日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 29(3): 69-79 (2012)
doi:10.20731/zeoraito.29.3.69

解説解説

スカベンジャーシリカゲルの製造と応用Preparation and Applicatio n o fScavenger Silica Gel

富士シリシア化学株式会社 新種製品開発グループFuji Silysia Chemical Ltd. ◇ 〒487-0013 愛知県春日井市高蔵寺町2丁目1846番地

受理日:2012年2月14日Accepted: February 14, 2012
発行日:2012年9月7日Published: September 7, 2012
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医薬品,電子材料などの有機合成物から残存する微量触媒金属を除去する方法としてシリカゲルに表面修飾を行い,目的とする金属との特異的に結合する官能基を導入した“スカベンジャーシリカゲル”が工業的に使用され始めている。特に近年では医薬品関係において人体への安全面から含有金属についての規制がおこなわれ,これに適合するようにスカベンジャーシリカゲルが導入される例が多い。著者らも多くの官能基と金属との相互作用について検討を行ってきた。ここでは官能基のシリカ表面への導入法とその効果について紹介すると共にその特長を生かした触媒担体としての利用を解説する。また,最近注目されているセシウム吸着剤としての応用例についてのべる。

Recently “Scavenger silica gels” have been applied in industrial fields especially for pharmaceutical and electric devices toremo ve heavy metals which remaining in the organic products used as catalyst metals. It is important for the safety of human health to remove trace metals in pharmaceutical products. "Scavenger silica gels", that have appropriate organic groups introduced on the surface of silica gel, are applied for this purpose.We introduce the synthesis and application of the scavenger silica gels in this review. Catalytic synthesis of the scavenger silica gels and an application to removal of cesium ion are also reviewed.

キーワード:スカベンジャー;重金属;除去;シリカゲル;鈴木-宮浦クロスカップリング反応

Key words: scavenger; heavy metals; silica gel; Suzuki-Miyaura coupling reaction; cesium

1. はじめに

近年医薬品の創薬において,鈴木-宮浦クロスカップリング反応など遷移金属触媒を用いた有機合成法について多くの応用が行われている。合成法の検討と同時に,反応系に使用した金属の除去も大きな課題である。除去方法の1つとして多孔質材料の固体表面に金属触媒を特異的に結合する官能基を導入してスカベンジャーとして利用する方法が行われている。従来はポリマー系材料に官能基を導入したタイプが試みられたが1),シリカゲルのような高表面積でかつ細孔径が制御可能で,また溶剤に対して溶解,膨潤などを起こさない材料をベースとして製造されたスカベンジャーが高い除去効率をあげることが認められ,工業的に使用されるようになった。ここではベースとなるシリカゲルの製造と物性制御について,またシランカップリング剤を使用した官能基の導入とその重金属捕捉効果について述べる。

2. シリカゲルの製造と物性制御

シリカゲルは組成式SiO2で示される多孔性の無機材料として乾燥材,吸着材,クロマトグラフィー分離材および触媒などの担体として,また微粉末シリカは塗料におけるつや消し剤,樹脂フィルムのアンチブロック剤,歯磨きの研磨剤,増粘剤など化学工業,食品工業,医薬品工業や電子材料分野など多くの産業で使用されてきており,また用途も拡大している。シリカゲルは数ナノメーターのコロイド状シリカを一次粒子とした集合体で図1のような模式図で示される2)。一次粒子の表面積全てを合わせた単位重量あたりの表面積が比表面積であり,通常数百m2/gの高い値が示される。粒子同士の間には数ナノメーターの隙間が有り,細孔と呼ばれる。その空間には多くの液体を保持させることが可能である。また,一次粒子の表面にはシラノール基(Si–OH)と呼ばれる水酸基が数多く存在して水素結合やイオン結合により他の物質をひきつける力があり,「吸着」と呼ばれる現象を起こす。また,シラノール基はシランカップリング剤と容易に反応して種々の有機官能基を導入することができる。特にクロマトグラフィー分野では,図2に示すように,ジメチルオクタデシルクロロシランを用いて表面に(C18オクタデシル基,ODS)を導入した疎水性型充填剤が核酸,蛋白質,ペプチドのような親水性化合物の分離精製に工業的にも使用されている。

