日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 29(4): 127-134 (2012)
doi:10.20731/zeoraito.29.4.127

解説解説

ゼオライト層状前駆体の層剥離によるゼオライトナノシートの合成Synthesis of Zeolite Nanosheets via Delaminationof Layered Zeolite Precursors

北海道大学大学院工学研究院有機プロセス工学部門Division of Chemical Process Engineering, Graduate School of Engineering, Hokkaido University ◇ 〒060-8628 札幌市北区北13条西8丁目

受理日:2012年9月28日Accepted: September 28, 2012
発行日:2012年12月7日Published: December 7, 2012
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ゼオライトは高い結晶性に由来する規則正しいナノ細孔を有するため,形状選択性触媒作用など特異な触媒作用を示し,これまでさまざまな技術革新をもたらしてきた。しかし,従来用いられてきたゼオライトの入り口細孔径は最大で0.74 nm程度であり,かさ高い基質を用いた反応に利用することが困難である。その課題を克服する材料として,厚さシングルナノメーターのナノシートを構成要素とする2次元ゼオライトが近年注目を集めており,例えばMCM-22(P)を始めゼオライト層状前駆体を出発材料としたさまざまな材料が報告されている。本稿で紹介するゼオライト層状前駆体の層剥離は,ゼオライト層と有機構造規定剤とからなる前駆体からゼオライトナノシートを得る方法である。層剥離によりもともと層間に存在していた多数の触媒活性点が外表面に現れ,かさ高い基質がアクセスできるようになる。しかし,従来の層剥離法は,高いpH条件下での膨潤・超音波処理等を必要とし,そのためゼオライトの大きな特徴である結晶構造を一部破壊するという問題があった。本稿では,従来法を用いた層剥離について説明するとともにフッ化物・塩化物イオンを用いた温和な条件下での新しい層剥離法について説明する。

Zeolites have brought various technological breakthroughs partly because they exhibit a high shapeselectivity, which is enabled by their uniform and molecular-size pores. However, because of the limitations in the maximumpore aperture of 0.74 nm in conventional zeolites, zeolites have found limited applications in the catalytic conversion of bulky substrates. Emergence of a new class of zeolitic materials derived from delamination of layered zeolite precursors offers new opportunities for zeolites in these reactions because a large number of catalytically active-sites embedded between zeolite layers potentially become available via delamination. Delamination of layered zeolite precursors have been conventionally performed via multiple steps consisting of high-pH swelling (pH≈13.5) and sonication steps, followed by acidification. These harsh conditions inevitably lead to a partial destruction of the zeolite framework. This review describes the conventional method of delamination of layered zeoliteprecursors and its challenges first, and then a new method of delamination of layered zeolite precursors under mild conditions using a surfactant mixture with fluoride and chloride in either aqueous or nonaqueous solution.

キーワード:層剥離;ゼオライト層状前駆体;2次元ゼオライト;ナノシート

Key words: delamination; layered zeolite precursor; two-dimensional zeolite; nanosheet

1. はじめに

ゼオライトは高い結晶構造に由来する均一な大きさのナノ細孔を有し,このナノ細孔内で基質を形状選択的に触媒的変換するなど特異な触媒作用を示す。しかし,ほぼすべてのゼオライトの入り口細孔径は1 nm以下(Y型ゼオライトの入り口細孔径は0.74 nm)であるため,かさ高い基質の触媒的変換に利用することが難しい。また,ゼオライトを触媒担体として用い,かさ高い金属錯体や金属クラスター等の比較的大きな触媒活性種を細孔内に固定化する際にも細孔径の制約は大きな課題となる。そこで,より大きな細孔径を有するゼオライトの合成が研究課題とされ,超大細孔径ゼオライト合成の研究などが行われてきた。本稿で紹介するゼオライト層状前駆体の層剥離は,かさ高い基質がアクセスできる活性点の数を増やし,また基質のマイクロ孔内の拡散距離を極限にまで短くする手法といえる。ここでは,まずゼオライト層状前駆体と従来法での層剥離1,2)について概説した後,筆者が行ってきた温和な条件下での層剥離3)について紹介する。

