ZSM-5やシリカライト-1への芳香族化合物の吸着構造については,粉末X線解析法1–3)や単結晶X線解析法4–7)でこれまで多くの研究がなされてきた。ここでは,タイトルにあるように単結晶のX線構造解析の結果を中心に話をする。
ZSM-5やシリカライト-1には,b軸に平行なstraight channel(以下strと略)とa軸にほぼ平行なジグザグのsinusoidal channel(以下sinuと略)とがあり,この二つの細孔が交差するintersection(以下intと略)が存在する。一般的に芳香族化合物は,はじめにintに吸着し,次にsinuに吸着する。これまで,strに吸着した例はほとんどない。これら単結晶X 解析の論文のタイトルにはZSM-5への吸着構造と書いてある場合が多い。しかし,そのほとんどはシリカライト-1である。実際にはSi/Al>300であってもZSM-5と称している場合8)と,表面分析でSi/Alが23程度だからZSM-5と言っている場合9,10)がある。前者は,明らかにシリカライト-1であり,後者はAl分布が均一でないことを見逃している場合である。これらの結晶は表面でこそSi/Al=23 程度であっても,結晶内部にはほとんどAlは含まれず,実質的にはシリカライト-1と言って良い11,12)。現在でもSi/Al が23程度で,Al分布が結晶全体に均一で大きな単結晶(100 µm以上)はできていない。Alを含むZSM-5への吸着は,シリカライト-1への吸着と全く同じとは限らない。本稿の表題もその意味ではシリカライト-1への吸着が正しいが,引用文献の関係もあり,ZSM-5も含めた。最近の文献や我々の研究等から,芳香族化合物がシリカライト-1に吸着する過程がかなりはっきり分かってきたのでここにまとめておきたいと思う。
単結晶X線解析法は古くからある方法であるが,最近は研究者も減少しており,長所や限界についてあまり知られていないので少しまとめておきたいと思う。分子の構造を決定する手段はたくさんあるが,その情報量の豊富さと精度の点で単結晶X線解析法は最も優れた方法の一つである。分子構造の情報量と精度は何によって決まるのかと言えば,単純には構造決定に用いたデータの量と言って良い。赤外分析法や可視紫外法が数個,固体のNMRで10個くらい,粉末X線解析法で100個くらいであるのに対し,単結晶X線解析法では数千個,例えばシリカライト-1では6000個くらいの反射を用いていることを考えると,その違いは圧倒的である。新しい有機化合物の構造決定に関して,今でも単結晶X線解析法の結果を必要とするのは,当然の事かもしれない。しかし,いつも構造解析に必要な100 µm以上の結晶が得られるとは限らない。特にゼオライト類では大きな結晶を得る事は難しく,その点では単結晶X線解析法は,粉末X 線解析法ほど簡便ではない。また,これから述べていくような途中経過を見るような場合の構造解析については,一つの結晶で途中経過の全部を見ているわけではないので,本当の意味の再現性には少しだけ問題がある。再現性の問題に答えられるように同じ吸着時間でいくつかの結晶解析を行っているが,それにも限界がある。ここでの結果は,それにもかかわらず,吸着過程で必ず通過するであろう“ある時期”の様子を出来る限り精度よく調べた結果というように見て頂きたい。
単結晶X線解析法では通常,200 µm程度の大きさの結晶が必要になる。ここで必要な単結晶の合成については,別紙13)にまとめた。シリカライト-1の解析に用いたゼオライトの単結晶はすべて,改良Lermer法,すなわち,Lermer法の中でNaOHのかわりにKOH を使用する合成法を用いている14,15)。
