ゼオライトとともに30年
東ソー株式会社 高機能材料事業部
© 2013 ゼオライト学会© 2013 Japan Association of Zeolite
ゼオライト学会30周年にあたり,編集委員会より寄稿を求められた。東ソーがゼオライト学会の前身であるゼオライト研究会の設立準備が始まった1983年から本会へ関与させていただいたことが所以であろう。設立の経緯などは本誌の10周年あるいは20周年特別寄稿で諸先輩方が記述されているので,ここでは私とゼオライト学会との関わりを振返るとともに,この10年間でゼオライト産業界に起こった大きな変化を概観してみたい。
初めてゼオライトを耳にしたのは大学研究室に配属された1980年である。私自身の卒論テーマはフィッシャートロピッシュ反応用高性能触媒開発,修論テーマは粘土層間化合物触媒によるメタノールからのオレフィン合成(MTO)反応であり,直接ゼオライトを扱ってはいなかったが,生成物の選択性制御の面でゼオライトには敵わなかった。この時は,粘土層間化合物の対照としてゼオライトに関する文献をよく読んだ(と記憶している)。
学生時代に縁があって東ソーを知り,1983年に入社した。入社以来23年間は研究所でゼオライトの研究開発に携わり,2006年以降は本社でゼオライトの事業企画および営業に携わっており,幸にも不幸にもゼオライトとの縁が続いている。私もゼオライトを直接扱い始めてから30年。そのお蔭で,ゼオライト学会の活動にも黎明期から幾度か参画させていただいている。
まず,本会が主催するゼオライト研究発表会の第1回(上智大,1985),第2回(京大会館,1986)で口頭発表,第13回(長崎大,1997)で口頭発表と連名発表,第15回(北見大,1999)で連名発表,第16回(早大,2000)で連名発表2件およびZMPC2000(仙台)で口頭発表と連名発表2件を行っている。件数としては決して十分とは言えないし,発表時期にもムラがあるが,企業研究の成果をどこまで社外発表するか,学会発表に耐えうる内容にできるかを苦慮しながらの結果である。企業研究にも基礎研究と応用研究が混在するが,応用研究の場合,顧客や競合との関係から対外発表が制限されることは否めない。
また,本誌のVol. 6, No. 4 (1989)には「第8回国際ゼオライト会議報告」を執筆させていただいた。第8回IZCは東京大会に次ぎアムステルダムで開催されたが,これが私にとって海外での国際会議への初参加であり,初の海外出張であった。語学力が儘ならず右も左も分からない地ではあったが,事前に会議報告の執筆を依頼されたことで目的意識を持って会議に臨めたのはとても有難かった。なお,2002年から5年間編集委員,2008年から3年間企画委員を仰せつかったが,委員会活動にほとんど貢献できておらず,誠に心苦しい限りである。
ここで,この10年間で起こったゼオライト産業界にとって極めて大きな変化を2つ挙げてみたい。1つは,洗剤ビルダー用ゼオライトの国内生産の停止である。最大時には内製分も含め6社で約16万5千トン/年の生産能力を有していたが,価格低下により海外生産へのシフトや輸入品への切替えが進み,2008年には国内生産はほぼゼロとなったようである。もう1つは,自動車排ガス浄化触媒分野でのゼオライトの使用の本格化を挙げることができよう。特に,日米欧でディーゼル車の排ガス規制が強化されるにつれ,ゼオライトを使用した触媒の需要が拡大する中,ゼオライトメーカー各社の能力増強および更なる能増計画の発表が相次いでいる。自動車触媒分野でのゼオライトの利用研究に火を点けたのは,岩本正和先生(現東京工業大学)が1986年に発表されたCu-ZSM-5によるNOの直接分解のご研究だと言っても過言ではないであろう。その後,国内外の数多くの研究機関で,様々な触媒系・システムが検討され,今日の自動車触媒分野でのゼオライト使用の定着に至っている。
ゼオライトの最大の特徴は多様性であろう。結晶構造と組成の組合せを考えれば可能性は無限である。今後も,更なる環境対策技術や省エネ技術,あるいは,シェールガス革命を背景に,エネルギー源・炭素源の多様化も進むであろうが,ゼオライトはこれらの革新的プロセス・システムのキーマテリアルとなり得る材料であり,ゼオライトのサイエンスの深化とともに応用分野の更なる拡大を期待する。
This page was created on 2017-04-07T14:42:30.275+09:00
This page was last modified on
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。