2. ゼオライト層状前駆体の従来法による層剥離

ゼオライト層状前駆体は3次元ゼオライトの前駆体であり,後に詳しく述べるようにゼオライトナノシート(厚さシングルナノメーター)を構成要素とする層状構造を有している。すでに知られているゼオライト層状前駆体としてMCM-22ゼオライト4)の前駆体MCM-2(P), ferrieriteゼオライトの前駆体PREFER5),CDS-1ゼオライト6)の前駆体PLS-1等すでに10以上のゼオライト層状前駆体が知られている。

ゼオライト層状前駆体の層剥離によるゼオライトナノシートの合成は,スペインのCormaグループによるITQ-2合成1)を例にしてさまざまな研究グループによって研究がなされてきた2)。得られたゼオライトナノシートの触媒としての有用性を示す例として,例えば,かさ高い炭化水素分子のクラッキング反応活性の向上1)や,かさ高い基質の液相酸化反応に関する報告がある2a)。また,ゼオライト層状前駆体の層剥離によるゼオライトナノシートの合成は,ゼオライト層状前駆体の層間を広げた材料(Interlayer-Expanded Zeolite)合成7)とも深い繋がりがあり,近年注目されている2次元ゼオライトという新しい分野8)において重要な役割を担っている。

また,ゼオライト層状前駆体の層剥離の研究は,層状けい酸塩からトポタクティック変換によるゼオライト合成6,9),層状けい酸塩の層間修飾10)や層間拡張11),シリケート以外の層状化合物の層剥離(ハイドロタルサイト類を含む層状金属酸化物12)やグラファイト等の炭素材料13))によるナノシート合成とも関連をもつ。また,層間に存在する多数の水素結合を切断し溶媒中に分散させるという観点から,塩化リチウム/N,N-ジメチルアセトアミド(LiCl/DMAc)やイオン性液体等を用いたセルロースの可溶化技術14)にも関係するといえる。

層剥離に用いられるゼオライト層状前駆体MCM-22(P)は,前述したようにMCM-22ゼオライト4)(構造コード:MWW)の前駆体である。通常合成されるMCM-22(P)は,おおよそ0.5 µmの大きさで厚さが約50〜100 nmである。MCM-22(P)は約2.5 nmのゼオライト層の層間にゼオライト合成に使われる有機構造規定剤(ヘキサメチレンイミン)がサンドイッチされた構造を有している(図1,図2)。この層状前駆体を焼成することにより層間でシラノール基の脱水縮合が起こりMCM-22が形成される。MCM-22には層の外表面にカップ状の12員環細孔(径0.71 nm)が存在し,またMCM-22(P)の焼成により層をまたぐ形で2つのカップ状細孔から1つのまゆ状のスーパーケージ(0.71×0.71×1.82 nm,図1)が形成される。このスーパーケージ内にアクセスするには,スーパーケージ同士を繋ぐ比較的小さな10員環細孔(0.45×0.55 nm)を経由する必要がある。またこの10員環細孔とは独立して,層内にはジグザク状の10員環細孔(0.41×0.51 nm)が存在する(図1)。MCM-22は,1990年にMobil社によって開発され,その後エチルベンゼン製造において工業的に用いられている15)

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図1 MCM-22(P)(左)とMCM-22ゼオライト(右)の構造模式図

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図2 合成したMCM-22(P)のTEM像

Mobil社の研究者らはMCM-22(P)を高いpH条件下,炭素数16の直鎖アルキルアンモニウム塩で処理することにより層膨潤させ,続いて層間にアモルファスシリカでピラーを立てることで不可逆的に層間を広げた材料MCM-3616)などを報告した。一方,冒頭で述べたようにスペインのCormaグループは,同様の界面活性剤で膨潤させたMCM-22(P)を超音波処理・酸処理することにより層を剥離できることを報告している1)。層剥離によって多数のカップ状12員環細孔が外表面に現れ(図3),かさ高い基質がアクセスできるようになる。もし層が完全に剥離されていれば,試料中には12員環のスーパーケージはなく,12員環のカップ状細孔のみが存在する。また層内に走る10員環細孔は存在するが,MCM-22ゼオライトの層間に走る10員環に相当する細孔は剥離された試料には存在しない。したがって,剥離された試料のマイクロ孔容積は,MCM-22ゼオライトに比べ相対的に減少するはずである。これらは,後に述べる様に剥離の度合を定量的に評価する際に注意すべき点である。

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図3 従来法(ITQ-2合成法)によるMCM-22(P)の層剥離