このようにしてできた結晶の中にFig. 1のような結晶が得られることがあり,特に気にもせずに使用していたが,ZMPC2006でこれは双晶だから解析は正しくないとの指摘を受けた。確かに,このようなバツ印の入った中央が凹んだ結晶は双晶だという論文があり,詳しくも調べた。主張は,Fig. 2bに示すように結晶は2種類あるいは3種類の結晶が軸の方向を換えて双晶となっているという内容である16)。しかし,単結晶X線解析法ではこのように近くに同じような方向を向いた結晶がある場合(割れている場合などがこれに当たる),回折斑点が二つに分かれて出てくるためすぐに判断できる。今まで数多くのシリカライト-1の結晶でデータを収集してきたが,このような回折斑点はほとんど観測されていないので何かがおかしいと感じていた。最近,シリカライト-1やZSM-5に直鎖状の染料を吸着させてその量を蛍光で調べて,結晶の表面にstrが出ているのかsinuが出ているのかを調べた論文16)が出た。直鎖状の染料はstrに一部入れるが,sinuには少し曲がっているため入れないので区別がつくらしい。それによるとバツ印のついたシリカライト-1の結晶は広い面(Fig. 2では010面)の全面にstrが出ていて,双晶にはなっていないことが証明された。この結果は我々の実験で回折斑点が2つに分かれて出てこないことと整合性がある。ただし,Fig .3のようにZSM-5などによく見られる鍋ぶたの取っ手のような結晶部分は明らかにc 軸の周りに90°だけ,a軸とb軸が回転しており,これは双晶であることも同時に示された。
4. テトラプロピルアンモニウム(TPA)イオンの除去
さてこうして合成したシリカライト-1にはTPAイオンがテンプレートとして入っている。これは合成時に入ったため,少し加熱した程度では出てこない。490°C以上に加熱してやれば焼却できるのだが,そうすると結晶が割れたり,傷ついたりして単結晶X線解析法では良い結果がでない。酸素雰囲気下で長時間加熱することにより,これを防いでいる例はあるが,より簡単な方法を考えた。小過剰の過塩素酸ナトリウムに少量の水を加え,TPA-シリカライト-1とともに,るつぼ中にて300°Cで1時間程加熱した。TPA-シリカライト-1は空気中ではこの温度では全く安定だが,過塩素酸ナトリウムから発生した活性酸素でTPAイオンが部分的に分解し,茶褐色に変色する。これを空気中で490°C,1時間加熱するとTPAイオンは完全に除去できる。これで,結晶の崩壊はかなりの程度防ぐことが可能になった15)。
TPAイオンを取り除いたシリカライト-1だが,それだけでは単結晶X線解析がうまくいかない。このMFI系のゼオライトでは多くの相転移があり,それをよく理解しておくことが重要になる。Fig. 4に関係した相転移について空間群を含めて示した。例えばPn21aとP212121は,同じ斜方晶系であるが,空間群が異なるので,それらは違う相となる。また,結晶のモデルで示したものをFig. 5に示す。合成したばかりのTPA-シリカライト-1は多くの単結晶X線解析結果があり,単結晶で空間群はPnmaかPn21aである。この空間群の違いは次節で詳しく述べることとする。これを焼成(calcination)することによりシリカライト-1を得ることができるが,通常これは単結晶ではなくて双晶となっている。この場合の双晶は,顕微鏡などの見た目では全くわからない。単位格子で200–300くらいずつが単斜晶系のP21/n(P21/c の方が有名だが同じ空間群)の双晶となっている(Fig. 6参照)。この二つの結晶相は同じもので,それぞれが単一の結晶であれば重ねることができるが,1つの結晶の中で存在すると対称操作で重ねることができないので別の相となってしまう。このことは単結晶のX線ワイゼンベルグ写真などを撮ることにより,二つの回折斑点に分離していることで証明された17,18)。
また,およそ60°C以上で,この双晶は斜方晶系Pnma(またはPn21a)の単結晶の相となることが,単結晶X線解析法で証明されている19)。
シリカライト-1の双晶はa軸とb軸の間の方向から力をかけることにより,双晶の単位格子のどちらか1種類だけにすることが可能なことが証明されている18)。我々も簡単な方法で単結晶のP21/nの相ができることを示した15)。
シリカライト-1では,細孔に吸着物質がない場合は,単斜晶系が最も安定な構造であり,これに吸着物質が吸着するに従って,斜方晶系の相が安定となっていくことが示されている20)。吸着物質は大きい程,斜方晶系の相が安定で,小さくなるにつれて斜方晶系の相は不安定になっていく。したがって,単斜晶系の双晶のシリカライト-1は,p-ジクロロベンゼン4),p-ニトロアニリン5),ナフタレン6),トルエン7)等のモノ置換やパラ置換ベンゼン類を吸着すると斜方晶系Pnma(あるいはPn21a)の単結晶の相となって,単結晶X線解析法で詳しい構造が調べられている。また,吸着物質が増加するとさらに相転移が起り,空間群P212121の相7,21,22)になることが示されている。ただし,ベンゼンを吸着した場合は単結晶とならず,これまでなかなか解析が進んでいなかった。
