSDA-free合成は初めての例である。

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Fig. 6. Correlation of common composite building unit between MOR, MFI and MEL.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

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Fig. 7. Evolution of the XRD patterns of the products with hydro-thermal treatment at 160°C.

Filled symbols indicate the mordenite impurity. Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

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Fig. 8. Evolution of the XRD patterns of the products from the gel with ZSM-11 seeds with hydrothermal treatment at 140°C.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

その後,種結晶を添加するゲル組成の最適化により,betaとZSM-11のSiO2/Al2O3比はそれぞれ9.2および15.4まで低い結晶が合成できるようになった。これらの低SiO2/Al2O3比結晶では,これまでとは異なる興味深い特性が見出されており(未発表),新たな応用が期待される。

5. 種結晶添加合成における必要条件

この仮説に基づいて目的とするゼオライトを結晶化させるためには,CBUの共通性に加え,少なくとも以下に示す4つの条件を満たすことが必要であると考えられる。

第1に,種結晶は合成条件下で一部溶解するため,結晶成長が起こる前に種結晶が完全に溶解してはならない。これは反応ゲル中のアルカリ濃度や種結晶のSiO2/Al2O3比などを調整する必要があることを示している。また,未焼成で細孔内にOSDAを含んでいる種結晶は焼成によりOSDAを除去した種結晶よりも安定で溶解しにくいと考えられる5)。実際に,Majanoら5)のbetaの合成において,SiO2/Al2O3比が高い種を焼成して用いるとbetaが得られないことが分かっており,種結晶が完全に溶解してしまったと考えられる。一方,反応条件下で適度な溶解度を持つ種結晶を用いた場合,中空構造を有するゼオライトを合成することも可能である21)

第2の条件は,目的ゼオライトの結晶化が完了する前に,種結晶無添加時に反応ゲルから得られるゼオライトの自発核生成が起こらないことである。種結晶添加時においても,長時間水熱処理を行なうと種結晶無添加時に反応ゲルから得られるゼオライトが生成してくることが分かっている。これらのゼオライトは,その反応条件下において目的ゼオライトよりも熱力学的に安定である。つまり,種結晶添加法による目的ゼオライトの結晶化は反応速度の面で有利なだけであると言える。そのため,できるだけ他のゼオライトの核生成が遅い反応条件を選択すること,および種結晶ゼオライトを速やかに結晶成長させることが求められる。これには反応温度を始め,反応ゲル組成や撹拌の有無などが影響してくると考えられる。自発核生成を避け,速やかに結晶成長を完了させる方法のひとつとして,種結晶無添加の反応ゲルを予備加熱した後に種結晶を添加する,いわゆる途中添加法が有効である19)

第3に,種結晶の表面が非晶質シリカなどで覆われずに液相へ露出しており,結晶成長のための前駆体が結晶表面に直接接触可能である必要がある19)。これは非晶質物質の溶解度を上げるために高温で反応させる,混合物のアルカリ濃度を上げる等の他,上記のように種結晶を加熱途中に添加することによっても改善可能である。

最後の条件は,反応ゲルおよび種結晶の組成の最適化である。CBU仮説を適用するためには,目的ゼオライトと共通のCBUを有するゼオライトのOSDA無添加合成における反応ゲル組成を正確に把握することが前提となる。その上で,種結晶と反応ゲル組成との組合せ,結晶化条件設定の検討が必要となる。したがって,CBU仮説は反応ゲル組成,結晶化条件の設定に指針を与えるものではあるが,容易に満足できる結果が得られることを必ずしも保証するものではない。

6. 仮説の応用による他種ゼオライトの合成

CBU仮説がさらにその他のゼオライト合成にも適用可能であることを示すため,種結晶と反応ゲルについていくつかの組み合わせを検討した。ZSM-12が有しているCBUはbik, cas, jbw, mtwの4種あり,mordeniteとは共通のCBUが存在しない。そのため,CBU仮説に照らし合わせると,前述のmordeniteが得られる反応ゲルは多くのゼオライトを結晶化させるが,ZSM-12の種結晶を添加した場合にはZSM-12の結晶成長は起こらないことになる。一方,ZSM-5とZSM-12ではcasが共通CBUである(Fig. 9a)。そのため,CBU仮説に則れば,OSDAを用いないZSM-5合成用ゲルにZSM-12種結晶を添加すればZSM-12が得られるはずである。OSDAを用いないZSM-5とmordeniteの合成条件は隣接していることが知られているが,反応ゲル中のNa2O/Si比とSiO2/Al2O3比をコントロールすることにより作り分け可能である。具体的にはZSM-5を与える反応ゲルは,mordeniteのものよりもSiO2/Al2O3比が高くNa2O/Si比が低い組成である。実験の結果はこの仮説を支持しており,広いゲル組成範囲でZSM-12の結晶化が確認された12)