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図1 シリカゲルの構造模式図

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図2 シリカゲル表面へのODS(C18)の固定化

シリカゲルは一般には珪酸ソーダ(Na2nSiO2)と硫酸(H2SO4)を原材料として製造される。テトラエトキシシランなどの有機珪素を出発原料とする製造も可能であるが,コスト面および可燃による危険性から通常行われていない。適度に濃度を調整した珪酸ソーダと硫酸とを均一混合するとシリカゾルと呼ばれるコロイド粒子が液中に生成する。一次粒子は一時的に安定であるが次第に粒子同士が接触,水素結合によりくっつきあい最後には溶液全体でシリカ一次粒子同士が結合した状態で固化する。この状態を「ゲル化」と呼び,水を含んだ状態なので「ヒドロゲル」と呼ぶ。この状態では副成する硫酸ナトリウムや硫酸を含んだ状態なので水洗してこれらを除去する。このまま乾燥して水分を除去すると比表面積が高く(700–800 m2/g),細孔径の小さな(2 nm程度)乾燥剤タイプのシリカゲルが得られる。ヒドロゲルの状態でpHと温度を制御するとしだいにシリカの一次粒子が成長して大きくなり,同時に細孔径も大きなタイプのシリカを製造することができる(図3)。図4に典型的な物性のシリカのTEM写真をしめした。図4-1は細孔径6 nmのシリカゲルで比表面積値は500 m2/g程度で「Bタイプ」と呼ばれる。図4-2は細孔径10 nmのシリカゲルで比表面積値は300 m2/g程度で「IDタイプ」と呼ばれる。IDタイプのシリカゲルはBタイプのシリカゲルよりも一次粒子が大きく成長していることが認められる。有機化合物の精製には精製される分子のサイズからこの2つが多く使用されている。また蛋白質のようなマクロ分子についてはさらに大きい細孔径(30 nm程度)が必要とされる。シリカゲル表面に存在するシラノール基にはいくつかのタイプがある。図5にシリカゲルのIRチャートを示すが,3747 cm−1に孤立シラノール基と呼ばれる鋭い吸収が有り,また3000–3800 cm−1の低波数側にブロードな吸収がみられ水素結合性シラノール基と呼ばれる(図6)。水素結合性シラノール基は300°C以上に加熱することでしだいに脱水して消失する(図7)。また図829Si MAS NMRチャートを示した。SiO2骨格のQ4, シングルシラノール基を有するQ3およびGeminalシラノール基を有するQ2が認められる。図9にはトリメチルシランとの反応を行った後の29Si MAS NMRを示したQ4ピークに比べてQ3ピークの強度の減少が認められ,また新たに-Si(CH3)3のピークが出現している。

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図3 シリカゲルの製造工程図

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図4 シリカゲルのTEM写真

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図5 水素結合性シラノール基の脱水によるIRスペクトルの変化

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図6 シラノール基の種類

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図7 水素結合性シラノール基の脱水

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図8 シリカゲルの29Si MAS NMR

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図9 トリメチルシランを導入したシリカゲルの29Si MAS NMR

3. スカベンジャーシリカゲルの合成とその特性3)