ここで空間群の問題について少しまとめておきたい。空間群とは単位格子の箱の中に同じ分子を整列して詰めた時の詰め方に関する記述である。分子の形はいろいろあるので,空間群の種類もたくさんあるが無限ではない。これは数学的に詳しく調べられており,230種類しかない。実際の結晶に出てくる空間群はP21/cやP212121など数種類のものが特に多い。結晶解析は結晶からの反射データと結晶の中に存在する多くの対称性を利用して構造を決定する。空間群を決めればどのような対称性が存在するかはこれも数学的に決まっている23)。
X線結晶解析では反射データの収集の後で,消滅則を調べ(ある種の対称性を持つ場合には反射の一部が観測されない),空間群を決定する。この決定が間違っていると,その後の解析は全く無駄となる。構造解析がうまく行かない多くの場合は,空間群の決定の誤りである。その中でも特に厄介なのは,対称心の有無の判断である。反射データを統計的に調べて対称心の有無が決定出来るテスト(ゼロモーメントテスト)があるが,これは正しくない場合も多く,あくまで統計的な結論で,信用出来ない。
シリカライト-1の場合は,対称心のある空間群Pnmaで解析されることが多いが,無い空間群Pn21aの場合も排除できず,常に検討の余地がある。特にintに芳香族化合物が数種類のコンフォメーションで吸着している時は,Pn21aで解析してintの全体像を見る方が,全体の流れを見誤る場合が少ない。対称心の有無については,ゼオライトの解析では特に区別が難しく注意を要する。例えば,フェリエライトは,対称心ありの空間群Immm24)と対称心なしの空間群I22225)の両方の場合が考えられる。最終的にどちらが正しいかは,構造全体をどちらの空間群の方がより正確に記述できるかという点で判断されるべきだと思う。
7. 吸着サイト(intersection, sinusoidal channel, straight channel)の構造
トルエン-シリカライト-1の構造をFig. 7a, bに示す。そのうち,芳香族化合物が吸着するサイトであるintとsinuの境目の酸素10員環で切り離してFig. 8に示す。同様に,Fig. 9にintとstrの境目の酸素10員環で切り離して示す。注意していただきたいのは,intの構造は単に酸素10員環が交差したような単純な構造ではなくて,b軸方向(Fig. 8)から見ると酸素10員環と酸素6員環で構成されているが,これを横方向から見ると,intersection cageとも言うべき広さがある(Fig. 9)。また,strは二つのほぼ重なった酸素10員環でできており,それらは単純に酸素原子でつながれているだけだが,sinuでは各酸素10員環の中の二つのケイ素原子はO–Si–Oで結合している(このSiをFig. 8に丸印で示した)。このためsinuでは2つの酸素10員環は重なっておらず,互いに横方向にずれている。その結果として,吸着物質が入った時に酸素10員環が変形しにくい。
芳香族化合物の吸着はよく調べられており,トルエン7),p-ジクロロベンゼン4),p-ニトロアニリン5),ナフタレン6)等である。吸着量が少ない時,つまり単位格子当たり4 分子程度まではintに,それ以上になるとsinuにさらに4分子まで入り,全部で8分子まで入るのが一般的な傾向である。もちろんナフタレンのように大きい分子はintまでで6),トルエン等はなかなか8分子全部までは入りにくい7)。いずれにしてもstrには入らない(Fig. 7)。ところが最近,ベンゼンの吸着26)を調べたが,これが予想外の結果であった。
9.1 脱双晶法
