日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 29(2): 37-42 (2012)
doi:10.20731/zeoraito.29.2.37

解説解説

ゼオライトハニカム吸着体の応用例と今後の展望The applied example of the zeolite honeycomb adsorbate and the future prospects

株式会社西部技研Seibu Giken Co., Ltd. ◇ 〒811-3134 福岡県古賀市青柳3108-3 ◇ 3108-3, Aoyagi, Koga-city, Fukuoka 811-3134, Japan

受理日:2012年1月18日Accepted: January 18, 2012
発行日:2012年6月10日Published: June 10, 2012
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ハニカム吸着体は広い接触面積を有し,軽量でありながら構造体としての十分な強度を有している事が特徴で,大型の気体処理装置として様々な用途に展開されている。本稿ではゼオライトハニカム吸着体の応用例として,VOC濃縮装置とデシカント除湿機の例を紹介する。また今後有望と思われる二酸化炭素分離濃縮の用途を紹介する。

The honeycomb adsorbate has a large surface area and it is characterized by light-weight strong structure, and is applied to various as a large-scale gas processor.

This paper introduces the example of the VOC concentrator and the desiccant dehumidifier as applied examples of the zeolite honeycomb adsorbate. In addition, I will introduce a use of the carbon dioxide concentration from the air to be promising in future.

キーワード:ハニカム;ゼオライト;分離;濃縮;吸着

Key words: honeycomb; zeolite; separation; concentration; adsorbate

1. ハニカム吸着体の特徴

ハニカムとは蜂の巣状という意味で,ハニカム吸着体の構造上の特徴は,広い表面積を有しながら通気抵抗が低く,軽量でありながら構造体としての十分な強度を有していることである。この特徴を活かすことにより,0.1秒という短い滞留時間で熱および水分を高速交換することを可能とし,あわせて大容量処理に適した空気処理装置の工業化を実現することができる。

ハニカムには製法で分類して,押し出し成型ハニカム,展張ハニカム,コルゲート積層ハニカム等がある。西部技研で用いているのはコルゲート積層ハニカムで,このハニカムは縦横高さ方向共それぞれ強度を有しており,積層あるいは巻きつけにより大型化が容易なため,大型空気処理装置用ロータの製造に向いている。

コルゲート積層ハニカムの製法は,シート材料をギヤに通して波付けしながら,波付けしていないシートと貼り合わせて片波成型シートとし,それを波山に接着剤をつけながら円筒状に巻いたり,積層したりして加工する。

図1に現在西部技研でシリーズ化しているハニカムサイズの例を示す。ロータ式空気処理装置の場合,要求性能と圧力損失などの関係からAS-31を中心にその前後のサイズを採用する事が多い。

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図1 ハニカム形状とサイズ

ゼオライトハニカムロータの製法は,無機繊維紙で製作したハニカムロータを,ゼオライトパウダーと無機系のバインダーで調整したスラリー中にディッピング含浸後,乾燥してゼオライトを担持する。

2. ゼオライトハニカムロータによる空気処理装置

2.1 構造と原理1)

ハニカムロータを用いた空気処理装置は,VOC(揮発性有機化合物Volatile Organic Compounds略してVOC)濃縮装置と,除湿用の装置としてデシカント除湿機がある。デシカント除湿機も機能的には水蒸気濃縮装置ということも出来るが,濃縮した水蒸気に価値は無く排気される点が異なる。以下VOC濃縮装置を例として,構造と原理を説明する。濃縮装置は写真1のハニカムロータ,ロータ駆動装置,シール機構付ロータケーシング,ゾーン仕切を持つ前後チャンバ,再生空気加熱ヒータ,送風機などで構成される。濃縮装置の原理は図2に示すように,ハニカムロータに被吸着質(VOC濃縮装置の場合はVOC, デシカント除湿機の場合は水蒸気)を含んだ処理空気を通気することで被吸着質を吸着除去し,被吸着質が除去された空気が処理ゾーンから排出される。ハニカムロータは処理ゾーンで被吸着質を吸着しながら,ロータ駆動装置により数〜十数rph(風速,ロータ幅,その他の条件によって異なる)の低速で回転し,処理ゾーンのハニカムは吸着破過する前に再生ゾーンに移動する。再生ゾーンでは加熱空気により被吸着質を濃縮状態で脱着再生する。再生後のハニカムは次に冷却ゾーンに回転移動し,このゾーンではハニカムを再吸着できる温度まで冷却空気で冷却し,再び処理ゾーンへと回転移動して吸着を開始する。この原理によって処理空気は連続的に処理される。冷却ゾーンは再生用空気を予熱する熱回収効果(100°C前後)もあり省エネ性が向上する。