3.1 スカベンジャーシリカゲルの製造

鈴木-宮浦反応など新しくC–C結合を生成する反応は有機合成分野には有用で有り,医薬分野では創薬部門において新薬の合成に応用されてきている。これらはPdなど遷移金属を触媒として利用した反応であるが一方医薬品の安全性から金属(Ir, Pd, Rh, Ru, Os, Pt, Mo, V, Cu, Ni, Cr, Mn, ZnおよびFe)について人体に摂取する許容指針が(EMEA TheEuropean Agency for the Evaluation of Medical Product. Evaluation of Medicines for Human Use)4)によって定められている。医薬品としての安全性確保のため,医薬品中の重金属類は指針の許容限度以下にする必要がある。重金属除去については結晶化法,溶剤抽出法など色々な手段で行われているが,反応後の金属はイオンの価数もさまざまで,一部はポリマー化しており,また一部は有機物内に取り込まれており,除去が容易でない場合も多い。このため目標とする金属と強い親和性を有する官能基を表面に有したスカベンジャーがその目的に使用され始めている。基材としての多孔材料は樹脂またはシリカゲルが使用されるが,樹脂は細孔径制御が困難であること,また使用する溶剤により膨潤して細孔が閉塞することで除去効率が悪くなる場合や樹脂の一部が溶解して製品に混入する場合があり,耐熱性も低い。このためシリカゲルベースのスカベンジャーが有利に使用されている。重金属を除去するためにシリカゲル表面に種々の官能基が導入される。主として錯形成による親和性を目的としてチオール型(–SH),アミン(–NH2)およびジアミン型〔–NH–(CH2)2–NH2〕が用いられ,一部ではイオン交換型として4級アンモニウム型(–N(CH3)3·Cl)およびスルホ基(–SO3H)が使用される(図10)。使用方法としては重金属不純物を含む医薬品の溶液にバッチとして投入して一定時間撹拌後固液分離して行う方法とカラムに通液する方法との2種類がある(図11)。このため使用するシリカゲルはろ過を行いやすい粒子径でかつ微粉の存在しないものが望ましい。弊社では球状シリカゲルで平均粒子径100 µm, 細孔径10 nmのシリカをこのベースとして使用している(図12)。

物性を表1に示した粒子径100 µm, 細孔径10 nmの球状シリカゲルを各シランカップリング剤とトルエンスラリー中で還流してそれぞれ反応させ3種の官能基を有する試料(1)SHタイプ(2)Diamineタイプ(3)EDTAタイプを得た。各試料の元素分析値から官能基密度を求めた(表2)。

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図10 スカベンジャーシリカゲルの標準グレード

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図11 スカベンジャーシリカゲルを用いた処理方法

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図12 ベースシリカゲルの顕微鏡写真

表1 ベースシリカの物性値
比表面積(m2/g)細孔容積(ml/g)粒子径(µm)
3100.8475–200
表2 官能基修飾量と交換容量
種類C%修飾量(mmol/g)Pd交換容量(mmol/g)Ni交換容量(mmol/g)
SH type2.810.7140.8160.143
Diamine type6.191.010.9480.313
EDTA type7.390.4730.4970.356

3.2 スカベンジャーシリカゲルのイオン交換容量測定

各試料0.25 gを0.01 M酢酸パラジウムクロロホルム溶液25 mlに加え5時間攪拌後ろ過,減圧乾固した後25 ml 1 M塩酸水溶液とした。ICP法でパラジウム濃度を測定し,Pd交換容量を求めた。また各試料0.25 gを0.01 M酢酸ニッケル四水和物水溶液25 mlに加え5時間攪拌後ろ過してICP法によりニッケル濃度を測定し,Ni交換容量を求めた。表2に示すようにPdの交換容量は各試料の官能基量とほぼ1:1の関係にあったがNiの交換容量は各官能基との親和性の違いによる差が見られた。

3.3 スカベンジャーシリカゲルの特性

パラジウムとニッケルの試料溶液に「スカベンジャーシリカ」SH Silica, Diamine Silicaを添加し,吸着処理後の残存金属量(除去量)を求めた。

  • (条件)金属濃度0.001 M
  • Pd: 酢酸Pd/CHCl3→Pd 液(25 ml)+0.25 g 試料→攪拌1 hrs→ろ過→ICP測定(ICP: プラズマ発光分析)
  • Ni: 酢酸Ni/H2O→Ni液(25 ml)+0.25 g 試料→攪拌1 hrs→ろ過→ICP測定

Pd溶液中のPdの残存量を図13および14に示した。また,Niの残存量を図15に示した。Pd(II)についてはSH Silica, Diamine Silicaいずれも良好な吸着を示した。Pd(0)についてもPd(II)よりも能力は低下するがいずれも良好な吸着を示した。Ni(II)についてはDiamine Silicaのみ良好な吸着を示した。Ni(II)についてはDiamine Silicaが推奨される。その他スカベンジャーシリカゲルの種類と適する金属イオンとを表3に示した。

