日本ゼオライト学会 刊行物 Publication of Japan Zeolite Association

ISSN: 0918–7774
一般社団法人日本ゼオライト学会 Japan Zeolite Association
〒162-0801 東京都新宿区山吹町358-5 アカデミーセンター Japan Zeolite Association Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Zeolite 28(4): 131-137 (2011)
doi:10.20731/zeoraito.28.4.131

解説解説

粉砕および再結晶化プロセスを組み合わせたゼオライトナノ粒子の新規調製法Bead-Milling and Post-Milling Recrystallization: A new Method for the Production of Nano-Zeolites.

横浜国立大学大学院環境情報研究院Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University ◇ 〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-7 ◇ 79-7 Tokiwadai, Hodogayaku, Yokohama 240-8501, Japan

受理日:2011年10月3日Accepted: October 3, 2011
発行日:2011年12月10日Published: December 10, 2011
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一般的なナノゼオライト合成法である水熱法は,希薄アルミノシリケート溶液中で結晶化させるため生産性が低い,また結晶化制御のために有機構造規定剤を使用する必要がある,といった問題がある。そこで筆者らは,ミクロンサイズのゼオライトを粉砕により微細化し,高機能化させるアプローチを考えた。具体的にはゼオライトをビーズミルにより粉砕し,構造や特性に与える影響について調査した。また,粉砕によって生じた非晶質層を再結晶化させることで結晶性の高いナノゼオライトを作製した例を紹介する。

Organic template-free synthesis of nano zeolite has been an important subject of both scientific and industrial applications. Most research has focused on the fabrication of nano zeolite by a bottom-up approach, that is, control of zeolite nucleation and crystal growth during the hydrothermal synthesis. This manuscript reports a new method for the production of nano zeolite powder by a top-down approach. In this study the zeolite was first milled to produce a nano powder. This technique can cause destruction of the outer portion of the zeolite framework and hence cause pore blocking, which deactivates various properties of the zeolite. To remedy this, the damaged part was recrystallized using a dilute aluminosilicate solution after bead milling. As a result of the combination of bead milling and post-milling recrystallization, nano zeolite A (LTA type zeolite) about 57 nm in size with high crystallinity was successfully obtained.

キーワード:粉砕;再結晶化;ナノゼオライト;非晶質化;ビーズミル

Key words: zeolite; milling; recrystallization; amorphization; nano

1. はじめに

ミクロンサイズのゼオライト粒子に比べ,ナノゼオライトは外表面積が大きくなり,細孔内拡散が促進されることによって,イオン交換特性や吸着特性,触媒反応特性などが向上することが知られている。よって現在,各種特性向上を目的としたナノゼオライト合成が盛んに行われている1–4)。既往のゼオライトナノ粒子合成に関する研究の多くはボトムアップ法,すなわち4 級アンモニウム塩や特殊な有機物を用い,核発生・結晶成長を制御することにより達成されている5,6)。例えば,典型的なイオン交換材であるA 型ゼオライトのナノ粒子を合成する際には,有機構造規定剤であるテトラメチルアンモニウム塩を添加する5)。テトラメチルアンモニウムは他の原材料(水ガラスやアルミン酸ナトリウム)に比べはるかに高価であるため,原材料ベースでは“ゼオライトの価格≒テトラメチルアンモニウムの価格”となってしまう。さらに,4級アンモニウム塩は最終的に焼成して除去する必要があるが,排ガスは窒素酸化物(NOx)を含んでいるため,これを処理する施設を設置しなければならない。よってゼオライト合成時に有機物を使用しない新規ナノゼオライト製造プロセスの確立が望まれている。

2. トップダウン手法によるナノゼオライト作製の可能性7,8)

我々はゼオライト表面の非晶質化を最低限に抑えた粉砕が可能であるビーズミルを用い,トップダウン手法による微細化を行っている。ビーズミルは,図1のように50~500 µmのセラミックビーズを用い,解砕・粉砕を行う装置である。通常のボールミルや遊星ボールミルと異なり,処理する粉末がビーズや他の粒子と衝突する頻度が多く,また一回の衝突の際に粒子に与える力が小さいため,表面を非晶質化させることなく効率よく粉砕できるという特長をもつ9)。先進的粉砕法であるビーズミルは粉体プロセス分野において重要な装置の一つであるが,筆者らが調査した限りゼオライトにはほとんど応用されてこなかったと思われる。そこで,筆者らは,ミクロンサイズのA型ゼオライトを粉砕により微細化し,高機能化させるアプローチを考えた。

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図1 ビーズミルの模式図

筆者らはこれまでにA型ゼオライトのビーズミル粉砕を行った。その結果,3~5 µmの原料が100 nm以下まで粉砕可能ではあるが,粉砕によりある程度(~数十%)非晶質化が進行するため,A型ゼオライト本来の特性であるイオン交換能力が低下してしまうことが明らかになった。ビーズミル以外にも様々な粉砕法を試み,微細化の促進と非晶質化の抑制の両立を目指したが,多孔体であるゼオライトは粉砕衝撃(圧縮応力,せん断応力,局所摩擦による加熱)による,ある程度の非晶質化は免れないと考えている。よって,単純な粉砕法だけで高機能ナノゼオライトを調製するのは困難であると考え,もう一手間加えることにより結晶性の高いナノゼオライトを得る方法を考えた。