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Fig. 9. Correlation of common composite building units between (a) MFI and MTW, and (b) MFI, *BEA and MTW.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

また,betaのpolymorph Bの直線状12員環に対して垂直な面とMTWのac面はトポロジカルに同一構造を有すること22),条件が揃えばbetaからZSM-12への再結晶化が起こること23),またFig. 9bに示したCBUの共通性があることから,ZSM-5が結晶化するゲルにbeta種結晶を添加すればZSM-12を結晶化させることが可能との推論が成り立つ20)。実験の結果,MTW種結晶を添加した場合とほぼ同じゲル組成範囲で,ZSM-12の結晶化が確認できた19)

ここまで検討を行ってきたゼオライトは5員環を多く含む,ペンタシル型のゼオライトである。CBU仮説の汎用性を示すため,偶数員環のみからなり,ケージ構造を有するゼオライトも対象として検討を行なっている。ECR-18はPAU型のゼオライトであり,CBUとしてd8r, pau, lta, gisを有している。同一構造を有する天然ゼオライトはPaulingiteである。ECR-18は広く工業的に用いられているゼオライトではないが,多くのケージを含むため理論空隙率が非常に高く,Krivovichevによる報告では全ゼオライトの中で2番目に複雑な構造を有しているとされている24)。このような構造がOSDA無添加で合成可能であるかは興味深い。OSDAを用いたECR-18の合成は3種のカチオン(TEA+, Na+, K+)を必要とし,合成時間も長く,反応ゲルの僅かな組成の違いによっても容易に副生成物が混入する。CBU仮説に基づくECR-18合成の反応ゲルとして,種結晶無添加時にLinde W(MER)が得られる反応ゲルを選択した。Linde Wが有するCBUはd8rおよびpauであり,いずれもECR-18と共通である(Fig. 10)。実験の結果は仮説のとおりであり,これまでOSDAを用いた上で2週間以上を要していたECR-18の合成がOSDAなしに3日で可能であることを明らかにした20)

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Fig. 10. Correlation of common composite building units between MER and PAU.

Reprinted with permission from reference 20). Copyright (2012) American Chemical Society.

Table 2に,CBU仮説に基づいて合成されたゼオライトとその際に用いた反応ゲル,および共通のCBUをまとめて示す。

Table 2. Synthesized zeolites according to CBU hypothesis and common CBU.
Seed (FTC)Reactant gel (FTC)Product (FTC)Common CBUReference
Beta (*BEA)Na-mordenite (MOR)Beta (*BEA)mor6) 19) 20)
CIT-6 (*BEA)Na-mordenite (MOR)Hollow beta (*BEA)mor21)
ZSM-11 (MEL)Na-mordenite (MOR)ZSM-11 (MEL)mor20)
ZSM-12 (MTW)Na-ZSM-5 (MFI)ZSM-12 (MTW)cas12)
Beta (*BEA)Na-ZSM-5 (MFI)ZSM-12 (MTW)mtw, cas13)
MCM-68 (MSE)(Na, K)-mordenite (MOR)MCM-68 (MSE)mor25)
ECR-18 (PAU)K-Linde W (MER)ECR-18 (PAU)d8r, pau20)
Omega (MAZ)(Na, K)-T (OFF/ERI)Omega (MAZ)gme26)

7. 種結晶添加法によりOSDA-free合成されたゼオライトの特徴

これまでOSDAが必須であった種々のゼオライトが,CBU仮説に基づく方法によりOSDAを用いずに合成が可能であることを示してきた。しかしながら,これにより得られたゼオライトはOSDAを用いて合成された種結晶ゼオライトと同一のものであるのだろうか。いうまでもなく,XRDから分かる結晶構造が同じであっても,ゼオライトの性質は組成や粒子径,構造欠陥の有無などで大きく変化する。本方法により合成されたゼオライトには以下のいくつかの特徴がある。