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図13 Pd(II)残存量

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図14 Pd(0)残存量

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図15 Ni(II)残存量

表3 スカベンジャーシリカゲルの種類と適する吸着種
グレード吸着種
SH SilicaPd(II), Pt, Ru, Hg
SO3H Silicaamines
Diamine SilicaNi(II), Pd, Zn, Cd, Ru
NH Silicaacid chloride, isocyanate

3.4 溶媒の影響

「スカベンジャーシリカゲル」の除去限界への溶媒の影響確認としてクロロホルム,メタノール,酢酸エチル,トルエンを用いてそれぞれ約200 ppmの酢酸Pd溶液を調製し,各基剤を0.25 gずつ加えた。撹拌後,各溶媒中の残存Pd量をICPにて測定した。結果を表4に示した。クロロホルム,酢酸エチルは影響なく,メタノールではDiamine Silicaの吸着能力低下,トルエンではSH Silicaの吸着能力低下が確認されたが大きな変動は認められなかった。

表4 パラジウム除去における溶剤の影響
溶媒濃度(ppm)評価
クロロホルム無処理207
SH 0.25 gN.D.
Diamine 0.25 gN.D.
メタノール無処理200
SH 0.25 gN.D.
Diamine 0.25 g1.92
酢酸エチル無処理208
SH 0.25 gN.D.
Diamine 0.25 gN.D.
メタノール無処理202
SH 0.25 g0.07
Diamine 0.25 gN.D.
# N.D.は測定限界以下(0.05 ppm以下)

3.5 吸着速度

吸着除去速度測定に試料として200 ppmの酢酸Pd/トルエン溶液を100 ml調製し,撹拌しながら溶液中に2 gのSH Silicaを添加した。添加時から1分,5分,10分,30分,60分後に溶液を採取してPd残存量をICPで測定した。Pdの時間における濃度変化を表5に示した。添加して1分後で溶液は1 ppm以下のPd濃度となり,わずかな時間でほとんどの吸着が達成された。

表5 Pd吸着速度
トルエン溶剤Pd濃度(ppm)
無処理186
1 min後0.12
5 min後0.03
10 min後N.D.
30 min後N.D.
60 min後N.D.
# N.D.は測定限界以下(0.05 ppm以下)

3.6 カラム破過試験

図16に示すようにカラムにSH Silica 0.7 gを充填し,流速2.4 ml/minにて約350 ppmの酢酸Pd/クロロホルム溶液を通液させ,破過試験を行った。通液開始から10 mlずつ分画し,ICPにてそれぞれのPd残存濃度を測定し図17に示した。

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図16 カラム破過試験装置

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図17 カラム破過曲線

90 mlまできれいに除去できていることが示され,その後カラムは破過して原液濃度と同じ濃度を示した。

破過容量: 90×350 1000 =Pd 31.5 mg/カラムPd 45 mg/SHsilica(g)

3.7 スカベンジャーシリカゲルの脱着

図18にDiamine silicaカートリッジを使用したPdの吸着と脱着回収例を示した。Pdの95%以上を回収することが可能であった。

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図18 2%チオ尿素/1 M HCl·メタノール溶液を使用したカラムの脱着方法

脱着溶剤: 2%チオ尿素 1MHClメタノール溶液

SH Silicaについては同様な操作を行ったが吸着が強く本条件では溶出しなかった。

4. スカベンジャーシリカゲルの合成触媒としての応用5)

スカベンジャーシリカゲルは合成反応後に生成物中から含有するPdの除去に使用されるが反応系において担体にPdを担持して不均一系で反応を行うことでPdの回収および系外の流出を抑える試みが行われている6,7)。スカベンジャーシリカゲルも表面に安定にPdを担持することができるので鈴木-宮浦カップリング反応の触媒としての可能性を確認する試験を行った。

4.1 パラジウム・シリカゲル触媒の調製

SH基の導入:基材として細孔径7, 10および30 nmの球状シリカゲル(SMBシリカゲル粒子径30 µm)を使用し,シランカップリング剤と反応させ3種のSH Silica 試料を得た。各試料の元素分析値からそれぞれの官能基量を求めた。

表6 各基材シリカゲルの物性値および修飾後の官能基(SH基)量
試料比表面積(m2/g)細孔容積(mL/g)細孔径(nm)SH基量(mmol/g)
SMB-704950.8270.97
SMB-1002880.81100.72
SMB-300940.85290.18