ベンゼン-シリカライト-1の構造解析はこれまで大変困難であった。ベンゼン以外の芳香族化合物の場合は,Fig. 4, 5に示したように双晶のシリカライト-1に芳香族化合物を吸着させると単結晶の相(Pn21a かPnma)になるので,簡単に単結晶X線解析法が可能であった。しかしベンゼンの場合は,双晶のままで,うまく解析ができない。そこで,Fig. 10に示すような方法で,はじめから双晶のシリカライト-1を単結晶にしておいて,その後ベンゼンを吸着する方法を考えた。Fig. 10のようにc軸方向から2 gで加重し,これをそのまま200°C程度まで上げ,30分保持し,またゆっくりと常温に戻す。この操作を3回程繰り返す。これで,斜方晶系の単結晶になることを証明してはいないが,同様の方法で45°の角度から加重すると単斜晶系の単結晶になることは証明されている15)。この方法は,シリカライト-1が60°C以上になると,双晶から単結晶に相転移することを利用し,加重しながらこの相転移を利用すれば,機械的に単結晶に相転移が可能ではないかと考えたからである。
9.2 ベンゼンの吸着構造
ベンゼンのシリカライト-1への吸着構造をFig. 11a, bに示す。ベルジャー型の真空装置中で常温のベンゼンの蒸気圧下で120時間さらしたもので,完全に吸着平衡は成立していると考えられる。ベンゼンはintとstrのみに存在し,sinuには存在しなかった。さらに,intのベンゼンは唯1種類しかなく,ベンゼン環はa-c面に完全に平行であった。このような配置は,エネルギー的には不利なことは分かっているので,しかるべき理由が考えられなけばならない。ここで,strのベンゼンとintのベンゼンとの間の空間的な空きは0.1 Åよりも狭く,ほとんど余裕が無い。一方で,トルエンのような芳香族化合物では,c軸方向から見るとintのベンゼン環がb 軸方向に完全ではないが平行に近く存在する(Fig. 7b)。これらのことを総合的に考えると,はじめに芳香族化合物はintに吸着し,さらに吸着物質がstrの方向から来れば,intの芳香族化合物は反発を避けてsinuへ押し出されていく。その結果,多くの芳香族化合物はintとsinuに吸着することになる。しかし,ベンゼンの場合だけは,サイズが小さくintの中で回転して反発を避けることができ,そのためエネルギー的には有利でないがa-c面に平行になり,intの中に留まることができる。結果的に,ベンゼンだけがsinuには存在しない(Fig. 11b)。
sinuやstrを構成する二つの酸素10員環の歪みを理解することは,芳香族化合物の吸着の解釈にとても役に立つ。酸素10員環の中の向かい合う酸素間の距離を測り,そのうち最も長いものを(l)とし,短いものを(s)とすれば,l/sの値を調べると,酸素10員環の歪みの具合が良く分かる。
10.1 Straight channel 構造と歪み
strとsinuの歪みの結果をTable 1に示す。簡単にまとめれば,何も入っていない時はl/s=1.0くらいで,吸着物質が入ると1.23くらいになる。また,p-キシレン,p-ジクロロベンゼン,p-ニトロアニリン,ナフタレンなどの大きな吸着物質がintの中にある場合は,分子が大きいため側鎖の一部がstrに入っていて,1.1くらいになる。芳香族化合物が入るとstrの酸素10員環はかなり扁平に歪むのである。
Table 1 Relation between the deformations (l/s) of oxygen 10-membered ring and adsorbates in the silicalite-1Adsorbate-silicalite-1 | Straight channel | Sinusoidal channel |
---|
adsorbate | l/s | adsorbate | l/s |
---|
ring 1 | ring 2 | ring 1 | ring 2 |
---|
Monoclinic silicalite-1*1 | ×*5 | 1.07 | 1.06 | × | 1.06 | 1.08 |
Monoclinic silicalite-1*2 | × | 1.08 | 1.07 | × | 1.07 | 1.10 |
Orthorhombic silicalite-1*3 | × | 1.05 | 1.05 | × | 1.03 | 1.06 |
Naphthalene 3.8*4,6) | △*6 | 1.26 | 1.26 | × | 1.05 | 1.05 |