筆者は既往の研究において,ゼオライトが希薄なアルミノシリケート溶液中においてどのように成長,溶解するか原子間力顕微鏡を用いて解析を行った10)。この研究で用いた希薄アルミノシリケート溶液はゼオライトが成長もせず溶解もしないほぼ平衡状態の組成,すなわちゼオライト合成後オートクレーブ中に残存している上澄み溶液と近い組成であったが,この溶液を粉砕により一部非晶質化したゼオライトの結晶性を高めることにも利用できないかと考えた。すなわち,このような組成の溶液中では,一部非晶質化したゼオライトは,より不安定な非晶質部分が液相を介して(もしくは直接的に)非晶質化していない結晶部分のゼオライト上に再析出し,結晶性を高めることができるかもしれない。また,核となるゼオライト結晶子は粉砕により多数生成しているため,各結晶子はそれほど成長しないで,ナノサイズのゼオライトが得られるかもしれないと考えた。そこで,粉砕によって生じた非晶質層を希薄アルミノシリケート溶液を用いて再結晶化させることで結晶性の高いナノゼオライトを作製することを目的とした(図2参照)11,12)

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図2 粉砕および再結晶化プロセスのモデル図

3. A型ナノゼオライトの調製法

原料粉末にはA 型ゼオライト(LTA, Si/Al=1, Cation: Na+)を用いた。溶媒エタノール100 mlに分散剤としてセルナE503(中京油脂(株))を1.2 g(投入する原料ゼオライトの2 wt%)加え,そこに原料ゼオライト60 g を投入し,スラリーを調製した。粉砕メディアであるビーズにはZrO2ビーズを用いた。ϕ300 µmのビーズをビーズミル装置(アシザワファインテック(株):MiniCer)のベッセル内に70%充填し,ビーズミル内をエタノールで満たした。このベッセル内の回転軸を3000 rpmで回転させ,原料スラリーを投入し,粉砕処理を行った。10~120分間粉砕させた後,スラリーを回収し,マントルヒーターにより乾燥させ,得られた粉末を♯48(呼び寸法:300 µm)の篩で通篩したのち回収した。また,ゼオライト表面の非晶質層を再結晶化させるため,以下の操作を行った。ビーズミル120分粉砕粉末6 gをアルミノシリケート溶液中(Na2SiO3; 1.961 g, Al(OH)3; 0.056 g, NaOH; 11.57 g, イオン交換水;190 ml)で80°C,2時間攪拌(水熱処理)した。得られたサンプルは遠心分離により回収後,105°Cのオーブンで乾燥させた。原料および各生成粉末に対して,SEM, TEM, XRD, IRにより微構造,結晶性の評価を行った。

原料および得られたサンプルの電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)写真を図3に示す。図3より,平均粒径3500 nmの原料粉末(写真a)が120分ビーズミル粉砕すると微細化していることがわかる(写真b)。FE-SEM写真を解析すると50~400 nm の粒子の凝集体で平均粒径は110 nmであった。一方,120分粉砕サンプルを再結晶化処理させたサンプルは,粒径が25~200 nm,SEM写真より解析した平均粒径が57 nmであり,再結晶化処理により,粒成長が進行していないことが分かる(写真c)。なお,投入したゼオライトに対して粉砕後の収率は99%以上であり,再結晶化処理後の回収率は101%であった。つまり,投入したゼオライトのほぼ全量が回収できることを意味し,この点は投入した原料のすべてを結晶化できない通常の水熱合成法によるアプローチよりも優れていると思われる。

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図3 原料および得られたサンプルの電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)写真

(a)原料のA 型ゼオライト,(b)120分粉砕後,(c)再結晶化処理後

原料および得られたサンプルのXRDプロファイルを図4に,IRスペクトルを図5に示す。図4より粉砕時間が経過するにつれ2θ=25~30°付近の非晶質バックグラウンドの増加および回折強度の減少が,図5よりA型ゼオライト骨格構造に敏感な二重四員環(D4R)の減少が確認されたことから,非晶質化が進行したと考えられる。XRDのピーク面積から試算した120 分粉砕サンプルの結晶残留度は30%程度であった。なお,ボールミルや遊星ボールミルなど他の粉砕法を用いたとしても,平均粒径200 nm以下まで粉砕することは困難である。また,遊星ボールミルを用いるとLTA構造(A型ゼオライト)由来の回折ピークは完全に失われてしまい,X-ray amorphous状態になってしまう。これに対し,本実験で用いたビーズミルによる粉砕では,110 nmまで粉砕したにもかかわらず,30%程度とはいえ結晶性を残すことができる。したがって,ビーズミルはゼオライトの粉砕手法として有効であると考える。一方水熱処理により,非晶質バックグラウンドの減少および回折強度の向上(図4参照),またD4Rピーク強度の向上(図5参照)が確認され,非晶質層が減少し,結晶性が向上していることがうかがえる。回折ピークの面積から結晶残留度は原料とほぼ同じ,すなわちほぼ100%であることが分かった。図ではピークの高さが原料と比べて低くなっているが,これは結晶がナノサイズ化したことで,回折ピークがブロード化したためと思われる。シェラーの式より結晶子サイズを計算すると45 nmであった。