Cormaグループが報告しているITQ-2合成1)を主な例として,ゼオライト層状前駆体の層剥離は,ゼオライト層状前駆体以外の層状化合物で行われる層剥離よりも過酷な条件(pH≈13.5での層膨潤処理およびpH≈12.5での超音波処理)で実施されてきた(図3)。この方法により確かに層剥離が行われるが,一方でゼオライトの構造が一部破壊されアモルファス相が生成することが指摘されている2)。このように非常に過酷な条件下で層間膨潤・層剥離処理が行われるため,ゼオライト層の構造規則性を保ったまま層剥離することは非常に難しい。Cormaグループから報告されているITQ-2の29Si MASNMR測定結果には,アモルファスシリカに由来するとおもわれるQ2の共鳴ピークが観測されること1d)からもその難しさが伺える。

3. ゼオライト層状前駆体の温和な条件下での層剥離

3.1 水溶液系での層剥離

ゼオライトの有する高い構造規則性という特徴を活かすために,より温和な条件下で層剥離を行う試みとして,米国のTsapatsisグループはITQ-2合成で行われる80°Cでの層間膨潤処理を室温で行った結果を報告している2c)。彼らは,MCM-22(P)の膨潤処理時の温度を室温に下げることで高いpH条件であってもゼオライト層のアモルファス化が抑制され,ゼオライト層の構造規則性が保たれることを29Si CP MAS NMRを用いて実証している。

我々は別の手法を用いて,温和な条件下でMCM-22(P)の層剥離を達成することを目標とした。MCM-22(P)の層間には,ゼオライト層同士そしてゼオライト層と層間に存在する有機構造規定剤との間に強い水素結合が働いていると考えられている8)。また,ゼオライト層中のアルミニウム原子含有量が多くなるほど剥離がさらに困難になるとの報告もあることから2),静電的相互作用の寄与も考えられる。層状化合物の層間に働く強い水素結合については,magadiiteなどの層状粘土鉱物においても存在し(1H MAS NMRを用いた分析で δH≈15 ppmに強い水素結合に由来する共鳴ピークが観測されている17)),magadiiteの層剥離は比較的温和な条件下でも進行する。そこで,我々は層状ゼオライト前駆体の層間には水素結合や静電的相互作用とあわせて一部共有結合が形成されており,この共有結合の存在のために層剥離が非常に困難なのではないかとの仮説を立てた。ちなみに,層状けい酸塩MCM-69の前駆体MCM-69(P)の合成にあたっては,水熱合成後の洗浄度合いや乾燥条件によって層間に一部Si-O-Siの共有結合が形成される可能性が指摘されている18)。もしMCM-22(P)の層間にも一部Si-O-Siが存在しているとすれば,その共有結合を切断することで層剥離を促進できるはずである。そこで我々は,有機合成の分野で用いられている保護・脱保護の技術19)(フッ化物イオンによるSi–O結合切断)を参考にした。フッ化物イオンはゼオライト合成においても用いられており,例えばCormaやCamblorらは,通常高いpH条件下で行われるゼオライト合成をフッ化物媒体中ほぼ中性付近(pH≈9)で実施できること,さらに得られたゼオライトには欠陥がほとんど存在しないことを報告している20)

MCM-22ゼオライトの様にいくつかのゼオライトが層状前駆体を経て形成されることを考えると,ゼオライト層状前駆体の層剥離は,ゼオライト合成の逆を行うことに相当する。そしてゼオライト合成がフッ化物媒体中ほぼ中性付近で行えるとすれば,その逆の層剥離もフッ化物イオンを含む水溶液によりほぼ中性付近で進行するのではと考えられる。以上種々の背景をもとに,フッ化物イオンを含む水溶液でゼオライト層状前駆体を処理することが層剥離につながると期待できた。そこで界面活性剤のアニオンとしてフッ化物イオンを含む水溶液で剥離処理を行うなど種々検討を行った結果,フッ化物イオンおよび塩化物イオンをあわせて含む界面活性剤水溶液を用いることにより,ほぼ中性付近のpH=9でMCM-22(P)の層剥離が行えることがわかり,本手法をUCB-1法と名づけた3a)。塩化物イオンを共存させる必要性ついての理由はよくわかっていないが,塩化物イオンと層間がSi-OHとの水素結合し剥離を促進させたり,また剥離された層の分散安定化に寄与しているのではないかと考えられる3)