p-Dichlorobenzene 3.04) | △ | 1.18 | 1.18 | × | 1.04 | 1.05 |
p-Nitroaniline 4.05) | △ | 1.24 | 1.24 | × | 1.05 | 1.05 |
p-Dichlorobenzene 8.021) | △ | 1.16 | 1.11 | ○*5 | 1.21 | 1.22 |
p-Xylenee8.022) | △ | 1.18 | 1.13 | ○ | 1.22 | 1.22 |
Toluene 6.47) | △ | 1.10 | 1.07 | ○ | 1.14 | 1.14 |
Benzene 7.226) | ○ | 1.23 | 1.23 | × | 1.05 | 1.05 |
Fluorobenzene 6.4*7 | △ | 1.12 | 1.14 | ○ | 1.10 | 1.05 |
Chlorobenzene 8.0*7 | △ | 1.11 | 1.14 | ○ | 1.07 | 1.06 |
*1: SMONO15), *2: MONO20), *3: HT-ORTHO19), *4: number means molecules of adsorbate/unit cell, *5: ○× means the existence of adsorbate or not, *6: △ means partially entered channel, *7: unpublished |
10.2 Sinusoidal channel の構造と歪み
sinuはstrと少し様相が違うことに注意して欲しい。p-キシレンやp-ジクロロベンゼンなどの大きな分子が入る時は,l/s=1.23くらいになるのはstrと同じだが,トルエンなどのモノ置換ベンゼン類では1.14以下にしかならない。もちろん,何も入っていない時は1.0に近くほとんど歪みがない。つまり,sinuの酸素10員環はstrに比べて歪みにくく,芳香族化合物を吸着しにくい。
これまでのことを総合的に考えると,シリカライト-1では芳香族化合物ははじめに,strとsinuの両方の入り口から侵入する。strはかなり変形しやすく吸着物質はすぐに侵入を開始して,intに溜まる。一方,sinuの入り口は,channelの変形が十分でなく,吸着物質が侵入しづらい。結果的には,芳香族化合物は主としてstrから侵入して広がり,intに溜まり,さらに吸着物質が増加すると反発を避けてsinuに進行して溜まる。ナフタレンのように大きな分子はintで進行は終わり,ベンゼンでは反発を避け,int内で回転して独特な配置を取る。また,p-キシレンやp-ジクロロベンゼンなどの大きな分子がsinuに進行するには,int内で1/4ほど回転しなくてはならないので,少し高温の熱振動が必要となる。以上の吸着プロセスは証明されたものではないが,現在の単結晶X線解析法によるデータから推測出来る最も確かな物理像である。
ただし,これは芳香族化合物についてのみ言えることで,鎖状化合物では全く違う様相を示すことが少しずつ分かってきている。
ZSM-5 やシリカライトなどのゼオライトの単結晶X線構造解析を行う時に必要な,双晶の問題,TPAの除去に伴う結晶崩壊の防止法,MFI系ゼオライトの複雑な相転移,空間群の問題などについてまとめた。吸着サイトであるintとsinu,intとstrの詳しい関係を示した。また,トルエンを例として芳香族化合物の吸着サイトの解説をした。それに対して,ベンゼンの吸着構造が大きく異なることを示した。さらに,sinuとstrの酸素10員環の歪みを検討することにより,吸着物質が主としてstrから侵入し,intに溜まり,さらに吸着量が増加するとsinuに吸着していくという吸着過程を推測した。今後は,このような吸着過程を実験的に示すことができるか検討したい。また,鎖状の化合物の吸着はかなり様相が異なるので,種々の鎖状化合物について吸着構造を調べたい。
謝辞Acknowledgments
ベンゼン-シリカライト-1の構造や吸着過程の研究は,工藤智和氏,岩間渉氏の修士課程の研究成果とそのときの議論によるものであり,ここに感謝の意を表したい。
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