第1に,生成物のSiO2/Al2O3比はOSDAを用いたものに比べ低くなる傾向にあり,得られるゼオライトのSiO2/Al2O3比は種結晶無添加時に反応ゲルから得られるゼオライトのSiO2/Al2O3比とほぼ同じである。一般に,OSDAの電荷密度は低く,シリケート種と疎水的相互作用によって集合体を形作ると考えられているのに対して,Na+等のアルカリ金属カチオンは電荷密度が高く,ゼオライト合成条件下では主にアルミノシリケート種の負電荷との相互作用によって集合体を形成していると考えられる。そのため,アルカリ金属のみを用いた合成では骨格中にAlを多く含むゼオライトが得られることとなる。SiO2/Al2O3比の低いゼオライトはより親水性が高くなることが知られており,種結晶添加法により得られたゼオライトの水吸着測定結果は,これを支持している。ただし,必ず種結晶よりも生成物のSiO2/Al2O3比が低いわけではなく,SiO2/Al2O3比の低い種結晶を,それよりもSiO2/Al2O3比の高いゼオライトが得られる反応ゲルに添加した場合には,種結晶よりもハイシリカな生成物が得られると考えられる。OSDA無添加時の生成物のSiO2/Al2O3比の上限は一般に40程度であるが,唯一の例外は,Yokoiらにより報告されたTTZ-1(RTH)の場合(SiO2/Al2O3=82)である9)

第2の特徴として,生成結晶の粒子径は種結晶よりも大きくなり,OSDAを用いた場合と比較して晶癖がはっきりと見られる。種結晶よりも大きくなるのは,種結晶は一部反応中に一部溶解するものの残存し,種結晶表面から新たな結晶成長が起こっているためと考えられる。晶癖についてはbetaなどの例で顕著である。TEAOHなどを用いて合成したbetaは微結晶の凝集体として得られることが多く,不規則な形状をしているのに対して,OSDAを用いずに合成したbetaは同一構造を有する天然ゼオライトtschernichiteに類似した形状を有する27)。OSDAを用いた結晶化においては,核生成が最終的な構造を支配する傾向が強いが,本合成法においては結晶成長が支配的であると考えている。

第3の特徴として,細孔特性の違いが挙げられる。本方法によって合成されたゼオライトはOSDAを含まないため焼成が不要であり,焼成による脱アルミや骨格の崩壊などが起こらない。そのため,焼成済み種結晶と比較しても良好な細孔特性を示す場合が多い。特にbetaの場合は種結晶と比較して六配位Alがなく,原子欠損欠陥が少ないため,ミクロ孔比表面積,容積が種結晶よりも大きい6)。また,一次元細孔を有するZSM-12については特異的な現象が見られている。OSDAを用いずに合成したZSM-12の窒素吸着量は種結晶と比較して著しく低下することが分かっている。この原因の完全な解明はまだであるが,骨格外Al種や非晶質シリカなどが見られないこと,窒素分子よりも小さな水やアンモニアは吸着することから,結晶成長時の積層のずれにより有効細孔径が減少し,8員環細孔程度の孔径になっているのではないかと推定される12)。これも本合成法では結晶成長が支配的であるということの反映であると考えている。

8. おわりに

種結晶添加法によるゼオライト合成は古くから知られてきた手法でありながら,近年になってOSDAを用いない合成法として産学を問わず多くの注目を集めている。OSDA無添加合成が様々なゼオライト構造において可能であることが示されれば,これまで合成コストの高さが問題となっていたゼオライト種においても工業的応用の道が拓けるはずである。しかしながら,種結晶と反応ゲル,反応条件の組み合わせは膨大であり,試行錯誤的にならざるをえない。CBU仮説はその際の合成指針として有効であると考えられ,更なる発展が期待される。

引用文献References

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26) A. Ogawa, K. Iyoki, Y. Kamimura, K. Itabashi, and T. Okubo, ZMPC2012, RRR-30 (2012).

27) 上村佳大,棚橋紳也,板橋慶治,大久保達也,山縣繁樹,ゼオライト,28, (2011) 表紙裏写真.

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