パラジウムの担持:所定量の塩化パラジウムを精秤して,塩酸にて溶解後50 ml水溶液とした。調製したSH基導入シリカゲルを加え30分攪拌後ろ過,続いて蒸留水で洗浄を行いさらにメタノール,ジクロロメタンで洗浄後風乾してパラジウム担持シリカゲルを得た(図19参照)。

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図19 シリカの表面の改質とPd担持

4.2 鈴木-宮浦カップリング反応試験

Phenylboronic acid (1.5 mmol), 4-Bromoanisole (1 mmol)を50 mlフラスコに精秤しo-キシレン10 mlを加え加温溶解させた。K2CO3 (1 mmol)および所定量の触媒を加えた後,油浴120°Cで窒素パージしながら攪拌した。1, 2, 4, 8, 24時間後に順次一部採取して反応率をHPLCにて測定した。内部標準試料としてアントラセンを使用した(図20参照)。

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図20 鈴木-宮浦カップリング反応

表7に各条件と24時間後の反応率を示した。また図21及び22に各パラジウム添加量別に細孔径と反応率を時間ごとに示した。反応率はパラジウム量よりもベースとなるシリカの細孔径に依存した。細孔径30 nmのシリカゲルが良好な活性を示し,反応生成における立体効果が考えられる。またリサイクル試験F〜Hに示されるように触媒の繰り返し使用でも高収率での反応が可能であった。

表7 反応試験条件と24時間後の反応率
BaseシリカモードPd担持量添加量溶媒反応率(%)
ASMB-70SH0.3 mmol/g0.5 go-Xylene25
BSMB-70SH0.1 mmol/g0.5 go-Xylene0
CSMB-100SH0.3 mmol/g0.5 go-Xylene55
DSMB-100SH0.1 mmol/g0.5 go-Xylene0
ESMB-300SH0.3 mmol/g0.5 go-Xylene82
FSMB-300SH0.1 mmol/g0.2 go-Xylene92
GSMB-300SH recycle10.1 mmol/g0.17 go-Xylene100
HSMB-300SH recycle20.1 mmol/g0.15 go-Xylene100
* G, Hは反応Fの触媒を繰り返し使用
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図21 Pd0.3 mmol/g添加時の反応率

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図22 Pd0.1 mmol/g添加時の反応率

結果からパラジウムを使用した鈴木-宮浦反応には細孔径30 nmのSH型シリカゲルが推奨された。

5. スカベンジャーシリカゲルのセシウム吸着剤としての応用8)

本年震災による原子力発電所の事故から放射性セシウムの除去方法に関心が向けられている。特に海水中の様な多くのイオンが共存する状態でセシウムを選択吸着させる材料が望まれている。筆者らもスカベンジャーシリカゲルを使用したセシウム吸着剤の試作を検討した。先行文献としてフェロシアン金属錯体やリンモリブデン酸塩を物理的に担持した無機担体材料を使用したセシウム吸着剤の調製方法が特許に開示されている9,10)。筆者らはフェロシアンイオンの担体上への高分散かつ液相中への溶出防止のため,シリカゲル表面に各種イオンにて不溶化させたシリカゲル吸着剤を試作し,各試料についてセシウムを含有する人口海水中からの吸着能を測定してセシウム吸着剤としての応用を試みた。

5.1 フェロシアン金属担持シリカゲル(図23)の作成

球状シリカゲル(比表面積526 m2/g, 細孔容積0.86 mL/g, 細孔径7 nm, 粒子径0.15–0.50 mm)をトルエンスラリーとしアミノプロピルトリエトキシシランを加え窒素雰囲気下加熱還流した。メタノールで洗浄,80°C減圧乾燥,水スラリー中でフェロシアン化カリウムを加え常温で攪拌した。吸引ろ過により固液分離し,蒸留水で洗浄を行い80°C減圧乾燥させた。フェロシアン担持シリカゲルを水スラリーとし,それぞれ塩化第2鉄,硫酸銅および硫酸ニッケルを加えて常温で攪拌した後吸引ろ過により固液分離し,蒸留水で洗浄を行い80℃減圧乾燥させてフェロシアン金属塩担持シリカゲルを得た(図24フロー図参照)。フェロシアン化ニッケル担持NHシリカゲルのTEM写真を図25に示した。シリカゲル細孔表面に2–3 nmの金属が単分散されているのが示された。一方従来法に基いて作成したフェロシアン化鉄(Ⅲ)のTEM写真を図26に示した。10 nm程度の凝集した金属粒子が観察された。