ゼオライト層の高い構造規則性が保たれたまま層剥離が行われているかどうかを確認するには,いくつかの分析手法をあわせて評価することが大切である。まず,粉末X線回折分析を用いて層に垂直な方向への長距離秩序性が失われているかどうかを検証する必要がある。粉末X線回折測定による検証法としてRothらは,MCM-22(P)もしくはその派生物質などを識別する方法を報告している21)。粉末X線回折測定は非常に強力な分析手法であるが,層の剥離に伴い長距離秩序性が失われるため3次元ゼオライトの構造解析の場合に行われるような定量的で詳細な分析が難しい。そこで他の分析法とあわせて層剥離を検証することが重要となる。TEMを用いることで直接剥離状態をすることも大切であるが,試料全体について定量的に層剥離を検証するには,アルゴンや窒素を用いた気体吸着測定を行う必要がある。例えばMCM-22(P)の層剥離が行われていれば,焼成後の試料には層間の10員環細孔が存在しないはずであり,MCM-22(P)を層剥離せずに焼成して得られたMCM-22ゼオライトに比べ10員環細孔の容量が減少するはずである。我々は,UCB-1の窒素ガス吸着測定評価において,1次元の10員環細孔をもつTONゼオライトや12員環細孔を有するUSY型ゼオライトのデータからおおよそどの相対圧領域で窒素の10員環細孔への取り込みが起こっているのかを調べ,その領域において層剥離処理前後で細孔容量の減少が見られるかどうかを確かめた3a)。実験の結果、まずTONゼオライト中への窒素分子の取り込みはP/P0≈10−7から始まりP/P0≈10−4でほぼ終了していることがわかった(図4)。MCM-22ゼオライトも10員環細孔を有しているためP/P0≈10−7付近から窒素の吸着が始まるが,TONゼオライトの場合と違い,P/P0≈10−4を過ぎても引き続き吸着量の増加が見られる。これは,MCM-22ゼオライトに12員環が存在するためである。実際に12員環の入り口細孔を有するUSYの測定結果を見ると,おおよそP/P0≈10−5を超えたあたりから吸着量が上昇し始め,P/P0≈10−4の相対圧において急激に吸着量が増加している。TONゼオライトとUSYゼオライトの結果を比較して考えると,相対圧がほぼ10−7<P/P0<10−4 の領域で窒素分子が10員環細孔に取り込まれるものと考えられる。この領域でMCM-22ゼオライトと高いpH条件下で層剥離させた試料(ITQ-2)のデータを比較すると,確かに層剥離に伴い窒素吸着量の減少が見られる。一方,我々が合成したITQ-2とUCB-1を比較すると,この領域でほぼ同様の窒素吸着量減少が確認できた。以上の結果から,UCB-1法を用いることでITQ-2の場合と同程度の層剥離が行えるものと考えられる。より高い相対圧領域において,我々が合成したUCB-1とITQ-2のデータを比較すると大きな違いが見られる。これは高いpH条件下で処理されたITQ-2においては,ゼオライト層が一部破壊され比較的大きなマイクロ孔やメソ孔が形成されたためであると考えられる。前述したように29Si MAS NMR 測定によりITQ-2には一部アモルファスシリカが含まれていることが示唆されている。一方,同手法によりUCB-1を分析した所,Q2の共鳴ピークは観測されなかった3a)。また27Al MAS NMR測定により,UCB-1中のアルミニウム原子は骨格内に保持されていることも確認されている。これらのことから,UCB-1法を用いることによりゼオライト層の高い構造規則性を保ったまま層剥離ができることがわかった。

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図4 窒素ガス吸着等温線

MCM-22 ゼオライト(○),UCB-1(●),ITQ-2(▲),TON ゼオライト(□),USYゼオライト(▽)。

剥離した試料中の酸点へのアクセス性の評価法として,種々の大きさを有する塩基分子をプローブ分子とする化学吸着法を用いることができる。例えば,ピリジンは10員環細孔内を拡散できるため,MCM-22ゼオライト中の酸点すべてにアクセスできるものと考えられる。一方,2,4,6-トリメチルピリジン22)や2,6-ジ-tert-ブチルピリジン1,23)は,バルキーであるため10員環細孔には侵入することが難しく,そのためMCM-22ゼオライト外表面に存在する酸点(ブレンステッド酸点のみ)にのみアクセスすることができる。そこで,ピリジンとかさ高い塩基分子の化学吸着量を剥離前後の試料について測定することにより,剥離によりかさ高い分子がアクセスできる酸点が増加しているかどうかを検証することができる。通常のMCM-22ゼオライトは約10%程度の外表面積を有するが,UCB-1法によって剥離された試料は,上記の手法によって外表面に存在する酸点の量がピリジン吸着によって求まる酸点の量の約30–45%であることがわかっている。