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写真1 ゼオライトハニカムロータ

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図2 VOC濃縮装置の原理図

2.2 VOC濃縮装置への応用例

塗装工場,印刷工場,半導体工場などからの排気には,環境負荷が高く有害なVOCが含まれているが,低濃度大風量であることが多く,経済的な無害化処理が困難である。このような低濃度大風量の工場排ガスを経済的に処理することを可能にしたのがVOC濃縮装置である。この装置を設けることによって処理すべき排気風量は例えば10分の1に減容され,後段の処理装置も10分の1の容量に小型化できるため処理システム全体のイニシャルコストは削減でき,逆に濃度は10倍に濃縮できるため自燃処理が可能となりランニングコストも抑えられる。処理空気のVOC濃度数十〜数百ppmを95%前後の効率で除去し,脱着再生ゾーンでは数千ppm(安全の為,爆発限界LELの25%を限界として)まで濃縮して取り出すことができる。ハニカムロータは図2に示すような,再生ゾーン : 冷却ゾーン : 処理ゾーン比α=1 : 1 : 10を採用する事が多い。

図3はVOC濃縮装置と燃焼処理装置を組み合わせたVOC無害化処理システムの例で,VOC濃縮装置で濃縮脱着したVOCガスを燃焼炉に投入し,燃焼無害化して排気する。燃焼炉の効率向上のために燃焼排気と燃焼前空気とを熱交換して熱回収する。さらに熱回収した後の排気と,濃縮ロータの再生用空気とを熱交換して熱回収し,濃縮ロータからVOCを脱着再生するための熱源として再利用するので,送風機以外のエネルギーはほとんど不要な省エネルギー型VOC処理装置が実現できる。

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図3 VOC無害化処理システム

VOC濃縮ロータは,疎水性ゼオライトと無機バインダーのスラリーに,無機繊維ハニカムを含浸焼結して製作する。疎水性ゼオライトは,ZSM-5型又はY型のハイシリカゼオライトであるが,同じ結晶型でも疎水化度その他の違いによりVOCの種類に対する吸着特性が変化するので,実際にロータを試作,性能試験を実施して,その結果により使い分けている。

工場からのVOC排気は殆どの場合複数の種類のVOCが混合しているので,そのような排気にも対応できるように数種類の疎水性ゼオライトを単品あるいはブレンドする等して,現在表1に示す6種類のラインナップを用意している。UZCRはゼオライト系を,KCPRは活性炭系を表す。各種ロータはそれぞれ特徴があり,適用される条件,VOCの種類によって使い分ける。

表1 VOC濃縮ロータラインナップ
VOCUZCRKCPR
トルエン
キシレン
スチレン×××××
エタノール
シクロヘキサノン×
シクロヘキサン
アセトン

2.3 デシカント除湿機への応用例

デシカントとは乾燥剤という意味である。デシカント除湿機は,親水性ゼオライトハニカムロータに処理空気を通気することにより,湿気を吸着除去して除湿乾燥した空気を連続的に供給し,吸湿したハニカムは加熱空気を通気することにより脱着再生する原理の除湿方式である。乾燥用途や特に工業用途において低露点空気を得る目的で多く使用されている。デシカント除湿機のフロー構成は図2に似ているが,濃縮が目的ではなく処理出口空気の水蒸気濃度を出来るだけ下げる目的である為,再生ゾーン : 冷却ゾーン : 処理ゾーン比α=1 : 1 : 3を採用する事が多い。

さらにデシカント除湿機には,冷却ゾーンの無いα=1 : 3(図4)や,低温排熱利用型のα=1 : 1のタイプ以外にも,用途目的に応じて様々なフローが採用されている。

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図4 デシカント除湿機標準型

除湿能力としては,低露点除湿用途では出口露点温度(D.P.)−50〜−80℃で用いられているが,−100°CD.P.の実用化例もある。

A型,X型の合成ゼオライトを担持した除湿ロータは,吸着力が強い反面比較的高温の再生温度が必要なことから,低露点除湿用途及びプラスチックペレット乾燥機など工業用の用途が主体であったが,近年は比較的低温でも再生可能な合成ゼオライトが開発されたことにより,デシカント空調用途向の除湿ロータも商品化されている。