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図23 フェロシアン金属担持シリカゲル

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図24 フェロシアン金属担持シリカゲルの製造フロー

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図25 フェロシアン化ニッケル担持シリカゲルのTEM写真

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図26 フェロシアン化鉄担持シリカゲルのTEM写真

5.2 セシウム吸着試験

セシウムを約3 mg/L含む人口海水溶液100 mL中に,得られたフェロシアン金属担持させた試料1 gを加え常温16時間攪拌し,固液分離したのち炎光光度法にて残留セシウム濃度を測定し各吸着剤のセシウム吸着能を評価した。表8にシリカゲルに担持した①フェロシアン化カリウム②フェロシアン化鉄(Ⅲ)③フェロシアン化銅④フェロシアン化ニッケルについての海水中のセシウム吸着を示した。カリウム体では全く吸着が生じないが重金属塩にすることでセシウムを吸着し,吸着能はNi>Cu>Feの順であった。またフェロシアン化合物の溶出も銅,ニッケルでは少ないことが鉄イオンの分析から示された。試験からフェロシアン化ニッケルをシリカ表面に担持した吸着剤がセシウムの選択吸着剤として優れていることが示唆された。(図27, 28参照)

表8 各フェロシアン金属担持シリカゲルのCs除去能(原液Cs濃度2.73 mL/g)
フェロシアン残留Cs濃度(mg/L)Cs除去率(%)溶出Fe濃度(mg/L)
K·[Fe(CN)6]2.73010.7
Fe·[Fe(CN)6]2.36130.8
Cu·[Fe(CN)6]0.43840.2
Ni·[Fe(CN)6]01000.2
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図27 フェロシアン化鉄担持シリカゲルの人工海水中におけるCs吸着等温線(25°C)

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図28 フェロシアン化鉄担持シリカゲルの人工海水中におけるCs吸着速度(25°C)

6. おわりに

近年,化学物質の安全性については今まで以上に厳しい規制が行われ,原材料から製品に至るまで含有する不純物についてもその有害性の検証など種々の安全性データが必要とされるようになっている。特に食品,医薬品のように直接人体に摂取される物質については更なる厳しい規制がある。このため医薬品中の重金属の定量や,その除去方法に多くの努力が払われている。スカベンジャーシリカゲルはその要望にこたえるものとして業界に受け入られ始めている。シリカゲルは有機分子の大きさに相当する細孔径を有しており,また目的に応じて容易に制御できることがその応用面を広くしている。また表面を改質するためのシランカップリング剤はさまざまな官能基を有したものが市販されており,またアミノ基,エポキシ基やクロロ基などは再反応により更なる表面改質ができるためその目的に応じてこれからも多くの用途が期待できる。

謝辞Acknowledgments

本研究については試料の 29Si MAS NMR測定およびTEM観察について,信州大学理学部尾関研究室において測定していただきその解析に大いに役立ちました。ここにお礼を申し上げます。

引用文献References

1) Sigma-Aldrich カタログ“Scavenger Resins”.

2) R. K. Iler “The chemistry of silica” Wiley Interscience Publications” (1977).

3) 日本プロセス化学会2005サマーシンポジウム,P. 56-57.

4) “Note for guidance on specificatio n limits for residues on metal catalysts” EMEA (2002)

5) 日本プロセス化学会2006サマーシンポジウム,P. 132.

6) Shimizu et al., J. Catalysis, 228, 141-151 (2004).

7) Crudden et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 10045-10050 (2005).

8) 第27回日本イオン交換研究発表会講演要旨集,P. 107.

9) 特許第3749941号セシウム分離材の製造方法.

10) 特許第3020158号セシウム分離・回収剤及びその製造方法.

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