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図4 原料および得られたサンプルのXRDプロファイル

下から原料,10分粉砕,60分粉砕,120分粉砕,粉砕後再結晶化処理(水熱処理)したもの。ブラッグ回折はすべてA型ゼオライト由来。

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図5 原料および得られたサンプルのIRスペクトル

下から原料,10分粉砕,60分粉砕,120分粉砕,粉砕後再結晶化処理(水熱処理)したもの。図中矢印はA型ゼオライト骨格中の二重4員環構造(D4R)に由来するピーク。

図6に120分粉砕後および再結晶化処理後の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。120分粉砕後のTEM写真から粒子中の大部分は非晶質化しているが,一部に格子縞が存在しており,部分的に結晶が残存していることが確認された(写真a)。一方,水熱処理後のTEM写真から,粒子中に非晶質層は見られず,ほぼ完全に再結晶化していることが確認できた(写真b)。これらの結果から,粉砕後に非晶質中に部分的に残存した結晶は水熱処理中に無数に存在する種結晶の役割を果たし,不安定な非晶質層がこの残存結晶表面で結晶成長するために結晶性の高いナノ粒子が得られたと考えられる。なお,再結晶化処理後の方が粉砕後の粒径より小さいが,粉砕後大部分が非晶質化した粒子中には複数個のゼオライト結晶子が残存しており,それらが各々ファセットをもつように成長したためと考えられる。

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図6 得られたサンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)写真

(a)120分粉砕後,(b)再結晶化処理後。

4. 得られたゼオライトのイオン交換特性評価

原料,粉砕処理後,再結晶処理後の各サンプル1 gに対して,0.0352 M Ca(NO3)2水溶液100 ml(粉末1 g中Na+と等量のCa2+),20°C,1~30分の条件でイオン交換を行い,XRFによりCa/Na比を測定した。イオン交換時間とCa/Na比の関係を図7(ビーズミル粉砕の影響)および図8(水熱処理前後の変化)に示す。図7より,ビーズミル粉砕を10分間行ったゼオライトの方が原料ゼオライトと比べNa+からCa2+へのイオン交換速度が大きくなることがわかる。これは微細化によりA型ゼオライト中へのイオン拡散が促進されたためと考えられる。しかしビーズミル粉砕の進行に伴い,イオン交換容量は減少した(平衡状態のCa/Na比で比較)。これは粉砕により生成した非晶質層がイオン交換を阻害するためと考えられる。具体的にはイオン交換できる結晶性の部分が減少すること,また生成した表面の非晶質層が結晶部へのイオン拡散を阻害することが考えられる。一方,図8より,水熱処理により高いイオン交換速度を維持したままイオン交換容量を大きく向上させることができた。これはナノ化による表面積の向上や結晶内部へのイオン拡散の促進に加え,表層の非晶質が除去されたことによるA型ゼオライト中へのイオン拡散の促進効果によるものと考えられる。よって,水熱処理はビーズミル粉砕したゼオライトのイオン交換能の向上に有効であることがわかった。

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図7 イオン交換特性(ビーズミル粉砕の影響)

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図8 イオン交換特性(水熱処理の影響)

おわりに

ビーズミル粉砕処理により,A型ゼオライトの結晶性やゼオライト骨格構造を残したまま微細化することに成功したが,非晶質化も進行することが分かった。そこでビーズミル粉砕したゼオライトに水熱処理を施したところ,結晶性の高いA型ナノゼオライトが調製できることを明らかにした。そして得られたA型ナノゼオライトは原料ゼオライトに比べイオン交換特性が向上することが分かった。本稿ではA型ゼオライトのナノサイズ化に関して紹介したが,他にもSi/Al比が1~20程度のゼオライトであれば,再結晶化する溶液組成,処理温度,処理時間を最適化すれば,ほぼすべてナノサイズ化が可能であることを見出している13)。ゼオライトは190種類以上構造が知られているが,サイズや形態のコントロールが難しく,容易に応用展開できないゼオライトが数多くある。本稿で紹介した技術は,粉砕法と後処理を組み合わせることで高結晶性ナノゼオライトを調製することを可能とするものであり,有機テンプレートを使わない,大量生産に適したナノゼオライト作製プロセスとして有望であると考えている。

謝辞Acknowledgments

透過型電子顕微鏡観察において,財団法人日本ファインセラミックスセンター佐々木優吉様,吉田要様に感謝申し上げます。

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