3. ゼオライトハニカムの今後の展望

今後の展望として,まだ開発途上ではあるがゼオライトハニカムの新しい用途として二酸化炭素濃縮装置を紹介する。

近年益々地球温暖化防止対策として,地球温暖化ガス排出量の削減が求められるようになってきたが,目的を達成するためには複数の対策を平行して,世界的規模で強力に進めていかなくては達成できないと言われている。その対策の一つとして,火力発電所やごみ焼却場などの二酸化炭素固定排出源の排ガスから,二酸化炭素を分離濃縮して地中に貯留したり,樹脂などの原料に再利用したりするなどの研究開発が進められている。西部技研では,飯塚研究開発機構,九大との産学官連携で,ゼオライトハニカムロータを用いて,二酸化炭素を分離濃縮する研究開発1,2)を実施している。

装置としては前述の濃縮装置と基本原理は同じである。しかし濃縮対象の二酸化炭素の濃度は10%前後と,VOC濃縮装置やデシカント除湿機と比較して超高濃度で,しかも再生ゾーンで回収する二酸化炭素濃度は80〜100%というように濃度レベルが全く異なっているので,ゾーン比及びフロー構成も図5のように特殊である。

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図5 二酸化炭素濃縮装置原理図

二酸化炭素濃縮装置の原理は図5に示すように,煙道排ガスを吸着ゾーンに導入して二酸化炭素を吸着させ,さらに通過したガスを冷却ゾーンに導入して冷却器(C/C)とロータ間で循環させながら一部を排気する。冷却ゾーンは再生直後の高温のハニカムを,二酸化炭素の吸着が可能な温度まで冷却するのが主目的だが,冷却しながら二酸化炭素の吸着も一部で進行していく。再生ゾーンでは高濃度二酸化炭素ガスをガス加熱ヒータ(H/C)とロータ間を循環させ,ロータに吸着した二酸化炭素を加熱脱着させる。再生循環経路内のガスは二酸化炭素が脱着されて増量するので,増量したガスを抜き取って回収する。

パージゾーンでは,ロータの回転によってハニカムの空隙に残された低濃度のガスが再生ゾーンに持ち込まれるのを防止する為,再生ゾーンの高濃度二酸化炭素ガスの一部を使ってパージする。

濃縮ロータはA型又はX型ゼオライトを使用しているが,ゼオライトの種類,含浸の方法などで濃縮性能に差がでる。

煙道ガスは排ガス源によって異なるが100〜150°Cの高温で,湿度も十数〜数十%と高湿度なので,図5には示していないが前段で冷却,減湿して濃縮装置に導入する必要がある。二酸化炭素吸着用のゼオライトは,二酸化炭素の吸着性能が優れているものの,水蒸気が共存すると優先的に水蒸気を吸着して二酸化炭素吸着性能が低下するので,濃縮装置に導入するガスは−20〜−40°C露点まで減湿して導入する必要がある。

二酸化炭素の分離回収技術はアミン法が先行しており,導入事例も多くあるが,熱容量の大きい水溶液を加熱・冷却するため多くの熱エネルギーを必要とする。そのため高性能アミン液の開発やシステムの省エネルギー化が進められてきたが,これまで以上の飛躍的な省エネルギー化は困難と見られている。

ゼオライトハニカムロータによる濃縮方法は,乾式法なのでアミン法のように高価な装置材料を必要とせず,装置コストを抑えられる可能性がある。また将来的には,ゼオライトハニカムがアミン液と比較して格段に熱容量が小さいことから,高性能な二酸化炭素吸着材とそれに適したシステムが開発されると,飛躍的に省エネルギー化が出来ると期待されている。

ゼオライトの性能に関しては,水蒸気共存下でも二酸化炭素を吸着するものがあれば理想的であるが,それが望めないにしても比較的低温で水蒸気を脱着賦活できるゼオライトが望ましい。さらに二酸化炭素の脱着には現在の所180°C程度必要であるが,このような熱は有用な用途もあるためもったいない。140℃程度,出来れば120°C以下で二酸化炭素を脱着できるものがあれば未利用排熱が使用できるので,ランニングコスト的にも非常に有利なシステム開発ができる可能性がある。

4. おわりに

ゼオライトハニカムを応用した空気処理装置の用途例を紹介すると共に,今後の新しい可能性として二酸化炭素分離濃縮の用途を紹介した。二酸化炭素の分離濃縮は将来的に地球環境に貢献する技術として切望されている。ゼオライト開発側の事情も知らず勝手に夢のようなことを書かせていただいたかもしれないが,ゼオライト学会,業界の方々には是非高性能な二酸化炭素吸着用ゼオライトを開発して頂きたいと願って,おわりのことばとしたい。

引用文献References

1) 丸山,井上,岡野,峯元,松隈(名古屋2011)化学工学会第43回秋季大会講演論文集,p. 858.

2) 井上,丸山,岡野,峯元,松隈(沖縄2011)第25回日本吸着学会研究発表会講演要旨集,p. 15.

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