最後に,トルエンのアルキル化反応など外表面の12員環内に存在する酸点で選択的に進行する反応24)を用いて,剥離がかさ高い分子の反応性向上に効果があるのかどうかを検証することも必要である。これらの試験反応を用いれば,層剥離状態とそれが反応性向上に及ぼす影響を明らかにすることができる。

3.2 非水溶液系での層剥離

ホルムアミドやN,N-ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機溶媒は層状化合物の層間にインタカレートし層間拡張・層剥離を促進することが報告されている12c-g)。また層剥離に関係するセルロースの可溶化には,古くからLiCl/DMAc14)や水/4-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)25)が用いられている。LiCl/DMAc系においては,Cl がLi+(DMAc)カチオンと相互作用すると同時にセルロースの水酸基と水素結合し,セルロース構造中への溶媒侵入を促進すると考えられている。一方ゼオライト層状前駆体の非水溶液系での層剥離においては,例えばアセトンを用いることにより部分的に剥離が行えることが報告されている26)。また、MCM-22と同じトポロジーをもつSSZ-25の前駆体(未焼成物)をDMF中加熱処理すると層間に存在する構造規定剤を除去でき焼成物SSZ-25に似た粉末X線回折パターンを示す材料が得られることがわかっている27)

このような背景を踏まえ,我々は種々の溶媒(水,プロトン性/非プロトン性有機溶媒)を用いてゼオライト前駆体の層剥離を検討した。この検討においては,水溶液系で剥離の報告がなされているferrieriteゼオライトの層状前駆体(PREFER)を用いた。まずPREFERをエタノール,ジクロロメタン,NMMO, DMF, そして水の各溶液にUCB-1合成に用いたものと同じ界面活性剤混合物を入れ,373 Kで16時間処理し層間が広がるどうかを調べた。その結果,図5に示すようにDMFを用いた場合にはPREFERの200ピーク(面間隔13 Å)が完全に消失し,低角側にピークが現れ層間膨潤が起こることがわかった。一方,水を用いた場合には部分的に層間膨潤が進行した。予想に反しセルロースの可溶化に用いられるNMMOを使っても層間膨潤は全く進行しなかった。ゼオライト層状前駆体の層間膨潤が層間に存在するゲスト分子の交換反応だと考えるとこの結果はPREFER合成に用いられる構造規定剤(4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)がNMMO+界面活性剤溶液よりもPREFER層と相互作用しやすいことを示唆しているのかもしれない。DMF中で膨潤させた試料は,酸処理・超音波処理することによって容易に剥離できる3b)

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図5 PREFER(a, a')および各種溶媒で膨潤処理したPREFER(b-f')の粉末X線回折パターン

水(b), ジクロロメタン(c), エタノール(d),NMMO(e), DMF(f, f')。

我々はMCM-22(P)やPREFERで得られた結果をさらにその後SSZ-70ゼオライト28)の層状前駆体の層剥離へと応用した29。SSZ-70の前駆体を使う意義は,このゼオライトがアルミニウム原子だけでなくホウ素原子などさまざまなヘテロ原子をゼオライト骨格内に含んだ形で合成できるからである。特にホウ素は従来の層剥離法(ITQ-2法)を用いると容易にゼオライト骨格から抜け出してしまうため,フッ化物イオン・塩化物イオンを用いた新しい剥離法に優位性があることが期待できる29)

4. おわりに

ゼオライト層状前駆体を含め,さまざまな層状化合物の剥離法が提案されている。今後さらに新たな剥離法の検討や層剥離機構の解明などが進むことを期待する。その一方で,剥離したゼオライトナノシートをいかにして実際の反応に用いるのか,特にナノシートの特徴を最大限に活かす反応システムはどのような形態なのかについても研究が進むことを期待したい。

謝辞Acknowledgments

本研究は,カリフォルニア大学バークレー校のKatzグループにおいてChevron社との共同研究を通じて行われました。本研究プロジェクトに携わったすべての方々に厚く感謝いたします。

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